時事問題解説

FTA(自由貿易協定)

二国間あるいは多国間において関税を削減・撤廃することを目的として締結された政府間協定のことをいいます。この協定が結ばれれば締結国の間では関税がゼロとなって財やサービスが国境を越えて自由に取引されるようになることにちなんで、自由貿易協定(FTA)と呼ばれます。第二次世界大戦後の貿易体制を規定する「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」では、貿易の自由化促進を狙いとして、世界各国が一丸となって関税や貿易障壁を削減・撤廃していくことを目指しています。そうした狙いを実現するためには多国間での関税引き下げに向けた合意が必要となりますが、関係者が増えれば増えるほど利害が錯綜するため、関税等のあり方を協議する国際的な機関として創設された世界貿易機構(WTO)の場で合意を得ることはきわめて困難になっています。

そうした状況下、二国あるいは複数の国の間でFTAを締結のうえ、締結国の間で相互に関税を削減・撤廃しようとする動きが近年、広まっています。WTOが定めた貿易ルールでは本来、二国間で最恵国待遇(相手国に対し他の国に与えている条件よりも不利にならない条件を与えることをいいます)を供与することは認められていません。しかし、GATT第24条に基づき「実質上すべての貿易を自由化する」ことを条件として、二国間で最恵国待遇を供与することは例外的に容認されています。これを拠り所として、世界各国はWTOルールのなかでFTAを自由かつ戦略的に締結しているのです。なお、特定の産業分野だけを対象とした関税の削減・撤廃は、二国間での最恵国待遇の供与となってGATT協定違反になるため、FTA締結交渉においては通常、すべての分野を貿易自由化の対象とする包括協議方式が採用されています。

このようにFTAは近年、WTO協定に基づく貿易の自由化が期待どおりに進まないなか、利害の一致した国同士の間で柔軟な協定を締結できるという利点を活かすかたちで世界の貿易自由化の推進役となっています。日本も近年、東アジア諸国とのFTA締結交渉を積極化させています。現在、日本はシンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン4カ国との間でFTAを締結しているほか、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ベトナム、韓国等とも締結交渉を進めています。また、日本政府ではFTA締結に際し、貿易の自由化にとどまらず、投資や人の移動などについても協定に含めることにしています。こうした幅広い分野を対象とするという協定の性格を明確にすることを狙いとして、日本政府では、FTAに代えて、EPA(経済連携協定)という呼称を利用しています。

(同志社大学経済学部教授 鹿野嘉昭)


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