① なぜこの本を選んだのか?
 2024年8月8日に「南海トラフ地震臨時情報」が発表されました。紹介者は阪神淡路大震災のことを思い出しました。この地震が発生した1995年はNPO元年といわれています。
 あらためて防災教育について考えなくてはいけないと思っていたところ本書と出会いました。NPOやNGOは公民科の教科書に掲載されている大切な用語です。NPOについての知識を整理しようと思い,本書を選びました。

② どのような内容か?
 まえがき
 宮垣 元先生は慶應義塾大学総合政策学部の教授です。専攻は社会学、経済社会学、非営利組織論、コミュニティ論です。
 本書はNPOについて「知っているようで、よく知らない組織」と感じている多くの方々を念頭に置きながら書いています。

 序章は「社会に浸透するNPO」です。
 宮垣先生は,冒頭の第一文でNPOを一番わかりやすく伝えようとしたのだと思います。その第一文は「民間の組織でありながら企業ではなく、人びとのために活動しながら行政でもない存在」というものです。
 次の3点に注目しました。
 第1は、本書の問題意識で「NPOや、それに関係する人や活動のなかの世界と、ふだんNPOとかかわり合いのない人たちとの距離の隔たり」というものです。
 第2は、なぜNPOが必要なのかをまとめたところです。社会が複雑化する中、課題への細やかな対応は、政府や企業では難しいことを指摘しています。
 第3は、授業で使えそうなエピソードです。紹介者はChatGPTがNPOだということを初めて知りました。

 第1章は「求められる時代背景」です。
 次の3点に注目しました。
 第1は、非営利組織は日本でも古くから存在していたという指摘です。近代国家成立以前から存在していたのではないかということでした。
 第2は、ボランティアそのものが1990年代以降に互酬性を強調した捉え方に変わっていったという指摘です。
 第3は、NPO概念のわかりにくさは,学術的な定義、社会的な定義、法制度的な定義で示されるものがそれぞれ異なるからという指摘でした。

 第2章は「複雑な顔を持つ組織」です。
 次の3点に注目しました。
 第1は、1つの組織の中に「財やサービスを供給」する面と「なにかの運動をする」面という2つの顔を持っていること指摘しています。
 第2は、NPOには2種類の顧客がいるということを指摘しています。
 第3は、NPOは,活動をすることの意味と組織にいることの意味の2つを合わせ持っている組織であることを示しています。

 第3章は「NPO法とはどのようなものか」です。
 次の2点に注目しました。
 第1は、市民による自由な活動と、国が制度として規定することの難しさを論点にしているところです。
 第2は、NPO法と認定NPO法の知識を整理しているところです。法人格を付与することと税の優遇措置とを整理して理解しなければいけないことがわかります。

 第4章は「参加意識と活動実態」です。
 次の3点に注目しました。
 第1は、私たちNPOをどのように認識しているのかという分析です。日本は社会貢献に関する意識自体は低くないのですが、NPOについては「よくわからない存在」だと受け止めているのはなぜかという疑問が残りました。
 第2は、NPOの規模を図ることの難しさについてです。すべての非営利活動が登録されているわけではないという背景を語っています。
 第3は、NPOで活動している人の姿を描いています。男性?女性?参加のきっかけは?参加者の年齢層は? ここから課題も見えてきます。

 第5章は「市民による公益活動の長い歴史」です。
 次の2点に注目しました。
 第1は、古代から現在に至るまでのNPOに関する歴史が興味深いエピソードと共に語られているところです。世界最古のNPOはどこか?東京都内にある某有名私立大学も最初はNPOが運営するフリースクールだった?といった記述が心に残りました。
 第2は、長い歴史から見えてくるNPO像をつかむことができるところです。印象に残ったのは「社会運動から市民活動へ、ボランティアからNPOへと、類似するさまざまな活動が前者から後者へと矛盾なく置き換わったわけではない」という一文でした。

 第6章は「なぜ社会に必要か 非営利組織の存在意義」です。
 次の2点に注目しました。
 第1は、NPOについて政治的分野ではどうみるのか?経済的分野ではどう見るのか?という視点が示されているところです。前者は現職政治家の行動で、後者では契約の失敗という用語で説明しています。
第2はNPOの限界が4つ示されているところです。不十分性、偏重性、パターナリズム、アマチュア的という用語をもとに解説しています。

 第7章は「分かちあう組織」を創るです。
 次の2点に注目しました。
 第1はNPOと社会の関係を二つの側面から捉えたところです。
 第2は本書の最後の部分であらためて「わたしの存在」にこだわった記述をしているところです。規範や技術に関して論じるだけでは不十分であるという思いを語っています。

③ どこが役に立つのか?
 家計、政府、企業の隙間をつなぐ知識を整理することができます。
 しかも、仕組みに関する知識を整理するだけでなく、利己的な人、利他的な人、時間軸を意識する人、しない人といったように、人間の行動そのものについて生徒に投げかける問いをつくることができそうな一冊です。

④ 感 想
 提案です。本書を読み終えた後にNPOセンターを訪れてみてはいかがでしょうか。
 各都道府県、市町村には公設公営・公設民営の「市民活動サポートセンター」のようなものが設置されています。生徒の中には、このセンターが提供している情報をもとにボランティア活動に参加している人もいます。
 実際に活動している人々の姿を見ることで本書の記述内容をより一層厚みを持たせて授業に活かすことができるのではないかと感じました。

(神奈川県立三浦初声高等学校   金子 幹夫)

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