執筆者 新井明
5年前のこの欄で紹介した(39号、2012年4月)ことがある、東京都の公民科・社会科研究会の『明日に使いたくなる公民科授業実践』という冊子の新しい版が刊行されました。
前回はサブタイトルが「言語活動を取り入れた主体的学びを実践できる指導事例集」でしたが、今回は「生徒一人人の在り方生き方や社会の見方考え方を対話を通して深められる指導事例集」となっています。サブタイトルだけを見ると、「言葉のお守り的用法」(鶴見俊輔の言葉)のようで、個人的にはちょっと勘弁という感じですが、中身はなかなか面白くできています。
「よりよい男女共同参画社会を考える」から、「身近な取り組みとのツナガリから考える国際貢献の在り方」まで29の指導事例が、諸課題分野、倫理分野、政治分野、経済分野、国際分野の5つの区分で提案されています。
ネットワークメンバーの高橋勝也先生(都立武蔵高・中)や宮崎三喜男先生(都立国際高)、塙枝里子先生(都立府中東高)らが、経済分野だけでなく様々分野の授業に挑戦されていて執筆をしています。
例えば、高橋先生は「価格の在り方から経済活動を考える」など5本、宮崎先生は「4コマ漫画から、税のありかたを考えよう」など7本、塙先生は「民事調停ゲームから考える司法参加」など3本の授業提案を書かれています。
他には、小貫篤先生(都立雪谷高校、現筑波大学附属駒場高・中)が「総理大臣ビンゴゲーム」など5本を書かれているのが注目されます。
いずれの授業案も「対話を通して」深めるアクティビティが組み込まれているのが特徴です。いわば、アクティブラーニングの事例集と言ってもよいかもしれません。
提案された授業例は、実際に試す(追試)されるとよいと思います。アクティブラーニングは流行ですが、ねらいを達成するために、対話(活動)に際して、分析道具や理論を持って指導することが必要になります。また、出てきた生徒の反応をもう一度反芻するような振り返りの場も必要になります。
これらの授業例がどこまでその条件にあてはまるか、若手の先生方をきたえる意味でも、全国で検証がのぞまれるところです。書かれた先生方も、そういう反応を期待されていると思いますが、どうでしょうか。
これだけの授業案を提示する熱意、それを形にしてゆく努力は頭が下がります。ただ、惜しむらくは、研究会の自費出版物なので、印刷分がなくなったら終わりとのことです。研究会のHPでのアップなども望まれますが、ヒトとカネの問題でこれは課題となっているとのことでした。
北海道の研究会でも、同様の事例集の企画が進んでいると聞いています。全国の研究会でこの種の取り組みがどんどんでてきて、ネットワークがつながると、日本の教育も大きく変わってゆく可能性が期待できそうです。
なお、実物がご覧になりたい方は、都立国際高校内の都公社研事務局(事務局長:宮崎三喜男先生)に問い合わせてみてください。
(メルマガ 102号から転載)
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