先生のための「夏休み経済教室:大阪」



■日時:2009年8月10日(月)~11日(火)
■場所:エルおおさか6階大会議室


1 2009年度「先生のための夏休み経済教室」in大阪、が8月10日(月)、11日(火)の二日に渡り、大阪市のエルおおさか6階大会議室にて開催された。 参加者は一日目64名、二日目80名であった。

2 大阪での開催は昨年についで二回目であり、昨年の反省を踏まえ、今年は一日目を中学校の先生対象、二日目を高校の先生対象というかたちでターゲットと 内容を分割して実施した。

3 一日目の10日の最初の講義は、篠原代表の「中学教科書を読み解く」のタイトルで教科書を使いながら、中学校で経済分野を教えるための基本的な考え方を 鄭重に説いた。

4 昼休をはさんでの午後は、弘前大学の猪瀬武則先生から、「経済学を中学の教室でどう生かすか」のタイトルでの講義がなされた。
 講義では、新学習指導要領に入れられた「効率と公平」に関する考え方と、それをいかに生徒に納得させるかの実例として、ワークショップ型授業 「無知のヴェール」ロールプレイが紹介された。
 「効率と公平」に関しては、北海道大学の橋本努氏が開発された「あなたは何主義」テストを利用されて、経済的自由と反自由度のテストを通して、 どの位置から問題を捉えるのか、その価値観を自覚して授業を進めることの重要性を協調された。また、後半のワークショップ型授業の実例では、 “Teaching Ethical Foundation of Economics”をベースにして改良された、経済政策の選好度のロールプレイが、先生方の参加を得て実施された。

5 午後の最後は、ディスカッション「中学における経済の授業の進め方」が、猪瀬先生の司会、大阪狭山市立南中学校の奥田修一郎先生、篠原代表の参加で おこなわれた。
 ディスカッションの冒頭に、奥田先生から、授業で大切にしていること、経済教育とは何か、モノ教材の有効性、最初の5分間の勝負に勝つためのネタ、 シミュレーションやゲームを導入した実例、なぜを考えさせる授業を目指すためにという5つの項目での先生の考えや実践例が報告された。それを受けて、 篠原代表からコメントと午前中の講義の補足があり、討論となった。討論では、新学習指導要領で強調されている、習得、活用、探求の関係や、 経済の定義をどう考えるか、インフレやスタグフレーションの説明のしかた、実際の授業の進め方やプリントつくり、ネタの仕入れ方などへの質問や討論が 熱心におこなわれた。

6 二日目は高校の先生方を主な対象としたプログラムが実施された。午前中の講義では、同志社大学の野間敏克先生から「高校教科書で教える国際経済」の テーマでの講義がおこなわれた。
 講義の最初に、野間先生は、経済を見る基本的な考え方を、合理的な考え方を基準に、市場は大事であるが、市場には限界もあり、政府にも限界があることを 認識した上で、どのような仕組みを作れば国民が幸せに暮らせるようになるかを考えること、とまとめた上で話を進められた。
 国際経済を考えるポイントの一つは、経済の循環図の正確な理解であり、それに基づいた国内経済と外国との経済的な取引を、モノ、カネ、ヒトにわけて 考察すると全体像が捕まえやすくなると指摘された。その上で、国際分業の進展と変化で、比較生産費説を紹介、さらに、日本の比較優位の変遷から、 製品貿易は生産要素貿易であることを理解させることが対外関係を考えるポイントになると指摘された。次の、カネのグローバル化では国際決算システムや 国際金融市場の動向に触れつつ、国際収支表の理解を経済の循環図にあわせて理解させると良いとされた。ヒトと企業に関しては外国人労働者問題、 企業の海外進出なども関連していることが紹介された。
これらの国際取引に影響を与えるのが為替レートであり、その決定要因ではモノとカネの取引があること、現在ではカネの要因が大きくなっていることが 指摘された。最後に国際機関と日本経済の関係、経済のグローバル化と国際機関の関係に言及されたが、この部分は、国際経済の理解の流れの中では唐突であり、 もっと整理する必要があるとの指摘がされた。また、効率公平概念は、南北問題やFTAの評価などとも関連していること、したがって、世界経済への関心を高め、 世界の一員であることを自覚することが必要であることを強調された。

7 昼休を挟んで、午後の講義の最初は、大阪大学社会経済研究所の大竹文雄先生の「高校の教室で労働をどう教えるか」であった。
 大竹先生は、高校の教科書の労働部分が、主に法律の議論ばかりであり、経済の視点から労働問題を捉えた記述がほとんどないことが問題であるとして、 具体的事例として、最低賃金制度を取り上げ、それをきちんと理解するためにはどのような基本的な考え方が必要かを説明された。最低賃金制度を経済学で 考える前提は、需要曲線と供給曲線の考え方をマスターすることであり、その理解のなかで生徒が疑問に思うケースへ回答しつつ、練習問題などを入れながら 解説を進められた。
次に、独占の問題と労働市場での買い手独占の問題に触れ、最低賃金の引き上げ効果が発揮できる時(労働市場が競争的でないとき)、そうでない時 (労働市場が競争的であるとき)を区別して、教科書の労働基準法は競争が十分でない状況を想定した法律であることに留意して扱うとよいと指摘して、 最低賃金の引き上げの効果を考える場合のポイントをまとめられた。
 最後に、授業で使えるネタとして、大学にゆくことは得かという問題を話された。

8 最後の講義は、東京証券取引所の赤峰信先生による「高校の授業で教える金融・証券の仕組み」であった。
 赤峰先生は、冒頭、証券取引所でかつて行われていた手サインを紹介、会場の先生方も実際にやってもらうなど、頭をリラックスさせた上で、高校の 教科書にある、株式会社や証券に関する記述を取り上げられて、その不十分さや誤りを指摘しながら、株式会社の仕組み、直接金融・間接金融の理解、 経済の循環と企業の資金調達法の変遷などを詳しく説明された。特に、近年の資金調達の方法について、企業のバランスシートを踏まえて、資産を使っての 資金調達という従来の方法とは全く異なるコペルニクス的展開とも言える方法が開発されたことを紹介、これがサブプライム問題を大きくしていった背景でも あることを指摘された。
 さらに、株式の持ち合いも変化し、企業会計のグローバル化によって、企業経営の方向が大きく変化していること、企業はステークホルダーとしての株主への 配慮を非常に重視するようになっている、せざるを得なくなっていることなど新動向を解説された。最後にリスクとリターンの正しい考え方を紹介しつつ、 日米の金融・証券教育の違いを紹介、日本における今後の金融教育の改善を提言されて講義を終了した。

9 二日間にわたった、大阪での「経済教室」では、授業の実際、教材の紹介、経済学から見た教室での経済教育の問題や期待、金融・証券に関する新動向の 指摘など、密度の濃い講義や討議がおこなわれ、参加の先生方に強い印象を与えた。今後この主のセミナー・ワークショップをおこなう場合には、望むらくは、 中学2日間、高校2日間と対象をわけ、様々な事例や参加者の情報交換などを含めてゆっくり展開できると良いと思われた。

(文責:新井明)




▲ページトップに戻る