執筆者 新井明

 教科書の記述が現実より遅れてしまうのは、現在の検定制度や社会の変化からいって仕方がない部分が多いのは周知のとおりです。
 それでも、今の教科書は頑張っていて、かなり現実の変化をフォローしています。にもかかわらず、現実の進行とギャップが出てしまっている例がでてしまうケースもあります。
 今回はそういった例の一つであるコンビニ教材を取り上げてみます。

(1)コンビニ立地のロールプレイ教材の例
 中学校トップのシェアを持つT社の教科書の経済学習の冒頭には、「コンビニエンスストアの経営者になってみよう」という導入教材があります。
 ある郊外のまちにコンビニエンスストアを開業するとして、どこがよいかを考えさせる教材です。様々な制約条件のなかで選択をするという経済の考え方を自然に考えさせる意味では良い導入教材でしょう。
 ところが、この教材の事例となったコンビニの立地やコンビニのビジネスモデルに関しては、現在大きな問題が発生しているのはご承知の通りです。

(2)コンビニ業界の抱える問題と授業
 立地のロールプレイに関して言えば、ドミナント戦略の是非が問題になっています。
 業界最大手のS社はドミナント戦略で成功してきた実績をあげてきました。
 しかし、ドミナント戦略のマイナスも発生していて、店ごとの共食い状況がでてしまっているところもあります。
 この教材でいえば、一カ所を選ぶのではなく、全部をドミナントで立地させることも現実には起こっているわけです。
 もちろん、ドミナント戦略は、コンビニの本部の戦略ですから、この教材が要求しているコンビニの経営者になって考えるという課題の要求とはレベルの違う話です。
 とはいえ、コンビニの出店を考える場合には、コンビニのフランチャイズという特質や周辺のライバルとの関係などももうすこし現実を踏まえたものが欲しいところです。
 そのようなリアルな問題はこの教材からは当然浮かび上がりません。
 また、この教材ではとりあげられていませんが、24時間営業の問題は、中学や高校などではディベートのテーマとして取り上げられていました。
 ロールプレイやシミュレーションなどの現実を単純化させて、それをもとに様々な体験や知見を得させようとする授業は、学習効果が高いことは実証済みですが、これまでは、振り返りの時間に現実との関係を考えさせてきました。
ところが、この事例のように、良く出来た教材でもモデルと現実の乖離をどこまで埋めるのか、それを事前に考えておく必要がでてくる教材が結構教科書にはあるということでしょう。

(3)学生からの指摘
 この教材、教科教育法の授業で取り組ませてみました。
 取り組んだのは大学生ですから、コンビニのバイトの経験アリという学生もいて、面白いけれど、ちょっとねという意見がでてきました。
 場所に関しては、ライバルの店や同じチェーンの店もここに出てこないので、これだけでは判断できないよねというのがでました。
 ライバル店は何と聞いたら、同じコンビニよりも商品によってはドラッグストアだよねという回答でした。
 ちなみに、コンビニが売上を落として、ドラッグストアが伸びているというデータはTK社の教科書にはすでに登場しています。
 24時間営業に関しては、深夜にはお客はさすがに少ないけれど、場所によっては有り難いんじゃないのと言うのが学生さんの意見です。彼が働いていた店では、タバコとおにぎりが売れ筋だったとのことで、場所による違いはかなりありそう。
 ちょっと面白かったのは、高齢者が来て、お客がいない時には、話し相手として、いろいろ話してゆくという。たしかに、スーパーのレジの人とは話はできないし、コンビニは高齢者の友かもね、ということで周りの学生も納得していた。
 同僚には、外国人のバイトも多く、深夜のコンビニは外国人で持っているんじゃないのという話題にもなった。

(4)現実をキャッチアップする教材さがし
 コンビニ教材は、教材としてはまだ十分に使えるものですが、コンビニ自体がビジネスモデルとして課題を抱えてきている点から言って、その課題を踏まえた形での修正なり補正が必要になる段階に来ているといえるでしょう。
 その意味では、コンビニに変わる次の教材モデルが必要で、2021年度から使われる新課程の教科書で何が登場するか、興味深いものがあります。
 でも、次の教科書が出来るのを待つまでに、私達が次の時代に生きる生徒にふさわしい教材を開発できれば一番です。
 夏休みの経済教室の報告から先生方の新鮮なアイディアが登場することを期待したいところです。

(メルマガ 124号から転載)

Tags

Comments are closed

アーカイブ
カテゴリー