①どんな本か
東大法学部が、駒場キャンパスで1,2年生向けに開講した総合講座「現代と法」の2021年度の講義をもとにまとめた現代法学入門の本です。

②どんな内容か
半期2単位の講座なので、はじめにという講座の趣旨と全体像を扱った講義をふくめ全13講の内容です。
講義のタイトルと扱っている内容は以下になります。
第1講 デジタル社会と憲法(憲法)プライバシー、SNS
第2講 同性カップルと婚姻(民法)
第3講 刑法は個人の尊厳を守れるか(刑法)性刑法
第4講 金融サービス仲介業制度導入(商法)
第5講 役員報酬と法(会社法)
第6講 非正規をなくすには(労働法)
第7講 著作権法の過去・現在・未来(知的財産法)
第8講 プラットフォーム全盛時代に適正な競争を確保する(競争法)
第9講 ビッグテックの台頭(競争法)
第10講 GAFAの利益をつかまえる(租税法)グローバルタックス
第11講 国家間のサイバー攻撃をどう規制するの(国際法)
第12講 契約とContract(英米法)パンデミック、オリンピック
第13講 一人一票の原則を疑う(法哲学)

③どこが役立つか
高校の「公共」「政治・経済」を担当している先生向けの本でしょう。特に、法学部出身の以外の先生にとっては、現代の法学が具体的にどんな問題を対象にしているのかがハンディに理解できる本となっています。
法の授業で扱える項目では、第1講のプライバシー事件の現代的な事例、第2講の同性カップル裁判事例、第12講のパンデミックやオリンピックの契約であらわになった欧米との違いなどが直接の事例として役立つでしょう。
経済との関連では、第5講から第10講までの会社、労働、競争、税の部分がそれぞれの箇所の法的側面からの説明に役立ちそうです。第13講は選挙の授業で扱えます。
全体として内容、記述に濃淡があるので、法理論的な箇所は飛ばして、具体的な事例を探しながら読まれると授業のネタがさがせます。

④感想
メルマガ2022年の8月号で紹介した、東大経済学部の総合講座の法学部版です。
二つを読み比べると、経済学部と法学部の体質の違いのようなものが出ていて、興味深く読みました。「書名や装丁を親しいものに」したと書いてありますが、法学部は堅いなあというのが正直な感想。
それでも、「はじめに」で出てくる、「具体例から出発する」「法の多様な側面や多様な担い手に触れる」という学び方は、経済での教え方にも通じる大事な指摘と感じます。
「主権者教育に経済教育の風を」というのがネットワークメンバーによる法教育への問題提起でしたが、今度は「経済教育に法教育の風を」もスローガンになりそうな本です。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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