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12月、師走です。
先月の総選挙。投票率は戦後3番目に低い水準で、若者の投票率も政治参加も不発でした。少々残念。ある面では社会科教育の敗北かもしれませんが、あまり性急に結論づけない方がよいかもしれません。教育は長い営みですから。
経済教育も同じで、性急に成果を求めるよりも、これからの時代に生き抜ける力は何かを考えながら、実践を続けることが大事かもしれません。
今年は、コロナ禍でのリモート活動が中心でしたが、今月は、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド方式での部会を開催します。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】イベント案内と最新活動報告
 「冬休み経済教室」のご案内と21年11月の活動を報告します。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…「立ち位置を自覚させよう」
【 4 】授業で役立つ本…今月も三冊。
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【 1 】イベント案内と最新活動報告
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■先生のための「冬休み経済教室」 -授業に使える行動経済学- を開催します。(既報)
・日時:2022年1月8日(土) 14時00分~16時00分
・場所: 慶應義塾大学三田キャンパ南校舎443教室+オンライン(Zoom形式)のハイブリッド方式で行います。
・プログラム
  講演「行動経済学を使った授業の作り方」 新井 明(目白大学非常勤講師)
授業実践例の提案
 ① 身近な例から学ぶ中学校の経済学習での行動経済学の使い方
行壽 浩司(福井県美浜町立美浜中学校教諭)
② 金融デジタル化の学習での行動経済学の使い方
大塚 雅之(大阪府立三国丘高等学校教諭)
③ ジェンダー・バイアスに関する学習での行動経済学の使い方
塙 枝里子(東京都立農業高等学校主任教諭)
まとめとふりかえり 中川 雅之(日本大学経済学部教授)
・お申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/10/20220108FuyukeizaiHybrid.pdf

■札幌部会(No.28)を開催しました。
日時:2021年11月20日(土) 15時00分~17時00分
場所:オンライン会議での実施。
内容の概略:参加22名
(1)佐藤英司先生(福島大学)から、「情報化社会と経済―デジタルプラットフォームの特徴と高度情報社会の課題―」についての実践報告が行われました。
・対象は、福島県内商業高校の高校2年生と3年生。
・授業は、プラットフォーマーによる独占などのネットワーク効果の理解や、利用データに基づいたオススメ表示の手法、日本企業全体の株価を超えるGAFAの伸長について行われました。
・生徒からは、「自分たちが使っているものと社会のつながりがわかった」という感想が多くよせられました。また、別のネットワーク効果についても調べた生徒も出てきたそうです。
・検討を踏まえて、デジタルプラットフォームの市場独占とコントロールまで生徒にどのように考えさせるかという点で、今回の実践のベースとなった斎藤誠先生の『教養としてのグローバル経済』(有斐閣)で扱われている情報産業の課題をさらに深めてゆくことが課題となろうと、提案者の佐藤先生からの指摘がありました。

(2)新井明先生から、「家庭科の金融教育と社会科・公民科の金融教育」についての問題提起が行われました。
・提起のきっかけとなったのは、『ダイヤモンドオンライン』(2021年10月27日掲載)の山崎元氏のエッセイ「高校で始まる金融教育、二つの不安とプロが本当に教えたい10の知識」です。
・このエッセイをもとに、新課程の家庭科で採り入れられる「購入に関する意思決定、契約、資産運用など」について、家庭科と社会科・公民科でどこまで連携する必要があるかの提起が行われました。
・これに対して、公民科の立場から、杉田孝之先生(千葉県立津田沼高等学校)から投資教育だけでない金融リテラシーについての現状報告が行われました。
・奈良英代先生(藤女子中・高等学校)からは、家庭科における金融教育の実情についての現状報告とご自身の実践の紹介が行われました。
・検討では、家庭科と社会科・公民科では、教科目標が違っていて教科の住み分けがあるので、そのことも考慮に入れる必要がある、単元配列表等を用いると
教科の内容被りや連携点が見えやすくなる、金融教育だけでなく消費者教育の視点でも検討する必要があること、などの意見が出されました。
・今回は家庭科や商業科関係者の参加もあり、今後も継続して取り上げていく課題であるということが確認されました。
部会内容の詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/11/Sapporo028report.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■東京部会(No.127)を開催します。(既報)
東京部会(No.127)はハイブリッド形式にて行います。
日時:2021年12月18日(土) 15時00分~17時00分
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス南館443教室+オンライン(Zoom形式)
申し込みは以下からお願いします。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/10/tokyo127flyerZoomHibridR.pdf

■大阪部会(No.78)を開催します。(既報)
大阪部会(No.78)はハイブリッド形式にて行います。
日時:2022年1月29日(土) 15時00分~17時00分
場所: 同志社大学大阪サテライト+オンライン(Zoom形式) 
申し込みは以下からお願いします。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/10/Osaka78flyerHibridZoom.pdf

■札幌部会(No.29)を開催します。
札幌部会(No.29)はオンライン会議にて行います。
日時:2022年2月26日(土) 15時00分~17時00分
場所:オンライン(Zoom形式)
申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/11/Sapporo029flyer.pdf

<関連団体の情報紹介>
■金融広報中央委員会「オンライン意見交換会」のお知らせ
日時:2月11日(土) 14時00分~16時00分
方法:Webex Meetingsによるライブ配信
内容: テーマ「金融教育のすすめ方」
  公民科から篠田健一郎先生(東京都立西高等学校)、家庭科から岩澤未奈先生(東京都立国際高等学校)による、成年年齢引き下げ、キャッシュレス時代に必要な金融知識や資産形成等に関する金融教育の実践的な授業方法に関する提起と、フリーディスカッションが予定されています。
申し込みは下記から。
  https://www.sensei2021.jp/
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【 3 】授業のヒント「立ち位置を自覚させよう」
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(1)二つの公開授業
 先月、オンラインで、二つの公開授業を見ました。
 一つは、中学校の地理の授業で、「アフリカの経済発展を考えよう」というものです。
もう一つは、高等学校の現代社会の授業で「リスクとライフプランを考える」という金融教育の授業です。
 中学校の授業は、10分ほどの映像でしたが、高等学校の授業は50分全部を見ることができました。
 それぞれ優れたところ、感心したところがあったのですが、気になった点、疑問点が共通していたところがあり、今回考えてみたいと思いました。
 それは、生徒たちはどの立ち位置で考えているのだろうか、授業のなかで、考える視点がどこにあるのかを明確に指導していたのだろうかという疑問です。

(2)アフリカの経済発展の例
 地理の授業は中学2年生の授業です。
未開発とイメージされているアフリカが実は大きな飛躍の要素もっていて、現実に動き始めていることを学習したあとに、ではアフリカの経済発展のために今後どんな産業がもとめられるだろうかをグループで探究活動をした結果を、3年生の前で発表し、3年生の突っ込みに対して、回答するという授業です。
これは、担当者が2年の地理と3年の公民を担当していたことでできた、意欲的な授業です。
 2年の生徒も頑張ってそれぞれの企画を提示していたのですが、その企画の提案者は誰なのか、提案者の立ち位置が生徒に自覚されていないことが特徴的でした。
 日本人として(例えばJICAなど)その地域や国に関わるのか、企業の立場(例えばグローバル企業か現地の起業家なのかなど)から考えるのか、その国の人間(男性か女性か)が考えるのかなど、考える主体が誰なのかは、企画そのものの質を左右します。
その自覚なしに、取組まれた提案は、空中に浮いているように感じてしまいました。

(3)リスクとライフプランの例
 こちらは、工業科の定時制高校の実践です。
 半年をかけて、「株式学習ゲーム」を行わせながら、経済について考えさせているという「現代社会」の授業の一環でした。
 内容で気になったところは、やはり立ち位置です。
 どんな銘柄を生徒が選んだか、その変動、選んだ理由を適宜、生徒に聞きながら、授業が進みます。
 生徒の多くは、任天堂、ソフトバンクなどやはり知っている企業、日頃お世話になっている企業を選んでいました。それはそれで構わないのですが、気になったのは専門に関係する企業をほとんど選んでいないことでした。
 電機科と電子科を持つ学校で学んでいるので、その業界の企業の名前がでてきてもよいに、もったいないというのが印象でした。
 それをもっと感じたのは、リスクからライフプランを考えさせる展開部です。ライフプランは人生の四大イベントに絡んで取り上げられていますが、自分のライフプランがイメージできない生徒が多かったようで、先生の説明で進行していました。
 理由の一端は、株式学習ゲームで現れていたように、現在の自分の立ち位置が自覚されていないので、長期のライフプランが浮かばないということなのだろうと推定しました。

(4)自分の足元は何か
 社会科、公民科の場合は、「公民的資質」の育成が求められています。日本人としてというキャップをかぶることもあります。
 日本人としてということを強調しすぎるのも問題ですが、どの位置から社会を眺めるのかを自覚させることが、社会科の授業づくりでは大切な要素ではないでしょうか。
 伝統経済学では、抽象的な経済人を措定して経済を分析します。これは、科学的方法です。行動経済学では、それを批判してバイアスを持つ現実の個人を前提とした理論を提示しようとしています。
教室の授業では、科学的分析の世界の個人なのか、それとも現実の私なのかの自覚を求めることはほとんどありません。
 対象のなかからものを見るのか、外から見るのか、男性なのか、女性なのか、命令する側から見るのか、命令される側から見るのか、…。それぞれ立ち位置が違うと見え方が違うはずです。
 「自分事にする」前提として、自分の足元をまず自覚させて展開する授業がもっと必要だと、二つの授業をみて考えたのですが、皆さんはどう考えるしょうか。(新井)
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月は、財政、お金、チャリティに関する本の三冊を紹介します。いずれも、授業づくりに参考になる本です。
■髙端正幸・佐藤滋『財政学の扉をひらく』(有斐閣)
①どんな本か
・昨年12月に出た、有斐閣のストゥデイア・シリーズの一冊です。
・財政学の初年級のテキストですが、財政を通して社会的なイシューを考えさせる本になっています。

②本の内容は
・全体は二部に分かれていて、第1部が「財政の基本をつかむ」、第2部が「財政の視点から社会問題を解く」となっています。
・第1部では、財政学の入門的な知識が、①予算論、②税、③社会保険、④財政赤字、⑤地方財政と5章にわかれて展開されています。
・第2部では、1部の知識をもとに、⑥経済成長と所得再分配、⑦格差・貧困の拡大、⑧世代間の対立、⑨地域の変容、⑩グローバル化と財政の5つのイシューが取り上げられています。
・最後に社会統合と財政ということで、全体を総括しています。

③どこが役立つか
・中高の教科書ではさらりと書いてある部分を、丁寧に展開しています。授業準備で関連の箇所を通読することで、教科書の背景やでてくる事項のつながりを再確認することができるでしょう。
・第2部のそれぞれのイシューは、生徒に調べさせたり、討論をさせたりする素材となりまます。すべてを扱うわけにはいかないでしょうが、生徒の関心や地域の課題などとあわせて適宜とりあげることができます。
・第1部は、主に中学校の授業で、第2部は高校の授業で取り上げると、中高一貫の授業が展望できるかもしれません。

④感想
・大学のテキストがこんなに変わってきているというのを改めて確認しました。
・内容は、多くのテキストと同様ですが、各所に置かれたアクティビティ、章末の「NEXT STEP(理解を深める)」という課題提示、それもBasicとAdvancedの二つを提示しているなど、中高の授業でも参考にできる工夫された箇所がいくつもあります。
・最後に「ティーチャーズ・ガイド」として、「問いの活用法に関するヒント」という付録がついています。そこでは、「考える」タイプの問いとして、<閉じた問い>、<開いた問い>の区別とその具体的な例、また、「調べる」タイプの問いとして、ただ調べただけに終わらせない工夫も書かれています。
・教育方法に関しては、中高の私たちの方がプロと思っていましたが、うかうかできないぞ、というのが正直な感想です。(新井)

■ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー『無料(タダ)より安いものがある』早川書房
①どんな本か
・2018年に単行本で出版された『アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金編-』の文庫版です。
・サブタイトルが「お金の行動経済学」となっていて、サブタイトル通りの内容です。

②本の内容は
・全体は三部、What-Why-Howの三つの内容に分かれています。
・第1部は「お金とはなんだろう」ということで、三つのお金に関する失敗のストーリーが紹介されます。Whatに相当する部分です。
・第2部は、「価値とほとんど無関係な方法で価値を評価する」のタイトルで、10章にわたって、冒頭のストーリーを含めた様々なお金にまつわる人間行動の不合理さとその原因が紹介されます。Whyにあたる部分です。
・第3部は、「さてどうする?思考のあやまちを乗り越える」として、5つの章で対策を提示します。Howの部分です。
・ストーリーとその分析、間に行動経済学の紹介がコラムで挟まるという、お金に関する行動経済学の気軽な読本と言うべき本です。

③どこが役立つか
・金融教育はどうあるべきかを考えているなかで手に取った一冊です。
・「お金に関する決定で問題にすべきことは、機会費用と、購入物から得られる真の利益と、他のお金の使い道と比べて得られる真の喜びだ」という、著者の結論は、それ金融教育だ、投資教育だと流されがちな私たちの原点をしめすものとして吟味してみる価値ありと思われます。
・本書で取り上げられている多くの事例(例えば最後通牒ゲームなど)は、行動経済学の世界ではポピュラーなものとなっています。アメリカの事例なので日本の文脈ではすこしちがっているかもしれませんが、授業の中でこのように使えるのだ、このように分析できるのだという、手がかりを与えてくれるでしょう。

④感想
・原文のタイトルは、“Dollars and Sense”なので、訳本のタイトル『無料より安いものもある』は訳者が考えたものでしょうが、なかなかセンスが良いので感心しています。
・それでも、「There is no such thing as a free lunch.」は真理ではないかと思ってしまいました。
・③で引用した著者の結論に納得。(新井)

■金澤周作『チャリティの帝国』岩波新書
①どんな本か
・京都大学の歴史学者による、チャリティを通したイギリス史の本です。
・通常のイギリス史とは異なって、イギリスに根付いている(寄付金額は対GDP比にして日本の4倍)チャリティ文化から、イギリス近現代史を読み解こうとするユニークな新書です。

②本の内容は
・全体は4章仕立て。
・第一章では、「世界史における他者救済」として世界のチャリティの歴史とイギリスのそれを対比してイギリスの個性を分析します。
・第二章では、「近現代チャリティの構造」として、イギリスの近現代の歴史をチャリティから概観します。
・以下、それをさらに詳細にして、第三章では自由主義の時代、第四章では帝国主義の時代を扱い、最後に第五章で20世紀から現代を扱うという構成です。
・歴史書ですが、社会保障の学習のなかの社会福祉の場面での参考書として読まれると良いかと思います。

③どこが役立つか
・役立つ面は二つです。
・一つは、歴史記述の方法として、三つのライトモチーフ、①困っている人に対して何かをしたい、②困っている時に何かをしてもらえると嬉しい、③自分の事でなくとも困っている人が助けられている光景には心は和む、をイギリス史のなかで実証的に検討して記述している点です。
・ここではライトモチーフとなっていますが、社会問題を追究する際に仮説をたて、それを実験や観察、データをもとに証明してゆく方法に通じます。そのような研究の方法論のヒントを得ることができます。
・もう一つは、イギリスにおけるチャリティの歴史の具体的様相を知ることができる点です。
・特に、公民の教科書の社会福祉の箇所では必ず登場する、「エリザベス救貧法」や「ベバリッジ報告」の登場する背景やその後の変遷、それをイギリス人がどのように受け止めたのかを知ることができます。

④感想
・丁度授業で社会保障を扱うので、手に取りました。
・授業では、映画『オリバーツイスト』の一部を見せて、救貧法(新救貧法)の時代をイメージさせて、福祉の話を展開しています。そんな授業構成の肉付けになるなというのが実利的な感想です。
・もう一つは、「ひっぱたいてやさしくする」という人間の二面性を著者が大英帝国のチャリティの特質として指摘しているところが、単なる歴史記述を超えた著者のチャリティや人間に対する熱い思いを感じさせました。
・管前首相が、「自助-共助-公助」と発言して、問題になりました。これは、厚労省の文書にも、教科書にも出てくる文言、序列ですが、共助の部分をもっと厚くすることが今の日本の課題かと感じています。(新井)

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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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 出校している中学校で、先月末に定期考査がありました。5クラス200枚の答案を採点します。記述部分が多いので一枚平均5分ほどかかります。そうすると、全体で1000分=16.66…時間。結構な時間です。
 それでも、答案を通して生徒と対話をする気持ちで採点を終えました。なかなかの難行ですが、マーク式では得られない良さではと思っています。でも、いつまで続けられるかな。(新井)
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