①どんな本か
・元日銀マン、現在東大教授の著者によるマクロ経済学、特にそのなかの物価の話から現在の研究や政策のあり方を説いた本です。
・先月紹介した、翁邦雄『人の心に働きかける経済政策』と重なるところが多い、経済政策、金融政策の話です。

②どんな内容か
・全5章で構成されています。
 第1章 「物価から何がわかるのか」
 ここでは物価とは何かからはじまり、物価の作られ方(ラスパイレス指数など)、物価の使われ方が説明されます。
 第2章 「何が物価を動かすのか」
 インフレ、デフレ、ハイパーインフレの話から見える物価の本質、なぜハイパーインフレになるのかが説明されます。
 第3章 「物価は抑制できるのか」
 物価をコントロールするための理論、中央銀行の政策、特に将来予想の操作ができるか、予想は測ることができるかが説明されます。
 第4章 「なぜデフレから抜け出せないのか」
 日本ではなぜ物価が動かないのかその謎にせまります。理論と実際の違いをどう考えてゆくか。エコノミストの研究中の様子がリアルに書かれています。
 第5章 「物価理論はどうなってゆくか」
 まとめの章です。

③どこが役立つか
・今、研究者が何を問題にして、それをどのように理論と実証から説明するのか、説明できないとすると何が問題か、それをどう突破しようとしているのか、その取組みを生々しく、正直に書いている本です。
・その意味では、すぐに役立つ本というより、マクロ経済学の研究の現状、その最先端を知るという意味で手に取って見る価値がある本です。
・教科書に登場している物価、インフレ、デフレなどの用語の背景や広がり、また、価格硬直性などの用語の持つ意味がこの本でわかります。授業では、当たり前のようにさらっと伝えている用語も、深い意味を知った上で扱う必要ありと思わせる内容です。
・それでも物価を調べるのは具体的な商品からで、商品名が登場する経済学の本と言う意味では生徒の生活体験ともつながる話も多く、授業での事例の紹介などで参考になるでしょう。

④感想
・裏カバーの本の紹介のところで「具体例から説き、直感的な理解へ誘う」とあり、これって授業づくりのポイントになるのではと思いました。とくに、前書きの「はじめに」と、後書きの「おわりに」の部分だけでも読む価値ありかと思いました。
・著者が高校生むけの授業で、「モノの値段が需要曲線と供給曲線の交点で決まるという考え方と、景気が悪くなると失業者が増えるので金融政策や財政政策により有効需要を増やす必要があるという考え方は、矛盾しているのではないか」という質問を受けたエピソードが書かれています(p213)。
それに対する答え、「この質問に正面から答えられる教師は、この世の中にはいない」というものです。とても正直な回答だと思いました。もちろん、紹介者もわかりません。
・先月号の翁さんも書いていましたが、渡辺さんも、前世紀にアメリカで経済学の教育を受けた著者も理論では説明しきれない現実をみて、「転向」せざるをえなくなったと書いています。経済学研究もパラダイムシフトが始まっていることが感じられる表現でした。
・高校までの授業もパラダイムシフトが必要(やろうと思って出来るものではないのですが)な時代になっているのではと思ってしまいました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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