先生のための「夏休み経済教室:東京」



■日時:2008年8月11日(月)、12日(火) 10時20分~16時40分
■場所:東京証券取引所 2階 東証ホール



経済教育ネットワークは、東京証券取引所グループと協力して、大阪(8月4-5日)に引き続き、8月11-12日の2日にわたり東京の東証ホールで、 中高校教員のための経済教室を開催した。両日とも100名前後の参加者があり盛況であった。



【プログラム】

■1日目:8月11日(月)

10:20~12:00  講義・質疑「日本経済の諸問題」
西村周三(京都大学経済学部教授)

13:00~14:40  講義・質疑「財政と公共経済」
中川雅之(日本大学経済学部教授)

15:00~16:40  経済シミュレーションゲームの実践


■2日目:8月12日(火)

10:20~12:00  講義・質疑「マクロ経済と国際経済」
篠原総一(同志社大学経済学部教授)

13:00~14:40  講義・質疑「基本問題とミクロ経済」
倉澤資成(横浜国立大学経済学部教授)

15:00~16:40  シンポジウム「経済学をいかに授業に取り入れるか」
モデレータ・新井明(東京都立西高等学校)
赤峰 信 (東京証券取引所グループ)
篠原総一(同志社大学経済学部教授)
倉澤資成(横浜国立大学経済学部教授)



【内容の要約】

まず1日目(8/11)の冒頭で、東証グループの代表と総合司会の新井明氏(都立西高)が開会の挨拶を行った。
セッション1(10:30-12:30)では、西村周三氏(京都大)が「医療・年金と経済」について講演し、そこで医療費の分配面で、支払額の大半が医者や 看護師やその他医療部門のスタッフの人件費として支払われることを説明。したがって、医療費の過度の抑制は、医療に携わる人の数と質にマイナスの 影響を及ぼすことを指摘した。また年金については、賦課方式と積立方式のどちらがいいかは、人口減少率や経済成長率など多くの要因に依存すると述べて、 そのように経済学では明確な答えが見出せない場合が多々あることを強調した。

次にセッション2(13:20-15:20)では、中川雅之氏(日大)が「政治・経済における財政問題」について講義し、まず「プライマリー・バランス」の概念を 説明して、長期的に政府の財政に対する信頼を維持するためにプライマリー・バランスを回復することが重要と述べた。さらに政府支出の乗数効果を取り上げ、 その乗数の大きさは消費者が近視眼的かそれとも将来の増税を予測しているかどうかに依存することを指摘した。

それに続くセッション3(15:30-17:00)では、東京証券取引所グループが「日本経済シミュレーションゲーム」を、すべての参加者を巻き込んで実施した。 ゲームそのものは、中学3年生から高校生を対象に開発されたもので、経済の資金循環や政府の財政などを理解させることが目的。
最後に、篠原総一氏(同志社大)が、経済教育ネットワーク代表として閉会前の挨拶を行った。

2日目(8/12)には、まず総合司会の新井明氏(都立西高)が、簡単な開会の挨拶の後に、参加者全員にペアーを組ませて「最後通牒ゲーム」を実施した。 これはクラスでもすぐ準備なしにできるゲームとして紹介された。
セッション1(10:30-12:10)では、篠原総一氏(同志社大)が「国際経済」に関するプレゼンを行い、特にリカードの「比較生産費説」を中学生でさえも 理解できるほど簡単にした説明を試みた。そこで重要なのは、「絶対優位」ではなく「比較優位」という概念で、それが貿易のパターンを決めること、 また日本が軽工業から自動車やハイテク産業に転換したように「比較優位」は時間とともに変化することに注意する必要があると篠原氏は指摘。

続いてセッション2(13:20-15:10)では、倉澤資成氏(横浜国大)が「基本問題とミクロ経済」について講演し、合理的行動、選択と(機会)費用、 時間の効率的配分、需要と供給といった基本的概念を取り上げた。これらの鍵となる概念を学びさえすれば経済学に対する理解が飛躍的に高まると 倉澤氏は強調した。

シンポジウム(15:30-17:00)では4人のパネリスト(新井氏、赤峰氏、篠原氏、倉澤氏)が「経済を教えるのに経済学をどう役立てるか」について議論した。 まずそれぞれのパネリストが以下のような考え方を提示:(1)経済のシステムや組織や政策についてその名前や出来事を単に記憶することよりも、それらの 基本的な役割やメカニズムを理解することに重点を置くべき、(2)生徒に経済的な考え方を身に付けさせて、社会経済問題について自ら考えさせるように すべき、(3)市場のメカニズムを、自分たちの生活に影響するものとして理解を深め、現実的には市場の失敗とともに政府の失敗があることを学ぶべき。 その後、パネリストは参加者からの質問を取り上げたが、モラルと経済学の問題、市場での勝ち組と負け組、グローバル化の長所と短所など様々な問題が 投げかけられた。

最後に、篠原氏が経済教育ネットワーク代表として、この2日間のセミナーを振り返って、この活動は今後も続けていくつもりであること、また次回は カバーするテーマの順番や内容を改善し(「金融」を加えるなど)、また中学の先生と高校の先生の異なったニーズにそれぞれ対応するように工夫したいと 述べてシンポジウムを締めくくった。

なお、以上の報告に関連する写真および英語版については、以下のブログの記事を参照:
(1日目) http://miyao-blog.blog.so-net.ne.jp/archive/20080811
(2日目) http://miyao-blog.blog.so-net.ne.jp/archive/20080813


(文責:宮尾尊弘)


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