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何かいいことがありそうな5月を迎えました。
5月5日の各新聞社が出す社説、はじめての中間試験、はじめての席替え、はじめての面談、とワクワクすることでいっぱいの季節を迎えています。
そんな今月のメルマガも、授業づくりに役立つ情報をお届けします。新人メルマガ編集者がお届けします第2号です。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 2024年4月の活動報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…「捨てネタ」の効用⑧
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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【 1 】最新活動報告・情報紹介
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■東京部会(No.139回)を開催しました。
 日時:2024年4月6日(土)15時00分 ~ 17時00分
 会場:慶応義塾大学三田キャンパス東館オープンラボ+オンライン方式
 内容の概略:31名参加(会場13名、zoom18名)
(1)金子幹夫先生(神奈川県立三浦初声高等学校)から「高等学校「政治・経済」における経済的分野のカリキュラム構成に関する一考察―経済的分野の授業はどのような順序で構成されるのか―」の報告がありました。
 前年度、なぜ政治を経済の前に学ぶのかという問いからの実践で、ルールが整っていないところで「交換」は活発に進むとは思えない、だから、はじめにルールに関する政治的分野の学習をして、その次に経済的分野の学習をするという理解までは進んだけれど、授業者がねらう「政策選択できる力をつけること」と「自分の人生において適切な選択ができる力をつけること」の2つのうち、後者である「経済の学習は自分の人生のために必要なのだ」と捉える生徒が多いという現象が起こったそうです。
 そこで今回の報告では、二つのねらいを達成するためには、経済的分野の学習内容でも順番についての考察が必要なのではないかということで、本年度の学習の前に、学習順序の再構成を試みたという趣旨の報告でした。
 再構成した学習順序の試案は次のとおりです。 (番号は本来 学習する順番)
1   経済活動と経済主体
8   企業の活動と役割
3   国民経済と景気変動
5-1 金融のしくみとはたらき
9   労働問題と労働環境の変化
2-1 市場経済の機能と限界
4   物価とその変動
2-2 市場経済の機能と限界
6   財政のしくみとはたらき
5-2 金融のしくみとはたらき
7   日本経済のしくみ
10   社会保障制度の充実
11   農業と食料問題
 再構成する際に、単元名に登場する「と」は、前半は「しくみ」、後半は「問題点」と理解して、再構成した学習順序では、“現実を説明しながらの制度の説明”と“問題点の解決策”として、市場と金融の部分を分離しているとことでした。
 質疑では、現実を先に仕組みは後にという順序の場合、大学生の場合、仕組みを教えることで現実と違うという課題発見があるが、高校生の場合、順序はそれでよいかという質問が出されました。これに対しては、誰に教えるのかという対象によるのではという回答がありました。
 また、再編のなかで、社会保障、農業など生徒にリアルに関わる問題をどう処理したか、グローバル経済はどうかという質問が出されました。これに対しては、知識が混乱しないように、学習量と内容を精選しながら授業で扱ったとの回答がありました。

(2)増田真裕花先生(目黒区立第七中学校)から「中学校における会計教育の実践」の報告がありました。
 これは、日本公認会計士協会と作成した教材を使った実践で、教科書では価格は需要と供給で決まると説明されていますが、経営者の立場から価格を設定する授業実践です。
 1時間目にどんなパンをいくらで売るか4人グループで検討し、発表準備をする。
 2時間目に売るパンを3分でアピールして、買ってもらう、という二時間配当の授業です。
 固定費用や材料費を踏まえて利益を計算するのが、この授業での会計教育の視点で、一番利益が出たグループが勝ちというゲーム性のある教材です。
同じリンゴやバターでも、高級ブランドや国産などの材料にバリエーションをもたせ、パン1つ購入につき1枚の金額を書く紙を用意して、計算しやすくするなどの工夫もありました。
 他のパン屋の価格を調査する必要や、どうしたら利益が出たのか、授業後も話す生徒の姿が見られたと報告がありました。
 質疑では、パンが売れなかった理由のグループでの考察やカルテルを結ぶとどうなるかなど授業後の振り返りの時間がもっと欲しいとの意見が出されました。
また、篠原代表からは、企業が何をしているのかを自分事とできる点でよくできている授業であること、ここから市場における大企業の存在や、企業活動における雇用やコストカット、新製品の開発などの視点についての助言がありました。
 関連して、金子先生に対して、先の再構成した単元計画のどこに「パン屋の授業」が位置付くかとの質問があり、金子先生からは労働の後に入れるとの回答がありました。
 これに対して中学校の視点では企業の単元に入れるという意見も出されました。

(3)3月23日(土)に開催された春の経済教室について、杉田孝之先生(千葉県立津田沼高校)から総括報告がありました。
 講演者とのコンタクトの取り方、著作権問題を事前に克服しておくこと、パネルディスカッションでどんな発言、討論が展開されるか予め想定した準備が必要であることが報告されました。
 部会の詳細は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2024/04/tokyo139reportHybrid.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■大阪部会(No.89)を開催します。
 日時:2024年5月19日(日) 15時00分~17時00分
 会場:同志社大学大阪サテライト
 部会詳細は以下のHPをご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2024/04/Osaka89flyerHybridR.pdf

■東京部会(No.140)を開催します。
 日時:2024年6月22日(土) 15時00分~17時00分
 場所: 慶應義塾大学三田キャンパス東館オープンラボ+オンライン(Zoom形式)
部会詳細は以下のHPをご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2024/04/tokyo140flyerHybrid.pdf

■ 第53回授業のネタ研究会(第一次案)
経済教育ネットワークメンバーの河原和之先生主催の今夏のネタ研は長野県から岩波新書「歴史総合①③」の著者である小川幸司先生をお迎えし、歴史学習の醍醐味を皆さんと共有します。午後からは、オーセンティックな学びを発信されている梶谷真弘先生から「特別ではない支援教育」と題して講演いただきます。
◆日時 8月18日(日)9:50~17:00
◆会場 高津ガーデン (大阪上本町下車北東徒歩5分)  
◆参加費 1日2000円  半日1500円報告者、学生は半額
◆定員 70名(定員になり次第締め切ります)
詳細や申し込み方法は以下をご覧ください。
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2024/04/53thNeta2024.08.pdf
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【 3 】授業のヒント  捨てネタの効用⑧ 「貿易」の授業設計
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「貿易」の本質、私ならこう教える  〜貿易を支える基盤とは〜
執筆者 篠原総一

随分と前から私は、教科書の貿易単元の筋書きに疑問をもっていました。最初に自由貿易の効率性を説くリカード理論の説明、ついで国際収支表、そして自由貿易に向けた国際的な取り組みの歴史を学ぶという流れでは、生徒は理論、国際収支表、歴史をバラバラに学ぶだけで、決して貿易の本質の理解につながらないとみていたからです。

一方、前回のこの欄の文末に、こんなメッセージを残しました。
 『効率的な取引には、取引を支える基盤が必要です。取引相手とのコミュニケーション(言語、文字、通信)、効率的で安定した決済手段、モノを移動させる運輸、取引の約束が守られる制度などです。ですから経済取引のあらゆる局面をカバーする貨幣や金融を、モノの経済とは独立した学習にしてはならないという、私から先生方へのメッセージを最後に付け加えておきます。』

今回は、このメッセージを貿易授業に当てはめてみるという提案をしてみます。貿易取引を支える基盤の実際例を並べていくだけで、生徒は「貿易とは、なるほどそういうものか、だからこんな課題も出てくるのか」という見方考え方を肌感覚で会得できるような授業になると確信しているからです。(*)

但し、この内容はかなり重く、長いのでメルマガではなくこちらのホームページで続きをご覧下さい。
https://econ-edu.net/2024/04/30/7842/

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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月紹介する文献は2冊です。
 1冊目は経済学者根井雅弘先生が高校生向けに講演した内容をまとめたものです。2冊目は編集者・作家である中川右介さんが、経済に関連することについて書いたものです。どちらも、経済を教えようとしている教師にとって多くのヒントを与えてくれる文献です。

■根井雅弘『経済学の学び方 将来の経済学研究者のために』夕日書房2023年
① なぜこの本を選んだのか?
 本書を選んだ理由は次の2点です。
 第1は、本書が経済学者根井雅弘先生による高校生向けの講演であるということです。研究者が高校生に向けて、どのように経済学のお話しをするのかに注目しました。
 第2は、表紙に「将来の経済学研究者のために」と書かれているところに注目したことです。研究者がこれから経済学の研究をしようとしている若者に、どのようなメッセージを発信しているのかを知りたくなったのです。 

② どのような内容か?
 「はじめに」では、「正統」と言われている理論は、異端とのせめぎ合いのなかで構築されていったという、本書を貫いている精神が示されています。例えば、「需要と供給」は、教科書に掲載されるまでに多くの論争があったというエピソードが紹介されています。
 
 第1章は「需要と供給の均衡」というタイトルです。 紹介者は、本書がなぜマーシャルの説明からはじめようとしたのかということに疑問を抱きました。そして、その理由を本文の中から探しました。
 読み進めていくと「生産費説と限界効用説は決して『水と油』のようなものではなく、『時間の要素』を明確にすることによって、『需要と供給の均衡』という共通の分析的枠組みのなかに包摂することができる」と書いてあります。
 この記述から、本書はマーシャルを要にして生産費説と限界効用説をわかりやすく説明するために第1章に「需要と供給の均衡」をおいたのではないかと推測しました。
 
 第2章は「『見えざる手』の独り歩き」というタイトルでスミスが登場します。第1章で、ストーリーの要として登場したマーシャルはスミスの学識を深く尊敬していたことを紹介しています。
 ここでは「政治・経済」の教科書に「スミス・見えざる手・自由放任」がセットで登場して多くの人々に誤解を与えているのではないかと指摘しています。 
 前半では「個人が「利己心」に突き動かされて 行動したとしても、社会的に秩序が成り立つのはなぜか」という問題について取り上げています。
 後半では,スミスが重商主義政策を批判した理由について取り上げています。資本はどういう順番に投じられるのが自然で、その順番をどのように入れ換えたことが問題なのかを分かりやすく説明しています。

 第3章は「資本主義の「歴史相対性」を学ぶ」です。第2章の流れを受けてリカード、ミルの学説についてまとめています。
 リカードとミルが決定的に異なるのはどの部分かを冒頭で示しています。さらに、ミル自身が経済学を、隣接する学問とどのように整理したのかがあげられています。「特殊社会学としての経済学」という表現が印象的でした。

 第4章は「ケンブリッジの「伝統」への反逆」です。
 本章は「不況になれば財政出動すべきだ」という政策の旗振り役としてケインズの名前が使われていることについて取り上げています。貨幣経済理論家としてのケインズを理解しないと、全体像はつかめないと指摘しています。
 ここではケインズが抱く問題関心の変化をはっきりとつかみ取ることができます。貨幣供給量と物価水準問題、投資と貯蓄の問題、物価水準ではなく雇用量や産出量がどのようにして決まるのかという問題、そして、労働者が今の賃金で働く意欲があったとして、なぜ非自発的失業者が出てしまうのかという問題関心の変化です。

 第5章は「大英帝国の経済学支配への挑戦」というタイトルでシュンペーターを取り上げています。一般均衡理論を研究していたシュンペーターは、何に失望したのか。その失望から脱却するために、どのような思考に着眼したのかが説明されています。
 本書の「はじめに」では「『正統』と言われている理論は、異端とのせめぎ合いのなかで構築されていった」とありました。シュンペーターとケインズを比較した記述は、まさに「せめぎ合い」からの構築を感じさせてくれるものだと読み取れます。

③ どこが役に立つのか?
 スミスの「見えざる手」やケインズの「財政出動」,そしてシュンペーターのイノベーションという教科書でおなじみの用語の背景に、どのような理論的せめぎ合いがあったのかを知ることができます。
 当時の経済学者が「何を問いとして抱いていたのか」、「問いを解決するためにどのように考えたのか」というストーリーを知ることは、
厚みのある経済教育実践につながるはずです。
 研究者がどのように高校生に説明しているのかという点も合わせて読むことで、授業づくりの手がかりが見つかるのではないかと思います。

④感想
 教科書や資料集に掲載されている「経済思想の変遷」の資料は、例えばスミス→マーシャル→ケインズ→フリードマンというように一方通行のような矢印で流れが示されています。
 ところが本書を読むと、矢印は一方向を示すような単純な流れではないことがわかります。
一つひとつの学説に論争があったこと、本書の言葉を引用するならば「『正統』 は『異端』とのせめぎ合い」のなかでつくられていったことが理解できます。
 教科書を立体的に理解するための手がかりとなる記述がたくさん見つかる一冊だという印象を持ちました。

■中川右介『世襲  ~政治・企業・歌舞伎~』幻冬舎新書 2022年
① なぜこの本を選んだのか?
 歴史的分野の教科書には、約500人の人物が登場します。一方で、公民的分野の経済に関する教科書には記述にはほとんど固有名詞は出てきません。スミスやケインズが写真付きで掲載されていますが、これは道徳哲学者や経済学者として登場しています。
 もしかしたら、経済の授業を受けていてる生徒は、生きている人間の姿を感じることなく教師からのメッセージを受け止めているのかもしれません。
 そこで見つけたのが本書です。約370ページの中に「政府」や「企業」を動かしている人物が大勢登場します。しかもただ時系列に登場するのではなく「世襲」というキーワードを中心に物語が展開していきます。
 教師は、経済を教えるにあたって、「政府」や「企業」を動かしている人物の知識を得ておくことが有効なのではないでしょうか。これが本書を選んだ理由です。

② どのような内容か?
「はじめに」では全体像が語られています。
  第一部は、戦後政治を世襲という視点で記述しています。
  第二部は、企業創業家の世襲について自動車産業と鉄道会社をとりあげています。
  第三部は、歌舞伎界の世襲について取り上げています。
 一冊を通して、世襲というシステムがどのようにして誕生し、機能しているのか、そして破綻していくのかを描いています。
  
 第一部は「戦後政治世襲史」です。
 本書は「世襲」をキーワードにして政治の歴史を再構成しています。
 例えば、朝廷は天皇だけではなく太政大臣、右大臣、左大臣も世襲であったことを指摘しています。征夷大将軍も世襲であることから、日本の政治と世襲は深いつながりがあると捉えています。
ところが明治から昭和20年まで、政治と世襲の関係は変化します。この間に総理大臣となった人物は、世襲とは無関係でした。
 しかし戦後になると父や祖父が総理大臣であったという人物が続きます。総理大臣だけでなく、国会議員の世襲も平成以降に増えていきます。いったい政治における世襲にはどのような特徴があるのでしょうか。
 政治の世界における「世襲」を意識することで、教科書に書かれている政治的分野の捉え方が一層深まるのではないかと思います。
 ちなみに本紹介文を執筆している時点(2024年4月)での岸田文雄内閣総理大臣は、宮澤家(宮澤喜一元首相)の家系図に登場しています。

 第二部は「世襲企業盛衰史」です。
 トヨタ、日産、ホンダ、スズキ、マツダといった自動車業界と世襲の関係について取り上げています。続けて阪急、東急、西武、東武といった鉄道会社と世襲の関係が書かれています。
 生徒にとって身近な自動車会社には、創業者の名前を社名としている企業、創業家は大株主であるが経営に関わっていない企業、世襲そのものとは無縁の企業があることがわかります。
 鉄道会社については、現時点で創業家がある阪急と東急についての物語が歴史的に詳しく書かれています。「乗客がいるところに鉄道を作るのではなく、鉄道を作ることで乗客を生む」という需要の創出に関する発想が印象的でした。
 世襲した後継者が経営に失敗したらどうなるのか。兄弟で世襲する場合、その後どうなったのか。後継者が育成できなかった場合にはどうなるのか。世襲経営者がいない企業には、どのような特徴がみられるのか、といった点に注目しながら興味深く読める本です。

 第三部は歌舞伎の世襲史です。
 紹介者は、ここで2つの疑問を抱きました。第一は、なぜ歌舞伎なのか。そして、それがなぜ第三部なのかです。
 読み進めていく中で、この問いについて考える手がかりを見つけました。1つは「日本で、生まれた瞬間から、いや生まれる前から、親の地位を継ぐ運命にあるのは、天皇家と歌舞伎の大名跡の家の子くらい」という記述です。まさに世襲そのものです。本書で歌舞伎を取り上げないわけにはいきません。
 ではなぜ第三部なのかです。2代目市川團十郎が誕生したところの記述に「『偉大な父』と同じことをしたのでは、とうてい適わない。多くの二世タレント、あるいは二世経営者、二世政治家が失敗するのは、父親の劣化コピーとなるからだ」とありました。
 ここに至るまでに政治家や経営者の世襲について読み進めてきた読者だからこそ第三部「世襲」の意味を立体的に捉えることができるのではないかと考えました。
 この歌舞伎の章は、皆様がどのように読み解いたのかをうかがってみたいです。

③ どこが役に立つのか?
 経済の授業でエピソードを語る意義は大きいと思います。生徒の頭の中に、生きている人間のイメージが形成されるからです。
 経済的な見方や考え方を教えるにあたって、教師は生徒の心を動かす必要があります。「政府」や「企業」を動かしてきた人物について知ることで、教師が語るエピソードは分厚いものになると思います。
 本書は、人間が登場することなく、仕組みを解説することで構成されている授業から脱却する手がかりを与えてくれるのではないかと思います。

④ 感 想
 紹介者が20代前半の頃、政治評論家伊藤昌哉さんの『自民党戦国史』(当時は朝日文庫。現在はちくま文庫。)を読んだことを思い出しました。この本はあまりにも面白くて再読を繰り返したことを思い出します。
 このころから当時の紹介者は、突如として新聞の政治面を読むのが楽しくなってきました。今回紹介した『世襲』は『自民党戦国史』と同様に、人間の活動に関する記述が主で、その活動を補足するために制度の解説が加えられています。
生徒に「経済を学習してみようかな」という気にさせるためのヒントが満載の本だと感じました。
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【 5 】編集後記「~自己観照~」
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ある高校生が「 1,112円!」と自信に満ちた声で答えてくれました。これは令和5年10月時点での神奈川県における最低賃金(時間額)です。何人かの生徒に同じことをきいたところ、全員が正確な数字を答えてくれました。「どうして知っているの?」ときいたら「関心があるから覚えていた」と教えてくれました。生活に関連した内容は、知識として定着することをあらためて感じました。そこで今疑問に思っていることは、「いいくにつくろう鎌倉幕府」(最近は「「イイハコ作ろう鎌倉幕府」)もほぼすべての生徒が知識としてもっていることです。これは生活とは関係なさそうです。歴史学習では他にも語呂合わせでインパクトのあるものは多数あるのに、どうしてこれだけ記憶の定着率が高いのでしょうか。一緒に考えていただけませんか?(金子幹夫)
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