①どんな本か
シュンペーター晩年の著書で、タイトル通り、資本主義のゆくえを占い、民主主義のメリットと限界を指摘した本です。
東洋経済の翻訳で約600ページの大作です。昔は三分冊でしたが今は一冊の合本となっています。手に取るには覚悟が必要ですが、文章は平易で読みやすい本となっています。
「資本主義は成功によって滅ぼされる」という文章が有名な本ですが、その解釈は多様で、シュンペーターというのは一筋縄ではいかない人物であることがわかる本でもあります。
②どんな内容か
全体は、5部27章からなっています。
第1部は、「マルクス学説」というタイトルで、マルクスの業績、影響を、予言者、社会学者、経済学者、教育者と四つの視点から取り上げています。
第2部は、「資本主義は生き延びうるか」という部分です。先に挙げた「滅ぼされる」という命題を論証するところです。資本主義の生産力、その原動力となる企業家による創造的破壊による新結合など『経済発展の理論』の内容が論じられています。
第3部は、「社会主義は作用しうるか」という部分で、結論は経済システムとしては作用しうるというものです。ただし、ここでいう社会主義は社会民主主義、もうすこしひろげると福祉国家的な指令経済社会を意味しています。
第4部は、「社会主義と民主主義」というタイトルで、社会主義における民主主義の在り方への批判からはじまり、民主主義の古典的学説まで遡って、それが機能するための条件を探っています。
第5部は、「社会主義政党の歴史的概観」という部分で、ドイツやフランス、イギリスなどの諸国で社会主義政党がどのような歴史的な展開をしてきたのかを概観するとともに、執筆当時の各地の社会主義政党の性格や行動分析をしています。
最後に付録、「その後の戦後展開への注釈」が、1949年までの政治経済面での現状分析として付け加えられています。
③どこが役立つか
第2部の「資本主義は生き延びるか」と、第4部「社会主義と民主主義」の部分が、授業には直接ではないとしても、役立つ部分でしょう。
前者は、シュンペーターの資本主義論のエッセンスがコンパクトに書かれていているという意味では、『経済発展の理論』を読むより、シュンペーター理論をつかむには良いかもしれません。
また、資本主義の市場理解では、需給曲線の均衡理解よりも、独占的競争の現実を理解する方が大切という指摘なども、市場の学習に際してこころしたい部分です。
後者は、政治と経済を一体のものとして教えたいと思うときに、参考になると思われます。特に、現在のように民主主義の限界や課題が提起されていることを考えると、民主主義がどのような条件のもとで作用しうるかを考察した箇所や、民主主義な方法で異教徒を迫害すると決定したらという思考実験の箇所などは、「公共」での思考実験の応用として使えるのではと思います。
社会主義に関する部分は、ソ連が崩壊して社会主義の経済システムは否定的にしか扱われませんが、シュンペーター流の社会主義の定義や内容を読んでみると、現代の中国の動向などの理解に参考になる部分があり、これからの経済体制の在り方を考える手がかりになる箇所が探し出されるでしょう。
④感想
有名で、経済思想を扱う本では必ず取り上げられている本ですが、大部だったこともあり、躊躇していたのですが、「資本主義」という言葉が目に付くようになったこの冬、思い切って読んで見て正解と思っています。
新書レベルの概説本やハウツー本は、内容を手っ取り早くつかむには最適です。一方、原本は著者の思考にそって内容を理解することが求められるので、時間がないと取り組めませんが、そのような時間をつくることが大事なことなのだと改めて感じます。
この本は、資本主義vs.社会主義が先鋭化していた時代の本なので、社会主義への言及が多いのが特徴です。個人的には、マルクスの評価や社会主義政党の歴史を扱った部分が面白いと思ったりしていますが、今の若い先生たちにとっては、シュンペータ-が社会主義にどうしてこんなに気を遣っているのかは、感覚的にわからないかもしれません。
■シュンペーター関連の使える本
シュンペーターに関する紹介本、研究本は汗牛充棟です。
そのなかで、二冊選ぶとしたら、一冊は、伊東光晴・根井雅弘『シュンペーター』岩波新書、もう一冊は、吉川洋『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社でしょう。
前者は、シュンペーターの経歴、現代的意味を簡潔に、かつ情熱的に述べた部分(伊東氏執筆部分)と、理論を冷静に述べた部分(根井氏執筆部分)からなっている新書です。とりあえずの理解はこれで得られるはずです。
後者は、リーマンショック後の経済状況を踏まえた政策提言から書かれた本です。ケインズとシュンペーターという対照的な二人を統合する視点が特徴です。
ともに、現在は新刊では入手できませんが、古書なら簡単に手に入るはずです。根井氏も吉川氏も、この本以外にもシュンペーターに関する本や文章をたくさん書いています。それから、入っても良いかもしれません。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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