①どんな本か
ネットワークの評議員をつとめていた山根先生(三重大学名誉教授)が、研究代表をされた科研費の平成14年~16年の『総合的な学習の時間における起業家教育の方策の研究』の研究成果報告書を中心に、起業家教育の理論と実践をまとめた本(kindle版)です。
②どんな内容か
全10章で構成されています。
はじめにでは、イギリスでの起業家教育との出会いから著者の実践がはじまったことが書かれています。
Ⅰ 起業家とは何かと、Ⅱ 起業家教育とは何かでは、起業家教育の理論がまとめられています。
Ⅲ 今の日本に起業家教育が必要な理由
学校教育の目標と、日本社会からの要請の二つの理由がまとめられています。
Ⅳ 私が外国で見た起業家教育の例
著者が調査したフィンランド、イギリス、カナダ、アメリカの起業家教育の紹介です。
Ⅴ 中学校用の起業家教育プログラム「会社をつくろう」
日本の中学校向けの起業家教育のプログラムが紹介されています。この本のメインの部分です。
Ⅵ 「会社をつくろう」の中学校での実践とその評価
Ⅶ その後の「会社をつくろう」の実践
Ⅷ 津市立一身田中学校での「会社をつくろう」の実践
この三章は、著者の開発した起業家教育のプログラムの実践例とその評価です。実践した学校は、大学附属中、公立の中学校、小学校まであります。
Ⅸ 中学校社会科公民的分野の経済学習における起業家教育の導入
Ⅹ 学校における起業家教育を進めるために
起業家教育を教科書で導入した例、学校で導入するための提言がまとめられています。
③どこが役立つか
関心の持ち方で多様に活用できます。
起業家教育の理論を知りたい先生にとっては、最初の3章が役立つでしょう。また、4章からは現地での調査の必要性が重要であることがわかります。また、最後の10章も参考になるでしょう。
実際のプログラムはどのようなものかを知りたい先生にとっては、メインとなるV章「会社をつくろう」が役立ちます。この章と、参考資料でのパーワーポイント資料やワークシートなどを参照することで実践に取り組むことができます。
現実の授業はどうなのか、授業実践に関心のある先生には、6から8章が参考になります。大学附属の中学、地域の公立中学などいろいろな学校での実践が紹介されていますから、所属校と比較しながら「会社をつくろう」の取組みを構想することができるでしょう。
特に8章の一身田中学の実践からは、起業家教育を起爆剤とした学校の立て直しということだけでなく、著者の継続的な関わり方から、山根先生の教育への情熱、使命観が浮かび上がります。
④感想
著者の起業家教育との出会いからはじまり、調査、教材の作成、実践、評価、課題と起業家教育の全体像が達意の文章から浮かび上がる本です。
○○教育というと一時的に関心が高めるけれど、その後は停滞するケースが多いとされています。20年前の研究、実践の記録が、このタイミングで刊行されることで、起業家教育のまかれた種が、どこまでひろがっているのかを確認する意味で、意義のある刊行だと思いました。
ただ、アナログ人間の紹介者にとっては、紙ベースの本でないためになかなかじっくり読むという形にならないところは残念でした。
逆に、本というスタイルに固執しないで、このようなkindle版での出版によってバリアが低くなるという効果もあることが分かり、デジタル時代の知のあり方を考えさせられる契機になりました。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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