①どんな本か
 目下話題のメタバースに関して、AIやベーシックインカムに関して論陣をはってきた若手の経済学者がこれからの社会の変容とからめて、今後を予想する本です。
 最新というよりも最先端の社会の動向を知り、その経済的な影響を知りたい先生のための手頃な本です。

②本の内容は
 全体は7章に分かれています。
 1章は、「メタバースとは何か?」で、メタバースに関する最近の動向と具体例が紹介されます。
 2章は、「この世界はスマート社会とメタバース社会に分岐する」で、AIによってコントロールされる社会とバーチャルリアリティによる社会が同時進行で発展するという予測が書かれています。
 3章から5章までは、「純粋デジタル経済圏の誕生」(3章)でメタバース経済の特色を、「メタバースとお金の未来」(4章)をメタバース社会でのお金の変化、「資本主義はどう変わるか」(5章)で、資本主義という仕組みがどう変わるかなど、経済に関する論議が紹介されます。
 6章は、「人類が身体を捨て去る日」で、再び文明論的な未来予測が語られます。
 最後の7章で、「日本をメタバース先進国にするにはどうしたらよいか?」を論じ、ベースはあるのでアニマルスピリッツと資金の投入で米中などメタバース研究の先進地域に追いつくことが求められると結論づけます。
 
③どこが役立つか
 「ねむ」、「ホライズン・ワールド」、「ソードアウトオンライン」、「フォートナイト」などの言葉に何だろうと興味を持った先生は本書を手に取ってみるとよいでしょう。今の生徒たちがどんな世界にすんでいるかがわかると思います。
 デジタル社会になってどう経済が変化するかという問題に関心のある先生には、3章から5章の経済学を使った説明がある程度の見通しを与えてくれるでしょう。この種の未来予測はきちんとした理論を背景にしていないケースが多いのですが、この本では経済学の基本を押さえた説明がしてあり、それがどこまで正しいかは吟味の余地ありとしても、類書にはない特色といえるでしょう。
 また、今先端部分で注目を浴びている現象は急速に関心を浴び、急落し、そこで生き延びるとそれからは当たり前のものになるという「ハイプ・サイクル」の指摘は、これからの社会変化を考える上でヒントになる指摘でしょう。
 そこから、メタバースの未来を生徒に予測させてもよいかもしれません。

④感想
 正直、あたまがクラクラしました。
 それでもこの本を紹介しようと思ったのは、紹介者の孫の生活ぶりをみているからかもしれません。「フォートナイト」というのはバトルゲームですが、小3の孫は夢中です。彼の世代の将来を予測するとき、古典的な教育論だけでは太刀打ちできないだろうと、少々暗澹たる気持ちになることもあります。
 進化するものに対してどこまで抵抗できるかという問題意識もあります。
 それにしても、映画『マトリックス』のような世界が現実化する、それの勝者を目指していかないと日本経済の将来がないというご宣託は、個人としては勘弁です。
 本書のp.241に紹介されている脳と機械を通信させる研究のためのヘッドキャップの写真は、オウム真理教のヘッドギアにそっくりで、恐怖感を持ちました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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