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8月、葉月。夏休み経済教室が開催されますが、新型コロナの拡大に伴い、当初の計画を変更してすべてオンラインで実施します。
新型コロナの拡大もそうですが、今年は予想もしなかった出来事が連続して起こります。ウクライナ侵攻がそうですし、先月の安倍元総理の殺害もそうでした。戦後77年。例年、夏は戦争や平和を考える時期ですが、今夏は社会科、公民科の教員にとって、経済に加えて、「戦後」「戦争」「平和」の意味を根本的に考えなければいけない夏になりそうです。
とはいえ、生徒にとっても、先生にとっても貴重な閑暇(スコーレ)の季節。そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】イベントの案内と最新活動報告
 「夏休み経済教室」変更のお知らせと22年7月の活動の報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…金子Tの授業づくり4回目。
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる本を紹介します。
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【 1 】イベントの案内と最新活動報告
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■「夏休み経済教室」は、新型コロナ拡大のため、すべてオンライン実施にさせていただくことになりした。予定変更で大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただければ幸いです。
なお、変更内容は以下でご確認ください。
・大阪教室(内容詳細はこちらから)
<8月15日(月)中学校向け> 
会場:大阪取引所北浜フォーラム(対面のみ) 9時30分~15時50分
⇒全面中止となります。すでに申し込まれた方は、同じ内容の17日の東京からのオンラインでご参加ください。オンライン参加に関して、特別な手続きは不要です。
<8月16日(火)高等学校向け>
会場:大阪取引所北浜フォーラム(ハイブリッド) 9時30分~15時50分
⇒対面会場は中止となり、すべてオンラインで実施いたします。すでに会場参加で申し込まれた方はそのままオンラインでご参加ください。その際、オンライン参加に関して、特別な手続きは不要です。
*対面参加をお申込みいただいた先生方には、後日改めて東京証券取引所よりメールにて必要事項をご案内します。

・東京教室(内容詳細はこちらから)
<8月18日(木)中学校向け>
会場:東京証券取引所(ハイブリッド) 9時30分~15時50分 
⇒対面会場は中止となり、すべてオンラインで実施いたします。すでに会場参加で申し込まれた方はそのままオンラインでご参加ください。その際、オンライン参加に関して、特別な手続きは不要です。
<8月19日(金)高等学校向け>
会場:東京証券取引所 (ハイブリッド) 9時30分~15時50分
⇒対面会場は中止となり、すべてオンラインで実施いたします。すでに会場参加で申し込まれた方はそのままオンラインでご参加ください。その際、オンライン参加に関して、特別な手続きは不要です。
*対面参加をお申込みいただいた先生方には、後日改めて東京証券取引所よりメールにて必要事項をご案内します。

・オンライン参加に関してはまだ余裕がありますので、お申し込みいただければ幸いです。
・すでに出張手続きや旅行計画などを準備されている先生方には大変なご迷惑をおかけする事態になってしまいますが、事情ご理解のうえ、ご参加いただければ幸いです。
・なお、オンライン実施でもプログラム(講演講師、時程)の変更はございません。

■大阪部会(No.80)を開催しました。
日時:2022年7月2日(土) 15時00分~17時00分
場所:同志社大学 大阪サテライトとZoomによるハイブリッド方式
主な内容:24名参加(会場9名+zoom15名)。
今回の大阪部会は「先生のための夏休み経済教室」発表が予定されている3人の先生からの報告をもとにして、議論がかわされました。

(1)梶谷真弘先生(茨木市立南中学校)からは「歴史で経済を教える-経済視点で学ぶ歴史の授業-」の報告がありました。
この報告では、自身の淀屋常安を取り上げた授業実践と歴史学習で経済の視点が必要な理由が 3 点提示されました。
また、特に重要な視点としてマンキューの経済学教科書にある 10 大原理が紹介され、どのような場面に使えるのかについて、例をあげながら説明が加えられました。
また、時代の進行とともに、段階的に資質・能力を身につけていく学習法の考え方が示され、そのような学習事例として、徳政令や吉宗の政策を取り上げた授業が紹介されました。
検討では、資料の扱い方、歴史学習と経済概念の関係などの質問や助言がありました。

(2)奥田典大先生(奈良学園中学校・高等学校)から「共通テストの趣旨を活かした「公共」経済の授業」と題した報告がありました。
報告では、共通テスト「公共」「政治経済」の問題を分析することから始められた。その分析もとに、共通テストの問題を解かせた結果や、生徒達の感想も紹介されました。
これらの分析から、共通テストで高得点を取るためには、.文章読解力や資料読解力をつけること、知識を固めること、思考・判断・表現力、考察する力の育成を目指した授業が有効であるとの結論が提示されました。
検討では、「主体的・対話的で深い学び」の授業実践例としてグループ学習やジグソー法の活用などが提案されました。

(3)同じく「共通テストの趣旨を活かした「公共」経済の授業」について、金子幹夫先生(神奈川県立三浦初声高等学校)からも報告がありました。
金子先生は、共通テストを受ける生徒がごく少数の学校でも、共通テストの趣旨は「公共」の授業に活かすことができるとするものです。
共通テストの趣旨を明確にするための分析手法として用いたのは、横軸に「日常生活に近いか遠いか」、縦軸に「考え方を問うのか知識を問うのか」を用いた四象限分類です。
その分類からは、「日常生活に近く・考え方を問う」問題「共通テストの趣旨を活かした「公共」経済の授業」はほとんどなく、わずかに機会費用に関係する問題と校長先生の講話が使われている問題だけであったとのことでした。
これらの分析を踏まえて、金子先生からは機会費用に関する授業案が提示をされました。
奥田先生の提案、金子先生の授業案ともまだドラフト段階なので、さらに検討を加えて「夏休み経済教室」で提案する予定です。
部会内容の詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/07/Osaka80report.pdf

■東京部会(No.129)を開催しました。
日時:2022年7月22日(金) 19時00分~21時00分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス校舎とZoomによるハイブリッド方式
内容の概略:31名参加(会場5名+zoom26名)

(1)熊田亘先生(筑波大学附属高等学校)から、夏休み経済教室に発表予定の「共通テストの趣旨を活かした「公共」経済の授業」の報告がありました。
 熊田先生からは、学校の実情を踏まえたご自分の授業の方針が述べられ、具体的な授業事例が三つ紹介されました。
 続いて、金子幹夫先生から、同じく夏休み経済教室向けに大阪部会で報告があった機会費用に関する授業の改訂案が提示されました。
 検討では、夏休み経済教室での発表時間60分で多くの事例の紹介は難しいだろうから提案を絞ることが提起され発表までに検討してゆくこととなりました。

(2)河原和之先生(立命館大学他)から、同じく夏休み経済教室で発表予定の「地理で経済を学ぶ」の概要の報告がありました。
 学習指導要領や地理学の五大テーマを踏まえた多くの事例を予定されていて、その概要が紹介されました。
 検討では、当日コラボで登場する加藤一誠先生(慶應義塾大学)から、事例の絞り込みと絞り込んだ事例を教育面からと経済学からの両側面から解説してゆきたいとのコメントがありました。

(3)新井(目白大学非常勤)から、夏休み経済教室で発表予定の「情報から金融を教える」の概略の報告がありました。
 LINEや静岡大学の塩田研究室との共同で開発された金融情報教育の三つの教材とその開発プロセス、教材を取り入れた授業例などを当日、塩田真吾先生とともに報告することが紹介されました。

(4)鈴木深氏(東京証券取引所)より、夏休み経済教室の申し込み状況の報告とコロナ蔓延の場合の対応など、今後の予定が報告されました。

(5)杉田孝之先生(千葉県立津田沼高等学校)の「社会保障教育その後の授業の論点」の報告と検討が予定されていましたが、時間の関係で資料紹介だけで、次回検討することになりました。
 部会内容の詳細は下記をご覧ください。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/07/tokyo129report.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■東京部会(No.130)を開催します。
日時:2022年9月10日(土) 19時00分~21時00分
場所: 慶應義塾大学三田キャンパス校舎+オンライン(Zoom形式)
  申し込みは以下から。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/07/tokyo130flyerZoomHibrid.pdf

■札幌部会(No.31)を開催します。
日時:2022年10月8日(土) 15時00分~17時00分
場所:キャリアバンクセミナールーム+オンライン(Zoom形式)
  申し込みは以下から。
  https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/06/Sapporo031flyer.pdf

■大阪部会(No.81)を開催します。
日時:2022年10月29日(土) 15時00分~17時00分
場所: 同志社大学 大阪サテライト+オンライン(Zoom形式)
申し込みは以下から。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/07/Osaka81flyerHybridZoom.pdf

<その他のお知らせ>
■第51回ネタ研のご案内(既報)
日時:8月21日(日) 10時00分~20時00分
会場:高津ガーデン(大阪上本町下車北東徒歩5分)
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【 3 】授業のヒント 「6回シリーズ 金子Tの授業づくりノウハウ その4」
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経済の概念は教えられるのか?   
                    神奈川県立三浦初声高等学校 金子幹夫
0. 問題点が見えてきました
 この連載も第4回目を迎えることができました。ここまでで見えてきたものが2つあります。一つ目は、教師が発信している概念を生徒がどのように認識しているのかという問題です。二つ目は、わかりやすい教材を作成しようとする時に直面する、教師と学問の関わり方という問題です。
 この2つの問題は、つながりを持っています。教師は、生徒にとってわかりやすい教材をつくるために生徒の認識状況を調べます。同時に教師は目の前の生徒に適した教材を作成するのですが、そこで直面するのが経済学の世界です。どこまで生徒の認識に即した具体的事例を当てはめていいのかを考えるのです。
 そこで第4回目は、経済に関連する概念を生徒に伝えることについてもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

1.はじめに登場する概念
 筆者が使用している教科書で、経済分野のはじめに登場する概念に「機会費用」があります。さて、どうやって手に取って見ることのできない知識を生徒に伝えたらよいのでしょうか。職員室では「概念を教えるのは難しいねー」という会話が聞こえてきます。
この難しさを乗り越えるために考えることは「どうして機会費用を学ばなければいけないのか?」を生徒と共有することだと狙いを定めました。

2.なぜ「機会費用」を学ばなければいけないのか?
 「さあ、今日から経済分野の学習です。教科書のはじめに登場するのは『機会費用』・・・」なんて授業をはじめてしまうのは、生徒にとっては教える側の都合に聞こえてしまいます。生徒は「なんで機会費用なの?」、「それ学習していいことがあるの?」と受け止めてしまうと思うのです。
筆者は、目の前にいる生徒について、教科内容の知識が生活経験から得た知識と接する時に何らかの反応をするのではないかと推測しています。
そこで機会費用の事例探しが始まるのです。筆者は「高校生の進路」を題材に選びました。

3.経済学習の入り口で概念を教えることができるのか?
 経済学者の猪木武徳先生は「われわれが観察の対象を認識する場合、実は目で見ているというよりも、概念で見ていると表現した方が適切なことが多い」と指摘しています(『経済社会の学び方』中公新書)。
筆者は高校生が抱えている進路の問題をストーリー化して提示することで、自分の人生を選ぶということを考え、そこで得られる価値と得ることのできない価値を概念として受け止めることができると判断しました。

4.現在地の確認
 旅行にしても、授業にしても、どこかに向かうという目的地を設定する時に重要なのは現在地の確認です。今どこにいるのかということを知っていて、はじめて目的地との関係を把握することができます。目的地として設定した「機会費用」は経済学ではどのように表現されているのでしょうか。
 例えば、経済学者ヴァリアンの『入門ミクロ経済学』(勁草書房)を読むと、「(機会費用の名称の由来は)ある人が自分の労働をあることに用いている場合、他の雇用機会を棄て、その雇用から得られるはずの賃金を失っていることによる。したがって、その失われた賃金は生産費用の一部である。」とあります。
「同様に、土地を例に取ると、農業者は農地を誰か他の人に貸す機会があるが、その農地を自分自身に貸すために得られるはずの地代をあきらめている。この失われた地代は機会費用の一部になる」、と続けて書いています。
 この記述から、機会費用を高校生に教える場合、比較的幅広く例えを示すことができそうだという見通しが立ってきました。

5.大きな授業の流れ
(1)体はひとつしかない
 忙しいサラリーマンの台詞ではありません。高校生も体はひとつしかないから、選ぶことのできる進路先は1つだということです。ということは、選ばなかった進路先はいくつあるのでしょうか。ひとつ、ふたつ、みっつ・・・とあがります。その進路先候補に順位を付けることはできますか。このような内容で生徒と対話する授業をつくってみたくなりました。
 
(2)授業展開の順番
 ① ある生徒がもつ将来の希望は?→大学進学
 ② 大学卒業後の進路希望を問うと →パッと6つ思い浮かんだとします
       第1位:家電メーカー
       第2位:自動車メーカー
       第3位:食品メーカー
       第4位:芸能界
       第5位:プロ野球選手
       第6位:ユーチューバー    という具合にです。
 ③ 選ぶことができる選択肢はいくつかと問うと?  → ひとつ
 ④ それでは、選ばなかった選択肢で最も価値のあるものはと問うと→自動車メーカー
 ⑤ 希望する進路として「家電メーカー」を選んだ場合、他の希望する進路にはすすめま
  せん。そのときの機会費用は自動車メーカーを選択したときの利益に等しいということ
  を学習します。
  
(3)選ばなかったものを考えるということ
 高校生にとっては選ばなかったものを丁寧に可視化して考えるという習慣は、あまり見られません(真剣に考えていた生徒の皆さんごめんなさい)。きっと多くの高校生は、なぜ“選ばなかったもの”に注目する必要があるのかという問いを持つと思うのです。
 経済学者ジョセフ・E・スティグリッツは『スティグリッツ ミクロ経済学(第4版)』(東洋経済新報社)の中で、「経済学では、一般の人が用いるのとは異なった費用概念をいくつか用いる」としたうえで、機会費用は比較優位について考える際にあてはめることができる概念だと説明しています。
 なぜ機会費用を学ばなければいけないのか?その答えの一つは、これから学ぶ経済分野の学習で繰り返し登場する概念だからと授業で説明することにしました。
 
6.目的地の確認
 次は目的地について考えます。授業づくりの視点で表現する必要があるので、ここからは目標と言いかえます(評価しなければいけないからです)。
具体的な目標は、2022年大学入学共通テスト第2問の問3に関して答えることができることとしました。実際の問題は次の通りです。
 
生徒Xは、クラスでの発表において、企業の土地利用を事例にして、機会費用の考え方とその適用例をまとめることにした。次の生徒Xが作成したメモの空欄に入る語句として適当なものを①~③の中から選びなさい。これが問題文です。生徒が作成したメモは次の通りです。
 ・機会費用の考え方・・・ある選択肢を選んだとき、もし他の選択肢を選んでいたら得られたであろう利益のうち、最大のもの。
 ・事例の内容と条件・・・ある限られた土地を公園、駐車場、宅地のいずれかとして利用する。利用によって企業が得る利益は、駐車場が最も大きく、次いで公園、宅地の順である。なお、各利用形態の整備費用は考慮しない。
 ・機会費用の考え方の適用例・・・ある土地をすべて駐車場として利用した場合、他の用地に利用できないため、そのときの機会費用は(空欄)を選択したときの利益に等しい。
 以上が生徒のメモで、この(空欄)に入る選択肢として ① 公園 ② 駐車場 ③宅地という三つの候補を示しました。

7.きちんと読みとることで正解できる問題
 まだ経済についての学習をはじめていない生徒を対象にこの問題を解いてもらいました。普段の授業では入試問題を教室に持ちこむことはしていません。問題文を見た生徒はビックリしたと思います。
採点をしてみると、予想を超える高い正答率でした。クラスによっては、ほとんどの生徒が正解だったというクラスもありました。
この問題は、知識を問う問題ではありません。文を読み込むことで正答にたどり着くものです。
 ここで気になるのが、きちんと読み込めていない解答がいくつか見られたところです。
実は、この問題を提示したときに、次の2つの質問も同時に投げかけていました。
一つ目は「どうしてその選択肢を選んだのですか?」というものす。
二つ目は「あなたが最近感じた『機会費用』って何ですか?」というものです。
この質問に対する回答から、問題文をどう読み解いたのかという手掛かりをつかむことができると考えたのです。

8.いろいろな認識があるようだ
 正解にたどり着くことができなかった生徒の記述を分析してみると、いろいろなパターンを見つけることができました。
 第1は、生徒が作成したメモ中の「ある土地をすべて駐車場として利用した場合」という部分を読み飛ばしてしまったのではないかと推測できる場合です。この場合、②の駐車場を選んでしまうわけです。
 第2は、教師の説明で機会費用についておおよそ理解できているのに、活字で問題文を読むと知識が混乱してしまうという場合です。
「あなたが最近感じた「機会費用」って何ですか?」という設問にはきちんと答えられているのに、紙で書かれた問題文を読むと誤答を選んでしまうという場合です。
 第3は、あるクラスで見られた現象です。そのクラスでは、機会費用という概念を説明する際に計算問題を混ぜて授業をすすめたのです。すると、極端に正答率が低くなってしまったのです。
 なぜ正答率が低いのか、原因はわかりません。読解が苦手な生徒が偶然に集まってしまったのか。それとも計算問題なんて入れないで、教えることをひとつに絞り込んで教えるべきだったのか(筆者はおそらくこれが原因だと推測しています)。いや、もしかしたらパワーポイントを用いて説明したことが原因なのか。いずれにしても、これから授業をすすめていく中で分析を続けていかなければなりません。

9.詳しくは「夏の経済教室」で
 今回の内容は、2022年8月16日と19日の「先生のための夏休み経済教室」で発表する内容の一部になっています。この教室では、なぜ本稿で書いたことを考えるようになったのか、また具体的な教材はどのようなものであったのかということを共に考えることができればと思っています。皆様と画面を通してお目にかかることを楽しみにしています。
これまでのシリーズ「金子Tの授業づくり」
第1回 https://econ-edu.net/2022/05/01/3982/
第2回 https://econ-edu.net/2022/06/01/4003/
第3回 https://econ-edu.net/2022/07/01/4031/
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月も、授業づくりのヒントになる本を紹介します。
■延近充『入試問題の作り方-思考力・判断力・表現力を評価するために-』幻冬舎
①どんな本か
・慶應義塾大学経済学部で実際に入試問題を作成したり管理したりしてきた元教授の著者が、日本史、世界史の入試問題づくりのノウハウ、特に思考力・判断力・表現力を評価する問題作成の実例を紹介した本です。
・くわえて、共通テストの試行問題を俎上にあげて、その問題点を鋭く指摘しています。

②本の内容は
・大きく二部に分かれています。
・第1部は、入試問題作成マニュアルのタイトルで、入試問題作成の基本方針の設定からはじまり、機械採点問題(マーク式)の作成、論述問題の作成、作成した問題のチェック、採点作業の実際までを解説をしています。
・第2部は、大学入学共通テスト試行調査の検討のタイトルで、プレテスト検討の意義、プレテストの問題点が分析されています。
 この第2部では、プレテストを、分量、問題構成、アクティブラーニングの設定、プレテストの入試問題の妥当性、歴史における思考力・判断力、入試問題のあるべき姿の6つの視点から詳細に評価を加え、全体として厳しい評価を下しています。また、改善案も提示しています。

③どこが役に立つか
・受験指導をしている先生にとっては、出題側のねらい、実際の作成プロセス、採点の様子など大学側の内情がわかり、適切な指導ができるでしょう。特に、採点プロセスの紹介は役立つでしょう。
・対象が歴史ですが、著者も言うように地理や公民の科目の問題評価にも役立つ内容です。
・高大接続改革で入試問題を変えることで高校の授業を変えてゆくという流れの中で、本当に「思考力・判断力・表現力」を伸ばすには、また、「主体性をもって多様な人々と共同して学ぶ態度」を見極めるにはどんな問題が必要か、入試問題を素材にしていますが、通常の授業や定期テストでも活用出来る考え方が提示されています。

④感想
・ここまで書いて良いのかというのが率直な感想です。リタイアした関係者だからこそのリアル感が満載です。
・著者も書いていますが、大学教員にとって「余分な仕事」であるけれど、片手間ではできない入試問題作成にこれだけのエネルギーを注いでいるということに敬意を表したい思いでした。
・今年の日本史の共通テストが問題になりましたが、この本を読んでいると宜なるかなという感想です。「2回のプレテストの問題は、経済学部の入試問題作成過程の草稿段階にも達していない」との著者の指摘は改善されていなかったということだったのでしょう。
・こんなテストを与件として受けなければいけない高校生が本当に思考力や判断力が身につけられるか、少々グルーミーな気分にもなりました。
・ネットワークでも入試問題のレーティングなどを行ったことがありますが、その時のもやもや感がこの本ですこし晴れた気分です。
・問題作成の方法は、 高校の先生だけでなく、中学の先生にとっても役立つ本ではないかと思います。

■成田龍一『歴史像を伝える-歴史叙述と歴史実践』(岩波新書)
①どんな本か
・メルマガ4月号で紹介した「シリーズ歴史総合を学ぶ」のその②です。
その①はhttps://econ-edu.net/2022/03/31/3929/
・サブタイトルの歴史叙述では、日本史関連の多くの事例が紹介されています。その事例をどう授業で扱ってきたかに関してもふれていますが、ウエイトは著者成田さんの専門である歴史叙述に傾斜した本です。

②本の内容は
・腰巻きにある紹介風に言うと、「多様な資料からなる歴史叙述を吟味し、自ら歴史実践を行う」という課題の夏休み集中講義で、5時間分の授業がされるというスタイルで書かれています。
・午前は、「歴史叙述と歴史実践」のテーマで、1時間目は、ジェンダー史をとりあげて歴史叙述と歴史実践が紹介されます。
・2時間目は、明治維新の歴史像というタイトルで明治維新の歴史叙述と歴史実践が紹介されます。
・午後は、「「歴史総合」の歴史像を伝える」というテーマで、3時間目「近代化」、4時間目「大衆化」、5時間目「グローバル化」の三つの課題でのそれぞれの歴史像が紹介されます。
・3時間目の近代化では福澤諭吉、男性啓蒙家、森鷗外などが取り上げられています。
・4時間目の大衆化ではイプセン、身の上相談、小津安二郎、市川房枝などが取り上げられています。
・5時間目のグローバル化では、高度成長のなかの女性、マクドナルド化、村上春樹の小説などが取り上げられています。
・最後に、戦後歴史教育と歴史叙述の関係が再度考察されるという構成です。

③どこが役立つか
・公民の教員にとってはグローバル化の部分の時代が現代に近いので直接役立つでしょう。マクドナルド化や高度経済成長のなかの女性などは「公共」の教科書に登場してもおかしくない事例です。
・教育学に関心のある先生にとっては、戦後の歴史教育の歴史、特に歴史教育者協議会のメンバーたちの実践をあらためて確認して、その蓄積をどのように現代に活かすのかを考える手がかりとなるでしょう。
④感想
・正直読みやすい本ではありません。構成がアンバランスです。
・歴史叙述の事例と歴史教育の関係では、一対一で対応している部分、例えば、明治維新の箇所などは良いのですが、その他の箇所は著書成田さんの関心で取り上げられているので、教育という点ではこれがどう実践されていたのという点では非対称で、疑問が生じる箇所もあります。
・にもかかわらず、取り上げられている事例を手がかりに、もしこれを公共の授業で扱うとするとどんな形になるだろうかと考えてみるのも面白いと思いました。
・ユニークな事例では、小津の戦前の映画や村上春樹の『ねじまきククロニクル』などが取り上げられています。
・紹介者はこの本に触発されて、『ねじまき鳥』を久しぶりに再読してしまいました。小説的な面白さと同時に、村上が抱えている闇、記憶の伝承、戦争責任、新自由主義の危うさなどが昔読んだ時より一層切実に感じました。
・でもこれをどう授業に作り上げるのか、ちょっと想像がつきませんでした。

■日本経済研究センター編『使える!経済学』日本経済出版社
①どんな本か
・経済学の知見をビジネスで活かす経済学者の活動内容の内容とインタビューをまとめた本です。キーワードは経済学の社会実装です。
・紹介されている事例は、マッチング、マーケットデザイン、プライシング、モデル分析、因果推論、構造推定で、日常的に私たちが接している広告や価格設定やコロナ感染のモデルや健康経済学などです。

②本の内容は
・次の著者がそれぞれのテーマで報告しています。
第1章 坂井豊貴(慶應義塾大学)「急進する経済学のビジネス活用」 総論です。
第2章 渡辺安虎(東京大学)「ビジネス課題を経済学で解決する」 社会実験とミクロ経済学の最新研究とビジネス活用です。
第3章 成田悠輔(イェール大学)「DX2.0」 デジタル社会のこれからを提示しています。
第4章 仲田泰祐(東京大学)「経済分析を感染症対策と経済活動の両立に行かす」 コロナ感染時のデータを基にした経済分析事例です。
第5章 野田俊也(東京大学)「マーケットデザインで考えるスマートコントラクトの未来」 スマートコントラクト(契約)の紹介です。
第6章 上武康亮(イェール大学)「経済学をマーケッティングに活かす」 マーケッティングと経済学の関係が紹介されています。
第7章 小島武仁(東京大学)「マーケットデザインが組織を変える」 マッチングアルゴリズムの活用例が紹介されています。
第8章 井深陽子(慶應義塾大学)「景気変動と健康」 データサイエンスと健康の関係が紹介されています。

③どこが役に立つか
・学校にいるとわからない経済学とビジネスの関係、社会実装の挑戦の様子をうかがい知ることができます。
・当然、授業に直接役立つ内容、ネタとして仕入れる内容はほとんどありませんが、第一線の経済学者が今どんな関心をもってどんな研究をして、それが現実にどう活用しようとしているかがわかります。
・大竹先生の行動経済学の活用法は主に公共政策に関する事例が多かったのですが、こちらはビジネスに直接関係しているケースで、活用といっても違いが分かる意味で参考になる本です。

④感想
・取組んでいる内容は、それぞれちょっと頭がクラクラするような内容ですが、各章末にある、なぜ経済学を学んだのか、そしてどうしてこのような研究をしたのか、若い人たちにむけたメッセージなどを質問しているインタビューはとても面白く読めます。ただし、成田悠輔氏のものが無いのは残念。
・セミナーでの講演記録をまとめたものなので、内容は難しくとも通読可能です。章末のまとめ(ポイント)も日経の経済教室欄(Analysis)風に三つに絞っていて、編集手法も参考になります。
・内容的には、成田悠輔氏のものが22世紀社会の構想まで語る少々ぶっ飛んだ内容で、ネット上で話題になるのがよくわかりました。(新井)
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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夏休み経済教室の対面会場での実施を断念せざるを得なくなりました。このような展開になるのは初めてです。政府による行動制限は発令されていませんが、現在の感染の拡大を考えるとやむを得ない判断とご理解いただければ幸いです。
編者も大阪出張の準備をしていましたが、キャンセルしました。すでに様々な準備をされている会場参加申し込みの先生方には、大変なご迷惑とお手数をおかけすることになると思われますが、申し訳ありません。オンラインでも充実した経済教室になるように努力したいと思います。(新井)
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