①どんな本か?
環境経済を専門とする若手の経済学者が、持続可能性、環境ガバナンスをキーワードとして、わかりやすく幅広く経済の視点から環境問題をとらえた本です。
➁どんな内容か?
全体は6章に分かれています。
第1章は「人が死ぬ理由は環境破壊?経済の停滞?」のタイトルで、持続可能な発展という概念に関して、その起源、展開の歴史、経済とのかかわりに関して、キーワードと視点を提示しながら説明します。
第2章は「それぞれが頑張れば問題は解決?」のタイトルで、コモンズと環境ガバナンスという言葉を手掛かりに解決の道筋を提起します。
ここまでが総論で、第3章以下は具体的な問題が取り上げられます。
第3章は「日本はリサイクル先進国だから大丈夫?」のタイトルで、ごみ問題とリサイクルの問題、限界が取り上げられます。
第4章は「日本よりもアメリカ・中国が頑張るべき?」のタイトルで、地球温暖化が取り上げられます。
第5章は「人の命と生き物の命、どちらが大切?」のタイトルで、生物多様性と自然共生が取り上げられます。
最終の第6章は「上下水道とダムさえあれば安心?」のタイトルで、水資源問題が取り上げられます。
③どこが役立つか?
地球環境問題を授業で扱う場合のコンパクトな参考書になるでしょう。
地球環境問題は、教科書では経済の部分と現代社会の諸問題の二か所で取り上げられていますが、複数の視点から総合的、学際的に取り上げるのは問題の複雑性からみて必要ですし、著者も強調している態度ですが、教える側としてやはりどこかに一貫した視点を持つこと、もしくは一貫した視点からはどう見えるかを知っておくことは大切でしょう。
その点で、この本の1,2章から、経済の視点で環境問題をどうとらえるかの視点や、冷笑や批判的な意見も多いSDGsを環境ガバナンスの視点からどう扱うかのヒントが得られるでしょう。
具体例に関しては、リサイクル問題、水問題を扱った3章、6章からネタが拾えるでしょう。特に、水問題は教科書ではほとんど扱われていないので、参考になるはずです。5章は扱っているのはひろく生物多様性と共存問題ですが、最近の熊の出没をどうするかなど具体的な問題に関しても参考になるはずです。
④感想
あとがきの、「落語的な環境ガバナンス論を展開してみたい」という部分に注目がゆきました。そのこころは、落語は伝統芸能であり大衆芸能であるということで、具体的には「学術的知見にきちんと根ざした、しかし同時にあらゆる立場の人が手に取って読める」本にしたいということでした。
各章のタイトルを紹介しましたが、そこに現れているようにその意図はかなり成功していると感じました。ただし、落語と違って、これらのテーマそのものは一筋縄ではゆかない問題群ですので、落語のような「落ち」はありませんが、これは仕方ないところでしょう。
「SDGsはアヘンである」といいう斎藤幸平さんの言葉が有名になりましたが、その言葉に対する環境経済学からの見事な応答だと一読して感じました。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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