reader reader先生


6月、水無月。梅雨のはじまりです。
新型コロナウイルス対応のための学校休校がやっと解除の方向となり、分散登校
や分散授業なども始まり、ふた月遅れの新学期というところまで来ました。
この間の学習の補填だけでなく、各種のイベントが中止になり、それを目指して
きた生徒へのこころのケアなど、学校現場では、新たな課題に直面する日々とな
ろうかと思います。
ネットワークの活動はzoomによるオンライン部会開催など、コロナによって逆に
新しい取組みを始めています。ウエッブ上の会議では、地域を越えて参加者が集ま
り、予期せぬ効果が現れています。
そんな今月もネットワークの活動を報告するとともに、授業に役立つ情報を提供
いたします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 20年5月の活動やニュースを報告します。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント 「リアルな授業で何をすべきか」
【 4 】授業で役立つ本
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【 1 】最新活動報告
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■東京部会を開催しました。
・日時:2020年5月9日(土) 14時00分~16時00分
・場所:ウエッブ会議
・主な内容:参加者19名
(1)金子幹夫先生(神奈川県立三浦初声高等学校)より、「生徒のいない教室
でどう授業をつくるのか」の報告と検討が行われました。
・これはメルマガ5月号の「授業のヒント」に掲載されたもので、オンライン授業
をやらざるをえなくなった状況でどのような授業ができるのかの試案です。
・検討では、ウエッブ授業の作り方のポイントの指摘や生徒の意見を集約するため
のレーダーチャートの活用法などが議論されました。

(2)山﨑辰也先生(北海道北見北斗高等学校)より、「少数民族(アイヌ)をめ
ぐる問題《たたき台①》」の提案がありました。
・新聞記事を使いアイヌ差別の実態を提示して、歴史と現状からアイヌ差別を考え
させ、経済的な貧しさから抜け出すための方策をA.センのケイパビリティ論から
考えさせようとする授業です。
・検討では、経済格差の是正を考えさせるには、データがもっと欲しい、アメリカ
のネイティブアメリカンやイヌイットの事例なども紹介したらどうかなどの意見
がだされ、さらに授業案として改善を目指すことになりました。
・また、札幌から参加された川瀬雅之先生(札幌市立北翔養護学校)から山﨑提案
の背景の説明がありました。

(3)大塚雅之先生(大阪府立三国丘高等学校)より、「公民分野の「情報社会」
に関する単元開発」の報告と討論が行われました。
・これは、先日の大阪部会で報告された内容で、東京でも検討することになった
実践事例です。
・質疑、討論では、評価問題から逆に授業構想することへの高い評価や、ルーブ
リックの先をゆく授業案ではという評価もあり、ネットワークメンバーでも共有
したいとの要望もされました。
(4)情報交換が行われました。
・カナダから参加された荒渡先生(同志社大学)や、中国から参加された小谷先生
(青島日本人学校)の現地の報告などネット会議は空間を超えるという特質が実感
される部会となりました。
 詳細は以下をご覧ください。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2020/05/tokyo116report.pdf

■大阪部会を開催しました。
・日時:2020年5月23日(土) 14時00分~16時00分
・場所:ウエッブ会議
・主な内容:25名参加
(1)安野雄一先生(大阪市立東三国小学校)より、「よりよい未来を切り拓く子ども
を育む学びの構築~学び・評価の在り方とその可能性~<単元:インバウンドと
未来の日本・大阪>」の授業提案と検討が行われました。
・小学校3年生の地域学習のなかの授業実践で、11時間配当の授業です。
・大阪の町の様子、インバウンドの推移と現状の紹介からはじまり、生徒による
インバウンドに関する調査、外部講師による遠隔授業などを加味しながら、グル
ープで地域とインバウンドのこれからに迫る授業実践です。
・生徒たちは、振り返りシート(ポートフォリオ)を使い授業で得た知見や考えを
表現し、それを共有しながら、考えを深めてゆきます。そして、インバウンドを
すすめてゆくべきかどうかを判断させ、最後に、大阪観光マップ作成とそれを駅
に掲示するという流れの授業です。
・検討では、生徒の変化やコロナでインバウンドが消えているなかで生徒の意見が
どう変化したのか、最後の壁新聞は授業のまとめとしてはどうだろうかなどの質疑
や意見がありました。
・篠原代表からは、今求められている新しい授業のスタイルの手順を踏んだ授業で
このスタイルを中高でも生かすことが課題となろうという指摘がありました。

(2)関本祐希先生(大阪府立市岡高等学校)から、「為替相場の変動要因を台本
を使って理解する授業」の提案がありました。
・国際経済の為替レートの決定と変動の学習で、生徒にどのように理解させたら
よいか、購買力平価やファンダメンタルズという内容が出てくるが、経済学的に
これでよいのかという問題提起がありました。
・検討では、為替レートの決定と為替レートの変化が経済に与える影響は別々で
あり、今の教科書では前者がほとんど書かれていないこと、ファンダメンタルズ
は教科書に書かれているような内容ではないことが篠原代表から指摘されました。
・関連して、中国の大学入試問題が紹介され、その解題から為替変動を学ぶ意味を
ここから学ぶことができるとの解説がありました。
・また、大学でのこの部分の教え方に関して、荒渡先生(同志社大学)、野間先生
(同)からの紹介がありました。

(3)丹松美代志先生(大阪学びの会代表)から「社会における新聞の活用」の
紹介がありました。
・ご自身の実践も含めて、NIEの実践事例が紹介されました。
・検討では、参加者から私もこんな実践を行ってきたという事例の紹介がありま
した。また、新聞を購読しなくなっている実態のなかで、どのようにメディア
リテラシー教育とクロスしながら教材づくりをするのかなどの問題提起もされ
ました。
 詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2020/05/Osaka69report-1.pdf

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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のお知らせです。(開催順)>
■j東京部会(No.117)を開催します
東京部会(No.117)はネット会議にて行います。
日時:2020年6月20日(土) 14時:00分~16時00分
場所:Web会議システム上。
参加申し込みは下記へ。
https://econ-edu.net/2020/05/12/2371/

■札幌部会(No.22)を開催します。
札幌部会(No.22)はネット会議にて行います。
日時:2020年7月11日(土) 14時00分~16時00分
場所: Web会議システム上。 
参加申し込みは下記へ。
https://econ-edu.net/2020/05/26/2873/

■大阪部会(No.70)を開催します。
大阪部会(No.70)はネット会議にて行います。
日時:2020年7月18日(土) 14時00分~16時00分
場所: Web会議システム上 
参加申し込みは下記へ。
https://econ-edu.net/2020/05/26/2369/

<情報紹介>
■教育実践研究オフィスFの授業提案
・教育実践研究オフィスFの代表、鍋島史一氏は、「夏休み経済教室」や「冬の
経済教室」などの講演で、精緻な入試問題分析と新しい教育実践に関する提言
をおこなってこられています。
・コロナ休業あけの授業に関する提言が同オフィスのHP上、公式ブログにアップ
されています。先生方の参考になる論考です。
・「新しい生活様式のもとでの学習指導」
 http://blog.kyouikujissen-ofcf.jp/202005/article_16.html
・なお、ネットワークHP,トップページの下の方にある「その他のお知らせ」から
 もアクセス可能です。
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【 3 】授業のヒント 「リアルな授業では何をすべきか」
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(1)はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大で学校が臨時休業となり約3ヶ月が過ぎようとして
います。この間,「学びを止めない」を合言葉に全国の学校でオンライン授業など
先進的なの取り組みがされてきました。
しかし,オンラインの有無に関わらず,今後求められるのは「学校で学習するリア
ルな授業」内容を精選することによって,効率的かつ深い学びを目指していくこと
ではないでしょうか。
そこで,今回は経済分野でどのような単元学習が可能かを提案したいと思います。

(2)教材案 「なぜ,市場に任せているとうまくいかないのか,考えてみよう!」
・科目:「現代社会」(対象:第1学年)
・単元名:現代の経済社会と経済活動の在り方〜市場経済の機能と限界,政府の役割
・学習内容の全体構成:
ステップ1~学習内容について,ワークシート等で基本事項を確認する【学外】
ステップ2~ワークシートの提出,確認テスト,三密を避けたリアルな授業【学校】
ステップ3~単元のまとめとなるレポート(1枚程度)を作成【学外】
*次の単元でステップ1に戻る
(この繰り返し,リアルな授業は何回確保できるのかで単元構成も考慮)

・ステップ1 リアルな授業の展開例
 先生:「皆さんには,市場経済の機能と限界,政府の役割についてワークシート
上で考えてもらい,先ほど確認テストをました(ステップ1の確認)。今日は,
なぜ市場に任せているとうまくいかないのか,じゃんけんを通して考えてみましょう。」

*じゃんけんルールのスライドを示す。
先生:「皆さんは,パーとグーしか出せません。パーで勝てば11点,グーで負けた
ら1点がもらえます。ただし,グーであいこなら10点ずつ,パーであいこなら2点
ずつがもらえます。もちろん,点数が高い方が勝ちです。かけ声は私がかけるので,
皆さんはエアーじゃんけんですよ。」

*再開後,生徒の座席は市松模様に配置する予定で,発言を想定していません。
先生:「さぁ、じゃんけんをしてみよう!!じゃんけーんっ」

*4回で区切り,繰り返し行う。得点の確認,優勝者の決定
先生:「優勝者の人,おめでとうございます。さて,この場合,最も勝つためには
どうすれば良いでしょうか(一方がパーを出し続ける)。では,二人の合計が高く
なるようにするにはどうすれば良いでしょうか(二人でグーを出し続ける)。」

*囚人のジレンマについて説明し,公共財,寡占市場における値下げ競争などの
市場の失敗,国際政治における軍縮の例につなげる。また,トイレットペーパーや
買い占めなどの話に展開しても良い。
*なお,厳密には買い占めは囚人のジレンマではなく,鹿狩りゲーム協調ゲームで
説明出来るそうです。

先生:「このように,市場に任せてそれぞれが利益を最大化しようとしてうまくい
かない場合,政府が登場します。実際,皆さんが目にする経済活動にはこのような
ケースが多いのですが,他にどのような事例が考えられるでしょうか。これまで学習
した内容でも構わないので,今日の授業や教科書を参考にしながらレポートを作成し
てきましょう。」(ステップ3へ)。

(3)あの手この手で効率的で深い学びを目指せ
日本全国で進むオンライン授業やホームルームの話を聞くたびに,私の生徒たち
は大丈夫だろうかと不安と焦りばかりが募っていました。でも,やっと顔を見る
ことが叶いそうです。
ただ,当面の間,対話を伴う活動を避けるため,生徒による発表や話し合い,ディ
ベートには制限がかかります。それでも,会えない時間が長い分,会えた時の授業
では,そこでしか出来ない学びを追究したい。
リアルな授業では,他者と共に学ぶ喜びを分かち合う教室を目指そうと思います。
                    塙枝里子(東京都立農業高等学校)
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【 4 】授業に役立つ本「世界経済図説第4版」
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(1)今月の一冊
・宮崎勇、田谷禎三著『世界経済図説第4版』岩波新書

(2)内容の概略
・図説で一番使われているのは『国勢図会』だろうと思います。毎年改訂されて、
教科の予算で必ずといっていいほど購入されているものです。
・今回紹介するのは、それとは違い、数年に一度改定される新書の図説です。第3
版が2012年の刊行だったので、8年ぶりの改訂ということになります。
・全体は10章に分かれていて、各章が見開きで9つの図表と解説、最後の10節が半
ページの総括という構成です。
・目次を紹介すると、
 1 世界経済の輪郭
 2 国際貿易
 3 国際金融
 4 多極化、地域統合と貿易摩擦
 5 指令経済と途上国の市場経済化
 6 デジタル・エコノミーの拡大・深化
 7 人口・食料・エネルギー・資源
 8 地球環境保全
 9 経済危機
10 世界経済の構造変化 となっています。

・目次でわかるように、国際経済を教える前に、現状を概観して世界経済の動向
と問題点を頭のなかで整理するには大変都合のよい本となっています。
・出たての本なので、「中国発、新型コロナショックで世界経済はどうなるか」
という腰巻きの文章のように、新しい事態も一端ですが取り上げられています。

(3)授業で使えるところ
・二つの使い方ができそうです。
 一つは、教えるための参考書です。例えば、今回の改定で入った6章のデジタル・
エコノミーに関してはコンパクトでありかつこの10年の大きな変化を捉えることが
でき、教材づくりの参考になります。
 もう一つは、図解や解説の書き方の参考にすることができます。図解に関しては、
もし自分が活用するならどこが使えて、逆に使えないのかを確認するとよいでし
ょう。解説に関しては、700字から800字(1ページ44字×16行)で、あるテーマ
を書くことができるかを試してみるために使うとよいでしょう。これは自分に対
するテストであると同時に、小論文を指導するときの参考にもなります。

(4)感想
・この種の本は、鮮度がいのちです。すぐに使えなくなります。仕方ないところ
ですが、それでも時代を超えた普遍的な部分は何かを考える手がかりになります。
・手許に第3版があれば、記述やデータを比較してこの10年の変貌を確認するという
手もあります。
・ちなみに、姉妹書の『日本経済図説第4版』の刊行は2013年。もはや使えない本
なのでおそらく改定中でしょう。これもどのように登場してくるか楽しみです。
(新井)
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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・アベノマスクはまだ届いていませんが、10万円支給の書類が我が家に届きまし
た(5月29日現在)。
・コロナショックは、経済教育にとっては教材の宝庫です。マスクが消えた、トイ
レットペーパーの買い占めが起こった、アプライチェーンが分断された、観光な
どサービス業の需要が蒸発した、10万円の特別定額給付金の効果は、財源は、、
などなど。
・アメリカの経済教育では必ず教える、There is no such thing as a free lunch.と
いう言葉を日本の生徒たちにもぜひ教えたいと思っています。(新井)

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