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学生向けQ&A No. 3
世界には、日本やアメリカのように豊かな国もあれば、アフリカ南部のように1日に100円程度の所得で暮らしている貧しい人もいると言われています。 どの国でも、国民が企業で働き、企業は雇い入れた労働などを使ってモノを生産し、それを販売して人々に所得を配るという仕組みをもっているはずです。 そのように、どの国も同じような経済の仕組みを持っているにもかかわらず、なぜ、国民の所得に大きな差が生まれるのですか。 (西京中学校 2年生)('06/10/09) |
国際間の所得格差に関する考え方 確かに、経済の仕組みはどの国でもそれほど大きな違いはありません。 ただし、そのような仕組みがうまく働くかどうかは、仕組みを支える制度や企業の経営の仕方、国民の働く力など、様々な要因に依存します。 国によっては、企業の自由な競争を制限している場合もあります。元来は、売れないモノをつくる企業は倒産し、代わって多くの人が消費したいと思うようなモノ を作る企業が大きくなっていくはずです。その結果、モノが売れなくなる企業に勤めていた人は、たとえその企業を首になっても、代わりに消費者がもっと買い たいと思うようなモノを作る企業に移ることが可能になっていきます。このように、日本全体で限りのある労働が、消費者がもっと買いたいと思うような産業で 利用できれば、経済は発展していきます。 ところが、ここで、政府が倒産しそうな企業に補助金を与え、倒産を防いだら、どうなるでしょうか?企業がつぶれない限り、労働者はその企業に残るはずです。 すると経済全体でみれば、消費者が余り欲しくないと思うようなモノが作り続けられ、もっと欲しいと思うモノの生産は増えません。その結果、経済全体の売上げが落ち、 経済は沈滞していきます。 このような場合には、確かに、倒産しそうな企業を救うという政府の政策にも意味がありますが、経済全体のことを考えると、その政策がかえって発展を 抑えてしまうことが分かるはずです。 これは、ほんの一例ですが、国民の働く力が異なれば、経済全体で作り出す所得の大きさにも大きな差が生まれます。(たとえば、誰でもコンピュータの使い方を 知っている国と、そうでない国では、モノを作ったり売ったりする効率が大きく違うことは、皆さんにも想像できるはずです。→だから、教育は、国の豊かさと 大いに関係があることも理解してください。)さらには、金融面では、皆さんが貯蓄したおカネをどのような企業に回すかによって、経済の効率も大きな影響を 受けます。また、企業がもっている技術の程度や、モノを売り買いする流通の効率、企業経営の効率など、経済全体の所得は様々な要因に依存するのです。 ですから、同じような仕組みをもっていても、国によって所得に違いがでるのは、ある意味では仕方がないことなのです。しかも、では貧しい国の所得を上げるに はどうしたらよいのか、その解決法を探すことも簡単ではありません。一例をあげれば、中近東では砂漠が多く、飲み水や工業に必要な水を確保することが容易 ではありません。そのため、自動車、電気製品、半導体、繊維製品など、モノを作る産業(=製造業)を起こすことは不可能に近いくらい難しいのです。ですか ら、石油が採れる国は、その収入でなんとかなりますが、それ以外の国では、「なつめやし」など砂漠地帯特有の農業など、それほど所得源になりそうにない産 業に頼らざるをえないのです。このような国で、いくら国民が教育を積み重ね、政府が企業競争を促進しても、なかなか所得は上がりません。この例が示すよう に、すべての国を同じように豊かにすることは、皆さんが想像する以上に、難しいことなのです。ですから、世界の国々が、貧しい国も含めて、互いにどのよう に助け合っていくかという国際「援助」問題が重要な意味をもつのです。 [篠原総一(同志社大学経済学部教授)] |