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 4月、卯月、新学期です。
年明け以来新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、日本全国のほとんどの学校が休校になりました。それから一ヶ月、新学期を迎え、4月からの学校再開も再検討される事態となっています。
 学校だけでなく、コロナショックは今や世界経済を揺さぶる大きな不安材料となっています。オリンピックも延期が決定されました。今回の事態、少々大げさになりますが、14世紀に蔓延して中世封建社会を崩壊に導いた黒死病に匹敵する大きな衝撃を与える事件となるかもしれません。
 とはいえ現代は医学も知識も中世とは違うはずです。冷静かつ沈着に事態をみまもって、その推移を生徒とともに探究してゆきたいものです。
そんな今月もネットワークの活動を報告するとともに、授業に役立つ情報を提供いたします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 20年3月の活動やニュースを報告します。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント 「授業びらきの前に」
【 4 】授業で役立つ本「今月の一冊」
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【イベントの案内】 「夏休み先生のための経済教室」に関するお知らせ
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 恒例の「夏休み先生のための経済教室」、本年は東京オリンピックの関係で、これまで中学2日、高校2日で設定していた東京会場をそれぞれ1日に短縮して実施する予定で準備をすすめてまいりましたが、コロナ対応ために8月までは会場に多人数が集まっての集会そのもの自粛が要請されました。
 それをうけて、経済教室の形態および内容に関して、今後関係者との協議をすすめてゆくことになっています。
内容が決まり次第、本メルマガおよびHPに掲載いたします。
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【 1 】最新活動報告
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■先生のための経済教室in沖縄の記録がまとまりました。
 1月18 日(土)に実施した「先生のための経済教室in沖縄」の記録がまとまりHPにアップされています。
 当日講演をされた宮崎美喜男先生(都立国際高校)、河原和之先生(立命館大学他)、
篠原総一ネットワーク理事長の講演の詳細が掲載されています。
 ぜひお読みください。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2020/03/2020FuyuKeizaiOkinawa.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のお知らせです。(開催順)>
■先生のための経済教室in札幌(及び札幌部会)を延期いたします。
■東京部会を延期いたします。
■大阪部会を延期いたします。
いずれもコロナウイルス対応のための延期で、事態が落ち着き次第、日程場所などを本メルマガもしくはHPに掲載いたします。
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【 3 】授業のヒント 「授業びらきの前に 」
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新年度、新学期はどんな生徒が来るのだろう、今年度はこんな授業をして、このように授業を改善していきたいなど、新たな気持ちで生徒を迎えていることでしょう。そこで、今回は新年度の授業を始める前にやっておきたい準備と4月当初の授業について書きたいと思います。
(1)習慣化の絶好のチャンス
 授業開きする前に、生徒との約束事を考えます。必要になる約束事は以下のようなものです。
一つは、最近「整理、記名できない生徒」が増えているので、全員に教科書や資料集に記名させて自分のものと確認をさせます。
次に、授業の始めと終わりの時間を守ることを生徒に約束させ、教師も約束します、
また、この時間は、説明を聞く時間なのか、討論する時間なのか、個人で考える時間なのか、声を出して頭に入れて覚える時間なのかなどを区分して授業をすすめることを宣言して、生徒にも授業の受け方として習慣化するようにと確認します。
特に、時間を守ることと、授業時間を区分して臨むことを習慣として1年次に当然のことだとしてしまえば、高校3年生までこの習慣を続けられるはずです。

(2)黙読の時間の準備
 新テスト実施に向けた試行テストでみるように、問題文の正確な内容理解と、統計資料を読み取ることばかりでなく、それらを短時間に大量にこなすことが必要になっています。
そのために筆者は、昨年から授業のなかで黙読の時間を取りはじめました。この準備と習慣化が4月の課題です。
黙読の時間を導入するには、読むに値する読み物や統計資料を準備することが4月当初の課題になります。
 準備した教科書や資料集、授業で取り上げる主題に応じた読み物や統計資料を黙読させると、その部分だけでなく、多くの活字と統計資料などを正確に、かつ短時間に読み込むことができるようになります。そうなるために、まずは、読む習慣を付けるための黙読の時間を取り入れる、それを授業の中の習慣とするのが4月当初の課題と取組みです。

(3)4月当初から経済概念を
 次は年間の授業構想のなかの柱を考えることです。
筆者は多くの場合、高等学校で一年生対象の「現代社会」を担当しています。
「現代社会」では、普通は、現代社会の特質や青年期などからはじめる先生が多いかも知れませんが、筆者は、4月当初に希少性や機会費用、トレードオフ等の経済概念をあえて取り上げます。そして、これらの概念を、その後の、教科書での学習や時事問題、主題学習の内容と関係づけて、年間を通じて続けて実践するスタイルを続けています。
 しかし生徒にとっては、中学校公民的分野の授業から想像していた内容や授業スタイルとは大きく異なるので、びっくりします。そして、「先生は何を求めているのだろう」という疑問をもったり、「理解できない」と不安に思ったりする生徒も多くでてきます。
なぜなら、社会科の授業に対して多くの生徒は「この用語は大切そうだから覚える」という姿勢や感覚を持っているからです。言い換えれば、大切ではないとする用語や分からないとした用語は覚えない、考えない。筆者が語る経済概念は大切そうだが、簡単には受け止められないからです。
 この抽象的な経済概念が、自らの生活圏で普通におこなっている選択と結びついていることが分かったり、分からないから「理解しよう」と考えて、質問をしたりするようになれば最高なのですが、理想どおりにはいきません。

(4)「問い」を作る学びの機会を
 特に、4月当初は、経済概念をなかなか理解できません。生徒は何のためにこの経済概念を学ぶ必要があるかも分かりません。
一方で、筆者は、各学習単元のどんな場面で、またどんな学習でこの経済概念が活用できるか、さらに社会科学系大学に進学しても、この経済概念は活用できるという見通しを持っています。
「理解できない」「わからない」生徒の現状と、筆者の見通しの間のギャップを埋めるには、経済概念を、一年を通した授業のなかで、場面、場面で何度も繰り返して登場させる
ことが必要になります。それでも簡単には生徒は理解してくれません。
それを突破するためにできるのは、「問いの一文」を生徒に作らせて、質問や意見を言う機会を何度もつくる必要があります。
 逆に言えば、生徒が「問いの一文」を作るためにも、あえて「理解できない」「わからない」抽象的な経済概念を使って考えさせる、そんな場面を授業のなかで作ることができるかがポイントになります。
 生徒と筆者がともに「問い」を持つことをめざすために、あらかじめ「どのように授業設計し、実践すれば生徒は問いを持つのだろう」と考えておく必要がでてきます。
そんな一年間を通した授業構想や問いの立て方をじっくり考える事ができるのは、「授業開き」をする前の時期です。
先生方も「授業開き」の前のこの4月にこんなことを考えてみませんか。
                       (杉田孝之:千葉県立津田沼高等学校)
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【 4 】授業に役立つ本「今月の一冊」
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 新しい企画として、旧HPのオープン討論室で紹介していた「授業に役立つ本」を復活します。
(1)今月の一冊
 岩村充著『国家・企業・通貨』新潮選書
 ・著者岩村氏は日銀マン出身、現在早稲田大学教授。

(2)内容の概略
・サブタイトルが「グローバリズムの不都合な未来」となっていて、現在世界を覆っているグローバリズムがなぜ発生したのかを、主に金融面から歴史的にたどり、現状を分析、今後を展望しようとする本です。
・全体は6章に分かれていて、
 第1章 それらは19世紀に出そろった
 第2章 グローバリズムと分岐した世界
 第3章 競争の海に落ちる国家たち
 第4章 人々の心に入り込む企業たち
 第5章 漂流する通貨たち
 第6章 地獄への道は善意で敷き詰められている となっています。

・1,2章はグルーバリズムの歴史と現状をひろく概観、その上で、3章で国民国家、4章で
株式会社、5章で現代の通貨を取り上げて、問題点を分析して、6章で展望と警告を出すと
いう構成です。
・サブタイトル、章のタイトルをみれば分かるように、現状批判、将来は危ない(中間層
の崩壊、GAFA特にAとFによる人間精神や行動の支配)と主張している本です。

(3)授業で使えるところ
・本書への批判の書き込みに「雑学の寄せ集めにすぎない」というものがありましたが、
逆に、だから役立つ要素を持っている本です。
・現代をどのように捉えるか、ストーリーをもって時代や変化を捉え直す、きっかけにな
るはずです。政治でいえば、ホッブスもロックもルソーも登場します。経済では、スミス、リカードなどが登場。金解禁も高橋財政も登場します。金融が中心ですが、その枠をこえて著者の歴史観や時代観がわかります。当然、これは一つの考えですから、読み手は肯定的にも批判的にも突っ込みをいれながら読んで、歴史や公民の教科書ではなかなか得られない大きな物語としての歴史、時代をこんな風にまとめるやり方もあるのだという参考にすることができます。また、この本に登場する多くの思想家や出来事に関して、さらに専門書を読んでその知見を広めることもできます。
・話題のGAFA、ピケティ、仮想通貨、MMTなども扱われています。これで全貌がわかるわけではありませんが、ビビッドに現代のトピックスを生徒に紹介できるでしょう。
・コラムが46もあって豊富です。即使えるエピソードが発見できるかも知れません。

(4)感想
・岩村氏は紹介者と同世代。時代感覚や現代の捉え方に似たところを多く発見できて個人的には共感しましたが、はたして若い先生たちはこれを読んでどう感じるか、議論してみたいところです。
・「ビッグブラザー」と聞いて、何を想像できるか、そのあたりがこの本への評価を分けるリトマス試験紙になるかも知れません。(新井)
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【 5 】編集後記(みみずのたはこと)
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 コロナ対応もあり閑居生活が続いています。また、時々刻々事態が変化しています。そんななかでの編集作業です。
 今月から、「授業のヒント」の著者が変わります。編者が10年近く続けてきましたが、今回から若いメンバーが持ち回りで担当する予定です。現場のフレッシュな風が吹き込んでくるでしょう。
 そのかわり、旧HPに投稿していた「授業に役立つ本」を再開しました。「この本は使えるよ」というものがあったら、ご紹介ください。メルマガも一方通行でなく、対話の場でありたいと考えています。(新井)
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