reader reader先生

7月、文月。異常に早く梅雨明けとなった今年の文月は選挙の月です。
先日、教職講座で選挙をテーマに授業づくりの話をしました。若者が選挙に興味をもつためには、インセンティブ(えさ)、面白さ(お祭り要素)、大人(特に親)の影響の三つをあげたリアペを書いた学生がいました。政治的中立性の縛りがリアルな授業ができない要素と指摘した学生もいました。若者の感性の鋭さに感心です。
多くの学校では期末考査、成績処理、夏休みの準備など多忙な日々が続きます。それでも夏休みはすぐ前。そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】イベントの案内と最新活動報告
 「夏休み経済教室」のご案内と22年6月の活動の報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…新シリーズ3回目。
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる本を紹介します。
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【 1 】イベントの案内と最新活動報告
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「夏休み経済教室」の受付が始まっています。

・大阪教室(内容詳細はこちらから)
<8月15日(月)中学校向け> 
会場:大阪取引所北浜フォーラム(対面のみ) 9時30分~15時50分
<8月16日(火)高等学校向け>
会場:大阪取引所北浜フォーラム(ハイブリッド) 9時30分~15時50分

・東京教室(内容詳細はこちらから)
<8月18日(月)中学校向け>
会場:東京証券取引所(ハイブリッド) 9時30分~15時50分 
<8月19日(火)高等学校向け>
会場:東京証券取引所 (ハイブリッド) 9時30分~15時50分

・中学校向けプログラムは、大阪、東京両会場共通で、地理的分野、歴史的分野、金融を経済や情報の観点からどう教えるか、授業提案と情報提供を行います。
大阪の対面会場の日程があわない先生方は18日の東京会場にZoomでご参加いただけます。

・高等学校向けプログラムは、新科目「公共」のスタートを視野に入れて入試、職業選択、国際政治、経済学の新動向など授業に役立つ情報提供と講演です。
講演では、政治学から、大阪では京都大学の中西寛先生、東京では法政大学の中野勝郎先生に最近の国際政治の動向を踏まえたお話しを頂く予定です。

・また、経済学からは、大阪では名古屋大学の齊藤誠先生、東京では東京大学の柳川範之先生から、経済学と経済教育関係に関するお話しを頂く予定です。
・お申し込み受付は東京証券取引所のこちらのサイトからお願いします。

■札幌部会(No.30)を開催しました
 日時:2022年6月4日(土) 15時00分~17時00分
 場所:キャリアバンクセミナールームとZoomによるハイブリット形式
 内容の概略:会場8名+zoom11名=19名参加
(1)山﨑辰也先生(北見北斗高)より、「地方自治に関する『ケ(日常)の授業』」というテーマでの報告がありました。
・地方自治に関する授業プリントと演習問題を提示し、授業での提示資料とそれを基にした授業の切り口に関する実践報告です。
・内容は、昭和40年代と現行の新旧地形図を使ってまちづくりの特徴を考察するとともに、市町村合併に伴う市町村数の推移のグラフと、歳入に占める地方税と地方交付税の統計から、合併特例債の発行に至る流れを理解させるものです。
・検討では、経済学者と中高教員の連携の在り方や地図の利用の仕方と人権問題、大手資本の撤退と地域振興の関連の資料発掘などが話題になりました。
(2)兼間昌智先生(札幌大)より、「大学生がみたロシアのウクライナ侵攻」というテーマの報告がありました。
・大学での「日本語リテラシー」の講義で行ったパラグラフ・ライティングに関する実践報告です。
・文章の構成要素や、引用の仕方、参考文献の挙げ方などの指導を行った上で、ロシアのウクライナ侵攻に関する新聞記事を基にレポートに取り組ませた実践例が紹介されました。
・討論では、課題での教師に忖度するレポートの問題や内容の深め方に関するコメントがありました。また、野間敏克先生からは同志社大学での同様なアプローチが紹介されました。
・部会内容の詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/06/Sapporo030report.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■大阪部会(No.80)を開催します。
日時:2022年7月2日(土) 15時00分~17時00分
場所:同志社大学 大阪サテライトとZoomによるハイブリッド方式
申し込みは以下からお願いします。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/04/Osaka80flyerHybridZoom.pdf

■東京部会(No.129)を開催します。
日時:2022年7月22日(金) 19時00分~21時00分
場所:慶應義塾大学三田キャンパス校舎とZoomによるハイブリッド方式
申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/05/tokyo129flyerZoomHibrid.pdf

■札幌部会(No.31)を開催します。
日時:2022年10月8日(土) 15時00分~17時00分
場所:キャリアバンクセミナールームとZoomによるハイブリッド方式
  申し込みは以下からお願いします。
  https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/06/Sapporo031flyer.pdf

<その他のお知らせ>
■日本会計士協会主催の「会計教育のシンポジウム」が開催されます。
 日時:7月16日(土)15時00分~17時00分
 場所:都市センターホテル(東京)とオンライン
 ネットワークメンバーからは、樋口雅夫先生(玉川大学)と塙枝里子先生(都立農業高等学校)のお二人が講演と実践発表をされます。
 申し込みは以下から。
 https://jicpa-literacy2022.com/

■第51回ネタ研のご案内(既報)
日時:8月21日(日) 10時00分~20時00分
会場:高津ガーデン(大阪上本町下車北東徒歩5分)
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【 3 】授業のヒント 「6回シリーズ 金子Tの授業づくりノウハウ その3」
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経済学習をとりまく文字の世界-「ミニミニ作文」による突破法-
                    金子幹夫(神奈川県立三浦初声高等学校)
1.はじめに
 前回は「文字記号にこだわって経済の授業を考えていきたい」と最後に示しました。そこで第3回目は、どうして文字記号にこだわるのか、からはじめます。
 ここでいう文字記号というのは、教科書に書かれている用語や、私たちが毎日ノートに書き示す際に使う言葉のようなものだとします。

2.なぜ文字記号にこだわるのか?
 なぜ文字記号について考えるのか?授業をやっていて、ものすごく気になるからです。文字記号はとても便利なものだということはここで述べるまでもありません。
ところが文字記号の有効な使い方を忘れて授業をしてしまいそうな空気が教室の周りに漂っているのではないかと思うのです。これが一つの要因となって、教師が伝えようとしている知識と生徒に届いた知識との間に齟齬が出ているのではないかと感じるのです。

3.知識の発信を巡る教師と生徒のギャップ
 筆者が授業中に気になることをもうすこし具体的に書いてみます。
 例えば、ここに経済の知識を伝えようとしている教師がいるとします。
教師の頭の中には経済学のテキストを読んだ知識、どのように教えることが有効かという知識、そもそも持っている生活経験から得た知識等が混在しています。
 同様に授業を受ける生徒がいるとします。
一人ひとり育った環境が異なります。よって皆それぞれに生活経験から得た異なる知識を持っています。今日まで積み重ねた学習から得た知識も持っています。
 そこで、教師が経済学習に関する知識を発信したとします。
主として文字記号を使って知識を発信します。生徒は自分に向かって飛んできた知識を、それまで身につけている知識にどのように組み込むのかを考えます。部分的な知識の再構成が必要になるわけです。単純な知識の足し算にはなりません。
このとき、教師が発信する知識について敏感になる必要があると授業中に強く感じるのです。
今回の結論のようなものを先取りすると、生徒にとって生活経験につながらない文字記号による知識は、認識につながらないのではないかということになります。

4.教科書記述の背景
 教師が発信する知識について考える際に道標となるのが教科書です。この教科書に書かれている“知識”はどのような背景を持って描かれているのかを考えます。
その時に、教科書には記述されることのなかった背景の存在に気付きます。教科書はページ数が限られています。あれもこれも書こうというわけにはいきません。きっと教科書の筆者は「残念ですが削ります」という思いを何回も繰り返しながら執筆をすすめたのではないかと想像します。
もしもこの想像が的外れでなければ、教師の仕事は、まずは削られてしまった筆者のメッセージ探しということになります。
 
5.「教科書の向こう側」を推測する
 教科書に書こうとしたのにページ数の都合で削られてしまった知識の集まりを便宜上「教科書の向こう側」と表現してみます。向こう側は見えません。でも周囲の景色(記述)から推測することができそうです。推測の手がかりは文献です。
 はじめに手に取った文献は、経済学者小塩隆士先生の『高校生のための経済学入門』(ちくま新書)。教科書に書かれていない記述はどこにあるのでしょうか。
さっそく第1章に「需要曲線は、人々の所得や好み、ほかの財の価格など、『ほかの条件を一定』として描かれたものです」とあります。筆者の手元にある教科書の需給曲線の箇所には、この記述はありません。
 これを手がかりに経済学のテキストを見ると同様の記述を見つけることができます。
岩田規久男先生は『ゼミナールミクロ経済学入門』(日本経済新聞出版社)の中で、「(ミクロ経済学では)『コーヒーの価格以外の全ての財・サービスの価格と人々の所得とを一定と仮定して、コーヒーの価格だけが変化したときに、コーヒーの需要量はどのように変化するか』という問題が扱われている」と記述しています。ほかにもこの種の記述を大学向けのテキストから発見することができます。
 これがきっと教科書に書かれることなく削られてしまった内容の1つなのではないかとねらいを定めました。

6.右から左にではない
 ここで舞い上がってしまうと火傷をします。
「さあ、教科書に書かれていないけれども大切な考え方があるよ」と言って、経済学のテキストに書かれている内容を教室で再現しようとすると、生徒の知識は混乱してしまう恐れがあります。
 それではどのようにして教師は経済学習に関する知識を発信することが有効なのでしょうか。
考えるのは生徒の状況です。浮かび上がるヒントは“生徒の生活”です。一人ひとりの生徒が身につけている様々な生活経験による知識と、教師が教えようと描いている知識を結びつける工夫がなんとかできないか、と考えます。でも、うまく結びつくのでしょうか。

7.決め手は「ミニミニ作文」
 それでは学問の世界と生徒が生きている世界とをどのように結びつけたらよいのでしょうか?
 本稿では、生徒がもつ知識の中にそのヒントが隠されているのではないかという実践を紹介したいと思います。
 筆者が生徒を見る中で選択した方法は“ミニミニ作文”です。タイトルは「コンビニエンスストアと私」としました。
どうしてミニミニ作文なのか。それは、生徒一人一人異なる生活経験の中から経済教育に必要な知識をあぶり出すために作文が使えると判断したからです。量は20~30行程度にしました。一番言いたいことを書いてくれると想像したからです。
なぜコンビニなのか。それは、高校生にとってコンビニは生活の一部だからです。お客様としてコンビニを見て、アルバイト店員さんの目でコンビニを見たりしているからです。ちょっと大げさですが、この目は“家計”からの眼であり、同時に“企業”からの眼でもあるわけです。
 授業では、この生徒が書いた文を紹介します。
「私は小さいころからコンビニに助けられてきました」、
「日本中、どこにでもコンビニがあります」、
「いろいろな商品が売られているだけでなく振り込みもできる」、
「私を幸せな気持ちにしてくれる」 といった記述が実際にありました。
 
 この作文を用いた授業で生徒に何を気づかせたいのか。それは、市場経済がいかにうまく機能しているのかということです。
大竹文雄先生は『競争と公平感』(中公新書)の中で、「教科書を読んだ生徒たちは、市場は失敗するし、独占はとにかく悪い、ということだけを理解するはずだ。多くの問題はあっても競争によって得るメリットは大きい、という共通の認識を私たちがもつような考え方をするべきではないだろうか」と指摘しています。「学習指導要領では、市場競争のメリットを教えるように書かれていないから」このようなことが起こるとも書いています。
 それでは、どのようにして市場競争のメリットを生徒に気付かせればよいか。それを大竹文献から探しました。
見つけた文は「市場がうまく機能する場合も多い。スーパーに商品がたくさんあり、売れ残りや、品切れが少ないのは、市場経済がうまく機能しているからである」というところです。スーパーの部分をコンビニにかえて解釈しました。
そして、教師が熱い想いで「市場経済はうまく機能している」と10回も20回も言うよりは、生徒に一回「市場ってけっこううまく動いてんじゃない」と自分の言葉で書かせてしまった方が有効だと判断したのです。
 
8.「問いの共有」で経済学習の入り口に立つ
 市場はうまく機能しているようだということを生徒に言わせました。その次に学習する内容は、「需要と供給」です。
ここで教室内において共有しなければならないのは、「どうして需要と供給を学習しなければいけないのか」ということです。
 コンビニのことを書いてくれた高校生の作文に「コンビニで売っているものは高い」という記述があります。「安く買いたいときはスーパーに行く」という記述もあります。どうしてコンビニの商品は高いのだろうかという問いを共有できそうです。
話題が「価格」に移っていきます。
 問いが共有できたら、次は直感で捉える段階に入ります。生徒との対話を続けていくと、たいていは“値下げシール”が登場します。「モノを売りたい人の気持ち」と「モノを買いたい人の気持ち」を直感で捉えて文字記号で表すことができます。
 ここからグラフを作成して説明する展開になれば、かなりのレベルの授業が展開できますが今回はそこには触れません。

9.まとめ
 文字記号はとても便利なもので授業には不可欠のものです。しかし、薄っぺらな使い方をしてしまうと、教師の発信したメッセージは生徒に届かないことが生じます。
「公民科」教師は文字記号の前提や多面性を「厚く」捉えないと生徒の心に届くメッセージを発信することはできないと思うのです。それではどうやって文字記号を「厚く」捉えることができるのでしょうか。
 文字記号を厚く捉えるためには、「公民科」教師が経済学習をとりまく文字記号の世界をできるだけ細分化して、1つひとつを掘り下げて言葉と生活実感をつなげてゆく作業が有効だと思うのです。
本稿では教科書の記述を一部掘ってみました。本文に書き込むスペースがなく埋もれてしまった記述を掘り起こそうと試みました。掘り起こす際に手元に置いたのは経済学者が書いたテキストです。
1つひとつのテキストデータに丁寧に向き合い、それをもとに、生徒の持つ知識を掘り起こしながら、生徒に届く授業づくりをしてゆきたいと考えています。
これまでのシリーズ「金子Tの授業づくり」
第1回 https://econ-edu.net/2022/05/01/3982/
第2回 https://econ-edu.net/2022/06/01/4003/
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月は、授業づくりのヒントになる、経済の本2冊と歴史の本を紹介します。
■ミノーシュ・シャフィック『21世紀の社会契約』東洋経済新報社
①どんな本か
・世界銀行の副総裁をつとめたこともあるロンドン・スクール・エコノミックス・ポリチカル・サイエンスの学長のエコノミストが、社会契約という切り口から21世紀の経済の課題とその処方箋を書いた本です。
・筆者はエジプト生まれの女性経済学者です。21世紀の福祉国家の在り方をさぐる『ベヴァリッジ2.0』という研究プログラムを立ち上げています。

②本の内容は
・全体は8章にわかれています。目次を紹介しておきます。
第1章 社会契約とは何か?
第2章 子どもの養育は誰が担うべきか?
第3章 幼児教育と生涯学習
第4章 健康であるための負担と責任
第5章 労働者を守り、育てる
第6章 高齢者の暮らし
第7章 次世代への正負の負担
第8章 新しい社会契約
・この目次で分かるように、育児、教育、健康、労働、高齢化、そのための財源という経済学で言えば厚生経済学や応用経済学の対象となる労働、福祉問題をテーマにした本です。
・著者の基本的な姿勢は、サッチャー流の「社会はない」を批判して、「社会はすべてである」というテーゼで、誰もがささえあう社会をどのようにつくるのか、具体的な対応を示しています。

③どこが役に立つか
・高校の「公共」で登場する、社会契約の思想家、また、ロールズ、センなどの現代の思想家がたくさん出てきます。
・教科書では分断されて記述されている日々の暮らし、私たちを支える社会のしくみを改めて確認することができる本です。そこで大切なのは、政策を変えること、それが新しい社会契約となるという主張は、社会科教育の担い手にとって勇気を与えてくれると思われます。
・主張を支えるデータ、出典が示されているところが役立ちます。18ある図表は有名なものも多く、授業で生徒に分析をさせるのに使えるでしょう。また、48ページにわたる巻末の原註をチェックすることで最近の世界の研究動向が分かります。
・対象が世界全体なので、索引で日本の項目を使って、日本の位置を確認することも有効な使い方と言えるでしょう。

④感想
・エジプト生まれの女性が教育の階段を登ることで、国際機関で活躍し、LSEの伝統を受け継ぎこのようなマニフェストを発信していることに感銘をうけます。
・新自由主義に対抗する流れが生まれてきていることが最近のこの欄の本の紹介からもうかがわれますが、新自由主義の思想的源流の一人であるハイエク、さらに現代経済学の基本的な考え方を提唱したロビンズがLSEの関係者であることも興味を引きます。
・こんな骨太の本が日本で出されないのはなぜなんでしょうか。

■清水和己『経済学と合理性』(岩波書店)
①どんな本か
・現代の経済学でのミクロ理論とマクロ理論を共通の分析方法で理解するためにはなにが求められるかという問題に取組んだ理論家の本です。
・合理性という概念でそれを統合しようという提言が書かれています。サブタイトルが「経済学の真の標準化に向けて」とあります。

②本の内容は
・第0章の再び静かな革命か?で問題提起がされて以下5章構成の本です。
・第1章 経済学の歴史を分析単位から振り返る
 第2章 合理的経済人と最適化
 第3章 合理的経済人の見直し
 第4章 マクロ経済学とミクロ的基礎付け
 第6章 標準的経済学の未来像:「合理性」と「ミクロ的基礎付け」の使い方

③どこが役立つか
・正直、中学や高校の授業には直接は役に立たないでしょう。これを読むのは、今だと研究者か大学院生くらいかなと思われるレベルの本です。
・それでも紹介したのは、行動経済学が注目されて「伝統経済学」という言い方でこれまでの経済学の限界が指摘されていることがあります。「伝統経済学」とはどのようなもので、批判に対してどのような対応をしているのか、それを知る手がかりになると思われたためです。
・第2章、第3章では、ゲーム理論、行動経済学の代表的な事例が扱われています。数式が登場するところを飛ばしながら読めば、興味のある箇所、高校教科書で登場する箇所などの理論的な背景を知ることができるでしょう。
④感想
・紹介者が一番面白いと思ったのは、第0章の、清水(昭和)と清水(令和)の対話部分です。清水(昭和)が、「ミクロ、マクロ、マルクスのどれが一番正しいか」、「合理的経済人の仮説で理論を組み立てているミクロは大丈夫か」と先生に聞く場面です。紹介者は筆者より一回り年上ですが、ここから80年代初頭のまじめな経済学徒の像が浮かび上がりました。
・また、第6章のまとめの部分も「巨人の肩に立つ」「巨人の肩から降りる」という表現がでてきて、静かな革命が進行していると著者が言う現代経済学の立ち位置のイメージがつかめます。
・経済の学習では、具体的事例なり問題から入ることが生徒の経済理解に役立つというのがネットワークでの議論の方法ですが、こんなガチガチの理論書も時々手にするのも頭の体操になるかもしれません。
・それにしても、先に紹介した『21世紀の社会契約』と対象は違うのであたり前と言えばそうですが、その落差にちょっとあたまがくらくらしました。

■池上俊一『ヨーロッパ史入門 原型から近代への始動』、『ヨーロッパ史入門 市民革命から現代へ』(岩波ジュニア新書)
①どんな本か
・ヨーロッパ中世史の専門家が書いたヨーロッパ史の通史です。
・二冊を通して読むことで、ヨーロッパの歴史と周辺の関係が整理できる本です。

②本の内容は
・最初の本は、古代から近代初頭までを扱っています。後者はそれ以降、現代およびこれからのヨーロッパまでを扱っています。それぞれの内容と扱われている時代は以下の目次で確認できます。
・前書では、
第1章 ヨーロッパの誕生(古代)
 第2章 ロマネスク世界とヨーロッパの確立(中世前半)
 第3章 統合と集中(中世後半)
 第4章 近代への胎動(15~17世紀)
・後者では、
第1章 啓蒙主義から市民革命へ(18世紀)
 第2章 近代世界システム(19世紀)
 第3章 二つの世界大戦(20世紀)
 第4章 ヨーロッパはどこへ(21世紀)

③どこが役に立つか
・「歴史総合」の導入で近現代史が中心になること、日本史も含めてそれぞれの時代の特色ある事例から探究させる授業をめざすという方向が打ち出されています。先月号の『「歴史総合」をつむぐ』もその流れの本でした。
・それに対してこの本は、ヨーロッパという地域・空間を時間軸で記述した本です。中学も高校も通史で歴史を学ぶことができにくくなっています。それを補うには、教える側が、どこかで通史を頭の中に入れておく必要があります。その一助となるとおもわれる本です。
・ヨーロッパがヨーロッパであることを「ギリシャ・ローマの理知」「キリスト教の霊性」「ゲルマンの習俗」「ケルトの夢想」と捉える著者による池上通史をひもとくことで、歴史を縦につなぐことができるのではと思います。
・ヨーロッパ中心主義が批判されますが、本書では、周辺(近代では植民地世界も含めた全世界)まで視野に入れた記述になっていて、ヨーロッパを祭り上げたり、絶対視したりしていないところが「歴史総合」の授業の参考になるでしょう。
・公民科の先生にとっては、下巻の第4章が現在の世界を扱っていて、多くの問題が歴史的な背景をもっていることを確認するのに役立つでしょう。

④感想
・むかし『動物裁判』というちょっとマニアックな新書を読んだことがありました。それが池上さんの30代の本だったということを改めて知り、通史を書くには個別の研究の蓄積とある年齢が必要なんだなと感じました。
・どんな学問でも教育でも軸足がしっかりしていることが大事だと紹介者は思っています。この本では軸足はヨーロッパ史ですが、私たちがどんな軸足で授業を組み立てているか、改めて考えてみる必要ありと本書を読んで感じました。(新井)
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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 6月23日は沖縄慰霊の日でした。
ウクライナでの戦闘が続いています。住民を巻き込んだ戦闘がどんなものか、沖縄戦の記録、証言を読むことでその様相が浮かび上がります。また、なぜ沖縄戦が闘われなければならなかったのか、琉球処分からの歴史をたどることも探究活動の一つになるかもしれません。
沖縄だけでなく「百聞は一見に如かず」で現地にゆくことができれば一番です。修学旅行の復活などコロナ後の教育活動にも力を入れたいですね。
先月号で沖縄の新聞をお送り頂いたのは西原とも子先生でした。漢字表記を間違えてごめんなさい。 (新井)
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