①どんな本か
・著者がねらいで書いているように「経済学入門と銘うった本のなかではじめてと言ってもいい『値段を軸に動く社会のしくみ』という視点を重視した経済学の本」です。
・対象は高校生ですが、「身近な消費生活を中心に」経済を学ぶ中学生の方が対象としてふさわしいかもしれません。
・著者は、金融機関に勤めた後大学で長く教鞭をとってきた人です。本書は、大学の附属高校の先生や生徒に原稿段階でチェックをうけているので、その意味ではわかりやすく書かれた経済の入門書になっています。
・内容は次のようになっています。章の名前は本の通りではありません。
第1章 消費者にとっての値段の意義、役割(購入の出発としての値段)
第2章 市場メカニズムを学ぶ(需給曲線の意味)
第3章 生産費用と価格(生産者にとっての費用)
第4章 値段が瞬時に決まるしくみ(市場の実際、オークションのしくみ)
第5章 小売店が決める値段の戦略(マーケッティング、ゲーム理論)
第6章 消費者にとっての値段(効用、行動経済学)
おまけの章
・つまり、生産→出荷→市場→小売店→消費者、という流れで構成されている本です。
②役立つところ
・第4章までは、教科書でも触れられている部分が多いのですが、第5章、第6章の箇所が新しい経済学を踏まえた商品の価格に関連する箇所です。ここを使って、授業が展開できるでしょう。
・経済学と銘をうっていますが、経営学、マーケティング、心理学、データ分析、AIまで登場するので、幅広く経済の仕組みを値段という窓口から学ぶ事ができる本です。
・中学教科書で登場する、お店の経営者になってみようという学習活動を行うときに、価格を決めたり、販売方法を工夫したりする場合の根拠となる理論が紹介されています。そんな、生徒のアクティビティの指導に役立つ本になるでしょう。
③感想
・この本の第2章の価格メカニズムの説明は、紹介者からみて納得ゆくものではありませんでした。需給曲線の説明、均衡価格の説明ですが、高校や中学の教科書の説明の問題点をそのまま踏襲したものになっていると感じます。
・春の経済教室の篠原先生の講義を踏まえると、ここは、現実を理解するための手がかりになる説明が不足、もしくは不十分ではないかと思われます。他の部分が、わかりやすく、かつ現代の理論も踏まえて書かれているので、もったいないと思いました。
・授業で活用するだけでなく、ネットワークが目指そうとしている経済教育と比較対照する本として手に取ってみるとよい本かと思います。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
Comments are closed