reader reader先生

5月、皐月。
本来はゴールデン・ウイークの最中で、風薫る新緑のもとでのびのび活動する季節ですが、二年連続の緊急事態宣言が出されて、自粛生活を余儀なくされる日々が続いています。
それでも、昨年のように学校の一斉休業ではないところがせめてもの救いかもしれません。とはいえ、ハイブリッドを目指せと言われても、遠隔授業と対面授業の組み合わせをどうするか、クラブ活動を制限された生徒たちのエネルギーをどこに向けてゆけば良いのか、連休あけから学校現場での模索は続きそうです。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と授業に役立つ情報をお伝えします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【今月の内容】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 1 】最新活動報告
 企画中のイベントや21年4月の活動を報告します。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…「4月号杉田先生の論考を受けて」
【 4 】授業で役立つ本…今月は二冊を紹介。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 1 】イベントの案内と最新活動報告
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■先生のための「夏休み経済教室」を開催します。
 テーマ:「ポスト・コロナの経済教育のすすめ方」
 日時:2021年8月13日(金)、8月16日(月)
 場所:東京証券取引所のスタジオからのライブ配信
 内容:
 8月13日(金) 中学校の先生向け
① 講演「新教科書の読み方・授業での生かし方」
                 同志社大学政策学部教授 野間 敏克
②実践提案「ポスト・コロナ時代のネタの集め方・生かし方」
                 立命館大学非常勤講師 河原 和之
  8月16日(月) 高等学校の先生向け
① 講演「経済教育に行動経済学をどう生かすか」
           大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授  大竹 文雄
②講演「社会や経済は複雑すぎて、経験や直感だけで理解できる代物ではない」
                   慶應義塾大学経済学部教授 坂井 豊貴
・申し込みは東京証券取引所のHPから6月上旬をメドに開始する予定です。
・案内のちらしなど準備ができ次第、ネットワークHPに掲載いたします。

■東京部会(No.123)・大阪部会(No.74) 合同部会を開催しました。
日時:2021年4月24日(土) 15時00分~17時00分
 内容の概略:28名参加
(1) 「夏休み先生のための経済教室」の企画および進捗状況に関して、鈴木深氏、坂倉有香氏(東京証券取引所)から報告がありました。

(2) 奥田展大先生(奈良学園中学校・高等学校)から「公民科×数学科の教科間連携のとりくみ」の報告がありました。
・奧田先生の報告は、奈良学園高等学校での文化系探究授業「課題研究」(高校2年生対象2単位)の2018年度からの取組みを紹介したものです。
2018年度のプレ授業からはじまり、2019年度の数学科と連携して、数学で学習してきたデータ分析を活用してエクセルでグラフを書き、関数を使用し、公的データから相関関係を発見させるなどの準備をして、「ビジネスグランプリ」に応募させた実践が紹介されました。
また、2020年度と2021年度の取組みも紹介され、2021年度は、週1時間通年として、「豊かでおもしろい奈良をつくろう」をテーマに取組みを始めていることが報告されました。
本年度からは、18年度に取組んだ生徒が大学生になり、TAとして入ってくれることにもなり、新たな展開を目指しているとのことでした。

・報告のあと、篠原代表からREASASに関して次のようなコメントがありました。
REASASは、地域の経済情報をカバーした、使いやすいデータベースであり、中高生は、指標ごとのグラフが用意されている。また、グラフの裏にある元データをエクセルなどでダウンロードできるので、変数と変数の関係を調べることもできる。
奥田実践のように統計処理をする段階までいかなくとも、高校生なら2変数を軸にしたグラフにしてみるなど、新しい教育に活用できそう。
ただし、データは市町村レベルまで細分化されているので、教科書にでてくるような経済問題を分析するには適していない。むしろ、今回の奥田実践で取り上げたような地域と直結する課題の分析に活用できるのではないだろうか。
・報告とコメントを踏まえて、授業の評価、探究活動と通常の教科指導との関連、学校全体の取組みにする方策などの質疑及びコメントがよせられました。

(3) 新井(目白大学非常勤講師)から「共通テスト「公共」サンプル問題から考えたこと」の報告と、塙枝里子先生(東京都立農業高等学校)からのコメントがありました。
・新井の報告は、サンプル問題の内容の紹介と問題に取組んだ感想です。
 サンプル問題3題は「公共」の内容のA、B、Cのそれぞれに対応したものであること、場面設定などテスト問題をモデルにして授業改善のメッセージ性が強いものであること、資料の読み取りやグラフの読み取りなど読解力が試されているもので、これまでとは違った学力観によるものであることの紹介があった。
 また、方向は正しいが、それが過剰な要素もあり、学力差が開くおそれもあるとの指摘もありました。
・指定討論者の塙枝里子先生からは次のようなコメントが寄せられました。
意欲的な問題であり評価したい。ただ、毎回これと同じレベルの問題を出すのは難しいのではないか。
着目したのは大問2の問3の問題で、合意形成のための思考実験や正答を一つ選ぶのではなく自分の選んだものがその後の選択と関連するような問題が定番になればよいのではと思う。
探究形式の授業をおこなえというメッセージに関しては、生徒は探究疲れになっているとも指摘されている。また一つ一つは浅くなってしまっているきらいもあるので、学校全体で取組むことができるようにする必要があろう。
・二人の報告をうけて、探究活動のすすめ方、プレテストを含む入試問題作成固有の難しさ、探究活動を行う際のグループ学習の進め方などのコメント、質疑がよせられました。
部会内容の詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/05/tokyo123Osaka74report.pdf

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<定例部会のお知らせです。(開催順)>
■札幌部会(No.26)を開催します。
札幌部会(No.26)はオンライン会議にて行います。
日時:2021年6月12日(土) 15時00分~17時00分
 申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/02/Sapporo026flyer.pdf
■東京部会(No.124)・大阪部会(No.75) 合同部会を開催します。
 合同部会はオンライン会議にて行います。
 日時:2021年7月3日(土) 15時00分~17時00分
 申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/04/Osaka75flyer.pdf
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 3 】授業のヒント 「4月号杉田先生の論考を受けて」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                      執筆者 元公立中学校教諭 奧田 修一郎
私は、パフォーマンス課題とか評価論の研究者ではありませんし、現場からも離れていますので、実践者でもありません。
そのため、杉田先生の論考を受けて何か書くことは、とてもできることではありません。ただ、全くの私見ということであれば、普段考えていることを、独り言のように呟くことができるのではないかと、パソコンに向き合っています。

1 評価はもらってうれしいもの
 評価は教師にとっては楽しいものであり、生徒にとってはもらってうれしいものです。
おっと待ってくれ!「評価」「成績」「テスト」は不快で面倒な言葉じゃないか!という声が聞こえてきそうです。教師は、生徒は何ができなかったか、ここまでしか到達していなかったかを、判定する人でないのか?
確かに、テストをし、成績を出すということが学期末に控えていると、「楽しいもの」なんて、悠長なことは言っていられませんよね。でも、評価することは、生徒が自らの成果(パフォーマンス)を発揮するのを助けることと考えてもいいのではないでしょうか。教師は、これまでの紆余曲折の生徒の学びに一喜一憂し、生徒は教師の言葉に励まされて、一歩前進む!なんていうイメージです。理想過ぎるぞという声がさらに大きくなりそうですが。

2 ルーブリック評価がすべて?
 評価については、評価と学び(指導)の一体化が言われ続けてきました。つまり、評価の目的は、教師の教え方と学び方を改善することにあるというものです。
評価は、教師が明確な到達目標や評価基準を設定し、生徒がその基準の意味を理解できるようにし、授業の目標を達成した、またはしていないかどうかを、自分自身で形成的に評価しながらフィードバックすることで、目的を果たします。そのためには、生徒が教師の設定した到達目標や目安の理解できるように、ゴールに向かうように、助ける必要があります。
この場合、ルーブリックはとても大切な評価ツールになるのですが、すべての課題にルーブリックを作成しようとすると、杉田先生が書いておられるように、不必要な時間がかかってしまうわけです。そのため、評価は、自己評価、相互評価、ポートフォリオ、チェックリストなど、いろいろな場面で方法をかえながら、行う方がいいように思います。時には、チェックリストで十分な時だってあります。評価疲れしないことです。また、評価ということであれば、地域社会、企業、学術的研究などの現実社会からの評価がとても有効であることを多くの実践で確かめられてきていますよね。

3 パフォーマンス課題と永続的理解
 明確な基準を設定し、生徒がそれを達成できるように支援することは、その基準そのものが、課題にとって意味のある場合、あえてそもそも論でいうと、課題そのものが学ぶ意味のある場合のみに意義があると言ってしまうのは言い過ぎでしょうか。
パフォーマンス課題とは「リアルな文脈の中で、様々な知識やスキルを使いこなすことを求めるよう課題、具体的には、レポートや新聞といった完成作品や、プレゼンテーションや実験のプロセスなど実演を評価する課題」(西岡加名恵)こととされています。また、質のよいパフォーマンス課題は、いろんな場面で役立つ内容、大人になっていつも覚えてほしい理解につながっているのか、また、学問の中核部分の永続的理解(原理や一般化)ができているかどうかを評価するためのものになっているかが問われます。
授業レベルで話しをすると、まず、公民の授業で理解させたい原理や一般化、もしくは考え方を、教師が明確にします。次に単元を通した「本質的な問い」を考えてゆき、各授業時間の主発問を設定するという逆向きの設計でしょうか。
具体例にお話します。昨年、小学校・中学校の授業をお手伝いさせてもらい、「水の行方」という授業を展開しました。この授業での永続的理解は、「水は循環している」こと掴ませたいというものにしました。

そのため、水の授業では、「飲料水の確保」というアプローチがとられていますが、「再生水利用と水質の改善」という視点から、カリキュラムをつくれないかを考えました。
具体的な学習課題としては、
「どこからが排水、どこからが廃水?」
「再生水はどこに流され、どのように利用されている?」
「宇宙ステーションの水利用はどうなっている?」
「自分の町の下水道は、分流式それとも合流式?」
「豪雨時、町を浸水から守るために行っていることは?」
「船の乗組員の水は、どのように確保している?」などです。
その授業のある時間に入らせてもらったのですが、子どもがこんなことをブツブツ言っていたのです。
「じゃあ、恐竜のおしっこをオレら飲んでいるんや」と。このつぶやきをどう思われますか。
 
中学校社会科公民的分野では、どんな永続的理解を考えていけばいいのでしょうか。実践は多くこれまでも出されてきたので、あえて提案することもないのですが、カリキュラムの面で少し考えてみたい枠組みがあります。
それは、「歴史的に見ても、現代もいろんな所や場面で対立があります。実際に対立をどのように対処・解決し、さらに対立が残る場合にはどうしたらいいのかを考えていきましょう」という大きな括りです。
ただ、どんな論争問題が適切かは、学ぶ子どもたちのリアルな文脈が大切にされる必要があります。というのも、事前知識がないところでは学びが成立しにくいと考えるからです。

4 「探究する」ということ
 「探究」が中高で今後はもとめられるのですよね。では、「探究」とは何かです。
学習指導要領も踏まえて、あえて定義すると、「探究とは、意味のある問いを示し、情報を見つけ、整理・分析し、結論を導き、可能性のある解決策を対話的に考えるプロセスのこと」としておきます。
しかし、子どもははじめから探究していく上で必要なスキルや知識は持ち合わせていないわけです。
そのために、まず求められるのが、教師によって生徒が課題に興味を持つように仕向けていくことですよね。これは、河原和之先生が取り組んでこられたネタ研の真骨頂の部分だと思います。
次に求められるのが、子どもへのはげましです。
面白いと思っても、やる気は長くは続かないのが、学びの姿としてよくあることです。はげましは、教師だけでなく、仲間や保護者、地域の方、実社会現場の人などからあるといいでしょう。
私がよく行っていたのは、カンファランスと言いたいですが、ほとんどカウンセリングでした。
それともう1つ!探究する手順を示すこと、または探究のモデル、中学生だったら高校生、かつての先輩のやってきたことがあると、前に進みやすくなります。

5 最後に「学びに向かう力」「主体的な学び」について
 新学習指導要領では、4観点から3観点になり、「関心・意欲・態度」が「主体的に学習に取り組み態度」に変わったことは周知の通りです。
また、この主体的な学びの評価は、これまでの関心・意欲に加えて、「粘り強く取組を行うとする側面」「自らの学習を調整しようとする側面」から、学びの姿を見取ろうというものです。
ここで考えておきたいのは、粘り強く取り組む態度だけを注目しても、その力の十分な育成にはつながらないということです。
「探究」にはある期間がどうしても必要です。この長距離(マラソン)を走るには、学習者は教師・仲間のはげましを受け、自己の振り返りから自分を知り、他者に思いをはせながら、示されたモデルからイメージしたゴールに向かって、できれば楽観的に!走る必要があります。
教師は教師で走り(学び)の中で、認知と非認知という2つのスキルがどう育成されているのかを見取り、子どもたちにその都度、フィードバックしていく必要があります。
この時、教師はどこにいるのでしょうか。伴走者として寄り添い、勝負どころの沿道脇でエールを送り、ゴール付近のラストスパートをきかす地点で、声を枯らしている。そんな姿でしょうか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 4 】授業に役立つ本 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 今月も、最近出版された本を二冊紹介します。
■安藤至大『ミクロ経済学の第一歩[新版]』有斐閣
①どんな本か
・2013年に有斐閣の大学向けの教科書ストゥディアシリーズの一冊として出され、好評だった最初の本をベースとした改訂新版の本です。
・今回の本も以前の本も、タイトル通りとにかくわかりやすい、ミクロ経済学の第一歩の本となっています。
・構成は4部12章からなっています。
 第1部は「ミクロ経済学の考え方」で、ミクロ経済学とは?と個人の選択を考えるの2章構成。
 第2部は「理想的な取引環境」で、需要曲線・供給曲線、市場均衡と効率性、理想的な取引環境への政府介入と死荷重の発生の3章構成。
 第3部は「市場の失敗と政府の役割」で、市場の失敗、独占、外部性、公共財、情報の非対称性、取引費用の6章構成。
 第4部は「ゲーム理論」で、ゲーム理論と制度設計の1章構成。計12章で、大学だと半期2単位分、初年度春学期の講義内容に相当します。

②どこが役立つか
・難しいとされているミクロ経済学の内容を、数式をほとんど使わず、一人でも読み通せるように、初学者が引っかかりやすい箇所をていねいに解説しているところは、中高でも、授業の進め方のヒントになる書きぶりの本です。
・交換の利益からはじまり、インセンティブ、トレードオフ、機会費用、限界的の4つのキーワードを押えて、完全競争市場での売手と買手の行動の分析、市場の効率性、市場の失敗の理由とその補正とオーソドックスな展開をして、最後にゲーム理論の入り口まで導く手順など、中高の教科書に書かれているミクロ部分の背景を押えるヒントになるでしょう。
・特にオススメなのは、新版で登場した、「ミクロ経済学の地図」です。これは、価格理論の島、ゲーム理論の島、応用分野の島、未開の新大陸と4つの島で現代経済学の全体像を示したイラストです。
・これを見ると、今学習している箇所がどこに位置するのか、また、これからどんな学習が待っているのかが一目瞭然にわかります。ちなみに、この本は価格理論の島を解説したもので、最後に釣り橋をわたってゲーム理論の入り口に到達するところまでの内容であることがわかります。
・26あるコラムにも、学生がつまずきがちの部分の詳しい説明や補足の説明があります。例えば、コラムの10ではグラフを書くときの注意、11では需要曲線なんて本当にあるのかという問いに対する答えが書かれているなど、これも中高でも役立つ内容が書かれています。

③感想
・かゆいところに手が届くということばがありますが、そんな本です。以前紹介したアセモグルの教科書などアメリカの教科書もていねいで親切ですが、あちらは大部なのに対して、半分以下のページでよくここまでと思わせる本になっています。日本の教科書も進化したものという感想です。
・「この教科書の使い方」に書かれている、実例を探しながら読む、友達に説明してみる、試験問題を作ってみる、というアドバイスは私たち中高の教員にとっても授業のストーリーや構成を考える手がかりになりそうです。(新井)

(2)野田遊『自治のどこに問題があるのか』日本経済評論社
①どんな本か
・野間敏克先生に推薦いただいた本です。
・著者は同志社大学総合政策学部の教授。地方自治、行政学の専門家で、大学の地方自治論のテキストとして書かれた本です。
・タイトル通り、地方自治に関する本ですが、中高の政治学習の地方自治を扱う場合だけでなく、私たちの自治意識を刺激するすぐれた本になっています。
・内容は三部、12章からなります。
 第Ⅰ部は、「主体」と題されて、地方自治の本質、制度的な歴史、議会の3つの章で構成。
 第Ⅱ部は、「管理と実践」と題されて、自治体と職員、税財政、市民ニーズと参加、決定と実施、評価と広報、協働の6つの章で構成。
 第Ⅲ部は、「編成」と題されて、広域連携、都道府県と市町村の関係、多様な地方自治制度の許容の3つの章で構成。
・テキストとして使う場合は、これで半期2単位の講義に相当する内容です。
・特徴は、オーソドックな地方自治の制度や現状の紹介にとどまらずに、「実学の地方自治論」とサブタイトルにあるように、議会、行政、市民の関係を実際の運用面と先端研究をもとにした分析、今後の展望と幅広くまとめているところです。
・特に、自治体からの情報提供と市民の意識、市民満足度、シェアードサービスなどの新領域や行動行政学(心理学を行政学に応用したもの)の紹介など、新しい研究動向などが扱われているところがユニークといえるでしょう。

②どこが役立つか
・役に立つ点は三つあると思われます。
 一つは、授業準備場面です。地方自治、地方財政は定番で必ず扱う箇所ですが、どうしても通り一遍になりがちです。そんな授業内容を、主権者教育の観点から現状の課題を踏まえたリアルなものにするのに役立ちそうです。
 二番目は、具体例です。例えば、地方議員の定員問題。都道府県議員が過剰であることを具体的に指摘しています。議員報酬に関しても都市部の高額報酬を議員の実態、国際比較などから具体的に指摘しています。そんな、リアルなデータが随所にでてきます。
 三番目は、「公(おおやけ)」の見直しです。私たちの担当教科は公民科、公民的分野です。来年度からは高校で「公共」がはじまります。その時の「公」は何かに関して私たちは日常の授業準備に追われて考えなくなりつつあります。著者は「公」はみんなのこと、私たちのことと指摘します。お上、お役所と表象されがちな「公」ですが、その見直しを迫る点でこの本は鋭い刃を私たちに突きつけている本です。

③感想
・とても良い本ですが、安藤先生の教科書に比べると、一見不親切な本で、好対照でした。テキストというより研究者の展望論文という性格が強いので当然でしょうが、まとめもないし、演習問題のようなものもありません。でも、著者の課題意識、危機意識がストレートに伝わる本でした。
・特に、自治体運営の原理、規準として効率性と民主主義をあげて、それがトレードオフの関係にあり、住民が無関心であると地域を滅ぼすという指摘は、自分自身の自治体との関わりを振り返っても、考えさせるものがありました。また、地方行政の課題と学校の課題がリンクしていることを感じます。
・Amazonのこの本の評価に、こんな不親切な本を教科書として買わせるな、評価1という趣旨の投稿が載っていました。この程度の文章を読むのをいやがり、レジュメ方式でポイントだけを教えろという大学生を生み出さない方策を、中高でも考えないといけないのではと深刻に感じました。(新井)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 中学校の新教育課程の新しい教科書を何冊か入手しました。
 これまでもそうでしたが、カラフル、資料の多さ、様々な学習課題の提示など、資料集や授業書のようです。教科書一冊あれば授業はすぐにできそうです。でも、こんなに過剰に親切だと本文まで生徒はたどり着かないのではとの思いも抱きました。
 今回、二冊の役立つ本を紹介しながら、中学の教科書の変貌と付き合わせて、読解力を付けるための方策とはなんだろうかと頭を抱えています。(新井)
Email Marketing Powered by MailPoet