①どんな本か
・京都大学の歴史学者による、チャリティを通したイギリス史の本です。
・通常のイギリス史とは異なって、イギリスに根付いている(寄付金額は対GDP比にして日本の4倍)チャリティ文化から、イギリス近現代史を読み解こうとするユニークな新書です。

②本の内容は
・全体は4章仕立て。
・第一章では、「世界史における他者救済」として世界のチャリティの歴史とイギリスのそれを対比してイギリスの個性を分析します。
・第二章では、「近現代チャリティの構造」として、イギリスの近現代の歴史をチャリティから概観します。
・以下、それをさらに詳細にして、第三章では自由主義の時代、第四章では帝国主義の時代を扱い、最後に第五章で20世紀から現代を扱うという構成です。
・歴史書ですが、社会保障の学習のなかの社会福祉の場面での参考書として読まれると良いかと思います。

③どこが役立つか
・役立つ面は二つです。
・一つは、歴史記述の方法として、三つのライトモチーフ、①困っている人に対して何かをしたい、②困っている時に何かをしてもらえると嬉しい、③自分の事でなくとも困っている人が助けられている光景には心は和む、をイギリス史のなかで実証的に検討して記述している点です。
・ここではライトモチーフとなっていますが、社会問題を追究する際に仮説をたて、それを実験や観察、データをもとに証明してゆく方法に通じます。そのような研究の方法論のヒントを得ることができます。
・もう一つは、イギリスにおけるチャリティの歴史の具体的様相を知ることができる点です。
・特に、公民の教科書の社会福祉の箇所では必ず登場する、「エリザベス救貧法」や「ベバリッジ報告」の登場する背景やその後の変遷、それをイギリス人がどのように受け止めたのかを知ることができます。

③感想
・丁度授業で社会保障を扱うので、手に取りました。
・授業では、映画『オリバーツイスト』の一部を見せて、救貧法(新救貧法)の時代をイメージさせて、福祉の話を展開しています。そんな授業構成の肉付けになるなというのが実利的な感想です。
・もう一つは、「ひっぱたいてやさしくする」という人間の二面性を著者が大英帝国のチャリティの特質として指摘しているところが、単なる歴史記述を超えた著者のチャリティや人間に対する熱い思いを感じさせました。
・管前首相が、「自助-共助-公助」と発言して、問題になりました。これは、厚労省の文書にも、教科書にも出てくる文言、序列ですが、共助の部分をもっと厚くすることが今の日本の課題かと感じています。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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