reader reader先生

弥生三月。春到来なのですが、新型コロナウイルス問題で大変な春になりそうです。
今日から、全国の学校が一斉に休業に入る措置がはじまります。
ネットワークでも、イベント、定例の部会などを中止もしくは延期の措置をとらせて
いただくことになりました。
現場で防御に奮闘している関係者に敬意を表しつつ、私たちは冷静にかつ自主的に
対応することが大事かもしれません。
また、感染症に関する正確な知識を持つと共に、経済的な観点や歴史的な観点から、
今回の出来事を見直すことも必要になるでしょう。
そんな今月もネットワークの活動を報告するとともに、授業に役立つ情報を提供いた
します。

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【今月の内容】
【 1 】最新活動報告
 20年2月の活動やニュースを報告します。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント 「おもしろ教材の落とし穴」
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【イベントの案内】 「先生のための経済教室in札幌」の開催を中止します
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 今回の経済教室は、金融と地域経済をテーマとして、「データや資料を読み解き、
読み解いた結果を使って考える」新しい教育にむけての授業改善に役立つ情報と実践
報告・教材紹介を行う予定でしたが、新型コロナウイルスの拡大もあり、中止とさせ
ていだきます。
 事態が落ち着いた段階で、また計画を立て直してご提案いたします。事情ご推察の
うえ、ご理解いただければ幸いです。
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【 1 】最新活動報告
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■HPが新しくなりました。
「先月号の予告の予定より遅れましたが、ネットワークのHPが新しくなりました。
新しい情報を掲載するだけでなく、これまでネットワークの活動のなかで蓄積して
きた、報告、授業案などを利用、検索しやすくなっています。また、過去の記録は
アーカイブとして保存してありますので、必要に応じてご活用ください。
なお、新しいHPには、河原和之先生の論文「「主体的、対話的で深い学び」をす
べての生徒に~ネタは「落ちこぼし」を作らない」が掲載されています。あわせて
お読みください。(HOME/資料室/論文で閲覧できます。)
 https://econ-edu.net/pdf/20200204Kawahara.pdf
当初は不具合が発生するかもしれませんが、その場合にはご連絡いただければ対処
してゆく所存です。なお、アドレスはセキュリティ強化のため従前のhttp:からhttps:
となりました。 (今まで通り’経済教育ネットワーク’で検索いただけます)
 http://test.belle-music.site/
 
■大阪部会(No.67)を開催しました。
日時:2020年2月1日(土) 18時00分~20時05分
場所: 同志社大学 大阪サテライト
内容の概略:出席者17名。

(1)篠原総一代表(同志社大学名誉教授)から、最近の経済教育ネットワークの活動が
報告されました。
(2)大塚雅之先生(府立三国丘高等学校)から、「公民分野の「情報社会」に関す
る単元開発-巨大IT企業問題を題材として-」と題する授業案が報告されました。
(3)奥田修一郎先生(大阪教育大学など)からは、様々な側面をもつAIを、中学公
民の授業でいかに取り上げるかについての問題提起がありました。
(4)安野雄一先生(大阪市立東三国小学校)から、「価値判断・意思決定力を育む社
会科授業~まちで働く人々と経済を結びつけて考える一方略~」として、小学校3年
生の社会科授業の実践例が紹介されました。
(5) 丹松美代志先生(大阪学びの会代表など)から、大阪教育大学の教員養成課程で
作成された社会科学習指導案のなかの企業単元のうち「株式会社のしくみ」を課題
とする授業が紹介されました。
(6)河原和之先生(立命館大学など)から、「少子高齢社会への対応策~ジグソー法
を通して多面的・多角的に考察する~」と題した授業例が紹介されました。
部会内容の詳細は以下をご覧ください。

https://econ-edu.net/2020/02/24/2473/

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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のお知らせです。(開催順)>
■東京部会を中止いたします。
下記の予定でしたが、コロナウイルス対応のため中止いたします。
日時:2020年3月13日(金) 19時00分~21時00分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス研究室棟446会議室
次回部会は、事態が落ち着いた段階でお伝えします。

■大阪部会を開催いたします。
日時:2020年4月11日(土)18時00分~20時00分
場所:未定
ただし、4月に入っても引き続きコロナウイルス対策が必要な場合には、
延期することがあります。
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【 3 】授業のヒント 「おもしろ教材の落とし穴 」
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(1)ある授業風景
 先日、公開授業を参観するチャンスがありました。
その授業は「倫理」で、『桃太郎』を素材にして、「桃太郎は父を殺した」という
鬼の子どもの訴えをもとに、正義は鬼か桃太郎かという授業でした。
 見学した授業では、子どもの訴えをもとに、鬼と桃太郎それぞれの言い分を提示
して、前の時間に提出したどちらが正義かという結論を、もう一度考えさせるとい
う流れで進みます。
 生徒は、最初の桃太郎に正義があるという回答から、グループでの討議を経て、
最終的にどちらが正義かをまとめて発表します。それをうけて、先生が、いろいろ
な立場の人がいて、考え方が違うので、対話が必要という形でまとめてゆきました。
 この授業を見て、二つの問題を感じました。

一つは、もう一歩の踏み込みがあったらいいのに、もったいないなという思いです。
もう一つは、ここに「おもしろ教材」を使う場合の落とし穴があるなという感想です。

(2)「おもしろ教材」の落とし穴
 この授業の何が問題と感じたのか。
それは、「おもしろ教材」の「おもしろ」部分に目がいって、「教材」の吟味、分析
が十分でなかったかということだと筆者は思いました。
 授業では、生徒は楽しそうにグループ学習を行ない、見学にきていた校長先生は
「普段の授業とはずいぶん違う」とお褒めの言葉を発していました。
 とはいえ、この教材から何をくみ出して、伝えるのか、もしくは発見させるのかと
いう教材分析がやはり十分ではなかったのではないかという思いは残りました。

 この授業は「倫理」ですから、生徒に伝えるかどうかは別として、少なくとも正義論
の古典的な押さえ(カント、ミル、現代ではロールズなど)が欲しかったところです。
民俗学的な考察も欲しいところです。
 もしこれが「公民的分野」や「政治・経済」だったら、模擬裁判にしたり、ディベー
トにすることも可能でしょう。
 ちょっと牽強付会に経済に結びつけるなら、桃太郎会社の社長と社員、社員間の比較
優位の組み合わせという視点も考えられます。
 「おもしろ教材」の陥りやすい問題は、生徒の食いつきの良さや意外性に注意がゆき、
教材への吟味が不足になりがちなところと言って良いでしょう。
残念ながら、そんな落とし穴に半分はまってしまった授業のようでした。

(3)「おもしろ教材」を分析してみると
 このコーナーでも、「おもしろ教材」の例として絵本や童話を教材になどの提案を
したことがあります。(2015年4月号、8月号、9月号)
 そこで今回は、あらためて「おもしろ教材」の例をあげて、教材としての切り口を
提示してみたいと思います。とりあげるのは、『レモンをお金にかえる法』のその1
です。(ストーリーは省略します。手に取って読んでみてください。また、その2は
昨年末の「冬休み経済教室」金子幹夫先生が、アッと驚く展開例を提示しています
ので、それをご覧ください。)

 さて、『レモン』をどう分析してゆくか。
a) 価格の決まり方から市場経済のメカニズムの学習として見る
レモネードという商品市場は完全競争市場に近い設定です。そこから、一度の交渉で
決まる自然価格、市場の売手と買い手(多数のこどもたち)の思惑から決まる市場価
格と価格決定の物語として展開もできます。
 この時、グラフを使って市場価格の決定を可視化することも可能です。

b) 企業経営の話とする
本のなかに、企業の目的は利潤をあげるということが出てきます。ここから、ミクロ
経済学の企業理論に持ち込むことができます。どうしたら、利潤が最大に出来るか、
数式にして計算させてもよいし、グラフで説明することも可能です。

c) 金融の話とする
主人公は、店を開くとき自己資金では足りないので父親から借金をします。最後に
は「耳をそろえて」返済しますが、利子はどうするか、父親以外から調達する場合
はどうするか、など起業と金融の話に持ち込めます。これって、今度の学習指導要領
の内容そのものですね。

d) ゲーム理論の導入にできる
主人公の女の子と元労働者のジョニー君は価格戦争をやります。これはゲーム理論
の囚人のジレンマ状況そのものです。それを解消するために、合併をするのですが、
寡占企業の結託はうまくゆかないというゲーム理論の世界へ誘い込むこともできます。

e) 労働問題の話とする
主人公の女の子に雇われたジョニー君は賃金、労働条件が不満なので争議になります。
レモネード屋さんはブラック企業なんですね。そんなときに、労働者としてどうする
か、現代的な切り口で話を展開もできます。
 また、機械による失業が登場して、AIに職場が奪われるというこれも現代的テーマ
に発展できます。

f) 起業の物語として攻める
最後に主人公の女の子が「成功した企業家」になったという文章がでてきます。
ストーリー全体を起業家教育のススメの教材とすることができます。

g) 文化論で迫る
女の子の行動はどうも日本人の感性とは大分、異なってドライです。なんでこんな
話を子ども向けの絵本にするのか、隠されたメッセージは何かを考えさせることを
通して、単なる経済の絵本ではないのではという形の問題提起も出来ます。
 もっと切り口はあるでしょうが、一つの「おもしろ教材」を分析するだけでこん
なに多面的要素が浮かび上がるのです。

(4) 問題は「教師の解釈」
 小見出しの表現は、斎藤喜博の本から取りました。
斎藤喜博は今や知る人ぞ知るという存在になってしまいましたが、昭和の時代のすぐ
れた授業実践家、理論家です。
 偶然手にしたその著作のなかに、授業案の作成について触れた箇所があり、そこに
「教師の解釈」という言葉がでてきました。
そこにはこんなことが書かれていました。(『授業の展開』国土社より)
「この項(教師の解釈)には、その教材に対面したその教師の全部の力が結晶されて
表現される…」「この項を読めば、その教師がどれだけの力を持ち、どれだけ深く確
かに教材を解釈し、教材と対面しているか、その教材での専門的な力をどれだけもっ
ているかわかる…」
 ちょっと怖いほどの迫力です。
どんな面白そうな教材でも、それに食いつき、咀嚼し、それを生徒に還元してゆく
プロセスは、時代を超えて変わらないでしょう。そのことを通して「おもしろ教材」
の落とし穴にはまらない授業が成立するのだろうと思います。
 
 それにしても、ここまで書いてみると、斎藤流に言えば、筆者の力量が白日のもと
にさらされてしまったようで、筆は災いの元かもしれません。(新井)
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【 4 】編集後記(みみずのたはこと)
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 コロナウイルス対応のために全国の学校が一部を除いて一斉に休校に入るというニュ
ースは、驚きです。「学校は不要不急のものとされ」という川柳ではないですが、正直
影響の大きさを考えると、もっと先に別の対応があるべきとの思いはぬぐえません。

一方ある意味では、壮大な社会実験と見ることもできます。この結果がどうなるか、
また、その間にどんな問題が起きたのか、当事者となる現場の先生方は記録と記憶、
そして事態が沈静化したら分析をしておいてもらえればと感じています。
そんなことを言えるのは、リタイア非常勤教員の「たはこと」かもしれませんが、少々
過激な発言をお許しください。 (新井)
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