時事問題解説

年金記録の管理

日本の年金制度の場合、社会保険方式に基づき運営され、個々人の年金受給額は保険料の納付額や納付期間などを根拠として計算されています。そのため、個々人の保険料納付記録等を長期間、適切に保管・管理することがきわめて重要となっています。

これらの年金記録は当初、年金ごとに紙媒体で管理されていました。すなわち、厚生年金保険では、全国各地に所在する社会保険事務所において事業所ごとの被保険者名簿により管理されていました。転職等により資格を喪失した人々の記録は社会保険業務センターに送付され、被保険者ごとの原簿に基づき管理されていました。国民年金の場合、被保険者の年金記録は市町村の被保険者名簿により管理されると同時に、社会保険事務所も市町村から送付されたデータに基づき被保険者台帳において管理していたほか、社会保険センターも被保険者ごとの原簿により管理していました。

そうしたなか、事務効率化のため、紙台帳の磁気テープ化が図られることになりました。実際、厚生年金においては1957年にパンチカードによる機械処理の導入に続いて、1962年には磁気テープによる機械処理に移行しました(国民年金の記録は1965年に磁気テープ化されました)。当然のこととして、機械処理以前の紙媒体に記録されていた年金記録についても、磁気データとして入力されました。なお、それまで利用されていた台帳等については、一部を除き、マイクロフィルム化して保管されています。次いで、事務処理の一層の効率化を狙いとして1979年度からはオンラインシステムが順次導入され、1989年2月に全国の社会保険事務所と社会保険業務センターを結ぶオンラインシステムが完成しました。このオンライン完成後は、年金記録は直接入力されるため、紙媒体の台帳や名簿は廃止されました。

その一方で、加入者の年金記録は厚生年金、国民年金などといった保険者ごとに管理され、制度全体を通じた年金記録の把握が困難となっていました。こうした問題を克服するためには、加入者に一人ひとつの番号を付与して年金記録を統一的に管理することが求められます。それゆえ、1997年1月から各年金制度に共通の基礎年金番号が導入され、現在に至っています。この基礎年金番号による年金記録の統合的管理を実施しようとする段階において、氏名、生年月日などの年金記録が誤って入力されていたことが発覚したのです。現在でもなお5000万件の記録が統合漏れとなっています。これが、「宙に浮いた年金記録」です。

(同志社大学経済学部教授 鹿野嘉昭)


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