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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2021-2-1◆◇
2月、如月。
コロナ対応の緊急事態宣言が東京・大阪などにだされました。今回学校は一斉休校にはなりませんでしたが、生徒の登校を週4日に短縮したり、クラブ活動や生徒の集会などを中止した学校もでています。
2月は入試の季節。初めての共通テストは、心配されたほど大きな混乱はなく終了しましたが、二次試験を中止する大学がでるなど大学入試も厳戒態勢で行われるようです。高校入試も、推薦試験での集団面接を取りやめるなどコロナに振り回される日々が続きそうです。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 企画中のイベントや21年1月の活動を報告します。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…共通テストの要求するもの
【 4 】授業で役立つ本…特集「私が薦める三冊」その1
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【 1 】イベントの案内と最新活動報告
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■「先生のための春休み経済教室」を開催します。
 テーマ:「教科書と現実のギャップを埋める-教科書がカバーできていない最新の情報化・金融の動きをどう理解するか-」
 日時:2021年3月27日(土)
 場所:Web会議システム上
 内容:篠原総一経済教育ネットワーク代表の講演「現代経済における新しい動向と教科書記述をどう埋めるか」
野間敏克同志社大学教授による講演「金融に関する教科書記述と現実のギャップ」
の二つの講演と、参加者による質疑・討論を予定しています。
 内容の詳細と申し込みは下記からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/01/2021.3HarukeizaiWebinar.pdf

■札幌部会を開催しました。
日時:2021年1月30日(土) 15時00分~17時00分
場所:Web会議システム上
内容の詳細はまとまり次第HPにアップいたします。
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のお知らせです。(開催順)>
■大阪部会(No.73)・東京部会(No.122)合同部会を開催します。
大阪部会(No.73)と東京部会(No.122)はオンライン会議にて行います。
日時:2021年2月20日(土) 15時00分~17時00分
申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2020/12/Osaka73flyer.pdf

<ネットワークメンバーの情報>
■安野雄一先生(大阪市立東三国小学校)の授業実践の記録、「未来を「そうぞう」する子どもを育む学びの構築」がHPに掲載されています。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/01/MiraiSouzou2021.01part1.pdf(資料前半)
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/01/MiraiSouzou2021.01part2.pdf(資料後半)

■篠原代表の論考、「「読み解き、考える」経済学習をすすめるために」(1月号「授業のヒント」)がHPに掲載されています。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2021/01/2021.01Prof.ShinoharaHint.pdf
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【 3 】授業のヒント 「共通テストの要求するもの」
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(1)難しかったなあ
 1月17日に実施された初めての共通テスト。コロナ禍でどうなるかと心配されましたが、鼻マスク騒動くらいで、そちらは大過なくいったようです。でも、テスト内容に関してはいくつかの波乱がありました。
 英語や数学などに関しては予備校などでの分析がすでに紹介されているので、関心のある方はそちらを読んでいただくとして、ネットワークの活動内容と関連する公民科の「政治・経済」では、予想平均点が50点をわり、70点を超えた「倫理」と得点調整が行われる事態となり、関連して「現代社会」もあわせて調整対象になるという予想外の結果となりました。
 筆者も、「政治・経済」の問題に翌日挑戦してみましたが、お恥ずかしいことに、制限時間の60分をオーバー、かつ、何題か間違えるという体たらくでした。一言で言えば「難しかったなあ。こりゃダメだ」です。

(2)なぜ難しいか、何が難しいか
 問題そのものは、現在は予備校などのHPに掲載されています。
https://nyushi.sankei.com/kyotsutest/21/1/exam/5560.pdf
 
まずは出題形式からみてゆきます。
 「政治・経済」の問題数は30問。これは前年のセンター試験の問題数より4題少なくなっています。問題数は少ないのですが、それに反比例して問題文が長くなっています。また、グラフ、図表、複数資料の読み取りなど問題構成が複雑になっていることも特徴です。
 問題を私流に分類すると、30題のうち、単純なというか純粋の知識問題は16題しかありません。のこりはグラフの読み取り問題が3題、図表の読み取り問題が5題、複数資料の読み取り問題が3題、そして計算が必要な問題が3題となっています。
 これは、前年と比較するとこの違いが良く分かります。
 前年では、34題のうち、知識問題が29題。データの読み取りが2題。グラフ・表を使った問題が2題。計算が必要な問題が1題という具合です。
読み取り問題といっても知識がなければ読み取れない問題もあるので、それらを加味すると、今年の「政治・経済」では、知識を前提にしつつ、それをもとにして文章や表、グラフを読み解けという問題が大幅に増えたということになるのではないかと思われます。
この点は、ネットワークの「夏休み経済教室」で鍋島史一氏(教育実践オフィスF)が指摘していた、短時間で3万字近い文章を読み解く読解力が必要という指摘がそのまま的中したのが、今年の「政治・経済」であったとも言えるでしょう。

(3)内容だってそれなりだ
 次に、内容から出題を分析してみます。大問は4題。
第1問は、「望ましい社会の姿」に関する生徒の発表という設定で、経済成長、所得分配、持続可能な開発の三つのテーマに関する設問です。ジャンルから言えば、経済学習の範囲です。これが結構難物でした。順番に問題に取組む受検生にとっては、最初に時間をとってしまい、正答率の低下の引き金になった問題かもしれません。

第2問は、大学のオープンキャンパスでの講義という設定の、民主主義の基本原理と日本国憲法に関する設問で、政治学習の分野の問題です。これも複数資料の読み取りや、二つの判例を使った読み取り問題が難物です。

第3問は、クラスの生徒たちが現代の経済状況について話し合いをしたという設定での、雇用や賃金、財政、銀行、国際政治に関する問題です。ここでは国債依存度やプライマリーバランスの計算や銀行のバランスシートの読み取りなど、大学の経済学部の学生に解かせたいような経済問題が登場していました。「おいおい」と言いたくなる難問です。

第4問は、「日本による発展途上国への国際協力のあり方」についての探究学習という設定の問題です。ここは現行学習指導要領で言えば、第三編「現代社会の諸問題」の部分の問題で、ここだけがやややさしい。ということはある意味予想通りの問題となっていて、得点源になったはずです。

 センター試験にあったようなリード文があって、そこから設問、それもリード文の趣旨とは関係ない知識問題などが引っ張り出されるという形式は少なくなり、すべてが、日常の授業風景や生徒の学習活動の設定から取られているのが特徴でした。
現場感覚からいえば、こんな授業をやる教師がどれだけいるのか、こんな生徒が本当にいるのというところが本音ですが、そのあたりは棚に上げておいても、よく「工夫された」出題のオンパレードであることは間違いありません。

(4)要求に応える三つの視点
 いくら出題の設定を皮肉っても、間違いなく、この傾向は続くででしょう。なぜなら、そもそもテストを起爆剤にして授業改善をねらって共通テストがつくられ、実施されているからです。その意味では、「おぬしやるな」の問題といえるでしょう。
 また、大阪の李洪俊先生(加味南中学校)が分析されているように、高校入試でも授業改善をねらいとした工夫された問題が出題されていることもあります。
http://test.belle-music.site/wp-content/uploads/2020/12/2020ExamHighSchool.pdf
 それらを考えると、受験対策だけでなく、普段の授業でも相当自覚して共通テストが要求するものに応える必要があるのではと思わざるを得ないことになります。
 
 さて、ではどう受け入れるか。ここでは、三つだけあげておきます。
 なによりも、読解のスピードを上げることを目指すことが必要ということを改めて確認しておきたいと思います。これは、素早くだけでなく、的確に文章を読むことも必要になります。まるで国語の授業のようですが、スマホ慣れをしている生徒たちに紙ベースでの文章をきちんと読ませるのは、すべての学習の基礎となる力を付ける前提であり、こころして指導する必要がある部分と言えるでしょう。

 二番目には、資料やデータの読み取りをできるだけ多く入れる事です。当たり前なことですが、その際、資料は複数。政策関連で言えば、肯定、否定は必ずいれる。多面的という点では、立場の違いによってもう一つの局面をいれるくらいの工夫が必要になっています。
 グラフやデータでは、グラフの傾向を見るだけでなく、縦軸は何を意味しているのか、単位は何か、などから始める必要があります。数字やグラフの変化の要因は何だったのかなども時系列の変化のなかで確認する必要もあります。それをやったら下手をすると授業時間のかなりの部分を使ってしまう事にもなりかねませんが、最初は丁寧に、次第に慣れさせるようにどこかで腹をくくるしかありません。ここは、学習が転移することを期待するところ大です。

 第三にあげたいのは、計算能力の確保です。今年の「政治・経済」の、大問1の問2(問題番号2)は、実質GDPから名目GDPを計算させたり、実質成長率を計算させたりする問題でした。慣れれば単純な計算問題ですが、GDPデフレーターの意味を理解しつつ、変化率を計算するのは、何を何で割るのかを判断して素早く計算するということで、なかなかの難物のはずです。

 同じような問題が、大問3の問3(問題番号18)にもあり、ここでは国債残高、国債依存度、プライマリーバランス、税の直間比率の四つを計算する必要がでてきます。もちろん、選択肢から逆算したり、選択肢を吟味することで正解にたどり着けないことはないのですが、その種のテクニックで対応するのではなく、基本的な計算能力を社会科や公民科でも養う心構えが必要になっていると言えるのではないでしょうか。

(5)隠れたメッセージを読み取る
 センター試験でもその種の問題がありましたが、共通テストから隠れたメッセージを込めた問題を見つけることも、授業を活性化させるヒントになるかも知れません。
 「政治・経済」では、政治の問題でダールの「ポリアーキー」の図式が出されています。この問題では、現在の日本国憲法下の政治体制を「包括性」と「自由化」の満たされたポリアーキーと位置付けていますが、それって本当なのかという問いをここから引き出すことができるでしょう。そもそも、ポリアーキー論まで視野にいれて民主主義の授業をやって欲しいという隠れたメッセージを読み取ることができます。
 同じく「政治・経済」では、先にもふれたように不良債権に絡んで銀行のバランスシート(貸借対照表)が登場しています。金融の授業で、バランスシートを使って教えたらというメッセージだけでなく、貸借対照表の考え方でできている領域、例えば、国際収支の考え方など、に視野をひろげて教えたらどうだろうというメッセージとして受け止めることもできます。
 他教科では、「世界史B」で、『史記』から正史における改ざんや焚書坑儒、オーウェルの『1984』が出されるなど、現在の日本の政治体制を批判的に捉える視点も欲しいというやはり隠れたメッセージを読み取ることもできる問題が出されています。ただし、設問はメッセージとは関係ない知識を問う問題でしたが。

 「倫理」では、吉本隆明、リオタール、ヨナス、ベンヤミンなどが登場しています。これらの人物は、すでに教科書には登場しているのでしょうが、この種の問題や選択肢は、どうも生徒向けというより教員向けの読書案内的な問題じゃないかと思わざるをえないとことがあります。
 ここから考えると、授業改善は、授業方法の改善だけでなく、授業者が現在の社会を広く、深くとらえて、いかに生徒と対峙してゆくのかを問い直すきっかけにしてほしいというメッセージがあるという面があるということで、そんなところもおさえておきたいところです。

(6)おわりに
 限られた時間でどこまで教えるかというの課題からみても、また、全国の学校は受験校だけでないということから言っても、共通テストだけを視野にいれての授業改善は一面的な指摘にもなりかねません。とはいえ、読解力、読み取り能力、計算能力はどんな学校でも求められる学力の要素のはずです。
 受験対策という視点だけでなく広い視野で授業を見直し、そこにおける改善方向を共有できることを期待したいものです。
 ここまで書くと、なんだか入試センターの代弁のような文章で終わりそうなので、最後に一つこんな社会人からの意見を紹介しておきます。これは、企業に勤めながら大学でも講義を行っていた私の知人が、今年の共通テストをやってみて、もらした感想です。
 「それにしても、あれだけの難解なテストをクリアした優秀な学生が、なぜ、毎年、大学の授業で私が出題する簡単なテストに満足に答えられなかったのかは永遠の謎です。」
(新井)
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【 4 】授業に役立つ本 「私の薦める3冊」その1
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 今月号の役立つ本では、これまで授業のヒントに寄稿された先生方から、授業づくりに役だった本を推薦してもらいました。題して「私の薦める3冊」。今回はその1として5人の先生のオススメ本です。順不同。到着順です。

■小谷勇人先生(青島日本人学校)
1 永井竜之介『リープ・マーケティング-中国ベンチャーの学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)
新型コロナの流行は中国国内のビジネスに大打撃を与えました。しかし、むしろ新たなビジネスを一気に開花させる機会ともなりました。中国のデジタル・イノベーションは今後さらに伸び、世界をリードしていくでしょう。中国企業のマーケティング戦略から学ぶことで、日本の製品・サービスが生まれ変われることを期待させてくれる一冊です。

2大島隆『芝園団地に住んでいます-住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』(明石書店)
2018年12月、「特定技能制度」の新設が決定されました。新型コロナの流行に伴い、一旦は外国人流入については足踏みとなっていますが、落ち着いたら増加の一途を辿るでしょう。外国人が同じ場所で暮らすとき何が起き、住民にはどのような感情が芽生えるのか、芽生える感情に対してどうすればいいのか。未来の日本を考える一冊です。

3 村上春樹『職業としての小説家』(新潮社)
世界的に有名な村上春樹の小説がどのような考えで生まれるか著した一冊。「学校について」という章で、日本の教育システムがそのまま社会システムの矛盾につながっているのではという示唆を与えてくれます。学校は誰もが必ず通る教育機関です。その影響力は計り知れません。学校という存在を再度考える機会となるはずの本です。

■杉田孝之先生(千葉県立津田沼高等学校)
1 池上彰・佐藤優『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済新報社)
本書はネットとの距離の取り方に悩む人や若者には特にオススメ!読書ばかりでなく、メディアとのつき合い方も変わります。良書に多く近づくためにも、「時間の無駄だった」と感じる悪書に近寄らないためにも、本書を読む価値あり。私の小論文講座を受ける多くの生徒も読んでいます。自らの知的生活をふりかえるためにもぜひ!

2 飯田健・松林哲也・大村華子 『政治行動論』有権者は政治を変えられるのか(有斐閣ストゥディア)
 この有斐閣ストゥディアシリーズは、主に社会科学を学びたい初学者向けには最適!自らの人生設計のために、高校生が学部選択をする際、読者を平易な言葉で学問の世界に導き、新鮮な知見と問いを形成するヒントを提供してくれます。筆者もシルバー民主主義打倒のための有権者教育の授業設計で本書と出会ってから、有斐閣ストゥディアがもう書棚に10冊以上になりました。

3 渡部竜也・井手口泰典 『社会科授業づくりの理論と方法』 (明治図書)
 ある時以降全く評価しなくなった出版社と、この教育学者の言説って何なの?と感じていた筆者。本書は恥ずかしながら確実に渡部ワールドに筆者を引き込みました。特に本質的な問いのあり方に焦点をあてて、定年まであと数年の高校教諭に授業改善を求めています。本質的な問いのあり方や著者を批判するならば、本書を読んでから。筆者にも批判内容をぜひご教示下さい!

■山﨑辰也先生(北海道北見北斗高等学校)
1 小磯修二『地方の論理』(岩波書店)
私は東京から離れた北辺の教師なので、中央の発想の受け売りをせず、相対化するようにしています。この小磯さんの「歴史的にも、創造的で大胆な発想は中央から離れた地方で生まれている。中央から距離のある辺境といわれる地域に身を置くと見えてくるものがある」という言葉に勇気をもらいました。北海道の地域活性化を事例にしており、北海道の比較優位性を考える上でもヒントになる本です。

2 保城広至『歴史から理論を創造する方法』(勁草書房)
歴史学者の歴史を見る方法と、社会科学者の歴史を見る方法の違いを検討している本です。経済学者が歴史を読み解くと、理論から演繹的に考察する方法が用いられます。この系譜にあるのは、篠原先生の歴史を読み解くシリーズや、昨年話題になった梶谷真弘さんの『経済視点で学ぶ歴史の授業』の本の内容です。経済の視点で歴史を捉えることの是非を考えるのにお勧めの1冊です。

3 H・リン・エリクソンほか『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践』(北大路書房)
国際バカロレア(IB)プログラムにおける概念型カリキュラムや単元設計の方法を紹介している本です。経済教育の概念型カリキュラムというと、アメリカの方法論を用いた新井先生、猪瀬先生、栗原先生の若きころの実践を連想してしまいます。これからの概念思考(=「見方・考え方」)を働かせる授業づくりをする上で、示唆の得られる1冊だと思います。

■塙枝里子先生(東京都立農業高等学校)
1 出口治明『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)
 ライフネット生命創業者、A P U学長の出口氏の著書の中でも特に敷居が低く、高校生でも手に取ることが出来る一冊。本書は日本の抱える22の論点について、基礎知識を整理した上で、著者の思考プロセスを紹介する構成になっています。私は高3生の日本史の授業で「憲法9条は改正すべきか」を扱い、大いに盛り上がりました。「主体的・対話的で深い学び」の幅を広げるのに役に立つのではないでしょうか。

2 山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)
 経済教育ネットワークでもお世話になっている大竹文雄先生ご推薦の一冊。労働経済学が専門の山口氏が、結婚、出産、子育てについて、エビデンスベースで分かりやすく解説しています。「キャリア女性ほど結婚のメリットは減る?!」、「マッチングサイトのリアル」、「離婚が子供にもたらす影響」など○○神話やタブーがある世界を理路整然と分析していく文体は心地良く、思わず「ほらね!」と誰かに話してみたくなるはずです。

3 藤野英人『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)
 Covid-19によるパンデミックは歴史に残る大きな転換期となりそうです。不確実性の高い時代に、私たちはどのような信念を持って、何を大切にして生きていくことが必要でしょうか。投資信託運用会社の代表でもあり、投資教育にも熱心な藤野氏は、自身が「投資家」みたいに生きることを推奨しています。投資は何もお金の使い方だけでなく、時間の使い方にも言えることです。今、私は限りある資源を生徒や自分のために投資できているのだろうか。問いかけ、歩みを進めたいと思います。

■金子幹夫先生(神奈川県立三浦初声高等学校)
1 渡辺秀樹『芦部信喜 平和への憲法学』(岩波書店)
 これまで『憲法』の芦部先生についての評伝は書かれていなかったそうです。著者は信濃毎日新聞の記者。新聞記者の文章は五感にまでとどく躍動感があります。恵庭事件、長沼事件、猿払事件と教科書や資料集に登場する出来事が次々に登場します。どうして憲法を学ぶことが必要なのかを感じさせてくれる,教師を元気にする一冊だと思います。

2 森 絵都『みかづき』(集英社)
 空欄に用語を書き込むワークシートをつくろうとすると手が止まることがあります。生徒は用語(記号)からどのようなイメージを描くのかがわからないからです。この作品は、昭和30年代の千葉県を舞台に学習塾と公教育をテーマに設定した小説です。勉強がわかる楽しさを知る補習塾、そして進学塾への転換・・・。何がわかると子どもは幸せになるのかを考えさせられる一冊です。

3 橋本健二『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)
 本書は「現代日本では格差は容認できないほど大きくなっており,格差を縮小させ、より平等な社会を実現することが必要だ」という立ち位置から「現代日本に存在する4+1=5つの階級がどのように生活しているのかを」アンダークラスという概念を用いて明らかにしていきます。生徒に読み取らせたいデータがたくさん掲載されている本です。
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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 共通テストの「倫理」に吉本隆明が登場して、ついに吉本も記号になったかと感じたのは団塊世代のオールド教員の「たはこと」のようです。
 今回のオススメ本の企画。推薦本から先生方の個性と教えている生徒たちとの関係が伺えて興味深いものがありました。
 それにしても、経済学の本が少ないのが気になります。授業に役立つ経済(学)の本が少ないとすると、これも「たはこと」になりますが、経済学者頑張れということになるのかもしれません。(新井)
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