①どんな本か
・2019年に京都大学経済学部で開講された「金融リテラシー」という講義(半期14回)の内容をまとめた本です。
・京都大学で「金融リテラシー」の講義が行われたのははじめてのこととのことであり、この講義には250人を超える学生の履修登録があったとのことです。
・この本では、基礎編がそのうちの前半、応用編で後半が扱われています。
・この講義は、オムニバス方式で、編著者である京都大学経営管理大学院の教授である幸田氏と川北氏以外に、金融庁、金融広報中央委員会、東京証券取引所(経済教室でお世話になっている増田剛氏が担当されています)、野村資本市場研究所、年金積立金管理運用独立行政法人など多くの関係者が一コマずつ講義をしていて、それがまとめられています。
②役立つところ
・金融に関しては、新学習指導要領では、中学公民で「経済活動を支える金融などのはたらき」を扱うことになっています。高校「公共」では「金融を通した経済活動の活発化」、「政治・経済」では「金融に関する技術変革と企業経営に関する金融の役割」にそれぞれ触れることが指示されています。社会科公民科では、パブリックファイナンス、コーポレイトファイナンスを主に扱えということです。
・本書で取り上げられているのは、個人の資産形成や運用、金融商品に関する知識で、それは主にパーソナルファイナンス領域に区分される部分であり、新学習指導要領では家庭科で「経済計画」「金融商品・資産形成」として扱われることになっています。その意味では、私たちの経済教育に直接関連する部分はあまり多くないかも知れません。
・とはいえ、金融リテラシーの教育は、公民科でも必要であり、直接授業で使わなくとも私たちが知っておいて良い内容と考えられます。
・オムニバス講義なので、各関係者がどのようにそれぞれの問題を大学生向けに語ろうとしているのか、そのレベルや範囲を知っておくことが大事かと思われます。
③感想
・この本のおもしろかった箇所は、講義本体の部分以上に、基礎編、応用編のそれぞれの巻頭に書かれているコラム部分でした。基礎編で8名、応用編で8名、計16名のエッセイは、正直、玉石混交だと思いました。これは紹介者の感想にすぎないので、皆さんは、それぞれの書き手がどのような立場で、語っているのか、それを吟味して、評価することをオススメします。
・コラムのなかで紹介者が感心したのは、日経新聞の論説委員の藤田氏の「米国の金融リテラシーから考える日本」と、野村総研の吉永氏の「日本人の金融リテラシー問題の本質」という二つのエッセイです。特に、後者での、「日本人の自虐的な金融リテラシー観…が、米国との比較において語られるのを聞くたびに、根拠のない都市伝説と同じものではないか」という箇所は、もっとその部分を展開してほしいと思ってしまいました。
・この本、二冊購入するとそれなりの投資になります。地域の図書館などで読んで、必要と思われたら購入されるのが、金融リテラシーの応用になるかもしれません。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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