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十一月、霜月。
晩秋です。相変わらず平均気温は高めですが、朝晩が寒く感じられ、そろそろ暖房が欲しくなる季節です。これなら出雲にでかけた神様も帰ってくるでしょう。
中学校では月末には期末考査、その後の進路指導が本格化する月です。高校でも昨今は総合選抜試験やAO入試などが多く行われる月です。
学校の外に目を向けると、ウクライナだけでなく中東で戦禍が発生、国内の政治や社会のスキャンダルなどが小さく見えてしまう出来事が起きています。こんなときだからこそ、腰をすえて社会の動きを理解させる授業が望まれます。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 23年10月の活動報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…「捨てネタ」の効用②
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる本を紹介します。
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【 1 】最新活動報告・情報紹介
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■10月は定例部会の開催はありませんでした。
■次回の経済教室は来年3月に「春の経済教室」として開催します。
 日程:2024年3月23日(土)午後
 場所:慶応義塾大学三田キャンパス、ハイブリッド方式
 プログラムは決まり次第HPに掲載いたします。

■HPがリニューアルされました。
 https://econ-edu.net/
アドレスは変わっていません。
活動報告や部会報告が分かれて掲載されるなど、新しいHPはレイアウトが一新されて見やすくなりました。
また、授業のヒントやメルマガのこれまでの一覧がアーカイブに収納されるなど、検索をすることでネットワークのこれまでのあゆみが分かるようになっています。
一度ご覧になって、ご意見をお寄せください。
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会のご案内です>(開催順)
■東京部会(No.137回)を開催します。
 日時:2023年11月18日(土) 15時00分~17時00分
 会場:慶応義塾大学三田キャンパス+オンライン(zoom形式)
 内容:筑波大学附属高校の熊田亘先生の授業づくり、昭和学院(千葉)の中山涼一郎先生のICTを活用した労働の授業の二つの報告と討論を予定しています。
 申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2023/10/tokyo137flyerHybrid.pdf

■大阪部会(No.87回)を開催します。
 日時:2023年12月9日(土) 15時00分~17時00分
 会場:同志社大学大阪サテライト+オンライン方式(zoom形式)
 内容:ネタ研メンバーの若手の先生からの授業提案があります。
 申し込みは以下からお願いします。
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2023/10/Osaka87flyerHybrid.pdf

<関連団体の情報紹介>
■金融広報中央委員会から
金融広報中央委員会から2つの動画の配信が開始されました。
①先生のための金融教育セミナー(オンデマンド)
 現役の先生による動画、金融教育の専門家による動画が配信されています。
 また、本年7月に開催したハイブリッドセミナー(東大大学院教授渡辺努氏等が登壇)
 の模様もダイジェストで配信されています。
 https://www.sensei2023.jp/

②動画で学ぶ金融リテラシー「マネビタ」
金融経済教育推進会議(事務局:金融広報中央委員会)による金融リテラシーに関する動画講座「マネビタ」の新しい講座です。
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/e-learning/

③『金融教育プログラム』の23年10月改定版が「知るポルト」に掲載されました。
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/program/

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【 3 】授業のヒント  「捨てネタ」の効用 第2回 
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生産の三要素、私ならこう教える  〜ローカルニュースの使い方〜
執筆者 篠原 総一 
                                 
*教科書の生産の三要素
「生産活動と企業」の学習は、生産の三要素(資本、労働、土地)の説明から始まります。昨今の教科書は、この三要素についても実に分かりやすく、やさしく説明しています。例えば東京書籍『新しい社会 公民』(令和3年2月、141ページ)には、
 「企業の生産活動は、土地、設備、労働力という三つの生産要素を組み合わせて行われます。企業は、準備したお金で土地や設備、原材料を購入し、労働者をやとって商品を生産し、販売することで収入を得ます。・・・」
とあります。そして、企業は利潤を上げるためにはこんなこと、あんなことをしている、という説明が続いていきます。

しかし、教科書の記述は、いくら分かりやすく書かれていても、あくまで一般論の域を出ることはありません。ですから、生徒には、目に見えない経済社会のことを学ぶ公民や公共の授業が、無味乾燥で他人事に映るのは仕方のないことのようです。
すぐれた捨てネタには、実は、この「他人事のように見える一般論(教科書の記述)」を、一気に「自分と関わりがある経済、肌感覚で理解できる経済」に変身させてしまう魔法のような力があるものです。

*ローカルニュースに着目
今回紹介する小ネタは、生徒に「生産三要素の定義から、その役割りや働きまで」、すべて直感的に納得させてしまうこんなローカルニュースです。
 ・私の住んでいる地域では、12月1日から、あのバス会社が、あの路線とこの路線で朝晩のバスの本数を半分に減らす。昼間と夜間は一時間に1本になってしまう。隣町と結ぶあの路線は廃止と決まった。
 ・これでは通勤や通学が不便になる、おばあさんも病院へ通えなくなる。
 ・減便の直接的な原因は運転手不足だ。あの会社では、5年前には30人いた運転手さんがいまは15人集めるのがやっとという状態だという。これでは減便も仕方がない。
といった、地域社会に直結したニュースです。(*)

生徒がいつも見かけるバスの会社に関する話題だからこそ、「運転手不足(人手不足)が生産を止める」、「路線バスが止まったら(財やサービスの供給が減ったら)、住民の暮らしが不便になる(経済的に打撃を受ける)」といった経済の一般論の意味を直感的につかめるのではないでしょうか。

*小ネタから続く授業は
授業ではこの小ネタを仕込むのに、ほんの2〜3分でしょうか。そしてこれだけの準備だけで、後に続く授業を様変わりさせられます。
まず三要素の定義です。今回の小ネタを使って、このバス会社にとっての三要素を整理してみれば
 労働は運転手や会社で働いている人、
 資本設備は車体、
 土地は車庫用地、
(ついでに原材料としてはガソリン)
というイメージが苦もなくできるはずです。そして、定義の理解はこの段階でできあがっています。生徒が各要素の「生きた例」を知っているからこそ、各要素に関する経済の見方、考え方を身につける学習に進んでいける、と私は思っています。

生徒が作り上げたイメージを使って、
 ・運転手不足が起こる原因は?
 ・運転手不足がバス路線利用者に与える影響は?
 ・運転手不足問題の解決法は?
といった学習を通して、
 ・生産要素の不足が起こる原因は?
 ・生産要素の不足が消費者に与える影響は?
 ・生産要素の不足問題の解決法は?
という経済学習の本質につなげていけるというわけです。

(*)路線バスの減便、廃止問題を報じるローカルニュースについては、ネットで「路線バス、廃止、具体的な地域名」で検索すれば、ニュースのサイトが次々と出てきます。ちなみに私の住む関西圏での一例をあげておきます。
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20231005-OYT1T50101/ 

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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月は、授業の参考になる経済の本と歴史の本を紹介します。
■伊藤萬里、田中鮎夢著『現実から学ぶ国際経済学』有斐閣
①どんな本か
 有斐閣が始めた、大学生向けの教科書の新シリーズ「y-knot」の一冊で、タイトル通り現実から学ぶという点が特徴のテキストです。
②どんな内容か
序と三部構成をとっています。
序では、グローバル化の現状と国際経済学の対象、国際経済を学ぶことで何が役立つかを述べ、国境を越えた経済取引がおこる理由と、政策の影響を明らかにするというねらいが述べられています。
第Ⅰ部は、3章構成です。
 第1章では、世界貿易の現状と新しい動向が具体的に紹介されます。
 第2章ではグローバル化に対抗する保護主義の歴史とそれが台頭する背景、さらに現代の保護主義の新しい展開をこれも具体的に示してゆきます。
 第3章では、企業のグローバル化が取上げられます。なぜ企業は直接投資を行うか、またそのパターンにはどんなものがあるかを自動車会社の例(トヨタ、日産、マツダ)で示してゆきます。また、日本に進出した外資系企業についても触れています。
 第Ⅱ部は4章構成です。ここは理論的な説明部分です。
 第4章でリカードモデル、
第5章でヘクシャー=オーリンモデルとこれまでの貿易理論が紹介されます。
第6章は新貿易理論で規模の経済性と貿易、
第7章はメリッツ・モデルとして新・新貿易論が紹介されます。
第Ⅲ部は4章構成です。
 第8章で貿易政策の基礎(小国・完全競争)が、第9章で貿易政策の応用(大国・不完全競争)が解説されます。
 第10章では多国間の枠組みとして地域統合、WTO、FTOが取上げられます。最終章の第11章ではグローバル化と格差の問題が取上げられます。

③どこが役立つか
 三部構成のうち内容的に現場教員に役立つのは第Ⅰ部と第Ⅱ部のリカードモデル箇所、第Ⅲ部の最後の二つの章の箇所です。
 第Ⅰ部は、すべて具体例で進みますから、現在の国際経済の動向と新しい現実を整理するのに役立ちます。特に第3章の事例はすべて具体的な企業が取上げられていますから、授業を進める際にリアルな事例として紹介できるでしょう。
 第2章の保護主義に関しても、高校教科書ではリストだけがでてくる保護主義論を超える視点を持つことができるはずです。
 第Ⅱ部のリカードモデルの解説は、少々面倒くさい記述ですが、丁寧に読めば教科書にあるリカードモデルの前提やその特徴を理解することができます。
 第Ⅲ部の多国間の枠組みも、その困難性や新しい課題まで説明されているので、組織の説明だけではない理解が得られます。

④感想
 実は、この本、国際経済の内容を理解するためというより、その構成が授業づくりの参考になるなという感想を持ったことが、オススメの理由です。
 各章の扉にはクイズが二問だされます。解答と解説は次のページにあります。それをうけて、キーワードが示され、次に章の構成が図解されてゆきます。つまり、本文の構成が見える化されています。そして、本章の問いという形で、ねらいと課題が提示されて、本文が始まるという構成です。
 本文の最後に、本章の問いに対する答えと、レポート課題、演習問題がつきます。
 この本を手に取ったときに、なんと親切なんだろうと思いました。これはアメリカの分厚いテキストと同じ構成を簡約にしたもので、いかにも日本的かもしれません。
 もう一つの感想は、事実と理論を分けた構成はいいなというものです。
 高校までの教科書にも理論的なものは登場しますが、中途半端です。この本のように事実と理論を分けることで、理論は理論として正確にモデルとしての説明ができます。そこから考えると、高校までは理論を教えるよりは、現実の新しい動向を紹介してゆくことが必要なのかなという感想も持ちました。
 このスタイルを高校の教科書に持ち込んだらどんな教科書がでてくるか、興味深いところです。

■高島正憲著『賃金の日本史』吉川弘文館
①どんな本か
 「仕事と暮らしの1500年」というサブタイトルが付いている、古代から近代までの職人など労働者の賃金の変遷と暮らしの変化を紹介した数量経済史の本です。

②どんな内容か
 プロローグと四つの時代からなっています。
 プロローグでは、その日暮らしの人々として江戸時代の大工と行商人の賃金と生活ぶりの紹介からはじめて、数量データをもとに長期の賃金研究を分析するかの問題意識がまとめられています。
そこでは、長期統計を作ることによって、前近代から近代への経済社会変化の原動力がどこにあったのかを探ることの意味と、資料的な制約のもとで中世や古代までに遡ることの制約とそれを超える方法の概略が書かれています。
 <古代>では、日本の賃金のはじまりとして、都や伽藍を作った古代の労働者や律令官人の仕事が紹介されています。
 <中世>では、職人の誕生とその時代として、銭貨の浸透と中世職人の賃金のデータでの復元が試みられています。
 <近世>では、都市化の進展と職業の多様化ということで、城下町などの都市で生まれた新しい職業が紹介されます。また、災害と賃金の箇所では、江戸時代の地震とその後の賃金の高踏、それへの対応が紹介されます。
 この章では、実質賃金を推計するための方法と、長期の賃金の変遷から見える庶民の生活の変化が紹介されます。また、新しい賃金史研究として海外の研究動向も紹介されています。
 最後の<近代へ>、では明治以降の職人の地位変化、工業化のなかでの賃金労働者の登場が職人の賃金に与えた影響が分析されます。

③どこが役立つか
 授業者の立場から言えば、教科書にでてくる職人や日雇いの庶民の生活水準がどうであったのかを具体的に知ることができます。
 この本から、各時代のデータをつなげて、時代変化のなかでの庶民、特に大工、職人の賃金と生活水準の変化を寺院や神社の文書などを用いて推定したものがほとんどないなかで、その様子を具体的に知ることができます。
また、面白いのは、近世都市に登場したサービス業で耳垢取り、掃除屋、ネコののみ取りなどが紹介されているところです。このようないわゆる捨てネタとして生徒に紹介することができる事例が結構あります。
 もう一つ役立つものは、賃金は実質賃金で測ることが必要であるということが示されているところです。また、実質的な生活水準を推定する新しい賃金研究の方法を紹介している箇所も参考になるでしょう。
これはイギリスの経済史家のロバート・アレンという人が提唱している方法とのことで、一人あたりの年間賃金を一人あたりの生活費で割って求めるというものです。ここでは、最低限の食費や生活費を想定したバスケットにいれてそれを生活費として見るというものです。
 この方法をとると、賃金や生活水準の国際比較が可能になることが紹介されています。

④感想
 『武士の家計簿』という本が話題になり、映画にもなったように給与と生活に関する本は結構出版されていますが、計量経済史からこんなに具体的で分かりやすく書かれた本は珍しいかもしれません。
 著者はエピローグで、数ではなく体感として時代の変化を捉えたい、そこから前近代から近代への原動力はどこにあったかを探りたいと書いています。
 計量経済史の本を手に取っても、なかなか肌感覚で時代の変化が分かることはないのですが、本書では焦点を大工、職人に合わせて取上げているので、リアルに時代や生活水準を理解することができます。
 本書は、ブックハンティングをするなかで偶然に手にしました。プロローグとエピローグに書かれている研究者としての意欲や研究途上での困難、それを超えようとする情熱など共感するところが多い本でした。

■小野寺拓也、田野大輔著『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』岩波ブックレット
①どんな本か
 SNSや新書などでナチスは良いこともしてきたのではという主張に対して、検証批判をして話題になっている、岩波のブックレットです。

②どんな内容か
 <はじめに>と<おわりに>をはさみ全8章で構成されています。
 <はじめに>では、問題提起と、なぜ「良いこと」論が出てくる背景が示され、歴史を理解する場合には、事実と解釈と意見の三つの層があり、それぞれは別々に検討することが必要であること、そのなかでも解釈が重要であることが述べられます。
 第一章から第三章までは政治関連の概説と検証です。
ナチズムとは? ヒトラーはいかにして権力を握ったか? ドイツ人は熱狂的にナチス体制を支持していたのか? がそれぞれのタイトルです。
 ここではナチスを「国民社会主義」と訳すべきという指摘からはじまり、ヒトラーのナチスは、社会的反ユダヤ主義を政治的反ユダヤ主義に転換させることで、アーリア系ドイツ人を民族共同体に囲い込むことで、権力を掌握していったいったものと指摘されています。
 第四章から経済政策や各種政策の検証に移ります。
 第四章では、ナチス時代の財政のからくり、失業率の低下の実態、アウトバーンやフォルクスワーゲンといった「成功例」の検証です。
 第五章では労働者の味方であったかどうか、第六章では家族支援の実際、第七章では環境保護政策、第八章では健康政策に対して、それぞれ事実を踏まえた解釈が提示されます。
 最後の<おわりに>で、著者の田野さんによる、「良いこと」言説が出てくる背景を、学者によるポリコレ(ポリティカルコレクト=政治的な正しさ)をひっくり返したいという反権威主義的な願望と、自分たちは「本当のこと」を知っている優越感を同時に満足したいという欲求からと指摘します。それは、解釈抜きに断片的な事実から意見へと飛躍しているからと指摘しています。

③どこが役立つか
 まずは、歴史学習でナチスを取上げる際に参考になる本です。
特に、ナチスの経済政策に関しては、教科書では、「公共事業をおこして失業者を減らし、世論の支持を高める」(『中学校の歴史』帝国書院)とか、「大規模な公共事業によって失業を克服」(『現代の歴史総合』山川出版社)と記述されている箇所をそのままさらりと教えてしまうことに対する警告となるでしょう。
 経済学習では、ナチスの経済政策の概略を知ることができます。公共授業を行う際の資金はどこから調達したのか(巨額の負債とユダヤ人や占領地などからの収奪)、が簡潔に書かれているので参考になります。
 学習面では、断片的な事実をキャッチーな形で取上げることへの警告にもなります。面白授業にするためにどうしても分かりやすい、それも意外な事例をあげて話を進めることが起こります。
ナチスの公共政策、健康政策、環境保護などはその例かもしれません。各種の政策にある「包摂と排除」の両面をしっかり見据えることの必要性をあらためて伝える本です。

④感想
 あらためて知る事実がいくつかありました。
 その一つが、ナチスの正式名称です。
現行の教科書では「国民社会主義ドイツ労働者党」となっているという指摘です。「国家社会主義」がてっきり定番の翻訳だと思っていました。
 この本の指摘で、手元にある高校の歴史教科書を引っ張り出したら、確かにそうなっていました。それに対して、ネット上の訳はほとんど「国家社会主義」です。
たかが翻訳と言うなかれです。これは事実の解釈の問題になります。この落差を埋めないと「良いこと」言説は再生産されるなと感じました。
 もう一つは、経済政策の評価です。
ナチスの政策がうまくいって失業が減ったのではなく、ワイマール共和国末期の景気浮揚策が効果を上げてきたこと、様々な方法で若者や女性を労働市場から引き上げたことによるという指摘は、そうなんだと思わせるところでした。そのようなナチスの経済政策、財政・金融政策を概観できる研究や本を探して自分自身でも検証してみなければと思いました。
 この本、タイトルも含めてかなり挑戦的です。不正確な挑発をうけてたったという意味では、勇気のある本だとも感じました。特に<おわりに>の著者の一人の田野氏の所説は読ませます。(以上、新井)
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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教員になりたてのときに、いじめられっ子がいじめっ子に逆襲した事件に遭遇しまた。バスケットのボールを「ゴメンねゴメンね」と言いながらその生徒にぶつけていたところ、逆に殴り返された事件でした。
今回のパレスチナの紛争をみて、そのことを思い出しました。被害者と加害者が錯綜して、どちらが正しいのか判断に迷います。ホロコーストの被害者が抑圧者となり、今度は逆襲されてホロコーストまがいの攻撃をする。人間はどこまで賢くなっているのかと思わざるを得ません。(新井)
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