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春になりました。弥生三月です。
三月は別れの季節です。昨今は温暖化の影響もあり、卒業式に桜が咲いてしまうこともありますが、今年はどうでしょうか。今年卒業する中高の三年生はずっとマスク生活をしてきたので、卒業式に自己判断でといわれても戸惑う生徒もでてくるかもしれません。生徒だけでなく、教員側もそれは同じでしょう。
授業では、この一年、生徒に何を伝えたかったのか、それがどのように伝わったのかを振り返る月でもあります。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 23年2月に開催された定例部会の報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…<鉄板>教材を持とう
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる本を二冊紹介します。
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【 1 】最新活動報告
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■東京部会を開催しました。
日時:2023年2月2日(木) 19時00分~21時15分
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス校舎+オンライン(Zoom形式)
内容の概略:参加24名(会場7名+オンライン17名)
(1)杉田孝之先生(千葉県立津田沼高等学校)から「冬の経済教室」の総括報告がありました。
 当日の出席者によるアンケートをもとに、中島講演の評価、パネルディスカッションの評価などが報告されました。
 中島講演に対する評価は、全体に好評・高評価で、新鮮、わかりやすい、刺激になったなどが多く寄せられたが、批判的なコメントも少数だがあったこと。
 パネルディスカッションでは、授業プランを示したことが評価されているとのことでした。
 企画全体としては、難しいテーマであったが高い評価をえたことが紹介されました。
 杉田先生からは、経済の授業で福祉や障がい者問題をどう扱ってゆくか今後さらに追究したいこと、事前のミーティングを繰り返したことで報告内容の質的向上ができたこと、批判的な意見との対話や棲み分けが求められるとの総括が述べられました。
 検討では、当日参加された先生方から社会福祉の授業作りに関する多くの意見がだされ、最後に、進行役の金子先生(神奈川県立三浦初声高等学校)から、今後のこの種の教室では、一つの本を共通の土台としてそれをもとにした授業提案と検討でプログラムを作ることができるのではという提言がありました。

(2)小谷勇人先生(春日部市立武里中学校)から「「受益と負担」を現代社会の見方・考え方として取り扱う財政と社会保障の授業実践」の報告がありました。
 単元「日本の財政と社会保障」の全4時のうちの、「少子高齢化は日本の財政にどのような影響を及ぼしているか」の時間の実践の紹介です。
 導入で、東京都の子どもへの月額5000円の給付の意見表明をさせ、それを踏まえて、所得制限なしでおこなわれた10万円の特別給付金の年収別の使い道のデータを示して受益と負担の概念について説明します。
 展開1で、内閣府がまとめた「世帯類型別の受益と負担」から8世帯を抜粋したものをグループ別に考察を行って、特徴を分析させます。
 展開2で、日本は今後、大きな政府を目指すべきか、小さな政府を目指すべきかを考えさせます。その際に、世代間格差のグラフや海外との比較のデータをもとに今後のあり方を考えさせるという授業構成です。
 最後に、導入で問うた5000円給付を再度問い、その変化から生徒の認識の深まりを見るという流れで構成された授業です。
 小谷先生からは、公正、希少性などの考え方をもとに理解が深まった事例が紹介されるとともに、家族や友人とで経済について話題にするようになったとアンケートに答えた生徒が7割いたという紹介もされました。
 検討では、授業で使ったデータや図表に関する適時性や選択の基準に関する質問や、生徒に揺さぶりの問いをなげて考えさせる構成が面白く、さらに揺さぶりの項目を増やしてもよいのではとの提言が出されました。

(3)杉浦光紀先生(都立井草高等学校)から「厚生労働省教材<人生100年時代の社会保障>を考える」というタイトルでの授業実践二種が報告されました。
 杉浦先生も関わった厚生労働省の社会保障教育推進事業の教材をそのままの形で実施した実践と、それを「倫理」の授業とリンクさせた授業の二つの授業実践の報告です。
 厚生労働省作成の教材をそのままで実施した第1の実践は、厚生労働省のパンフレットにもとづいて作成されたワークシートを使った実践です。
 杉浦先生からは、ワークに対する生徒のアンケート分析から教材としての一定の有効性は確認されたが、さらに主権者教育として接続させてゆく必要性や社会保険の意義や問題をもっと経済的にみてもよいのではないか、生徒がもってしまう制度への不信に応える授業をすすめる課題があるなどが報告されました。
 後半に紹介された第2の実践は、第1の授業で使ったワークシートで生徒の評価が高かったワークやクイズを基に、新たなワークを追加して再構成した「倫理」での授業実践の報告です。
 追加したワークは、功利性原理など価値に関する四つの原理と、普遍主義など三つの社会保障のモデルを生徒にそれぞれ選ばせ、その組み合わせの社会保障のパターンからこれからの社会保障のあり方を提案させるという内容です。
 生徒が選んだそれぞれのパターンと提言の分析からは、財政へ注目する生徒が増えたこと、価値とクロスさせることで制度設計の見直しが必要になるとの気づきを示す生徒が出るなどの分析が報告されました。
 検討では、第1の実践の教材は厚生労働省の価値観の押しつけになっているのではとの指摘があり、政府の役割に関しては公共経済学や効率と公正の観点を踏まえたもっと基本的な取り組みが必要ではというコメントが寄せられました。
杉浦先生からは、この実践は教材の有効性を確認することがベースであること、今後、「公共」の授業のなかで、生徒の素朴な疑問を生かしてゆける授業づくりをしてゆきたいとの回答がありました。
 部会内容の詳細は以下をご覧ください。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2023/02/tokyo132reportZoomHybrid.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■東京部会・大阪部会の合同部会を開催します。
 日時:2023年3月18日(土)15:00~17:00
 場所:オンライン会議とします。
 主な内容:共通テストの分析、教材の検討など
 申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2023/02/tokyo133Osaka83flyerZoom.pdf

■拡大札幌部会を開催します。
 日時:2023年5月20日(土)14:00~17:00
 場所:キャリアバンクセミナールーム+Zoom を活用したハイブリッド形式
 テーマ:経済学習における政府の教え方
 今回の札幌部会では、政府の経済的役割にかんして、これまでの政治と経済で分断されている内容を一体のものとしてどう教えることができるか、中高の具体例とそれをもとにした討論で進行します。
 募集の詳細が決まり次第HPにアップいたします。
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【 3 】授業のヒント 
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           <鉄板>教材を持とう
                                   新井 明
 学年末でもあり、これまでの授業を振り返る時期、自分がやってきた授業で「これは使える」と思う教材を棚卸してみました。何度も紹介した内容ですが、先生方の授業作りのヒントになれば幸いです。
 <鉄板>教材とは、いつでも・だれでも使えて授業効果が上がる、共有財化している教材を言います。本来は「鉄板ネタ」として必ず受けるネタとしてつかわれている言い回しの転用です。
<鉄板>教材は、一度本コーナでも取り上げたことがあります(メルマガ131号)。 このとき取り上げたのは「貿易ゲーム」でした
https://econ-edu.net/2019/12/10/1890/
 今回は、それ以外に筆者が長年使ってきた教材のベスト5(貿易ゲームを入れると6)を紹介します。ただし、順番は優劣ではなく授業の進度順です。

(1)ケーキの分け方
 一つのケーキ、それもひっくり返っているイチゴのショートケーキを二人が分けるという極めて単純な話です。
 条件はできるだけ公平にわける。その方法は?と問います。
 有名な話なので、答えを知っている生徒はしゃべってはダメと念押しをして生徒の回答を引き出します。
 これは経済の授業の冒頭、資源の希少性の部分で使います。イチゴとスポンジ部分を交換する、先に見つけた人間が全部とる、はたまたミキサーでまぜてはかりで量るという解まで登場します。
 一応の正解を紹介して、なぜこれが経済で登場するのかを説明して経済の授業がはじまります。
 この教材は、政治の学習でも、法の学習でも使えます。政治だったらケーキは権力、法だったら所有権の話、先占の法理の話などの導入に使えます。
 ウクライナ戦争では、ウクライナの土地をケーキに例えて、ロシアの侵略をイメージさせました。

(2)『レモンをお金にかえる法』正・続
 アメリカで半世紀前に出版された絵本です。日本に紹介されて40年を超えました。筆者は40年間、経済の授業ではこの絵本のストーリーをベースにして授業の流れを組み立ててきました。私の十八番中の十八番です。
 正編はミクロ経済学、続編はマクロ経済学をベースにしています。
 正編では、レモネードの値段の決まり方、企業のたちあげ、労働者とのトラブル、価格競争、M&Aなどが取り上げられています。
企業の立ち上げに豚の貯金箱とパパからの借金は登場しますが、残念ながら株式は登場しません。
 続編では、コストプッシュインフレ、インフレスパイラル、不況とその対策(社会保障、財政政策、金融政策)が取り上げられています。
 続編は第一次石油危機をベースにしているので時代性を感じますが、物価と賃金のいたちごっこはデフレスパイラルの説明にも使えます。
 経済活動のイメージをつかませる、景気変動と経済政策のイメージをつかませる最初の動機付けに有効な教材です。できれば英文で読ませると、一石二鳥です。

(3)じゃんけんゲーム
 囚人のジレンマの数値例を使った簡単なゲームです。
 筆者は、『レモン』のなかの二人のこどもの価格競争の場面でこれをやらせます。
 共倒れにならないために二人がやったことは何かを問います。絵本での答えは「合併」ですが、他にもどんなやり方があるか、それは認められる方法かなどを聞いてゆきます。
 ゲーム理論のいくつかのパターンを紹介することもあります。
 単独で、もしくは国際政治の学習場面で使うこともできます。
 人格が出てくるゲームだからねと念をおしてやらせると、人間関係の機微に気づくこともできます。

(4)ヘリマネ体験
 金融政策の箇所で行うシミュレーションです。
 教室を半分にわけ、同じ品物をオークションにかけます。片方のグループともう一方のグループに配布する貨幣量の差を2倍にしておきます。
 オークションの結果をみて、なぜそうなったのかを考えさせます。
 種明かしをしてフリードマンのヘリマネ論を紹介して、黒田日銀がアベノミクスでやろうとしたのはこれなのではと問題提起。
 応用問題として、ベースマネーを増やして、これだけ日銀がお金を世の中にばらまいているのになぜ目標通りにならないのかを推定させます。ここまでやるのは中学生にはちょっとむりかもしれませんが、高校生だといろいろ回答がでてきます。
 単純な貨幣数量説で政策が行われているわけではありませんが、まずは大雑把に本質に近いものを理解するのに役立ちます。

(5)株式学習ゲーム
 ご存じ東京証券取引所と日本証券業協会が開発・運営している株式シミュレーションです。
 開始以来20年を超し、教材として定着したものと言えるでしょう。
 この教材、「間口が広く、奥行きが深い」と思っています。対象は流通市場ですが、どこからでも入れ、ここを入り口に企業、金融、金融政策、パーソナルファイナンス、為替変動、政治動向などに興味や関心を広げることができます。
 スマホからも参加できるようになり、アクセスが良くなっているところも<鉄板>教材の資格ありかもしれません。
 これ以外にも、「金融クエスト」など定評のある教材が作成されています。また、先生方が開発された教材がネットワークの部会や教室で紹介されています。
 これらが、どこまで<鉄板>になるか、「追試」を行うことでフィルターにかけられてゆくはずです。
 授業のなかで、自分なりの<鉄板>教材を持つことをこころがけてみてください。きっと授業準備に余裕が生まれると思います。また、ここを拠点にして現実の経済の課題に挑戦させる手がかり、足がかりが得られるはずです。
 ちなみに、先生方の<鉄板>教材はなんでしょうか?
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月も、授業づくりのヒントになる本二冊を紹介します。
■ウイリアム・ノードハウス著『グリーン経済学』(みすず書房)
①どんな本か
 2018年に「気候変動をマクロ経済分析に統合した業績」でノーベル経済学賞を受けた著者が、グリーンをキーワードにして、現代の社会、経済の課題を総合的に俯瞰して、その対応を提言した本です。

②本の内容は
 序文と全体は6部25章に分かれています。
 序文では、グリーン・プラネットやグリーン・ムーブメントについての定義と概観が書かれています。
 第Ⅰ部は、「グリーン社会を築く」で、グリーンに関する、歴史、社会原則、効率性、外部性の規制、連邦主義、公平性の6項目からなり、グリーン経済学原論に相当する部分です。
 第Ⅱ部は、「危機に立つ世界の持続可能性」で、持続可能性の概念、国民計算、エクソ(地球外)文明、社会的カタストロフィーの4章からなり、現状分析がされています。
 第Ⅲ部は、「行動経済学とグリーン政策」で、行動経済学、政治理論、政治の実践、グリーン・ニューディールの4章からなり、課題解決のための課題、行動計画が扱われています。
 第Ⅳ部は、「社会と経済からみたグリーン」で、グリーン経済の利益、税、イノベーション、個人の倫理、企業の社会的責任、ファイナンスの6章からなり、Ⅲ部の計画をより具体的に実行するための原則や提言が扱われます。
 第Ⅴ部は、「グローバルグリーン」で、グリーン・プラネット、気候協約の2章からなり、気候変動に対する国際的取り組みの必要性が説かれます。
 最後の第Ⅵ部は、「批判、そして最後の熟考」で、グリーン懐疑派への反批判と最後のまとめが書かれています。

③どこが役に立つか
 全体を通読することで、環境問題をひろくグリーンと捉えて、課題解決の具体的な方法を考える手がかりが得られます。
 特に、SDGsを授業で扱うときに、それがどのようなねらいで作成されてきたのか、また、目標の13「気候変動に具体的な対策を」や15「陸の豊かさも守ろう」に関しての理論的、実践的な回答の手がかりが得られる本です。
 9章の「グリーン国民計算」や10章の「エクソ文明の魅力」などの箇所からは、標準経済学からの反省や逆にユートピア的な地球外での生存可能性の否定が書かれていて、授業の参考になるだけでなく、科学的分析の説得力に気づくでしょう。
 12章で扱われている行動経済学は、タイトルが「グリーンの敵である行動経済学」となっていてちょっとびっくりしますが、行動経済学を否定しているのではなく、行動経済学が発見した人間行動のアノマリーを踏まえた社会作りが必要という指摘で、ここも持続可能性と人間行動の齟齬をどう超えてゆくかのヒントが得られるでしょう。
④感想
 著者ノードハウスは、サムエルソン『経済学』の第12版以降の共著者としての印象が強く、単著を手にしたのは初めてでした。
 最後の第Ⅵ部で、グリーン経済に対する批判への反批判を展開しています。彼の立場は民主党でいえば中道派で、右派のシカゴ学派に対する批判などはなかなか厳しいものがあり、面白く読みました。
 最左派からも厳しい批判がありますが、市場のメカニズムを前提にして各種の手段で持続可能にするべきという主張は、危機のなかから現実的解決を探ろうとする知的営みと提言となっていて、アメリカのリベラル派の伝統は死に絶えてはいないのだという発見になり、ちょっとほっとしたというのが正直なところです。

■西谷公明著『ウクライナ 通貨誕生』(岩波現代文庫) 
①どんな本か
 独立直後からウクライナと関係をもったエコノミスト(旧日本長期信用銀行の調査員)が独立直後のウクライナの国作りの苦闘の様子を、現地滞在を生かして報告した1994年刊行の本の文庫版です。
 2014年のマイダン革命時と2022年のロシアによる侵攻時に雑誌『世界』に掲載した論考が追記として加わっています。

②本の内容は
 全体は序章、終章と7章からなっています。
 序章の1991年のロシアからの独立をきっかけにしてウクライナに入った著者とウクライナの出会いから始まり、続く7章は、翌1992年から1993年にかけての、三ヶ月の調査滞在、その後のウクライナ経済主導部の動き、現地の調査旅行など、激動の日々が書かれています。目次は以下の通りです。
第1章「国民経済創造へ」
第2章「金融のない世界」
第3章「激しいインフレ下の生活風景」
第4章「東へ西へ」
第5章「経済の安定化を目指して」
第6章「国民通貨確立への道」
第7章「石油は穀物より強し」
終章「ドンバスの変心とガリツィアの不安」という構成です。
 追記は、先に触れたとおり、刊行20年後と昨年のウクライナの激動にあわせて時論として書かれています。
 
③どこが役立つか
 一つは、この本を読むことで、ウクライナ戦争の直接の原因はなんだろうと疑問を持ったときにその答えが見つかります。特に、序章でのウクライナの地域別の違いから帰納された終章での予言は20年後に当たってしまいました。
 二つ目は、社会主義経済から資本主義経済に移行するなかで、ほとんどゼロから経済システムをいかに作り上げていったのかがわかることです。第2章や第6章から、独自通貨を発行、流通させることの困難がよくわかります。私たちが当たり前と思っている政府の経済的役割、金融機関、とくに中央銀行の役割などがレントゲンのように描写されています。
 三つ目は、そんな混乱のなかでの人々の生活ぶりがわかります。ウクライナという国という枠で理解するのではなく、そこの風土、生きている人々、苦闘している人々の理解が大事であることが浮かび上がります。
 追記と佐藤優氏の解説からは、これからのウクライナの予測がある程度見つかると思われます。

④感想
 新しい国作り、特に金融システムについての報告では、昨年リバイバルして再注目された1972年に出された服部正也氏の『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書)が有名です。
服部氏の本はルワンダの中央銀行の総裁となり実際に制度作りに奮戦した日本人の記録に対して、西谷氏の本はエコノミストとして距離を置きながら、制度づくりに苦闘するリーダーたちのリアルな実態を描いたドキュメントと言って良いでしょう。
二つの本に共通しているのは、国も時代もちがっていても、制度がない、もしくは機能していない国に制度を立ち上げることの困難さがひしひしと伝わることです。
そんななかでその苦闘に共感しつつ関わってゆく人間がいるということに元気づけられる思いです。
西谷氏は、本書の追記2の続編になる文章を、雑誌『世界』3月号に「されど“停戦”を呼びかけよ」というタイトルで掲載しています。それも併せて手に取ることを勧めます。
ちなみに、ウクライナに関しては、
岩波ジュニア新書編集部編『10代が考えるウクライナ戦争』と、東大作著『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』の二冊が、それぞれジュニア新書と岩波新書で2月末に出版されています。
特に、前者は高校生がどうこの戦争を捉え考えたのかの記録になっています。高校生の疑問や考えを社会科や公民科の授業で引き出すにはどうすればよいかを考えるヒントになります。これも手に取られることを勧めます。
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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 先日、篠原代表と雑談をしていたときに、「チャットGPT」という言葉が出てきました。「それ何ですか?」と新井。「知らないの…」。ということで説明を受けて時代はどんどん変わると思いました。
翌日、生徒に「チャットGPTって知ってるかい?」と聞いたら、「そんなの古いですよ」とのたまう。二周遅れになってしまった新井君。こうなったらAIに対抗して徹底的にアナログでゆこうと宣言したのですが、こんなのは、ただの時代遅れのおじいさんの「たはこと」です。それにしても篠原代表は先進的だ。(新井)
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