時事問題解説

公的年金制度

日本では現在、すべての国民がいずれかの年金制度に加入するという国民皆年金制度が採用されています。日本の年金制度は戦前期に設けられた軍人や官吏等の公務員を対象とする恩給制度をその第一歩として始まり、工場で働く男子労働者を対象とする労働者年金保険が設けられました。その後、労働者年金保険の対象が女子や事務職員にも拡大され、名称も厚生年金保険に改められました。第2次世界大戦後、社会保障の立場から厚生年金保険制度の全面的な改正が行われ、ここにおいて現在の厚生年金保険制度の原形がつくられました。

このようにして民間企業の労働者向けに公的な年金制度が整備されましたが、その一方で、自営業者や農林漁業者等は公的年金制度による保障対象にはなっていませんでした。これらの人々の老後保障が大きな問題となるなか、1961年には国民年金法が施行され、自営業者等はもちろん無業の者も含め全国民が年金制度の傘のなかに入ることになりました。このようにして国民皆年金が実現したのです。

この年金制度改編にあわせて、自営業者が民間サラリーマンになるなど加入すべき年金制度が変わっても、年金の受給資格期間の算定に際してはそれぞれの制度の加入期間を通算して、それぞれの制度から年金が受給できるという通算年金制度も創設されました。なお、サラリーマンの年金の場合、私立学校教職員共済組合や農林漁業団体職員共済組合の発足など、特定職域を単位とするグループの厚生年金保険からの離脱がみられました。また、公務員の年金は、国家公務員共済組合と地方公務員等共済組合に分かれました。

以上のとおり、わが国の年金制度は国民皆年金を目指して整備されてきましたが、全員が単一の公的年金制度に加入するのではなく、職業に応じて分立した公的年金制度のいずれかに加入することを通じて達成されました。1980年代に入る頃になると、本格的な高齢社会を迎える21世紀に向けて年金制度を抜本的に改革することの必要性が認識され始めました。そうしたなか、公的年金制度を長期にわたり健全かつ安定的に運営していくための基盤づくり、および、世代内・世代間を通じての公平性の確保を目的として1985年には、全国民共通の基礎年金が新たに創設されました。これに伴い、厚生年金、公務員共済などの被用者年金制度については、基礎年金に上乗せ給付される報酬比例の年金を支給する制度に再編成されました。また、被用者年金制度の給付水準については、将来に向けての公平化が進められることになりました。

このようにして公的年金制度にかかわる基盤の整備は着実に進められてきました。しかし、その一方で、問題がないわけではありません。本格化する高齢社会に向けて、給付と負担の両面にわたる見直しのほか、年金受給者間の公平性確保のためにも公的年金の一元化が必要となっています。前者の見直しについては2006年に実施され、同一の報酬であれば同一の保険料を負担するとともに同一の公的年金給付を受け取るという公平性を確保するべく、被用者保険の保険料率は段階的に統一されることになりました。もっとも、究極的には公的年金制度全体の一元化が不可欠であり、政府では現在、一元化に向けた法律改正に取り組んでいます。

(同志社大学経済学部教授 鹿野嘉昭)

 


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