執筆者 新井明
『これからの正義の話をしよう』(マイケル・サンデル)の冒頭に、2004年のハリケーン・チャーリー後に発生した便乗値上げの論争が扱われています。東日本大震災では、ガソリンなどに多少の値上げはあったようですが、サンデルが紹介するような事例はなかったと言ってよいでしょう。これがなぜなのか、また市場論者からは便乗値上げと思われている事例も本当はそうではないという反論もあります。生徒に市場の役割やそのなかでの人間行動、さらに日本と他国との違いなどを考えさせる授業を都立桜修館中等教育学校の高橋勝也先生が行っています。高橋先生は、中等3年生(中学3年生)の道徳の授業と、公民の授業でこの授業をなさったとのことです。内容は、ガソリンを求めてスタンド前の行列に並んだ1000台の車のそれぞれの事情を抱えた人にどのような順番でガソリンを売るかを考えさせるものです。
新しい「現代社会」では、幸福・正義・公正を社会を見る概念の枠組みとして最初に教えることになっています。なかなか難問であるこのテーマに高橋先生の試みはきっと授業のヒントになるでしょう。
今回の地震や原発事故は悲しい出来事ですが、私たちにこの種の問題、つまり限られた資源をどのように本当に必要な人に配分してゆくのかという経済問題を突き付けています。問題を倫理や道徳だけで語らずに経済の観点も導入しながら、総合的に問題に取り組む姿勢を生徒に身に付させる授業が望まれています。高橋先生の授業の内容と生徒の反応などは、近日中にまとめられて東京部会に報告される予定とのことです。
(メルマガ 29号から転載)
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