経済教育シンポジウム「明日の経済教育を考える」

■日時:2008年7月5日(土) 13時00分~17時10分
■場所:日本大学経済学部7号館講堂

東京の日本大学で経済教育シンポジウムを開催した。当日は、中学校・高等学校・大学の教員ら約120人を得て、子どもたちが社会の仕組みを知り、 そして、そのあり方について考える力を身につけていく経済教育について議論した。シンポジウム第1部では、ともすれば金銭教育や自分の利益を最大に する方法だけを教えるという、間違った印象をもたれている経済教育のあり方について、各界を代表する識者に、経済教育でできることを掘り下げて いただいた。第2部では、小学校、中学校、高等学校の教育現場での問題点とこれからの展開について、教室での教育、教育行政、経済教育研究、 企業の立場から幅広く議論していただいた。

【プログラム】

13:00~13:10 開会挨拶
          篠原総一(経済教育ネットワーク代表)
          小梛治宣(日本大学経済学部長)

13:10~13:40 基調講演 竹中平蔵(慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所所長)
          「経済学の社会教育」

13:40~15:00 シンポジウム1 「経済教育の可能性:経済学と経済教育」
          モデレータ・篠原総一(同志社大学経済学部)
          竹中平蔵(慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所)
          大竹文雄(大阪大学社会経済研究所)
          岩田年浩(関西大学総合情報学部、経済教育学会代表幹事)

15:20~15:50 基調講演 岩田一政(内閣府経済社会総合研究所 所長)
          「経済教育について」

15:50~17:10 シンポジウム2 「中学・高校における経済教育が克服すべきもの」
          モデレータ・猪瀬武則(弘前大学教育学部)
          岩田一政(内閣府経済社会総合研究所所長、前日本銀行副総裁)
          大杉昭英(岐阜大学教育学部、前文部科学省視学官)
          奥田修一郎(大阪狭山市立南中学校)
          大崎貞和(野村総合研究所研究創発センター主席研究員)

17:10~17:20 閉会挨拶
          大竹文雄(経済教育ネットワーク副代表)

【内容の要約】

シンポジウムの第1部では、竹中平蔵氏(慶応義塾大学)が基調講演で、民主主義社会にとって重要な要素になる経済や経済学のリテラシーを向上させることの 大切さを強調された。というのも、政策課題を議論する際、民意を得ることが不可欠なために、さまざまな経済的な考え方を踏まえて国民の意識を高めることに なるからだ。経済教育ネットワークは、このリテラシー向上に資する役割を担うところに存在意義があると指摘された。

 基調講演を踏まえて、モデレータの篠原総一氏(同志社大学)による司会の下で、パネラーからの意見が開陳された。まず、大竹文雄氏(大阪大学)は、 経済に対する関心の低さを改善するところに経済教育の意味があると主張された。そのために、まず経済学の面白さを分からせること。次に、経済学は 金儲けの方法を教える学問だという錯覚を払拭すること。さらに、人間は多分に非合理的な行動をとるので、経済リテラシーを高めることで、合理的な 思考へと導くことが大切である。

 続いて、岩田年浩氏(関西大学)は、現代のニーズに応える経済教育の少なさと、経済学が現実と乖離している点を指摘された。さらに、“ゆたかさ”の 意味や“公平と効率性”の問題が重要であるにも拘わらず、日本の経済教育は効率性を重視した教育に偏っている。すなわち、競争の勝者が人間性に 優れているという間違った考え方が定着しているところを危惧された。この間違った考えを正すところに経済教育を学ぶ意義があると強調された。

 さらに、竹中平蔵氏(慶応義塾大学)は、経済学の講義について議論するだけでなく、中学校や高等学校の生徒に経済問題の意識を高めることの大切さを 補足説明された。そのためには、身近な問題を取り上げて経済の大切さを理解させる努力が必要になる。それが時には、親子のコミュニケーションに繋がる 副次的な効果も期待できる。

 シンポジウムの第2部では、岩田一政氏(内閣府経済社会総合研究所)が基調講演で、まず日本銀行主催の金融教育について紹介された。金融教育の狙いは、 「生きる力」を涵養することとファイナンシャル・リテラシー(金融理解能力)を高めることにあると述べられ、さらに、経済学の目的へと言及された。 それは、人の生き方と進路の選択に資することであり、また、競争には倫理的理想(配分の正義、比較優位、適材適所)があることを強調された。
 その後の議論では、大崎貞和氏(野村総合研究所)が、経済教育に必要なものはバランス感覚であり、たとえば、金儲けには欲望のコントロールや 倫理教育の大切さも教えること。また、日常生活に必要な民法の基礎的な知識を教えることの大切さを述べられた。

 奥田修一郎氏(大阪狭山市立南中学校)は、生徒が熱中する授業の大切さを教育現場の実践を通じて紹介された。たとえば、最近では、年金問題への 関心が高まっているので、クイズ形式で年金制度を理解させる授業や、「アリとキリギリス」の寓話を用いて価値観を取り入れた授業の実践例を報告された。

 大杉昭英氏(岐阜大学)は、“学力”について述べられた後、工夫次第でいろいろな場面で経済的な視点から考えるように仕向けることが可能だと 指摘された。たとえば、子どもたちが休み時間に狭いグランドを如何に使うかも、希少な資源の有効配分を教える材料になり得る。また、公共性に ついても、たとえば偽装による短期的な利益よりも長期的な不利益のほうが大きくなることを教える必要性を強調された。

 岩田一政氏は、経済教育で倫理や生き方との関係を教えることの重要性に加えて、いまの高校生は“格差”の問題について敏感なので、この機会を 捉えて「格差とは何か?」「どうして格差が生じるのか?」の議論に繋げていくことができると述べられた。

 最後に、モデレータの猪瀬武則氏(弘前大学)が「中・高校生に教えておきたいこと」の質問に対して、「世の中にはフリー・ランチがない (大崎貞和氏)」、「企業の社会的責任(奥田修一郎氏)」、「公共性の大切さ(大杉昭英氏)」を一言ずつ述べられてシンポジウムを終えた。

(文責:西村理)

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