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10月、神無月。大学や二期制の学校は後期の始まりです。
高校では、大学の指定校推薦の校内選考や出願も今月がピークを迎えるケースが多いのではないでしょうか。三年生の担任の先生や進路指導の先生は推薦書や面接指導、小論文の指導などで手一杯の日々かもしれません。中学でも同様の日々かもしれません。
学校外に目を転ずると、円安、物価上昇など経済に絡むできごとが続きそうです。また、ウクライナ戦争の行方なども目が離せません。社会科の授業ネタには事欠かないとは言え、有り難い話ではありません。そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 22年9月に開催された部会の報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…金子Tの授業づくり6回目。最終回です。
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる本を紹介します。
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【 1 】イベントの案内と最新活動報告
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■「冬休み経済教室」を企画しています。
 テーマ:「エコノミストとつくる社会福祉の授業」
 日時:2022年12月27日(火)13時30分~17時00分
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス+オンライン(zoom形式)
 内容:講演に『障害者の経済学』の著者、中島隆信慶應義塾大学教授を招き
現場教師とともに経済学の知見を活かした社会福祉の授業づくりを考えます。
 募集方法、内容の詳細など決まりましたらHPに掲載します。

■東京部会(No.130)を開催しました。
日時:2022年9月10日(土) 19時00分~21時00分
場所:会場開催は中止としてすべてオンライン(zoom形式)で行いました。
内容の概略:参加19名
(1)「夏休み経済教室」の総括を行いました。
鈴木深氏(東京証券取引所)より、「夏休み経済教室」のデータを基にした報告がありました。
全体の申込者は3日間合計で640名でした。内訳は以下の通りです。
16日90名(最大視聴者数) *事前申込者数142名
18日165名(最大視聴者数)*事前申込者数283名(15日対面申し込み者を含む)
19日150名(最大視聴者数)*事前申込者数215名
講義内容に関しては、全体に好評で、特に中学校向け講義は高評価だったとのことでした。また、政治や経済の現象の背景をもっと知りたいという要望と、授業で使える教材やヒントが欲しいという要望が拮抗しているとの報告がありました。

(2)杉田孝之先生(千葉県立津田沼高等学校)から「社会保障教育その後の授業」の報告がありました。
7月の東京部会で時間の関係で今回報告することになった実践で、22年6月20日付「読売新聞」に掲載された津田沼高校での杉田先生の授業の紹介と検討が行われました。
授業は、今の社会保障制度がうまく機能しているかを問うことからはじめ、人生のなかでのリスクにウエイトをつけさせ、それぞれの課題に関してデータの読み取りをもとに問題の解決を考えさせるというものです。
検討では、最初の問いの立て方、持続可能の用語の使い方、授業の最後に生徒に何をつかませるかをしっかり決めて生徒を話し合わせることが必要ではないかなどの意見がでました。
杉田先生からは、政策選択を考える生徒、選挙にゆく生徒をつくりたいというねらいがあったが、選挙前に若者の意見を知りたいという取材側の意向もあり、範囲やねらいが拡散したとの回答がありました。

(3)新井(目白大学非常勤講師)から「経済を戦争で教える、再考」の報告がありました。
メルマガ4月号のエッセイ「戦争を経済で教える」の続編の報告で、4月号のメルマガの内容のおさらいをして、続いて、夏休み経済教室でのウクライナ戦争に関する講演内容の紹介、その後の新聞報道などの紹介がありました。
そのうえで、もし経済学習でこの戦争を扱うとするならということで、経済の概念や分野で事例を整理した一覧表や、経済学習での戦争の扱い方の紹介がありました。

(4)西尾理先生(都留文科大学教養学部地域社会学科教授)による「平和教育からウクライナ戦争を考える」の報告と討論が行われました。
冒頭に、ウクライナ戦争を目のあたりにして、平和教育は、この戦争について無力であるという発言があり、その問題意識を踏まえて、ソ連崩壊後のロシアに関しての動向が紹介されました。
報告のなかでは、「経済が破綻している状態で民主主義を支持できるか」など、もしこの戦争を授業で扱う場合の「問い」の提示もありました。
この戦争をロシアと欧米というように二項対立ではなく多様な対立の中の一つとして民族問題の視点からも捉えるべきとして、2014年のクリミア併合から戦争は始まっているとの指摘もされました。
さらに、ロシアの民族問題、現在のウクライナ戦争の性格や現状の詳しい紹介がありました。
検討では、この報告を「歴史総合」の授業で生かすにはどうすればという問いや、戦争報道の受け止め方、北海道の先生からロシアを日常的に感じるなどの感想が寄せられました。
限られた時間でしたが、授業のヒントとなる精緻な事実の紹介と鋭い問題提起がなされた報告でした。
・部会の詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/09/tokyo130report-1.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■札幌部会(No.31)を開催します。
日時:2022年10月8日(土) 15時00分~17時00分
場所:キャリアバンクセミナールーム+オンライン(zoom形式)
  申し込みは以下から。
  https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/06/Sapporo031flyer.pdf
■大阪部会(No.81)を開催します。
日時:2022年10月29日(土) 15時00分~17時00分
場所: 同志社大学 大阪サテライト+オンライン(zoom形式)
申し込みは以下から。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/07/Osaka81flyerHybridZoom.pdf
■東京部会(N0.131)を開催します。
  日時:2022年11月19日(土) 15時00分~17時00分
  場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館オープンラボ+オンライン(zoom形式)
  申し込みは以下から。
  https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/09/tokyo131flyerZoomHybrid.pdf
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【 3 】授業のヒント 「6回シリーズ 金子Tの授業づくりノウハウ その6」
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折り紙トラック作りを通して学ぶ 「交換から分業へ」
                      金子幹夫(神奈川県立三浦初声高等学校)
0.はじめに
 前回は「交換」を授業でどのように学習するのかということを考えてみました。
生徒は、誰に指示されなくても、自然に自分が手放してもいいと考えているお菓子の量を考え、同時に手に入れたいお菓子は何かも決めます。教室の中を自由に動き回り、お菓子の交換が一通り終わりますと生徒はみんなニコニコしています。
 この時大切なのは、教師の発言です。交換をする場面で教師が“心の中”で発する言葉は「自分のお菓子のことを考えるのだ。人のことを気にするな。」です。心の中でというところが重要です。言葉に出してはダメな場面です。
教室の中にあるお菓子の量は一定です。そのお菓子をめぐって,一人一人の生徒は自分が一番満足する地点を目指して交換を続け、その結果、教室全体のお菓子は,みんなが満足するよう振り分けられていくことを目撃するのです。
この一連の出来事を目撃した生徒は,交換が安全かつ自由に行われる場所をつくりつづけていくことで、多くの人々が幸せになると受け止めるはずです。
これを受けて,次の授業に入ります。
この授業で、教師と生徒の間で共有したい問いは「交換が安全かつ自由に行われる場所をつくりつづけていけば皆幸せになることはわかったが,そこに何か問題点はないのか?」ということです。

1.生徒が持っている知識と知識をつなげるということ
 教科書には,交換は分業を活発化させる機能を持つということが書かれています。
そこで,分業について学習してもらうために「トラック工場」という教材を作成してみました。
 この教材は,一見すると「分業をすることで生産量が増える」ことを体験する授業のように見えます。しかし,教材作成者がねらっているのは別の部分にあります。それは,生徒自身に市場が抱えている問題点を言わせるということです。
授業は次のように展開します。
① ひとクラス35人を想定します。
② 100円ショップで購入した折り紙をひとりにつき3枚配付します。
③ 折り紙で作る「トラック」の設計図を配付します。
④ 一枚目はボディでエンジン部分をつくると説明します。
  二枚目は運転席の部分をつくると説明します
  三枚目は荷台部分をつくると説明します。
⑤ 三枚のパーツができあがり,のりでくっつけてトラックになるまでに約40分必要です。つまり40分で約35台のトラックが生産されることになります。
⑥ 次に教師が「40分で100台(様子を見て200台)生産できないかな?」と言います。 
⑦ 多くの生徒が否定的な見方をします。「そんなたいへんなことできるわけがない」   「無理だ」といったようにです。
⑧「そこをなんとか工夫できないかな」と問い続けます。
⑨ 仕方がないな・・・と生徒が思い始め,いろいろと工夫できそうなことをあげてくれます。「人数を増やそうよ」「気合いだ!根性だ!」「練習だ!」どれも間違ってはいません。意見として受け入れます。そして,誰かがある言葉を発するまで問い続けるのです。
⑩ その言葉は「分業」です。しばらく待っていると必ず誰かが「仕事を分ければいいんだよ」とか「流れ作業にしよう」と言ってくれます。
⑪ ⑩の言葉を捕まえて問答を繰り返します。その中で、エンジン部分を作るグループ、運転席をつくるグループ、荷台部分をつくるグループを形成してもらいます。さらに、各グループの中でも仕事の役割分担を決めて流れ作業を行います。
⑫ もう一つグループをつくります。それは、3つのパーツをのりでくっつけてトラ    ックを完成させるグループです。
⑬ 実際に作業を分担してトラック生産を開始します。時間はクラスの様子を見て判断しますが、30分前後がいいと思います。
⑭ どんどんトラックが生産されていきます。30分で70~80台の生産が可能です。
  分業が大量生産につながることを教室全体で感じ取ることができます。
 この教材のポイントは、どのようなことがあっても、必ず生徒の口から「分業」に関連することを言わせることです(⑩の部分です)。生徒が言い出したことをみんなで検証するからこそ分業と大量生産の関係を考えることができるようになるのです。

2.どうしてこの教材を創る必要があったのか?
 それは、生徒がトラックを作っている間に、これからの学習を進めるために必要な具材がたくさん発生するからです。トラック生産中の生徒は折り紙に夢中です。この時に教師は生徒の行動や発言に神経をとがらせる必要があります。
 気になったことはすべて黒板にメモ書きのように板書していきます。注目している発言や行動は大きく次の3点です。

 (1)折り紙が苦手な生徒が必ずいます
 第一点目は、折り紙が苦手な生徒の存在です。どのクラスにも必ずいます。折り紙自体が苦手な生徒もいれば、あまりにも几帳面な性格のため次の工程にすすめない生徒までいろいろです。この数人の生徒をクラスメートはどのようにうけとめるのでしょうか。ここでも先生は我慢です。生徒たちに解決してもらいます。どのクラスでも,折り紙の苦手な生徒は簡単な工程のところに配置するよう誰かが言ってくれます。
 経済の学習を進めていく中で,雇用と労働の問題を考える単元において、この時のエピソードを活用することができます。

 (2)効率を重視する中で見られる発言
 二点目は、生産中の生徒のつぶやきです。いろいろなつぶやきを拾い集めて黒板に書いていきます。「はやくはやく!」、「次々!」、「いいぞいいぞ」、「あっいけね、間違えた」、「いいよいいよ、そのくらい」、「わからないよ、完成しちゃえば」といった感じです。
 最後の二つの発言は多くの教室で見ることができます。そして注目したいのもこの部分なのです。私たちの顔を笑顔にする交換の場に、私たちの知らないところで欠陥品が混ぜられているかもしれないことを体験することができます。
 経済学習を進める中で,市場の失敗(情報の非対称性)を考える単元において、この時のエピソードを活用することができます。活用する際には、どうして欠陥品の生産を許してしまうことになったのか。欠陥品を市場に出してしまうとどのようなことがおこるのか。欠陥品を市場に出さないようにするためにはどのような工夫が必要なのかについて考察することができます。

 (3)後片付けの時の一言を待っています
 三点目は、後片付けの場面です。この授業では,机の上にゴミがたくさん発生します。失敗した折り紙のヤマ,はさみで必要な部品を切り取った後の残骸等々です。「ゴミ箱に入りきらないよ」との声が一気に寄せられます。
 まず,ゴミ箱の大きさは一定で,大きくならないことを確認します。ゴミ箱の大きさは、教室における一日のゴミ処理能力を表しています。私たちはトラック生産においてゴミ箱のことを忘れて生産に取り組んできました。出てくるゴミは,教室のゴミ箱がほぼ無限に吸収してくれるのだろうといった前提を描いていたのかもしれません。結果としてゴミは溢れてしまったのです。
 このエピソードも経済学習を進める中で,市場の失敗(外部不経済)を考える単元において活用することができます。ゴミを少なくしてトラックを生産する方法はあるのかを,自身の体験を参考に語ってもらいたいところです。
その上で「ゴミを出しすぎたら罰金を取る」であるとか「ゴミを有料化する」であるとか,そのゴミそのものが取引の対象になるといったアイディアが出されると思うのです。

3.文字記号以外でも学ぶところがある経済学習
 この授業は,ものづくりを通して,市場はものすごく魅力的で私たちに幸福をもたらしてくれるのだが万能ではないという内容を生徒自身が発言するという構成になっています。
 生徒はこの学習内容に加えて,別のことも学び取っているはずです。それは例えば,仲間とのコミュニケーションを取ること、大量生産に挑戦するということ、チームワークといった協調性、まじめに働くといった態度、我慢強さ等々です。これらの学びは,文字記号一辺倒による学びに,さらに厚みを増す深い学びにつながるのではないでしょうか。

4.おわりに
 教室という狭い空間に限定される中で、交換と分業の授業について考えてきました。一連の授業で生まれたエピソードは,教科書の記述につなげることができます。
 そこであらためて「どうして高等学校における経済学習の冒頭で交換と分業について学習するのか」ということを考えてみたいと思います。
現時点で次のように考えています。
それは,数ヶ月にも及ぶ経済学習を乗り切るためには,生徒の心の中に経済学習に必要な座標軸のようなものが必要だということです。分業が上手く機能しているのか、それとも機能していないのかを考えること。そして交換がうまく行われる環境が整っているのかどうかを考えることで経済的な見方や考え方を(教師と生徒が)共有することができると思うのです。
限られた資源がどのように分配されるのかを考える際に,交換から分業という学習をはじめに行うことで、生徒の中に,考えるための基盤が形成されてゆくのではないでしょうか。
*これまでのシリーズ
第1回 https://econ-edu.net/2022/05/01/3982/
第2回 https://econ-edu.net/2022/06/01/4003/
第3回 https://econ-edu.net/2022/07/01/4031/
第4回 https://econ-edu.net/2022/08/01/4061/
第5回 https://econ-edu.net/2022/09/01/4086/
*「金子Tの授業づくりのノウハウ」は今回が最終回ですが、加筆してHPに掲載の予定です。ご期待ください。
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月も、授業づくりのヒントになる本を紹介します。
■ヤニス・バルファスキ『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』(ダイヤモンド社)
①どんな本か
2015年のギリシャの経済危機の時に財務大臣を務めた経済学者の著者が、オーストラリアにいる10代の娘に向けて書いた経済の本です。
翻訳は2019年に出されていましたが、この夏、NHK・Eテレの『100分de名著』に取り上げられて再び注目を浴びています。

②本の内容は
プロローグ、エピローグと全8章からなっています。各章のタイトルと扱っている主な内容は以下の通りです。
 第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか?-格差の発生とその拡大
 第2章 市場社会の誕生-市場の発生とその発展を歴史的に紹介
 第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ-企業経営と借金の関係
 第4章 「金融」の黒魔術-お金の発生と金融の役割、焦げ付いたときの対処法
 第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界-労働市場と金融市場
 第6章 恐るべき「機械」の呪い-技術進歩と労働
 第7章 誰にも管理されない「新しいお金」-仮想通貨
 第8章 人は地球の「ウイルス」か-環境問題
大きく、格差問題、市場経済の光と影、労働問題、お金と金融の問題、環境問題の5つがテーマと言えるでしょう。

③どこが役に立つか
それぞれのテーマに関する授業の時に、そこにでてくるエピソードや考え方を参考にすることができるでしょう。
例えば、第4章での銀行が無から貸し出すお金を生み出す仕組み、金融危機の時の中央銀行の魔術など、教科書では表面的にしか扱っていない現代の金融の姿が生々しく描かれていますから、金融の授業はリアルなものになるでしょう。
『ファウスト』、『怒りのぶどう』、ギリシャ神話などから説いてゆく叙述は魅力的です。また、『ブレードランナー』『マトリックス』などの映画から現代の経済社会を捉える手法なども参考になるでしょう。

④感想
プロローグでの「若い人たちに分かる言葉で経済を説明できなければ教師として失格」という言葉に納得しました。私たちもめざしたい志です。
一読して、これはマルクス経済学の現代版だと思いました。事実、プロローグで影響を受けた思想として「カール・マルクスの亡霊」が上がっています。その意味で、現代経済学の主流派の考えとは異なることを押さえて使うなり参考にすると良いと思います。
でも、金融の箇所はMMTの発想そのもので、古典と現代がほどよくミックスされている反市場主義のスピード感あふれる本といえるでしょう。

■前田裕之『経済学の壁 教科書の「前提」を問う』(白水社) 
①どんな本か
元日本経済新聞の記者が書いた経済学の本、というより経済学説史の本です。
現代の経済学者、エコノミストがどのような立場で論じているかが分かるととともに、古典派経済学から現代経済学までの内容が分かりやすく紹介されています。

②本の内容は
全体は7章構成です。
 第Ⅰ章と第Ⅱ章は、経済学者の類型、経済学とは何かのタイトルで、総論的な内容が記述されます。
 第Ⅲ章から第Ⅵ章までは、ミクロ、マクロ、異端派、現代経済学など経済学の様々な潮流、学派が何と17も紹介されています。
 最後の第Ⅶ章で、経済学との付き合い方を再論しています。

③どこが役立つか
授業で直接役立つ箇所は少ないでしょうが、第Ⅰ章と第Ⅱ章の、経済学者とエコノミストとの違いや、経済学批判の類型やそれにたいする主流派の経済学者の考え方が紹介されている箇所は、今の中高の教科書がどのような立場で書かれているかを知る意味で参考になるでしょう。
経済学の内容に関して知りたい先生には第Ⅲ章からの部分を通読することで、現代経済学までの足取りがわかります。ただし、この種の知識は下手をすると一知半解になるので、こんなものだという程度にしておいた方が良いかも知れません。

④感想
著者は元日経の記者だけあって、数式を一切使わないで文章だけ、それも大事な箇所には傍線が引かれているという構成なので、読みやすさと言う意味では抜群です。
ただし、正確さを期して淡々と書かれているので、バルファキスの本のような疾走感、爽快感はありません。悪く言うと、いや良く言うと、優等生の読書ノートとという本かもしれません。
ちなみに、著者前田さんは、岩井克人さんの『経済学の宇宙』(日本経済新聞出版社)のインタビューアーとして同書をまとめた人です。

■水越康介『応援消費-社会を動かす力』(岩波新書)
①どんな本か
マーケティングの研究者が、東日本大震災やコロナ禍などをきっかけとして盛り上がってきた「応援消費」を切り口に、現代の消費動向、それと市場経済との関わりを書いた本です。
寄付と消費、ボランティアと応援消費、ふるさと納税を巡る寄付と消費、バイコットなど、消費と経済全体の流れを考える上で参考になる事例が多く紹介されています。

②本の内容は
全体は7章構成です。
 第1章で応援消費の定義とその言葉がいつから登場したのかが紹介されます。
 第2章で寄付とボランティアの違い、応援消費との関連がまとめられます。
 第3章はふるさと納税を巡る問題が扱われます。
 第4章では世界における応援消費の紹介で、バイコット(ボイコットの反対で購入することで応援する運動です)の紹介です。
 第5章、第6章では、著者の専門のマーケティングから応援消費を分析します。
 終章で、それまでの事例や分析を総括します。

③どこが役に立つか
マーケティングという言葉は社会科や公民では登場しない経営学の言葉ですが、中学で言えば「消費者と経済」の箇所、高校で言えば消費者の権利と責任(法、契約の箇所)での学習にリンクすることができる内容です。
第1章の応援消費という言葉の登場を新聞の検索機能で調査する箇所は、探究活動の事例として使えるところでしょう。
第3章のふるさと納税の箇所は、返礼品競争の在り方、地方財政の問題など、論争型の授業や調べ学習など、幅広く授業で扱うヒントになるしょう。

④感想
あらためて応援消費と言われなくても、生協の品物やフェアトレードの商品、特定の産地やメーカーの品物を選んで買うことも多く、日常結構それに近い消費行動をしているなというのが紹介者の感想です。
「寄付もボランティアも、そして応援消費もまた、決して純粋な贈与たることは出来ず、交換化され、市場化される可能性を伴ってしか実現できない」(p180)という著者の言葉は、少々難しいけれど考えさせられる言葉でした。
教科書にでてくる自立した消費者からアクティブな消費者への展望が見えるコンパクトな本だと思いました。(新井)
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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 少々季節外れの話ですが、夏休み明けに教えている中三の生徒に夏休みの総括を書かせました。受検生なのに旅行に行ったと書いた生徒が多くてびっくり。行き先は、北は北海道、南は沖縄まで全国各地に及び、なかには海外にでかけた生徒も。もちろん、塾と家庭の往復と書いた生徒もいました。
 丁度授業で景気変動を扱っていたこともあり、「夏休みは不況だった」と書いた生徒がいて、「座布団一枚」。次の授業では「僕の成績はデフレスパイラル」というのも出てきて、座布団はインフレ気味になりそうです。(新井)
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