執筆者 新井明
夏休み経済教室でもおもしろネタが沢山紹介されました。
とはいえ、毎日の授業準備をしながらネタ集めは大変な作業。新聞やニュース、通勤や買い物など、日頃からネタになりそうな話題をチェックすることはそうたやすいことではありません。
ネタ探しに決定打はないのですが、それでも意外に活用できるのが、官庁統計です。現在は情報公開の時代ですから、様々な調査類が公表されています。
そのなかでも、一番まとまってその種の統計が検索できるのが統計局のホームページです。とはいえ、隅から隅まで見て回るわけにはいきません。そこで注目するのは「統計トピックス」というページです。ここでは、その時々に合わせての統計が紹介されています。最新のものは、子どもの数です。
また、全国消費実態調査は、おもしろネタが満載です。ただし、全体がまとめられているのは平成21年調査なのでちょっと古くなっています。平成26年調査は、現在、耐久消費財関係がまとめられて公表されています。
例えば、21年調査からは、日本で人世帯当たりの消費が一番多いのは何県?(富山)、逆に少ないのは?(沖縄)などがそこから出てきます。ほかにも、クルマへの支出が一番多い県は?(島根)、逆に一番少ないところは?(東京)、魚はどこの県が一番食べているか?(岩手)、逆に肉は?(沖縄)など生活に密着したデータがたくさん出てきます。そこから地域の特色や生活スタイルの違いなどにも発展できます。
統計局には、「なるほど統計学園」という生徒向け、指導教員向けのページもあります。ここからネタを拾うこともできます。
経済関係だったら、経済産業省、中小企業庁、農林水産省、国土交通省、観光庁、財務省などのHPから統計関係や生徒向けのページをネットサーフィンしてもよいかもしれません。ただし、官庁情報は、その官庁の政策の合理化のためにこの種の統計を使うこともありますから、おもしろネタだからと言って、無批判に使うことは慎重であることも必要になります。
今は、先生方が一人に一台パソコンが配置されている学校がほとんどでしょうから、すき間の時間を使って、こんな教材集めはどうでしょうか。
■前号、機会費用の訂正
8月号で「三匹の子ぶたで機会費用を教えよう」というヒントを書きました。
数値例をいれて計算させてみようということで、数値例をいれましたが、それが不十分でした。次のように訂正します。
子ぶた三兄弟は、遊び好きで、遊びは1時間100円分の満足を得られます。
三人は、それぞれ家を建てるために遊びをあきらめなければなりません。。
わらの家は、1時間でできるとします。
木の家は、2時間です。
レンガの家は、5時間が必要です。
家を建てるにはお金も必要です。
わらの家は、200円で出来ます。
木の家は、300円です。
レンガの家は、400円かかるとします。
そうすると費用はいくらになるでしょう。
わらの家=建設費+諦めた遊び分=200円+(1時間×100円)=300円
木の家=同=300円+(2時間×100円)=500円
レンガの家=同=400円+(5時間×100円)=900円 となります。
ここから言えるのは、家を建てるための費用は、直接かかる目に見える費用だけでなく、家を建てるために諦めた遊ぶ時間も費用と考えないといけないということです。
レンガの家には高い機会費用(会計費用+放棄費用)がかかっていることがわかります。ここまでの説明が一番簡単な機会費用の数値を使った説明になります。つまり、しっかりした家を建てるには高いコストがかかるんだ、です。
ところが、これだけでは、高いコストでレンガの家を建てた一番下の子ぶたが本当に賢かったというこことは、証明されていません。なぜなら、上の事例ではコストは考えられていても、ベネフィットを登場させていないからです。
ある決定が本当に意義があった言えるのは、コストだけでなく、ベネフィットの吟味が必要です。そして、ベネフィットからコストを引いたネットベネフィット(純効用)を計算して、それが最も大きい行動をとることが、最も賢い選択であるとこと示す必要があります。
では、この話のベネフィットは何でしょう。それは家を得ること+遊ぶ時間ということになります。
家を建てるベネフィットにはどんなものがあるでしょうか。このお話で、一番大きな家の価値は、快適さと安全性です。特に安全性に関しては、持ち主がどれだけの危機意識を持ち、それに合わせてどれだけ防犯の備えをしているかが問題になります。
そうなると、三匹はそれぞれ異なった家へのベネフィット、つまり価値感を持つはずですから、その数字を入れて、そこから、それぞれ、わら家を建てた時、木の家を建てた時、レンガの家を建てた時の三通りの、三人か感じる「お得感」(ベネフィット-コスト=ネットベネフィット、純効用)を計算してゆかなければならなくなります。ケースとしては9通りの計算です。それを比較して、三匹がその時点では、なぜ違う家を建てたのか、それは合理的な判断だったのかを吟味することになります。
それだとたいへん複雑になってきます。また、上では三人の遊びの価値が同じであるとして計算していますが、もし違っていたら、三人の時間コストが違ってきますから、また違った計算をしてゆかなければなりません。
危機意識に関しても、オオカミに襲われる確率や期待値まで計算してその数字を出すことも必要になるかもしれません。こうなるともっと大変です。
経済の考え方の面白さや機会費用の大切さ知るには、そこまで考えてゆく事が必要で、さらに広がりをもつのでしょうが、中高の教室での活用のヒントとしては、コストの説明でとどめておいた方がよさそうです。
このように考えてゆくと「三匹の子ぶた」を正確に経済で読み解くことは、予想外に複雑になりそうです。
なお、ここで数値をいれずに文章で書いた部分は整理をして、後日ネットワークの教材のページにアップしたいと考えています。間違いを指摘して、数値例を紹介いただいた荒渡良先生(名古屋大学)に感謝いたします。
(メルマガ 80号から転載)
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