執筆者 新井明
今回の話は単純です。ものを見るには複眼で見ようということです。そのために必要なことは複数の資料を用意する、もしくは授業準備で読んでおくことということです。
政治的な論争問題だとディベートスタイルの授業にすることで、それが担保できます。経済でも、TPPの評価などがそれに当たるでしょう。
18歳選挙権の授業に関しては、東京都教育委員会は政治的中立性を保つために、新聞を使うなら6紙(読売、朝日、日経、毎日、産経、東京)を使うようにという指示を教員を集めて行いました。そんな指導は余計なこと思う先生方もいるかもしれませんが、6紙は無理だとしても、大きく二つのブロックに見解が分かれることが多いのでので、最低2紙は利用しないと物事は立体的に見ることができないことはたしかです。それから考えると、都教委の指示も理由のないことではないといえるでしょう。
経済の場合は二つの立場の資料は、現在の論争問題を考えるのに参考になるだけでなく、どちらが正当だったかの判定材料にもなります。それは、経済政策に関する主張では、時間の経過とともに結果が明らかになることが多いからです。その意味では、複眼で見ることは、自説を一度棚に置いてものごとをしっかり見るためにも必要なプロセスになります。
ちなみに、日銀の金融政策(黒田緩和)の吟味のためには、データの分析だけでなく、現在日銀の副総裁をつとめている岩田規久男氏と、現在京都大学にいる翁邦雄氏の所説を並べて検討することが役立つかもしれません。かつて、岩田-翁論争をしたお二人が、攻守所を変えて再び論争したら面白いと思うのですが、日銀副総裁という公職だと昔のようなアクレッシブな論調での意見表明ができないでしょうから、論争としては成立しないものになるかもしれません。岩田、翁氏の本は新書で出ていますから、授業で使う、使わないという以前に、手に取って読まれるとよいでしょう。
(メルマガ 89号から転載)
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