①どんな本か
・スェーデン出身で英国在住の女性ジャーナリストが書いた、男性中心、経済人への挑戦状とも言うべき経済学の本です。
・フェミニズム、ジェンダーの視点からの経済学、経済を読み解こうとするかなり攻撃的な本です。
②どんな内容か
・全16章あります。以下、各章のタイトルと取り上げているテーマを紹介しておきます。そこから内容が浮かびあがると思います。
第1章 アダム・スミスの食事を作ったのは誰か(スミスの経済学の特質)
第2章 ロビンソン・クルーソーはなぜ経済学のヒーローなのか(経済人ロビンソン)
第3章 女性はどうして男性より収入が低いのか(人的資本論、ベッカー)
第4章 経済成長の果実はどこに消えたのか(ケインズの経済学)
第5章 私たちは競争する自由が欲しかったのか(働き方)
第6章 ウオール街はいつからカジノになったのか(ゲーム理論、金融市場)
第7章 金融市場は何を悪魔に差し出したのか(金融商品)
第8章 経済人とはいったいだれだったのか(行動経済学)
第9章 金の卵を産むガチョウを殺すのは誰か(インセンティブ)
第10章 ナイチンゲールはなぜお金の問題を語ったか(モチベーション)
第11章 格差社会はどのようにしくまれてきたか(新自由主義批判)
第12章 「自分への投資」は人間を何に変えるか(人的投資論)
第13章 個人主義は何を私たちの体から奪ったのか(行動経済学批判)
第14章 経済人はなぜ「女らしさ」に依存するのか(性的役割分業)
第15章 経済の神話にどうして女性がでてこないのか(市場原理批判再論)
第16章 私たちはどうしたら苦しみから解放されるのか
エピローグ 経済人にさよならを言おう
③どこが役立つか
・各章のタイトルで興味を持ったところを読んで見るとよいでしょう。授業で使えるエピソードが満載されていることを発見するはずです。
・経済学の歴史とその特質に興味のある先生は、通読をすすめます。女性の観点からの経済学ってこんなふうに描けるんだと発見できるはずです。
・行動経済学に関心を持っている人は、第13章などに注目です。主流派経済学の不十分さを指摘する行動経済学もフェミニズムの観点から批判されています。
・各章の書きぶりが注目です。最初にエピソードや興味深い導入の話を出し、本論でそれを展開する。途中にクイズなどもいれて話をすすめ、最後にまとめる。これは授業づくりの方法そのものです。
④感想
・それぞれの章が短く、かつジャーナリストである著者の手によって手際よく整理されているので読みやすい本です。
・何より、本のタイトルが出色。スミスは生涯独身で、母親が家事をやり、いとこがお金を管理していたそうです。
・翻訳もうまい。啖呵をきるような表現は翻訳の力でしょう。
・これだけ批判されても経済人はしたたかに生きている。それがなぜなのか、どうすればよいか、さらに考えねば。いや、考えるだけでなく、体を動かせるようにならないといけないなと思わず我が身を振り返ってしまいました。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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