2008年度年次大会
■日時:2008年9月6日(土)13:00-17:25
■場所:同志社大学寧静館会議室
京都・同志社大学で、経済教育ネットワークの「2008年度年次大会」が開催された。当日、およそ70名の参加者の下で、「経済教育をどのように進めるべきか」 について、教育現場をあずかる全国の教員と、教育研究者、経済学研究者が共同でこれからの教育のあり方についての講演やシンポジウムが行なわれた。
【プログラム】
総合司会 新井 明(東京都立西高等学校)
13:00-13:05
開会挨拶: 篠原総一(経済教育ネットワーク)
13:05-14:05
基調講演 「”新“学習指導要領の考え方」
講演 大倉泰裕(国立教育政策研究所教育課程研究センター)
14:20-15:35
シンポジウム「教科書」
司会 山根栄次(三重大学教育学部)
パネリスト
猪瀬武則(弘前大学教育学部)
中沖 栄(清水書院編集部)
高橋勝也(東京都立桜修館中等教育学校)
伊東 健(八戸市立小中野中学校)
15:50-17:05
シンポジウム「学校における経済教育をどう支援するか」
司会 栗原 久(信州大学教育学部)
パネリスト
中川壮一(消費者教育支援センター)
原田紀久子(特定非営利活動法人アントレプレナーシップ開発センター)
永安洋二郎(京都銀行広報部)
17:05-17:20
総括: 大竹文雄(大阪大学社会経済研究所)
17:20-17:25
閉会挨拶: 猪瀬武則(弘前大学教育学部)
【内容の要約】
基調講演:「”新”学習指導要領の考え方」
大倉泰裕氏(国立教育政策研究所・教育課程研究センター):
まず経済教育ネットワーク代表の篠原総一氏(同志社大学教授)から開会の挨拶があった後、国立教育政策研究所・教育課程研究センターの大倉泰裕氏 (文部科学省初等中等教育局教育課程課・教科調査官)より「”新”学習指導要領の考え方」というテーマで基調講演があった。最初に、言葉の定義に ついての重要性が指摘された。というのも、学習指導要領で意図することが曲解されたり誤解されたりして、教育現場に充分伝わっていないケースが 見受けられるからである。
続いて、最近改訂された中学校向けの学習指導要綱の基本的な考え方と特に社会科の改訂の要点についての解説があった。基本的な考え方としては、 知識の習得は大切だが、習得のみで終わるのではなく、生きる力を育てるための考え方を学ばせる重要性が強調された。経済に関する点では、公民分野で 現代社会をとらえる見方の基礎として「対立」と「合意」、「効率」と「公正」などを取り上げること。また社会の変化に対応した金融の仕組みや働きに 関して、例えば直接金融や間接金融といった概念をカバーすること。さらに市場の役割や財政の役割などについて生徒に考えさせることも重要であることが 指摘された。
シンポジウム1:「教科書について」
コーディネーター:山根栄次三重大学教授:
パネリスト(敬称略):猪瀬武則(弘前大学)、中沖栄(清水書院)、高橋勝也(都立桜修館中等教育学校)、伊藤健(八戸市立小中野中)
シンポジウム1では、中学校の「公民」および高校の「現代社会」、「政治経済」の教科書にどのような問題があるのか、また望ましい教科書は どのようなものかについて、教科書執筆者、編集者、授業で使う教員の立場から自由な討論がなされた。
特に印象深かった発言としては、(1)一番広く使われている教科書は一応何でも書いてあるもので、特色はないが、誰でも使える便利さがあること、 (2)他方、生徒に興味を持たせるようにストーリー性をもって書かれている教科書は、かえって使い勝手が悪く、また教師自体の役割を奪っている面も あること、(3)しかし、何でも書いてある教科書はつまらないので、生徒が興味を持つように授業をやろうとすると、教科書から離れてしまう傾向もある。 結論としては、どの教科書も一長一短あるので、それぞれの特徴をもっと分かりやすく普段から教師や学校にアピールすることが必要である。
討論を通じて指摘された点は、教科書の執筆者、出版社、現場の教員の間の意思疎通が欠けていることであり、そのため、相互理解する討論の場が 必要である。その意味でも、このようなシンポジウムは非常に意義のある開催であると評価できる。
シンポジウム2:「学校における経済教育をどう支援するか」
コーディネーター:栗原久信州大学教授:
パネリスト(敬称略):中川壮一(消費者教育支援センター)、原田紀久子(アントレプレナーシップ開発センター) 、永安洋二郎(京都銀行)
シンポジウム2では、学校の経済教育を支援する団体のメンバーから、支援や活動の内容について、および運営上の問題点についての説明があった。 その上で今後の課題について討論がなされた。
このシンポに参加した三つの団体とも長年それぞれの分野で地道に学校教育や生徒を支援してきたが、特に比較的小規模の財団法人の活動については、 もっと教育支援のために人材や資源が必要であるが、今日の経済情勢ではそれが難しいことが問題であり、また銀行も含めた三団体に共通する課題としては、 支援の対象となる人たち、生徒たちと継続的な関係を保ち、お互いにプラスになるフィードバックを作って今後とも発展させていくことが重要という 指摘があった。また、それぞれの支援や活動から、副次的な効果や要望も現われてきた。たとえば、生徒には学習意欲の高まりや将来の進路選択の幅を 広げる効果。地域への関心を喚起させる効果。接客業の特徴を活かして、マナーについての講習の要望。等々が上げられた。
まとめの総括として、大竹文雄氏(大阪大学教授)が、これまでの議論の要点を踏まえて、日本の教科書の特徴的な問題点を指摘。特に、市場経済の 望ましい役割についてはあまり説明せずに、望ましくない問題ばかりに焦点を当てる傾向があること。さらに政府に対する信頼も薄く、問題点の指摘ばかりが 目立つことなど。いずれにしても教科書および参考書などの内容の見直しが必要で、それらが明らかになったという点だけでもこの大会は有意義であったと 結論付けた。
最後に猪瀬武則氏(弘前大学教授)による閉会挨拶があり、年次大会は閉幕となったが、参加者の間での議論はその後の懇親会で続けられた。
なお、年次大会での写真については以下のブログを参照:
http://miyao-blog.blog.so-net.ne.jp/archive/20080907
(文責:宮尾尊弘、西村理)