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八月、葉月。夏休み真っ最中の八月です。
今年の「夏休み経済教室」は、今月後半、21日と22日に対面とwebのハイブリッドで開催します。対面の「夏休み経済教室」は4年ぶりになります。会場は一杯になっていますが、webでの視聴は可能です。エコノミストと現場教員のコラボによるハイブリッドの学びにご参加ください。
そんな今月も、ネットワークの活動報告と、授業に役立つ情報をお伝えします。
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【今月の内容】
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【 1 】最新活動報告
 23年7月の活動報告です。
【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
 部会の案内、関連団体の活動、ネットワークに関連する情報などを紹介します。
【 3 】授業のヒント…授業は小説を超えることができるか
【 4 】授業で役立つ本…今月も授業のヒントになる本を紹介します。
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【 1 】最新活動報告・情報紹介
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■「先生のための夏休み経済教室」申し込み、まだ間に合います。
 日時:8月21日(月) 高等学校向け 午前と午後4コマ
   8月22日(火) 中学校向け  同じく午前と午後4コマ
方法:対面会場は満員で締め切っていますが、オンラインでの参加は可能です。
内容:(既報)
 https://test.belle-music.site/wp-content/uploads/2023/07/2023NatsuKeizaiKeioFinal.pdf
<高等学校向け>
 中島隆信先生(慶応義塾大学商学部教授)による総論、鹿野嘉昭先生(同志社大学経済学部教授)による金融、中川雅之先生(日本大学経済学部教授)による政府の役割の講演に対して、杉田孝之、大塚雅之、金子幹夫の各先生が現場教員の立場から問いかけます。
それを受けて、4コマ目に塙枝里子先生の進行のもとで質問者3名の先生と栗原久先生(東洋大学文学部教授)先生を加えて、「公民」での新たな経済の授業の作り方を考えてゆきます。
<中学校向け>
最初のセッションでは、共催者の東京証券取引所から教材紹介があります。
次のセッションから、地理は行壽浩司先生、歴史は梶谷真弘先生と玉木健悟先生、公民は小谷勇人先生がそれぞれ授業提案をします。それに対して、地理は三橋浩志先生(文部科学省初等中等教育局教科書調査官)、歴史は横山和輝先生(名古屋市立大学経済学部教授)、公民は野間敏克先生(同志社大学政策学部教授)がコメントして、コラボで中学校における経済の視点を踏まえた授業の作り方を考えます。
申し込みは東証HPの下記からお願いします。
https://www.jpx.co.jp/learning/seminar-events/d06/20230821.html

■東京部会(第137回)・大阪部会(第87回)合同部会を開催しました。
日時:2023年7月8日(土)15:00~17:00
場所:慶応義塾大学三田キャンパス東館オープンラボ+Zoom による web
参加者:17名(慶応会場5名+zoom22名)
【内容要旨】
(1)鈴木深氏(東京証券取引所)より「夏休み経済教室」の準備状況の説明があり、案内の状況、申し込み状況などが説明されました。

(2)新井(元目白大学非常勤講師)より、「韓国KDIとのインタビューと韓国の経済教育」の報告がありました。
これは、6月29日(木)に韓国の政府系シンクタンク韓国開発研究院(KDI)メンバー3名の訪問を受けたもので、当日のインタビュー内容に加えて、韓国の教育制度、経済教育の特徴と最近の動向、文献の紹介がありました。
補足として、栗原久先生(東洋大学)から、2021年に韓国で開催された経済教育の国際カンフェランスの紹介、日本証券業協会がまとめた韓国などの金融経済教育の実地調査の報告書の紹介がありました。

(3)夏休みの経済教室の準備状況の報告がありました。
①プログラム設定の趣旨に関して篠原代表から説明がありました。
今回のプログラムは、公共や公民の経済学習を通して、生徒が「なるほど、そうか。だから、こんな問題が起こったら、こう考えれば良いのか」という経済の見方考え方を身につけられるようにするには、どういう教え方があるか、専門家と現場教師のコラボでさぐろうとする趣旨であるとの説明でした。

<高等学校のプログラム>
②金子幹夫先生(神奈川県立三浦初声高等学校)から、政府の教え方に関する準備状況の説明がありました。
講演者の中川先生が参加した準備ミーティングでの意見交換の内容紹介と金子先生の「ルール」をキーワードとする政府の教え方に関する構想の紹介と質疑がありました。

③大塚雅之先生(大阪府立三国丘高等学校)から、金融に関する準備状況の説明がありました。
講演者の鹿野先生とのコンタクトはこれからで、さしあたり、銀行の具体的な業務から広げてゆく構想を考えているという説明がありました。

④杉田孝之先生(千葉県立津田沼高等学校)から、準備状況の説明がありました。
講演者の中島先生とのコンタクトはこれからで、腑に落ちるとは、学んだ事を母親や家族にもわかるように説明できることだと受け止めて、質問と経済の授業をつくりたいとの説明がありました。

⑤栗原久先生から、4コマ目の討論参加者としてのコメントがありました。
チラシにある「経済教育のパラダイム」という言葉に関して、パラダイムの共通理解がそれぞれの先生方にあるかどうかを改めて確認して欲しいとの要望がよせられました。

<中学校のプログラム>
⑥行壽浩司先生(福井県美浜町立美浜中学)から準備状況の説明がありました。
地理分野の授業提案では、学習の様々な分野で経済がでてくることを伝えること、そのためには、「モノ」から見えない社会を理解させたいこと、他の視点として、地政学的なアプローチや、コストをキーワードとして環境可能論から経済の視点を導入することなどを考えているとの紹介がありました。

⑦小谷勇人先生(春日部市立武里中学校)から準備状況の説明がありました。
公民分野導入の現代社会論の部分で、大阪万博を追究材料として、グローバル化、少子高齢化、情報化など4つの視点を入れた生徒の学習活動を実践中との報告でした。さらに、Googleでサイトを作り、そこに探究のための資料と、生徒の発表資料が共有できるような試みをしていることが紹介されました。
 部会内容の詳細は以下をご覧ください。
 https://test.belle-music.site/wp-content/uploads/2023/07/tokyo135Osaka85reportHybrid-2.pdf
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【 2 】定例部会のご案内・情報紹介
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<定例部会と関連団体のイベントのご案内です>(開催順)
■東京(No.136)大阪(No.86)部会を合同で開催します。
東京(No.136)大阪(No.86)部会はハイブリッド形式にて行います。
日時:2023年9月30日(土) 15時00分~17時00分
場所:未定 +オンライン(Zoom形式)
内容:夏休み経済教室の総括、新教材、授業実践の報告
 申し込みは以下からお願いします。なお、Zoomでの参加の先生方もアクセス情報と資料をお送りする関係で、こちらから申し込みをお願いします。
 https://test.belle-music.site/wp-content/uploads/2023/07/tokyo136Osaka86flyerZoom.pdf
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【 3 】授業のヒント  授業は小説に勝てるか
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        学校教師は電脳生徒の夢をさますことができるか?
                                        執筆者 新井 明
 このタイトルを見て映画『ブレードランナー』の原作タイトルを思い浮かべた先生がいたら敬意を表します。
 なぜ、このようなタイトルの文章を書いたのか。きっかけは二つです。
 一つは、高校三年生の「政治・経済」の講座で赤点をとった二人の女子生徒に追試がわりに「10年後の28歳になったときにどんな生活をして、それをするためにどのくらいのお金がかかるかを調べて書きなさい」という課題のレポートの内容が印象的だったことです。
 もう一つは、その学校の図書館から借りて読んだ、原田ひ香の小説『老人ホテル』の内容がその生徒のレポートとシンクロしたからです。

間違えて選択した生徒
 筆者の担当している講座は必修選択の講座です。本来なら受験で必要だからなど何らかの動機や関心をもっているはずです。しかし、赤点生徒は、他にとりたい授業がなかったし、卒業単位をそろえるのにはその時間帯にはこれしかなかったという消極的、ある意味極めて正直な理由で受講登録をした生徒たちでした。
 彼女らは、授業中はぼーっとしているか、こっそりスマホを眺めている電脳少女で、担当者としてはこれでは危ないと早くから思っていた生徒です。
 中間も赤点で、そのあとどうしたら良いかと相談を受け、かくかくしかじかの勉強をすれば最低点はとれるはずと励ましたのですが、期末も残念な結果でした。
 そこで救済の課題となった次第です。

生徒の希望
 二人のレポート結論は大変似ていました。二人とも結婚をして家庭を持つ。それまでは、一人はフリーターとして生活をしながらお金を稼ぐ、もう一人は専門学校にいってそこで得た技術でお金を稼ぐというものでした。それぞれ、家をでて一人暮らしをした場合の初期費用や学費の計算を調べて書いていました。
 それを読んで二人ともよく似たライフプランであることがとても印象的でした。また、彼女らの関心が自分をとりまく世界のなかからなかなか抜け出せないのも印象的でした。
小説世界のリアリティ
 もう一つのきっかけの小説『老人ホテル』の作者原田ひ香さんは、『3000円の使い方』がベストセラーになった最近注目の作家です。
 『老人ホテル』は、ビジネスホテルの一階をついの住みかとする訳あり老人たちと、そこで清掃員として働く天使(エンジェル)というキラキラネームを持つ高校中退、キャバクラ勤務経験の24歳の主人公との関わりを描いた小説です。
 そこで取上げられているのは、貧困女性、それをとりまく生活保護で生きている大家族、虐待一歩手前の子育てであり、そこから抜け出そうとする主人公です。
 一方の訳あり老人たちは、天使の生育歴を聞こうとする元ジャーナリスト、不動産投資で財産を築いた老女、株式投資をする老人などです。
 小説的な面白さは別として、経済の授業と関連するのは、不動産投資をしていた光子という老女が天使に指南するお金の使い方、ため方であり、生活スタイルの立て直し方の箇所です。

具体的な指南は胸に響く
 同書からその指南を抜き出してみます。
 光子は、まず、天使に今日何を食べたのかを言わせます。それがいくらかかったのかを思い出させて、一日の食費を計算させます。それを30倍すると一月の食費がでてきます。天使は自炊をしていないので、収入の半分近くが食費になるということを自覚させることからはじめ、簡単な自炊方法を教えでゆきます。
 次には、1000円を天使に渡して、指定の品物を買わせ、そのレシートを保存するように指示します。それで支出の管理をさせるというわけです。
 次は住です。住居費を出させて、安いアパートを探させます。ここも具体的な場所や探し方の指示を出して、転居させ、少しでも貯金ができるようにさせます。
 貯金するために銀行口座をつくらせ、そこに毎月の残余のお金を入金させます。それが一定程度たまったら、株式投資の老人にバトンタッチをして、運用方法を指南させます。
 ほかにも、正社員になれ、など細かい具体的な指示が書かれていますが、省略しましょう。ポイントはすべて具体的な指示、指南です。

授業は小説に勝てないか
 ここまで紹介した部分は、小説的な面白さをもって書かれています。
 主人公の天使が、名前とは違って邪悪な心ももっていること、でも現状を抜け出そうとしているところ、老人たちの奇矯ぶり、それを突破して知恵を引き出すテクニックなど、小説ならではの筆致です。
 この面白さと具体性に対して、授業で扱う消費者教育やパーソナルファイナンスはどうしても一般論でしかなく、太刀打ちできません。まして、市場経済の仕組みや財政、金融、景気変動などマクロ経済の話はどこの世界の話かねという感覚だろうと思います。
 それでは授業は小説に勝てないのでしょうか。そんなことはないはずと筆者は思いたい。もしそうなら、授業中に小説を読ませればいいし、映画を見せておけば良いことになってしまいます。
 勝つポイントは、比較優位です。もっと言えば授業の比較優位が提示できれば勝たなくともいいのです。小説のリアルさ、切実さ、面白さに対抗することはできないけれど、経済は面白い、お金のことだけではないのだよというきっかけを与えることができる領域や場面さえ見つけられればそれで授業は十分に意味があるものとなるのではと思います。もう一つ言えば、今の世の中の風潮や仕組みを与件として考えないこともできるということが伝えられれば、それはそれで大成功かもしれません。

勝負はこれからだ
 では、具体的にどんな授業が電脳少年・少女に伝わるモノになるのか。河原和之先生の提唱されているユニバーサルデザインの授業が一つの突破口になるでしょう。そんな授業の具体例や実践を次世代の先生方に探究して欲しいと思うのです。そのためには、この授業のヒントのコーナーや今夏の経済教室が、「腑に落ちる」「伝わる」授業作りの提案や討論の場となるといいなと思っています。
 ちなみに、赤点電脳少女たちのレポートは添削して返却、その時にはいろいろと雑談をしながら話をしてゆくつもりです。また、次に赤点をとったら、原田さんの本を紹介して、読ませようと思っています。でも、これは授業の敗北かもしれせんね。
そうなる前に、いかなる授業を組み立てるか。夏の宿題になりそうです。
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【 4 】授業に役立つ本 
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 今月は、最近出された授業に役立ちそうな経済に関する本3冊を紹介します。
■小峰隆夫『世の中の見方が変わる経済学-常識のワナに陥らないために-』東京書籍刊
①どんな本か
 旧経済企画庁で『経済白書』を執筆したエコノミストが、早稲田塾という予備校で高校生を相手に経済の講義をしたものをまとめた本です。
 今月の一番のオススメ本です。

②どんな内容か
 まえがき、あとがきを除くと全6章で構成されています。
 第1章は、「経済学の基礎の基礎から世の中をみると」のタイトルで、市場の作業が経済の動きを調整しているという第一原理から、インセンティブ、政府の介入のケース(外部性と公共財)、機会費用、一般均衡的な考え方まで5つの原理が紹介されます。
 第2章は、「経済学は役立つ」のタイトルで、暮らしと経済学、経済学を勉強するとお金持ちになれるか、さらに役立つようになってきた経済学として行動経済学など経済学の「実装」のいくつかが紹介されます。
 第3章は、「幸せのための経済学」のタイトルで、財政政策と金融政策が紹介されます。
 第4章は、「どうなる、これからの働き方」のタイトルで、日本人の現在の働き方とこれからのジョブ型の働き方への転換が説明されます。
 第5章は、「世界の中で生きる経済学」のタイトルで、貿易、比較優位、国際収支の見方や考え方が紹介されます。
 最後の第6章は、「人口問題を考える」のタイトルで、日本の人口問題についての著者の分析と見解が述べられています。

③どこが役に立つか
 現在の標準的な経済学をベースとして、その考え方で経済現象や経済政策を丁寧に説明しています。
 記述の進め方は、現在の教科書とほぼ同じですから、教科書の背景にある経済学の論理、その展開の仕方などが無理なく理解できるはずです。
 各章にある、「高校生との対話」の箇所は、早稲田塾での講義のときにとったアンケートや質疑が紹介されます。その結果と全国の世論調査が併せて紹介されて、生徒がもつ常識のバイアスが暴かれてゆくところがスリリングです。
 なかでも、p99にある、「大臣から自分の経済の見解とちがった(間違っている)政策の立案を指示されたらどうするか?」という問いは、官庁エコノミストとして生きてきた小峰さんならではの答えが書かれています。
 また、長く日本経済を観察してきた著者ならではの見解が随所にしめされています。その部分を読むことで、新聞での解説などとの違いを比較しながら、自分なりの日本経済への見方を養う手助けになる本です。

 ④感想
 小峰さんは、日本経済新聞の株式欄のコラム「大機小機」で「隅田川」のイニシャルで書かれている人だと推定しています。「隅田川」のコラムは、オーソドックスな経済学に基づきながら現実的な分析や提言をしているので、注目してきました。最近では、7月19日に「こども未来戦略に異議あり」というタイトルで「こども未来戦略は、経済学の基本を踏まえて見直した方がよさそうだ」と書いています。
 若い人向けに「おもいっきり基礎的な経済の本を書いてみたいものだと思っていた」とあとがきにありますが、十分それは達成されていると感じました。
 なお、本書に紹介されていますが、小峰さんの大学時代の師は根岸隆さんです。その根岸さんとの関わりや、小峰さん自身の日本経済分析に関するエッセイが、日本経済研究センターのHPで連載されています。こちらは「小峰隆夫の私が見てきた日本経済史」で検索すると読めますので、関心がある先生は本書の背景を理解するためにも読まれると良いと思います。

■レイブランド、デ・テラシ著『教養としての決済』東洋経済新報社
①どんな本か
 マッキンゼーとスイフト(国際銀行間通信協会)に在籍していた著者と、決済に関心をもつジャーナリストによる国際決済に関するビジネス教養書です。

②どんな内容か
 全体は7章に分かれています。
 Ⅰで決済の概観をして、Ⅱで決済の歴史で伝統的な決済からカードによる決済など決済の最近の進化が紹介されます。Ⅲの決済の地理学では米、中、インド、ケニアでの決済の違いが紹介されます。Ⅳで決済の経済学で決済のコストにともなう経済的な意味がまとめられます。
 Ⅴのビッグマネーで、国際的な決済にまつわる変化が紹介され、Ⅵのテクノロジー革命でフィンテック、ビットコインなどの仮想通貨など新しい貨幣の動向が紹介されます。
 最後のⅦでこれらの動きに対する政治、国家による規制、サイバー攻撃、金融制裁などがとりあげられます。

③どこが役に立つか?
 金融の授業で貨幣の役割を扱う時に参考になる本です。
 決済という用語は、BIS(国際決済銀行)規制という言葉やキャッシュレス決済が普及するなかで教科書に登場してきた用語です。その点から言えば支払いと決済の違いを私たち教員ははどれだけ理解しているか心許ないところです。とはいえ、金融を理解するのに必要な概念であることは間違いありません。
本書で一番役立つのはVやⅥに書かれている最近の動向でしょう。
例えば、Vにある、教科書の国際経済の箇所で登場する外国為替の仕組みと信任状や決済の最近の関係などは、そうなんだと思わせる部分です。
ここでは、「信用状は手に負えないほど複雑で、決済の専門家でさえも理解している人はいない」p232と書かれているように、センターテストでも出題されてしまっている外国為替の図は過剰な情報であることが、逆に分かるという効果もあります。
 エピソード豊富な本なので、世界の金融の最前線で何が起こっているか、「教養」として知っておくのも時間の余裕がある夏休みの読書としてよいかもしれません。

④感想
 この本、篠原代表との雑談のなかで出てきた本です。
 スイフトは、ロシアのウクライナ侵攻時に、ロシアを金融排除するために登場して、そんな機関があったのかと知った次第。
決済は金融と結びついていて、Ⅱの現金からカードへの変遷の記述などは面白く読めると同時にお金の役割で何が根本的に重要かを考えさせられます。また、ⅥやⅦからは、これからのお金がどう管理されてゆくのかを考えさせられます。
 この種のビジネス本は対象がどんどん変化するのですぐに古くなるし、ジャーナリスティックなので学問的にはどのくらい信用できるかはわかりませんが、ホットな動きを知る手がかりとしてあげてみました。

■高橋祐貴著『追跡 税金のゆくえ』光文社新書
①どんな本か?
 毎日新聞の記者が、税金の使い道を追ったジャーナリストならではのルポです。
 オリンピックでの電通による巨額な資金のピンハネや談合、コロナの支援金のゆくえなど、ブラックボックス化されてしまっている税金の使い道があばかれます。

②どんな内容か?
 全体は5章です。
 第一章で、一般社団法人が取上げられます。ここでは委託業務の中抜きの仕組みが詳細にルポされます。
 第二章は、五輪予算です。オリンピック予算の闇が取り上げれています。
 第三章は、コロナの支援金です。ゼロゼロ融資、病院への支援金がとりあげられます。
 第四章は、消防団と農業補助金という地域での公金の搾取が取上げられます。
 第五章は、防衛費です。防衛費が2倍になるというニュースがありますが、その背景に迫ります。

③どこが役立つか?
 税金の授業をやると、「無駄な税金の使い方をなくせば良い」という感想が必ずでてきます。そんな簡単なものじゃないよという事例がたくさん取上げられている本です。
 前にあげた「決済」が世界的規模、金額も天文学的な数字ですが、こちらはローカル、スケールが違います。でも、実は、このような足下の事実を掘り下げることで、政府の経済的役割のリアルな姿が浮かび上がります。
 地域それぞれの補助金や支援金があると思います。授業にリアリティを持たせるためにも、身近な補助金などを調べる手がかりになる本でしょう。

④感想
 私の住んでいる市で、この本に書いてあるような事件が発覚しました。
 一つは、第四章でとりあげられている消防団です。市会議員(地元農家の出身の若手議員)の所属する消防団が、会計を水増して請求し、不正受給をしていたことがわかり、問題になりました。この本にでてくる「遊興費に消える消防団員の報酬」の事例に近いものです。
 もう一つ、市内で多数展開している保育園が建設費の水増しをして補助金の不正受給をしたことが発覚しました。
 前者は保守系市議が関係していましたが、後者は元市議の市民運動家がはじめた保育園のチェーンに絡んだ事件です。お金が絡むと保守もリベラルも差はないようです。
 金額はオリンピックや防衛費にくらべてたいしたことはありませんが、足下の税金のワイズスペンディングを考える上で、また制度の表だけでなく裏まで考えさせる素材として使えると思っています。
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【 5 】編集後記「みみずのたはこと」
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6月号で書いた放送大学のレポート、コメントが返ってきました。文面は、「1,2,3と箇条書きにするのではなく、文章にしてください」というものでした。
1000字以内にまとめなさいということで、一度文章にしたものをこのメルマガのように見出しをつけて送ったモノです。
せっかくコメントを書くなら、内容に関するものであって欲しいなと、肩透かしをくらった気持ちになりました。でも、これと同じようなことを生徒にもやっているかもしれないなと、我が身を振り返って反省もしました。
評点はまだ返ってきませんが、どうなりますかね。(新井)
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