■ 松田琢磨『コンテナ海運が世界を動かす』角川新書 2026年

① なぜこの本を選んだのか?
 私たちは「貿易」の授業を行いますが、実際にモノを運ぶことについてどのように学習するのでしょうか? 誰が、何を、どのくらい積んでどこに運んでいるのか? 輸出や輸入に関する知識に、より一層厚みを持たせることができると思い、本書を選びました。

② どのような内容か?
1.著者の松田琢磨先生の研究テーマは?
 松田琢磨先生のご専門は、国際物流です。海運業、海上コンテナ輸送を中心に研究を続けています。大学院で研究を続けていましたが、一度研究の場を離れて別の仕事に就きます。その職場で国際物流の研究テーマに出会い、再び大学院で研究をはじめたそうです。

2.コンテナは経済の赤血球
 世界中でさまざまな荷物を運ぶコンテナは『経済の血液』、ないしは『赤血球』と言っていいかもしれないと松田先生は表現します。日本の輸出入貨物のうち金額ベースで40.2%が海上コンテナ輸送で運ばれているそうです。

3.大豆の歴史
 授業の素材として使えそうな話題として大豆に関する記述がありました。
 もともと東アジア原産の大豆は、現在、米国やブラジルが主要な生産国となっています。
船を使って大豆を輸送する場合、ばら積み船での輸送(ばら積み輸送)か、コンテナ船を使うコンテナ輸送とのいずれかを使用することになります。
 ばら積み船の輸送運賃はコンテナ船の数分の1なので、多くの場合こちらを選びそうです。ところが納豆用大豆の輸入では、コストが高く、輸送日数でも有利とはいえないコンテナ輸送が選ばれます。なぜでしょう?生徒と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

4.クルーグマンやドラッカー
 ポール・クルーグマンは「世界を変えたテクノロジーについて考えるとき、インターネットのようなものを考えてしまう。しかし、何が世界の貿易に起こったかを考えれば、コンテナが大きな変革をもたらしたことに気づく」とコメントしています。
 ピーター・ドラッカーも、コンテナが存在しなければ、1960年代以降のすさまじい貿易の拡大はおこらなかったかもしれないと、その存在を大きく評価しています。
 コンテナ輸送ネットワークの広がりと「生産拠点の分散」や「グローバルサプライチェーンの確立」は深く関連しているのです。

5.コンテナを理解しよう
 本書は、コンテナに関する基礎知識が丁寧に書かれています。
 コンテナは誰が所有しているのか? どこの国が生産しているのか? 主な航路にはどのようなものがあるのか? 一体何が、どれくらい、運ばれているのか?といった疑問に答えてくれます。
 授業でも、例えばアジアから米国に輸送されるコンテナ貨物第1位は何でしょう?米国からアジアへのコンテナ貨物第1位は何でしょう? という問いかけをすることで、貿易の授業が、見えないものを扱う学習から身近なものを扱う授業に変わります。
 そしてここから、アジア域内では分業が進んでいて完成品が欧米に輸出されていることを学習できるのです。

6.無人運航
 生徒の注目を集めそうな無人運航船プロジェクトについての紹介もあります。兵庫県にある井本商運は、世界初となる営業コンテナ船による無人運航の実証実験を福井県敦賀港から鳥取県境港町まで行い成功させています。
 これからの海には、船長さんが乗船していない船が増えていくのでしょうか。未来の海のことを想像できる話題でした。

7.コンテナの歴史
 そもそもコンテナ輸送は、いつ頃から始まり、どのようにして一般化していったのでしょうか? ISOで規格統一がなされ、世界標準の輸送法としての地位を確立していく歴史について知ることができます。
 航路についても、ハブ・アンド・スポーク化というものが確立されていくことを図版で見ることができます。これはハブ港湾とハブ港湾の間を大きな船で結ぶ幹線航路と、ハブ港湾とそれ以外の港湾を比較的小さな船で連絡する航路の2つに分化するものです。

8.どのようなリスクを抱えているのか?
 コンテナ輸送をめぐるリスクにはどのようなものがあるのでしょうか? 本書であげられているのは労使間交渉です。これは米国だけではありません。カナダやオランダ、ベルギーでもストライキが起こっています。
 自衛策として、ルートを分散させたり、在庫を早期に積み増したりといったことが行われています。また、連邦政府や議会による介入も行われていることが紹介されます。

9.コンテナ輸送と金融政策
 連邦政府や議会による介入に関連して、コンテナ輸送と財政政策、金融政策との関連が記述されています。
 金融政策の動向は住宅ローン金利の変化を通じてコンテナ輸送の動向に影響を与えると指摘しています。金利の変化により建築資材の需要が変化し、コンテナ貨物の量が左右されるのです。家具や家電製品など耐久消費財の購入が変化することも指摘しています。

10.地政学的問題
 未来のビジネスを語るとき、地政学的変化が話題になります。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスとの紛争、米中貿易摩擦などが地政学的な問題によるサプライチェーン問題として指摘されています。

11. どこに向かう?コンテナ船
 コンテナ海運業界が抱える課題にはどのようなものがあるのでしょうか?
多々ある課題の中でも、運賃が下がっている中で運航コストが上がっているという問題を大きく取り上げています。原油価格の高騰や環境対応投資が背景にあります。
 売上げ機会の損失や過剰在庫を防ぐため、コンテナ貨物を運んでいる船舶がどこにいるのかを示す物流情報の可視化が進んでいます。サプライチェーンは大きく変わりつつあるようです。

12. 認識の再構成が必要
 近年、日本の輸送シェアは小さくなっています。ところが「どうして日本にコンテナが来ないのか」と質問する記者が多いと松田先生は指摘します。もしかしたら、多くの人が、日本は巨大な工業製品輸出国だという認識を変えることができていないのではないかと心配しています。
 この認識は昭和時代の社会科教科書に書いてあったことです。今や、欧米諸国とアジアとの貿易・物流において日本は中心地ではないという立ち位置にいることを知らなければならないと指摘して本書を閉じています。

13.本書の全体像
 以上が、本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。

【目次】
 はじめに──「経済の血液」としてのコンテナ
序章 身近なものの動きから眺めるコンテナ輸送
第1章 「コンテナの動き」で、なぜ世界経済が読めるのか
第2章 経済の血液としての「箱」を理解しよう
第3章 海運物流・コンテナ輸送はどう発展していったのか
第4章 いま世界で起きている海運問題と、経済活動への影響
第5章 「海運の動向」から読み解くこれからのビジネス・経営
第6章 今後、「コンテナ船」はどこに向かうのか
 おわりに──水、空気、コンテナ輸送

③ どこが役に立つのか?
 「貿易」を具体的にイメージできるようになります。本文の内容は上に示したとおりですが、これに加えて本文中に掲載されている図版が授業づくりに役立つのではないかと思います。貨物の流れを可視化したもの、実際のコンテナの写真、世界地図のうえに示されたコンテナの流れ、世界のコンテナ港、主な港湾の位置関係、コンテナ船の最大船型の推移、アジアから米国への品目別輸送量・・・まだまだあります。写真もたくさん掲載されています。

④ 感 想
 ちょうどこの原稿を書き始めたころ「週間東洋経済」に掲載された造船復興という特集記事を読みました。新聞報道でも造船業に関する記事が目にとまります。最近多い、海や船に関する情報に接していたことも本書を選んだ理由の1つです。乗り物を軸に経済を理解するという授業づくりは教師にとっても楽しめるものになるのではないかという感想を持ちました。
                                        (金子幹夫)

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