ワークショップ「大阪」

 
■日時 2008年1月 13日(日) 10:00-16:30
■場所 大阪教育大学(天王寺キャンパス)


近畿地方の教員、大学関係者、教育委員会関係者など39名の参加を得て、活発な議論が展開されました。


【プログラム】


10:00~10:15 開会挨拶     (経済教育ネットワーク理事長 篠原総一)
          趣旨と日程説明 (弘前大学教育学部 猪瀬武則)

Ⅰ.経済教育:先生方に知っておいていただきたい経済学の考え方
(司会 日本大学経済学部 加藤一誠) 

10:15~11:00 問題提起 (同志社大学経済学部 篠原総一)
11:00~11:15 コメント (大阪府教育センター 森哲二)
11:15~12:00 討論

昼食休憩  12:00~13:00

Ⅱ.モデル授業:シミュレーション教材  
(司会 同志社香里中高等学校 藤井宏樹)

13:00~13:50 みんなが共通の利益を受けられるために:マンションの耐震改修を通して、政府の経済活動を考える (日本大学経済学部 中川雅之)
13:50~14:05 コメント (東大阪市教育センター 河原和之)
14:05~14:35 質疑
14:35~14:50 休憩

Ⅲ.経済教育の進め方  
(司会 池田市立細河中学校 丹松美代志)

14:50~15:20 問題提起 (弘前大学教育学部 猪瀬武則)
15:20~15:30 コメント (大阪狭山市立第三中学校 奥田修一郎)
15:30~15:55 質疑
15:55~16:00 閉会挨拶 (同志社大学経済学部 西村理)



【ワークショップの要約】

I. 経済教育:先生方に知っておいていただきたい経済学の考え方

午前のセッションでは、篠原総一氏(同志社大学)が中学生や高校生に「経済」を教えるとき、経済学の知識を念頭に置いて授業することの効果について話された。 たとえば、「市場」の働きを教えるとき、単に需要・供給曲線を使って超過需要(供給)があれば市場価格は上がる(下がる)だけを説明しても、市場の役割について 本当の意味を教えたことにはならない。むしろ、希少な資源を効率的に配分する機能を市場が備えている考え方を意識して、超過需要や超過供給が生じたときの市場調整を 説明するよう心掛けることが重要である。そのような考え方を前提にして、市場が機能するためには様々な条件が求められる。その一つが所有権であったり、あるいは情報の 問題であったりする。そこから、政府の経済活動についての意義が理解できるのであり、納税の必然性も明らかになってくる。

コメンテーターの森哲仁氏(大阪府教育センター)は、法教育、政治教育、経済教育をばらばらに教えるのではなく、相互関連していることを意識しながら教えることの 大切さを強調された。その後に続いて、労働の意義について、規制緩和の果たす役割について、生活実感の乏しい生徒に教える工夫について等々の討論が活発に行なわれた。

    


II. モデル授業:シミュレーション教材

午後の最初のセッションでは、中川雅之氏(日本大学)の説明にしたがって、「みんなが共通の利益を受けられるために:マンションの耐震改修」の教材を使った 模擬ゲームが行なわれた。この模擬ゲームは囚人のジレンマにはまり込むように作成されている。すなわち、個人の利益のみを追求すると耐震改修費を支払わない フリー・ライダーになることが合理的な選択になる。しかし、全員が改修費を支払う場合にはさらに利益が増えることが、資産価値の計算を通して明らかになるように 作成されている。この結果から、政府が公共財を提供する意義を生徒たちに考えさせようとする意図がある。

コメンテーターの河原和之氏(東大阪市教育センター)によると、模擬ゲームの結論は生徒たちに納得させるものになっている。特に、地震の可能性は切実さがあり、 身近な問題として興味をひかせる内容である。ただ、社会的価値を数値化して示そうとしてあるが、果たして生徒たちが理解できるかどうか不明である。さらに、 耐震改修工事に関連して、グループ内で白熱した議論に結びつくかどうか疑問であるという指摘もなされた。また、政府の役割は公共財や公共サービスの提供だけでなく、 非社会的な商品取引の禁止や排出ガスなどの規制も重要である。このようなテーマを扱ったゲームの作成についても必要であるといった意見も出された。

    


III. 経済教育の進め方

最後のセッションでは、猪瀬武則氏(弘前大学)が「経済教育はなぜ嫌われるか」をテーマに話された。経済教育の嫌われる要点は、合理的な経済人仮説に見られる 人間観の可否と、経済学が利己主義・功利主義を奨めているのではないかとする警戒心にあると指摘された。そこで、経済教育と倫理の位置づけを明らかにするために、 参加者を10グループに分けて「無知のヴェールゲーム」を行なった。具体的には、政府歳入の増加手段、失業解消の方法、移民労働者の対策、健康保険のタイプなどに ついての政策を問うゲームが2回行なわれた。1回目は所得レベルや明確な役割を与えられた状況で、2回目は無知のヴェールの状態で進められた。このゲームの狙いは、 公平に関して全員が合意できない理由を説明することや、無知のヴェールの下と自己利益追求の下での経済行動を比較できることなどが上げられる。

奥田修一郎氏(大阪狭山市立第三中学校)は、「アリとキリギリスの年金入門」を使った実践教育の経験を引き合いにだしながら、価値観の違いを気づかせる授業を進める ときの有効なゲームの一つになるとコメントされた。このようなゲームからの教訓として各個人の立場と経済的な知識を関連させることの重要性にある、と指摘される参加者の 意見もあった。


(文責:西村 理)

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