執筆者  大塚雅之(大阪府立三国丘高等学校)

(1) 高校生の一番の関心は?
高校生の一番の関心事はなんでしょう。受験やクラブ活動と言う回答もあるかもしれませんが、本音では恋愛ではないでしょうか。どんな生徒であっても、それなりに興味をもって聞く話といえば、まずは恋愛、そして結婚といっても過言ではないでしょう。
今回は。最近結婚した私の知人の話などを参考に、恋愛の先にあるかもしれない結婚に関する事例を二つとりあげて、それらの活動がいかに経済概念と関連するか、社会科や公民科の授業での題材になりうるかを考えてみたいと思います。
そもそも恋愛から結婚にいたるまでにはさまざまな過程があります。

(2) 結婚相手を探す過程
昔はお見合い、戦後は恋愛結婚が主流したが、現在では結婚相手を、SNSを活用して見つけることが増えてきているようです。
『「家族の幸せ」の経済学』(山口慎太郎、光文社新書)では、現在の日本のカップルの2割がマッチングサイトで出会っているというデータが紹介されています。また、『オンラインデートで学ぶ経済学』(ポール・オイヤー著、安藤至大解説、NTT出版)よると、アメリカ人の三分の一超が結婚相手をネット上で見つけ、しかもそのようなカップルの方が結婚後の幸福度が高いという結果が出ているとのこと。
実際に、日本国内でも怪しげで要注意な出会い系サイトばかりでなく、ペアーズなどといった無料登録のマッチングサイトを多くの人が活用しているようです。また、楽天オーネットなどの有料サイトになるとそれだけ本気度の高い人たちが集まる傾向にあり。成約率も高いようです。
例えば、それぞれのマッチングアプリやサイトがどのようなビジネスモデルで行われているのか、実際はどうなのか、問題点は何かなどを考えさせてはどうでしょうか。
そのような活動を通して、最近注目されているシグナリングやネットワーク外部性の理論の概容を紹介したり、学校選択や臓器移植のような恋愛や結婚以外の具体的事例を探させ、関心を広げさせたりする活動につなげる授業が可能になるのではと思います。

(3) 指輪選びと交渉
ここでは結婚指輪を購入しようとしている某カップルと店員さんのやりとりを再現してみます。

店員さん:「当店では、はじめて来られる方限定で○○%割引させていただきます。」
彼女:「とりあえず見に来ただけなんですけど」
店員さん:「多くのお客様が、初めて来た際に指輪を購入しております。こちらの指輪をご覧ください。」
彼女:「めっちゃきれい。」
彼氏:「他とも色々比べてからの方がいいよ。他の店に行ってから戻ってきても、割引は適用されますか?」
店員さん:「いいえそれは困ります。初めてご入店いただいた方のみ割引が適用されます。」
彼氏:「でも、やっぱり違う店の指輪も見た方がいいよね。」
店員さん:「分かりました。上の者と相談してみます」
店員さんはバックヤードに行き数分後
店員さん:「上司と話し合いまして、今回は特別にまた戻ってこられたときにも同じ割引を適用させてもらいたいと思います。」

このようなやりとりを提示し、交渉教育を取り入れるというのはどうでしょうか?
『話し合いでつくる中・高公民授業 交渉で実現する深い学び』(野村美明他、清水書院)では交渉する際の指針として、以下の7つを示しています。
1、人と問題を切り離そう
2、立場ではなく利害に焦点を合わせよう
3、双方にとって有利な選択肢を考えだそう
4、客観的基準を強調しよう
5、最善の代替案(BATNA= Best Alternative to a Negotiated Agreement)を用意しよう
6、約束(コミットメント)を用意しよう
7、よい伝え方を工夫しよう

上の事例の場合は、どの指針を特に重視するかを話し合わせたり、実際に交渉のロールプレイをさせたりするというのはどうでしょうか。
そうすると、5つめの指針であるBATNAを意識し、他店の指輪をきちんと確認し、その価格等をもとに交渉に臨むのが適切ではないかという意見がでるかと推測します。
ここでも、交渉教育で終わらず、そもそも取引はwin-winの関係であることを教えるといったことも考えられます。また、他にも人間の心理についての知見を取り入れた行動経済学の理論を紹介したり、消費者問題に発展させたりすることも可能ではないかと思います。

(4) 多面的・多角的に
今回は結婚を題材にした経済学習の提案をしてみました。結婚というと同性婚や別姓の是非など政治分野で法的問題として取り上げられることが多いと思います。また、家族の在り方やその変化という文脈で社会学的に扱うことも多いかと思います。そんななかで、今回の提案のように、経済からの切り口もあり得るということで、参考にしていただければ幸いです。
ただし、この提案、実際に授業化するには、生徒の状況や学校の教育方針、プライベートでセンシティブな事情を扱っているという点を考慮する必要があるなど、様々な留意点があることにもご注意ください。

(メルマガ 140号から転載)
 

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