① なぜこの本を選んだのか?
 東京大学初の経営学博士が書いた文献ということで、いったいどのようなことが書かれているのだろうか。これが紹介者が本書を手に取った最初の理由です。読み進めていくと、これは授業者として読むこともできるし、職業人として、社会人として読むこともできると感じました。メルマガ読者の皆様が、いろいろな立ち位置から解釈できるのではないかと思い、本書を選びました。

② どのような内容か?
 本書の主張は明快です。
 経営するのは企業だけではないということ。豊かな共同体を創るのが経営の目的であること。すべての人が人生を経営していること。すべての人が経営概念を転換すれば、日本も世界ももう一度豊になれるということです。
 目次構成は次のとおりです。
はじめに:日常は経営でできている
1.貧乏は経営でできている
2.家庭は経営でできている
3.恋愛は経営でできている
4.勉強は経営でできている
5.虚栄は経営でできている
6.心労は経営でできている
7.就活は経営でできている
8.仕事は経営でできている
9.憤怒は経営でできている
10.健康は経営でできている
11.孤独は経営でできている
12.老後は経営でできている
13.芸術は経営でできている
14.科学は経営でできている
15.歴史は経営でできている
おわりに:人生は経営でできている

 「生徒達は本当に授業内容を理解してくれているのかな?」と授業をしていて不安な先生は第4章がおすすめです。経営学者が見た「知識」とはどのような部分で構成されているのかが示されています。はじめに何を教えることが大切なのか。次に教えることは何かが示されています。「生徒の心に知識を伝えるというのはこういうことなのか」というメッセージを受け止めることができます。これも経営学がもつ考え方のようです。

 「生徒が何を考えているのかわからない」と日々の生徒指導で困っている先生は第5章を読んでみてはいかがでしょうか。この章は生徒の心を経営学的に見るとどう解釈することができるのかという角度で読むことができます。経営学の視点から、虚勢を張って他人と比較して優位に立ちたいという人をどう解釈することができるのかが書かれています。

 「職員室で書類整理に追われていて、いったい教師の仕事って何なのか?」との思いを抱いている先生は第8章がおすすめです。経営学者が見た「仕事」とは何かが書かれています。この章では、なぜ人は仕事について愚痴をこぼすのか。仕事を楽しく、やりがいの
あるものに変えるために経営学はどのようなアドバイスを送るのかについて書かれています。後半の、なぜ職階の多い職場の上層部には無能な人が多いのか、という疑問に経営学の視点からスパッと答えているところは痛快でした。
 
 「自分がめざしている教育の理想と周囲がめざしている教育像にずれを感じて悩んでいる」という先生は第14章がおすすめです。本章は「合理を追求するはずの科学は、不合理で非科学的な悲喜劇で満ち溢れている」という一文ではじまっています。科学の進歩が停滞してしまう背景が経営学の視点で描かれています。

 本書を読み終えて、紹介者は「全体と部分」、「目的と手段」という用語が一冊を貫く中心語なのかなと読み取りました。経営学者の書いた本ですが、会社に関する記述はほとんどありません。私たちの生活に関連する話題がほとんどです。
 授業者が明日の授業をどう展開するのか?と困っているとき、その授業を「全体と部分」、「目的と手段」という言葉で捉え直してみてはいかがでしょうか。本書のタイトルを借りるならば「授業は経営でできてる」のかもしれません。

③ どこが役に立つのか?
 紹介者は本書を「こういうことを知りたいから読む」というよりは、「何が書いてあるのだろう?」と無抵抗に読み進めていきました。すると、各章からいろいろな問いが湧き上がってきました。
 「あっ、これは自分の日常生活に関連しているのかな」、「あっ、これは日々の教材研究を妨げている要因なのかな」、「あっ職員室で多忙なのは目的と手段を取り違えているからなのかな」という問いです。
 本書は、教師が日々の実践で可視化できていない問いを浮かび上がらせる力をもった文献だという点で役に立つと受け止めました。

④ 感 想
 本書の一番最後に示された「人間とは、価値創造によって共同体全体の幸せを実現する『経営人』なのである」という文で、経営学に関する見方がガラッと変わりました。高校生に「経済学と経営学は何が違うの?」ときかれたときの回答を考え直さなくてはいけないなと感じています。

(神奈川県立三浦初声高等学校   金子 幹夫)

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