①どんな本か
 国鉄の車両部門に技術屋として入社し、国鉄解体後はJR九州の社長をつとめた著者が鉄道150年周年を前にして、戦後の国鉄時代とJRの歴史をたどり、これからの鉄道について述べた本です。


②どんな内容か
 全体は国鉄時代の8章と終章のJRの誕生の全9章からなっています。
 第1章は敗戦直後の鉄道の様子から始ります。
 第2章でGHQの方針から日本国有鉄道という公社として始るいきさつと混乱から再生への道が描かれます。
 第3章は、東海道新幹線開通までの上り坂20年の歴史が扱われています。
 第4章から6章は、著者のフィールドの車両のはなし、国鉄労使の話、貨物の話が扱われます。
 第7章で歴史に戻り、衰退の20年のタイトルで赤字と職場の荒廃が描かれます。
 第8章で国鉄の崩壊と分割民営化のプロセスが紹介されます。
 そして、終章でJRの現状と今後の見通し、鉄道の役割が提唱されています。


③どこが役立つか
 一つは、鉄道というインフラを扱う時の知識が得られるところです。鉄道は旅客・貨物を扱うサービス業であると同時に、インフラ整備のための土木業、車両製造の機械工業という製造部門をもつ複合的な組織であることがここでわかります。
 二つ目は、巨大組織の内側の実態が紹介されていることです。これは第5章の労使の部分で具体的に紹介されます。国鉄の管理システムや人事システムは官僚組織そのものであり、その弱点が浮かび上がります。
 三つ目は、戦後の歴史を国鉄の歴史を通して振り返ることができるところです。教科書に登場する国鉄の事件が内側から描かれています。
 四つ目は、JR各社の課題が取り上げられているところです。特に構造的な問題をかかえる北海道についての著者の考えは札幌部会の皆さんに吟味をしてほしいところです。
 最後に、今後の鉄道の生きる道を描いているところです。著者は新幹線貨物が新しい鉄道の突破口になると主張しています。これも検討に値するテーマです。


④感想
 個人的に鉄道とご縁がかなりあります。我が家の一族には鉄道マンが何人かいました。たたきあげで駅長までなった伯父もいました。そんな点で、親近感をもちました。
 いくつかの学校で鉄道研究会の顧問をやり、生徒と一緒に鉄道の旅をしたのもいい思い出です。国鉄に就職したかったけれど募集がなく、旅行会社につとめ、その後念願のJRにトラバーユした卒業生もいました。
 3月の日経新聞の「私の履歴書」は、この本の著者の石井さんの後任としてJR九州の社長をつとめた唐池恒二氏が書いています。本書と一緒に読むと立体的に鉄道会社の特質と今JRが何に取り組んでいるかがわかります。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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