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4月、卯月。新学期です。東京では桜が満開を過ぎ散り始めていますが、先生方のところではいかがでしょうか。
学校では高校での新学習指導要領がスタートします。「公共」、「地理総合」、「歴史総合」などの新しい教科が導入されますが、学年進行ですから新旧が混在して、先生方の担当教科が大幅に変更になったりすることもあるかもしれません。
世界に目を転ずると、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに世界の枠組みの転換が進行しています。社会科や公民科の中身が本気で問われ時代になっていると言えるでしょう。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告とイベントの案内
 22年3月の活動の報告と企画中の「夏休み経済教室」のご案内です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…経済で戦争を教える
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる3冊
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【 1 】最新活動報告とイベントの案内
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■「先生のための春の経済教室」を開催しました。
・日時:2022年3月26日(土)15:00~19:00
・場所:慶應義塾大学三田キャンパス南館443教室+Zoomによるハイブリッド方式
・テーマ:家庭科と社会科・公民科における金融教育の在り方
・内容の概略:参加者108名(慶應会場22名+Zoom86名)
モデレーターである、塙枝里子先生(東京都立農業高等学校)による主催者紹介、企画趣旨の説明の後、問題提起がありました。

問題提起では、新学習指導要領での家庭科および公民科の金融教育の扱われ方、それを踏まえての教科間の連携のすすめ方が提起されました。
それを踏まえて、現場からの報告として、家庭科教員の立場から植村徹先生(筑波大学附属駒場中学校・高等学校)から「今年度実施した「金融教育」」の報告がありました。これまで家庭科で金融教育の扱われ方を踏まえて、家庭科ならではの視点として生活設計と消費生活・消費者からの金融教育が求められることを意識した実践報告でした。
次に、公民科教員の立場から中山諒一郎先生(昭和学院中学校・高等学校)から「起業家教育と金融教育のクロスカリキュラム」の報告がありました。探究学習のなかでオンライン企業の経営課題に挑戦させたり、起業案の作成を行わせたりしている事例を紹介と、社会科としての取組みとしての金融学習、それを踏まえた期末考査問題を紹介されました。
休憩のあと、大学教員の立場から野間敏克先生(同志社大学)から「これからの金融教育を考える」の提案がありました。

金融学習のコアとなる金融についての基本的内容を整理した上で、段階的金融教育として、小中学の連携、高校「公共」と「家庭科」の金融教育で押さえるべき内容を提案されました。高校「家庭科」ではパーソナルファイナンス、「公共」ではパブリックとコーポレートファイナンスを重点的に学習することで相互の役割と連携の展望がでてくるとまとめられました。
発表をうけて、登壇した四人による意見交換、参加者からの質疑応答がおこなわれました。
内容の詳細はまとまり次第HPにアップいたします。

■春の経済教室の様子がNHKで紹介されます。
・放映予定日:4月9日(土)20時55分~ 
・新番組「サタデーウォッチ9」Bizトレ(経済情報コーナー)の中
4月から学習指導要領の改訂に伴い、高校の家庭科と公民で導入される金融教育の開始に向けて準備をする教師の様子を伝える内容とのことです。
 当日視聴できなかった場合は、NHK+でも視聴可能です。
 
■夏休み経済教室の日程が決まりました。
8月15日(月)、16日(火)大阪会場(中学、高校対象各1日)
8月18日(木)、19日(金)東京会場(同様)
企画内容は決定次第HPにアップいたします。また、コロナの状況ではリモートによる実施などの変更もあり得ることをご承知ください。
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■大阪部会(No.79)を開催します。
 日時:2022年4月23日(土) 15時00分~17時00分
 場所:TKP大阪梅田駅前ビジネスセンターミーティングルーム1C
  https://www.kashikaigishitsu.net/facilitys/bc-osaka-umeda/access/
 会場が同志社大学大阪サテライトから変更されましたので、ご注意ください。
 Zoomによるハイブリッド形式です。 申し込みは以下からお願いします。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/03/Osaka79flyerHybridZoomR1.pdf

■札幌部会(No.30)を開催します。
 日時:2022年6月4日(土) 15時00分~17時00分
 場所:キャリアバンクセミナールームとZoomによるハイブリット形式
 申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2022/03/Sapporo030flyer.pdf
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【 3 】授業のヒント 「経済で戦争を教える」
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 今月は、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえて、教室で生徒に「この戦争はどうなるの?どうすればよいの?」と問われた時、どのように生徒に伝えたら良いか経済教育の観点から考えてみます。
(1)社会科、公民科の授業が問われる
 ロシアのウクライナ侵攻が始まってから1ヶ月余。毎日報道される戦争の様子をみて生徒は胸を痛めているのではないでしょうか。
 侵攻がはじまったのが2月下旬だったこともあり、授業で戦争の話をしたり、生徒から問いかけがあったりすることは少なかったかも知れません。
 しかし、4月からの授業の場面では、何らかの言及は避けられないだけでなく、原発の占拠、核攻撃準備の指令など地球的規模での危機を招く寸前までの事態に教科として何らかの応答が必要になっていると思われます。
 教科書にでてくる事項が、暗記のためではなく、リアルな形で先生方にも生徒にも投げかけられていると言って良いでしょう。

(2)戦争は多面的である
 戦争は、クラウゼビッツの「戦争は他の手段をもってする政治の継続にすぎない」という有名な言葉があるように、政治学習がメインの場面となります。従って、戦争を政治面から見ることが圧倒的に多いはずです。
 ウクライナに関していえば、ロシアとウクライナの政治的緊張、それをとりまくNATOという軍事同盟との関係などがそれにあたるでしょう。戦争の前後の外交交渉も政治の重要場面です。
 戦争は政治だけではなく、多くの面から捉えることができます。
 歴史から見ると、ロシアとウクライナの切っても切れない歴史的な関係がわかります。また、今回避難民を多く受け入れているポーランドとウクライナの関係も歴史的に見るとそう簡単ではないことが浮かび上がります。
 ウクライナの歴史をたどると、何度も今回のような包囲戦や民衆の被害、飢饉や虐殺を受けている国ということが分かり、民族の苦難という言葉が出てきます。
 地理から見ると、最近注目の地政学的な捉え方ができます。ウクライナ南部のクリミア半島、東部のドネツク、黒海の地政学上の双方の国にとっての重要性が注目されます。
 ほかにも、ロシアの戦争犯罪という面の国際法から見ることもできるし、人権の観点からも、文化の観点からも、イデオロギーの観点からも、情報社会の観点からもウクライナ問題を捉えることができます。
 
(3)経済からはどう見るか
 今回、ロシアに対してはG7の国々が経済制裁を行っています。これは需要面、供給面の経済のグローバル化に対応した措置です。特に、サプライチェーンのどこか一つでも切断することで、企業活動がマヒしてしまうのが現代で、それを見越しての対応です。そういう戦略的な対応も大事ですが、ここでは、もっと原理的に戦争と経済に関して押さえるべき観点をまとめておきます。
 経済では生産の三要素という概念が登場します。
 ヒト、モノ、カネです。最近はそれに加えて情報も入れる事がありますが、今回は捨象しておきます。戦争を遂行するには、この三つの要素を見てゆくことで、ある程度の推移が予測できます。

 まず、ヒトから。
戦っている兵士に注目します。その国の兵士が徴兵制なのか志願制なのかによって力量が変わります。また、どれだけのヒトを準備しているか、その数値も重要なファクターになります。
ヒトを兵士にした場合の機会費用についても考えるべき要素です。戦争をやらなければどれだけのモノが作れるのか、豊かさがもたらされるかその金額です。
さらに重要なのは、ヒトのモラルです。その闘いがどれだけ正当性を持っているか、正義にかなっているかは戦争の行方も左右する要素になります。
 もちろん、教育による洗脳で正義の戦いであると刷り込まれているヒトは自分の行為に疑問をもつことはないかもしれませんが、それでも人道に反する行為は戦場でもあるはずで、覚醒が起こる可能性があります。
 現代の戦争は、兵士だけでなく民間人も巻き込まれます。その犠牲、被害を金額にして見つめるのも経済の観点になります。

 次は、モノです。
 モノは、兵器の物量になります。これも、量と質の面から検討する必要があります。いかにヒトのモラルが高くともモノがなければ戦えません。爆弾に竹槍は通用しないということです。モノを支えるのが技術であると同時にカネになります。モノでも使ってはいけない兵器があります。現代では核、生物・化学兵器、クラスター爆弾などの非人道的兵器がそれにあたります。

 三つ目のカネです。ここが経済でのメインです。
 腹が減っては戦ができません。兵士に食糧を、武器を与えなければ戦争には負けます。戦争を準備するカネをどこから出すか、また、戦いが長引いたときにどのようにカネを出し続けることができるか、財政の問題になります。
 ちなみに、ロシアの今回のウクライナ侵攻にかかる一日の費用は2億ドルを超えると推定されています。名目GDPが日本の約3分の1の1兆7000億ドル程度のロシアにとって戦争の長期化はカネの面から耐えられなくなる可能性があります(日経新聞3月24日記事、およびIMFデータより。ただし戦費に関しては諸説あり)。
 そういった戦争にかかるカネを国民から取り立てる場合は、増税や戦時国債の販売があります。かつてのように敗戦国から賠償金をとってそれを積み立てておく方法もあります。持続可能にするには外国からの援助を受けたり、借金をしたりしながら戦う方法もあります。また、カネを作ることも戦費の調達の手段です。

 今回のロシアとウクライナをこの三つの概念から比較してみてください。
 ここでは細かいデータを示しませんが、例えば、外務省のHPの各国情報をチェックして基本的なデータを押さえた上での比較検討が求められます。ちなみにウクライナは以下。
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ukraine/index.html

 もう一つ、経済から戦争を見るとき、特に今回のウクライナ侵攻に対するロシアへの経済制裁、政府のカネと指導者の取り巻きのカネを枯渇させようとする作戦にも注目しておきたいものです。
 さらに、国際決済からの締め出しなどに関しても検討が必要になりますが、かなり専門的になるので、ここでは指摘だけにしておきます。

(4)では、どう教えるのか
 経済を中心にして戦争をどう語るか。特に、ウクライナ侵攻をどう理解して生徒に伝えるのか。
 まずは、経済を離れて、具体的に語ることです。新聞記事や映像などを用いるのが一番ですが、具体性をさらに深めるには、戦争の中の一人一人のヒトに注目することだと思います。ウクライナ人だけでなく、ロシア人もそこに入れておく必要があるでしょう。生身の人間が傷つけ合って、殺し合っていると言う現実から目をそらさないこと。これが一つの突破口です。
 さらに、戦争の多面性のなかのどれかに焦点化して、それを多角的に扱うことが求められます。多角的というのは、教える人間なり、生徒の立ち位置を確認して、そこからだけでなく、別の視点からの見方を紹介することです。その際には、今回の侵攻をロシアによるウクライナに対する「いじめ」とみたてて、ロールプレイをしてみるのも一つの方法になるかもしれません。
 そして、感情を、(3)でとりあげた要素の検討を通して「勘定」からも見る視点を加えられれば、戦争の多面性を理解できるのではと思われます。
 今の生徒の情報発信能力から見て、学校を離れて個人でSNSを使っての運動や寄付の呼びかけなどを行うこともあるでしょう。
 今回のウクライナ侵攻では、世論の形成が戦争を止めるまでにはゆかないにしても、一定の力を持つことも明らかになっています。
 学校でできること、やらなければいけないことを考えながら、ごまめの歯ぎしりでもよいから、戦争をやめさせるための教育、平和を求める教育をすすめたいものです。

・今回のコラムで参考にした文献:
 黒川祐次『物語ウクライナの歴史』中公新書、小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』ちくま新書、ポール・ボスト『戦争の経済学』バジリゴ、小野圭司『日本戦争経済史』日本経済新聞出版、日経新聞3月24日付記事  (新井)
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月も、授業に役立つと思われる近刊本3冊を取り上げます。
■西尾理『公民科授業実践の記録』学文社
①どんな本か
・長く高校の先生をやって、現在は大学で教えている著者が、これまで実践してきた内容をまとめた本です。
・経済教育だけでなく、ひろく公民科の授業が扱われています。

②本の内容は
・序章と6つの実践を紹介する章となっています。
第1章は環境で、水俣病の授業です。
第2章も同じく環境で、谷津干潟の掃除を続けた森田三郎を扱った授業です
第3章は経済で、企業を扱った部分です。
第4章は政治で、田中角栄を中心に戦後政治を扱っています。
第5章は心理で、倫理での精神分析を使ったこころの授業です。
第6章は生命倫理の授業です。

③どこが役に立つか
・序章の授業づくりに関する姿勢の部分と第3章の経済部分がネットワークメンバーには役立つでしょう。
・序章での授業づくりに関する著者の主張を紹介しておきます。
 1)生徒の実態にあった材料と構成の授業:砂糖の入った野菜ジュースのイメージ
 2)内容は深く、理解ややさしく。そのための深い教材研究
 3)常に考える授業:その場で考えなければならない問いを授業の軸に
 4)予習・復習を前提にしない授業
 5)学力差の出ない授業
 6)プリントのシナリオ形式:1時間で完結しながら全体が連続する物語となることを意識する
・第3章の企業では、「西尾まんじゅう店」の起業から海外展開までの発展史を通して経済の概要を教える授業の紹介です。
・各章には著者が授業づくりで使った参考文献が掲載されています。それを見るだけでも著者の授業づくりにかけたエネルギーがわかります。研鑽のポイントは「新書、専門書を読むことにつきる」と著者は言います。

④感想
・著者はネットワークの経済学寺子屋のメンバーです。その著者の実践記録は、最近の授業書にないごつごつした内容の本です。
・「教師の実存が問題だ」と紹介者は言い続けていますが、なぜ、この授業をつくりあげたのかという問題意識にあふれた本です。例えば、第2章の森田三郎のケースでは、教室に平気でゴミをすてる定時制の生徒たちとの格闘のなかから生まれたことが書かれています。社会科の魅力や生命力を感じさせる授業づくりです。
・西尾まんじゅう店の話では、友人に、馬場君、猪木君、鶴田君、藤波君が登場。著者の趣味満載の話になっています。
・実践内容がやや古いのでその後の展開などをもっと書いて欲しい部分もありますが、著者の授業案や実践を検討する中で、さらに現代的な授業を作ることが次の世代の使命となるでしょう。
・やや高いので、著者曰く、「売れる本ではないので、図書館にでもいれてもらえると幸い」とのこと。
・なお、著者の専門は国際関係論で、博論のテーマは戦争の教え方です。今のウクライナ情勢をどう教えるか、聞いてみたいところです。

■小島庸平『サラ金の歴史』中公新書
①どんな本か
・サラ金と呼ばれる消費者金融の歴史を扱った本です。
・学校では消費者被害にあわないように、多重債務に陥らないようにというマイナスイメージで扱われる消費者金融の一世紀の歴史を創業者、家計の動向、ジェンダーの視点などから捉えた本です。

②本の内容は
・序章と終章と本文は6章に分かれています。
 序章では、家計とジェンダーから見た金融史という新しい視点が提示されます。
 第1章は、戦前期を扱います。
 第2章は、1950年代~60年代を扱います。
 第3章は、サラリーマン金融の登場です。ここでは「前向き」の資金需要という捉え方で高度成長期の消費者金融の需要と供給の有様を描きます。
 第4章は、低成長期にはいっての「後ろ向き」の資金需要を取り上げます。
 第5章は、サラ金で借りる人・働く人のタイトルで多重債務者、それを取り立てる従業員に光をあてます。
 第6章は、2010年代から現在までの状況が説明されます。
 終章は、これまでの総括です。

③どこが役立つか
・授業では、第5章と第6章が役立つ箇所だろうと思います。
・第5章では、なぜ人はサラ金でお金を借りるのか、多重債務者と自殺や家庭崩壊の事例が登場します。また、借金を取り立てる側のテクニック、労務管理方法なども扱われています。行動経済学で言うスラッジの方法、感情労働に従事する従業員の心理なども紹介されています。
・第6章では、サラ金企業が現在は大手の金融グループに組み入れられていること、上限金利の制限を巡る論争、家計における管理者の変化が消費者金融の需要側に起きていることなど現在の問題が取り上げられています。これらの章はパーソナルファイナンスを扱う授業で参考になると思われます。

④感想
・春の経済教室の準備のために金融に関する本を探している時に見つけた本です。新刊ではありませんが、「サントリー学芸賞」受賞ということで注目しました。期待に違わず、面白い本でした。
・サラ金の創業者の強烈な個性、金融技術の革新をいち早く取り入れる先進性、人間の心理、弱さを付く取り立て技術や労務管理方法など改めて確認しました。
・上限金利を巡る論争は、最低賃金の論争などと同じで、標準経済学での知見が正しいのか、そうでないかの試金石だと感じます。同じように、需要があるから供給があるのか、供給があるから需要が喚起されるのかという古典的命題を巡る論議とも通じるものがここにはあると感じます。
・腰巻きのダークサイドか、セーフティネットかという言葉は、両義性があるから存在するのだろうと思います。また、教科書の記述の裏に、『ナニワ金融道』や『闇金ウシジマ君』の世界があることを授業者は知っておく必要ありとも感じました。

■小川幸司、成田龍一編『世界史の考え方』岩波新書
①どんな本か
・4月から導入される「歴史総合」を学ぶという3巻のシリーズ本の第1巻です。
・高校教師(現在は校長)の小川さんと大学の歴史学者である成田さんがそれぞれの章で課題テキストとして3冊の本をとりあげ、そこからの対話と、そこでとりあげられた著者の専門研究者との対話による歴史の見方・考え方についての本です。

②本の内容は
・全体は三部、5章にわかれています。腰巻きのタイトル流に言えば、1時間目から5時間目の授業に相当する内容です。
 第1章 近世から近代への移行で、ゲストは中国近世史の岸本美緒さん
 第2章 近代の構造・近代の展開で、ゲストはイギリス史の長谷川尊彦さん
 第3章 帝国主義の展開で、ゲストはアメリカ史の貴堂嘉之さん
 第4章 20世紀と二つの大戦で、ゲストはアフリカ史の永原陽子さん
 第5章 現代世界と私たちで、ゲストは中東史の臼杵陽さん
・課題テキストとして取り上げられている本は15冊あるので、最後の5章の箇所で上げられている本だけを紹介しておきます。
 中村政則『戦後史』、臼杵陽『パレスチナ』、峯陽一『2100年の世界地図アフラシア』、いずれも岩波新書です。
・各章末に、編者の小川さんが作成した「歴史総合の授業で考えたい歴史への問いというコーナーがあります。ここも、最後の5章からピックアップしておきます。
 「日本の高度成長はなぜ起こったのだろうか。その理由を世界史の視野から考えると、どのようなことが見えてくるだろうか」
 「100年後の世界が課題にはどのようなものがあるだろうか。その課題を考えるとき、どのような歴史に着目すればよいだろうか」

③役立つところ
・歴史総合が何をめざしているのか、どのような授業を構想しようとしているのか、対話とゲストの専門家の知見から浮かび上がる本です。
・公民科だけれど、歴史総合を担当しなければならなくなった先生には即役立つ内容と思われます。また、最近の歴史学の動向を知りたいと思っている先生方にも、役立つ内容です。
・課題図書として上げられている本をどのように読み、そこから何をくみ出すのか、二人の編者の視点の違いなども含めて役立ちそうです。特に、若い先生方にとって取り上げられている古典的新書、例えば、大塚久雄『社会科学の方法』、丸山真男『日本の思想』などを読む機会になるかもしれません。
・②でとりあげた、章末の多くの問いは公民の授業でも参考になるでしょう。

④感想
・歴史と公民の接続を考えるうえで役立つ本と思いました。
・例えば、「市民革命が現代政治の枠組みを作ったと見なす公民科の学びと組み合わさることで、欧米の歴史が人類の歴史と見なされる」という指摘や、「ウエストファリア体制で主権国家体制が確立したと見るのは、19世紀の視点を現代に投影した神話」というような指摘をどう受け止めるのか、授業担当者どうしだけでなく研究者や教科書関係者が考えなければいけない課題でしょう。
・とはいえ、歴史総合の導入で、歴史を通史として学ぶ機会がいままで以上になくなることになり、大丈夫かなとも感じます。合成の誤謬にならなければよいがというのが正直なところです。
・なお、経済教育でも、現場とエコノミストが共同でつくりあげるこの種の本が必要ではと感じています。(新井)
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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 ウクライナ関係の本を探していて、参考に上げた『物語ウクライナの歴史』をネット書店で入手しようとしたら品切。古本ではプレミアムが付き4倍ほどの値段になっていました。必ず増刷があるはずとみていたら、増刷後は通常の古本の値段に戻っていました。価格変動の実例でした。もちろん私は増刷を待って正価で購入。経済学は役に立つ。(新井)
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