|
|
何かいいことがありそうな11月を迎えました。 いいこと第一弾です。先生のための「夏休み経済教室」で紹介しました「シン経済教育」プログラムにおいて寄せられることが多い質問と回答をまとめたページをホームページにアップしました。 内容は次のとおりです。 ● シン経済教育Q&A ① シン経済教育プログラムの導入に関するよくある質問 ② シン経済教育プログラムの経済学に関するQ&A ③ シン経済教育プログラムの教育学に関するQ&A ④ シン経済教育プログラムの実践報告のひな型
|
いいこと第二弾です。この「シン経済教育」の教材紹介をホームページにアップしました。 内容は次のとおりです。 ●「シン経済教育」の教材紹介 ①「吾輩はカレーである」 読本 (生徒用) ②「吾輩はカレーである」振り返りシート ③「吾輩はカレーである」教師用マニュアル 以下は新井明先生が筑波大学附属中学校で実践された報告です。 ④自習課題「吾輩はカレーである」本文_序章-第3講 ⑤自習課題「吾輩はカレーである」ワークシート_序章-第3講 ⑥シン経済教育実践報告(新井実践) まだまだいいことが見つかるような紙面の編集を心がけました。 それでは11月号のスタートです。 ──────────────────────────────────────── 【今月の内容】 今月は次の4つの内容をお届けします。 ──────────────────────────────────────── 【 1 】最新活動報告・・・2026年10月の活動報告です 【 2 】定例部会のご案内・情報紹介 【 3 】授業のヒント…【テレビショッピングで学ぶ社会の基盤】 【 4 】授業に役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
|
──────────────────────────────────────── 【1】最新活動報告・・・2026年10月の活動報告です ──────────────────────────────────────── ■ 東京部会(No.151)を開催しました ※ 先月号では概要を報告しました。今月号は、概要に加えて「詳しい内容」をお届け します。 日時:2026年9月26日(土)15時00分~17時00分 場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館5F 内容の概要: ① 佐藤英司先生(福島大学経営経済学類)より「市場競争と消費者保護---シン経済教育 (第 4 講・第 5 講)の実践」の報告がありました。 ② 吉村慈子氏(東京証券取引所)より夏休み経済教室開催報告がありました。 ③ 新井明先生(筑波大学附属中学校)より「夏休み経済教室の総括と、今後の『シン経済教育のあり方』を考える」の報告がありました。
|
詳しい内容は https://econ-edu.net/2026/10/20/8955/ をご覧ください。
|
──────────────────────────────────────── 【2】定例部会のご案内・情報紹介 ──────────────────────────────────────── ■ 東京部会(No.152)を開催します。 日時:2026年11月7日(土) 15時00分~17時00分 場所:慶應義塾大学三田キャンパス東館4階オープンラボ+オンライン(Zoom形式) 申込方法 https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにて お申し込みください
|
■ 札幌部会(No.35)を開催します。 日時:2026 年11 月21日(土) 13時30分~17時00分(受付開始13:00~) 場所:キャリアバンクセミナールーム 札幌市中央区北5条西5丁目7 Sapporo55ビル5階(JR札幌駅紀伊国屋のビル) (対面のみでの開催です) 議題:「空港と教育のコラボ事業」 1) 教材開発・研究実践報告 2) 研究討議「空港と教育」の更なる深化に向けて 申込方法 https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください ──────────────────────────────────────── 【3】授業のヒント ──────────────────────────────────────── テレビショッピングで学ぶ社会の基盤 執筆者 金子幹夫
|
1.主人公との出会い 箱根駅伝で有名な小田原駅の隣に鴨宮駅という駅があります。「かものみや」と読みます。今回は、筆者がこの駅に下車したところからはじまります。 秋の日曜日、しかもお昼過ぎなのにホームに人はあまりいません。雨が降り、ちょっと寒かったので温かい缶コーヒーを買おうとしたときに、今月号の主人公と出会いました。
|
2.謎の主人公 主人公は「ラーメンスープ」です。オレンジ色のキャップで、中央に「味噌」と、そして下の方に「麺は入っておりません」と書いてあります。 買うか買わないかの問題どころではありません。なんでラーメンスープが飲料の自動販売機で売っているのだろう? いつ、どのような人が購入するのだろう? そもそもどんな味がするのだろう? 「?」でアタマの中はいっぱいです。
|
3.「?」は教材になる! 「?」でいっぱいの対象は、教材になる可能性を秘めています。今月号は、このラーメンスープ缶を題材にして授業づくりを考えてみようと思います。 皆様と一緒に考えたいことは次のとおりです。 (1)日常生活の中で見つけた「?」をどのように教材化するのかということ (2)経済を教えるにあたって、自販機の商品で「市場・インフラ・生活・政策制度」という社会を支える4つの基盤と6つのキーワード(「希少性」「効率」「分業」「交換」「信頼」「不公正」)を教えることができるのではないか? ということです。
|
※ ラーメンスープ缶はJR東日本のホームで販売しているようです。全国のJRでは、似たような魅力的な商品を販売しているはずです。この記事をお読みの先生方は、地元のJRホームで販売している商品に置き換えてお読みいただければと思います。
|
4.導入は「これなんでしょう?」 授業は、教師が外から見えない紙袋に入れた商品を生徒に示すところからはじまります。もちろん入っているのはラーメンスープの缶です。「この紙袋には、私(教師)がJRのホームにある自動販売機で買った、ある飲み物が入っています。何だと思いますか?」。 JRのホームという用語を入れるところがポイントです。商品の品質について信用してもらう必要があるからです。
|
5.正解は? きっと生徒はいろいろな飲み物をあげてくるはずです。コーンポタージュ、お汁粉、スンドゥブ・・・と。実は正解は・・・「ラーメンスープ」でした! 「先生、それ飲んだの?」「どんな味がするの?」と盛り上げたい場面です。 「みんなはこれ飲んでみたい?」と問いかけます。きっといろいろな意見が出てくるでしょう。そこで、このラーメンスープの魅力についてみんなで考える授業を創ってみたいと思うのです。
|
6.場面設定は「テレビショッピング」 場面設定は「テレビショッピング」です。 先生が考えてきた台本を生徒と一緒に演じるという授業です。生徒同士が演じても成立します。登場人物は2人です。2分間、視聴者(生徒たち)を対象に「ラーメンスープ」を販売するという企画です。
|
7.授業の構想について 次に、このラーメンスープ缶の商品について説明します。続けて、テレビショッピングの特徴を共有します。さらに、実際の展開案を示します。 なぜテレビショッピングなのでしょう? 筆者は、テレビショッピングの構成は、前述した4つの基盤及び6つのキーワードを教えるにあたってものすごく相性がよいと思っているのです。それでは、順番に紹介します。
|
8.商品の説明 ラーメンスープ缶は、自販機では1本170円で販売していました。そこで、この商品の販売にかかった費用を130円と設定しました(本当の費用はわからないので推測です)。 130円の内容は、商品開発、原料仕入れ、缶の用意・印刷、調理・加熱・殺菌、箱詰め、運送、宣伝、販売機の電気代等々を含めたものだということを事前に説明します。
|
9.テレビショッピングの構成 テレビショッピングにはいろいろなパターンがありますが、授業内容を適切に学ばせるために、次のような構成にします。 (1)冒頭は、何か困っている人を描く(時間やお金等々 何か限界を感じている)
|
(2)世の中には「便利なものを開発している人がいる」(1人ではできない) (3) 視聴者は、その商品大丈夫なのかと不安になる(安心感を示して信頼を得る) (4) この広告は様々なルールを守っていることを知らせる(不公正はないことを示す) (5) その上で、この価格を設定しているのだ といった構成です。
|
10. ストーリー それでは、テレビショッピングのはじまりです。2人の生徒に役割を演じてもらいます。 放課後、部活が終わりヘトヘトに疲れた生徒たちは、お腹を空かせたまま塾に行かなければいけないという設定です。 (1)困っているシーンです (空腹の高校生Aと高校生Bが会話をします。) A「部活終わってお腹ペコペコだ…! 牛丼とかラーメンが食べたい…!」 B「塾の授業まであと30分しかないよ。お小遣いもあと200円。最悪だ…」 (限られた時間やお金をどのように効率よく使ったらよいのか困っています)
|
(2)困った生徒によいお知らせです B (自動販売機で缶のラーメンスープを1本購入して) 「あきらめるのはまだ早いよ! ほら、これを見てごらん!」 A「えっ、なにそれ? 自販機にラーメン…スープ!? 缶で!?」 【可能ならばテロップを出します】 なんと170円 。待ち時間0秒!
|
(3)生徒Bによる解説 B「ラーメン屋さんに並ぶ時間も、ラーメン一杯分のお金は必要なし! 170円で本格
|
スープの満足感が買えちゃうんだ!これぞ究極のタイムパフォーマンスだね」 【テロップ】 タイパ&コスパ最強の選択!(効率的だということを示します)
|
※ここのポイントは2つあります。 <1>生徒は時間にもお金にも限界があるということを表現します。限界があるからこそ
|
その後に登場する解決策が際立ちます。 <2>数字を見せます。「170円」「0秒」といった具体的な数値をあげることで「効率」に
|
|
ついて考えるようになります。場合によっては、もしもラーメン屋さんに行っていたら
|
「1,000円払うんだよ」といった数値を入れることもできます。
|
(4)誰がつくったの? 大丈夫なの? A「自販機でラーメンのスープって、本当に美味しいのかな? 誰がつくったの?」 B「大丈夫! これはラーメンのプロが創ったんだよ。監修しているのは、あの有名な
|
|
ラーメン店、そして販売しているのは駅のホームだよ。ラーメン屋さんと飲料メーカ
|
ーの高度な技術が組み合わさり、みんなが利用する駅で売っているんだ。」 【テロップ】 有名ラーメン店(味)× 飲料メーカー(技術)×鉄道会社公認 信用抜群!!
|
※ここのポイントは2つあります。 <1>「一人では作れない商品」ということを示します。専門家同士が手を組むことで
|
安くて品質の高い商品をつくることができるのです。 <2> 多くの人が利用する駅のホームで、鉄道会社が認めた業者の商品を売っていると
|
|
いうことを示します。この後に続く缶の表示を見ることと合わせて信頼とはどのような
|
(5)それでは飲んでみようか・・・と思った瞬間 A(缶を持ち、一口飲もうとした瞬間、急に不安になり) 「ちょっと待って。 この缶の中身って外から見えないよね。何が入っているのか分
|
からないからちょっと怖いな・・・」 B(缶のいろいろと記載されているところを示します。) 「心配はいらないよ!ここを見てごらん。法律に基づいた原材料とアレルギー表示が
|
|
バッチリ書かれているよ! 第三者の厳しい審査を通った駅の自販機だからここで売
|
ることができるんだよ。」 A 「そうか! それは安心だね」 (そしてAも1本購入して) 「これで 塾に行ってもおなかが空いて困ることはないね。法律があるおかげで、私
|
|
たちは初めて見る缶スープでも安心して飲むことができるんだ!風が冷たくなって
|
(6)大満足な顔の2人 (ここで突如Bが高校生から販売員の役に変わり、視聴者の皆さんに語りかけます) B「さあ、このラーメンスープを皆さんのご自宅でも楽しむことができます。時間がな
|
|
いとき、ちょっとおなかが空いたとき手軽に1本! あると安心ですね。 本日は、こ
|
|
の情報を見ている皆さんに特別に、10分間限定! 30缶一ケースを4,500円でご提供し
|
(7) 先生の登場 テレビショッピングはここでおしまいです。演者の皆さんは自席に戻ります。 そこで生徒の状況に合わせての発問がはじまります。 例えば、「お腹ペコペコ・時間もお金もない」は希少性・効率に関する発問、
|
|
「ラーメン店×飲料メーカー」は 分業・交換に関する発問、「駅の自販機・食品衛生法」
|
は信頼や不公正に関連する発問です。 成長段階、学校やクラス、生徒の学習状況によって問い方はいろいろです。ここは
|
11.おわりに 生徒がどのような発言をするのかはわかりません。それを受け止める教師が意識するのは4つの基盤と6つのキーワードです。 2026年の先生のための「夏休み経済教室」では、篠原総一先生から「希少性だから効率的に、効率には分業と交換で、分業と交換はつながりを生み、つながるためには信頼が、 それでもなくならないのが不公正」というお話がありました。 これを今回のストーリーにのせて言い換えますと「時間がないからすぐにおなかを満たしたい。手際よく美味しいものを味わうには複数の力がいる。その力が連携した結果、駅のホームの自販機に届いたのがラーメンスープ。売っている場所を考えれば安心して飲むことができそうだ。ルールがあっても詐欺商品といった『不公正』はなくならない。だからこそ、契約や食品表示が不可欠」といった感じでしょうか。今月はここまでです。 ──────────────────────────────────────── 【4】授業に役立つ本 ──────────────────────────────────────── 今月紹介する本は 大竹文雄『思い込みの経済学 AI時代のお金・仕事・社会』中公新書2026年 と 宇都宮浄人 榊原雄一郎 本西泰三『日本経済論への招待』新世社2026年 の2冊です。
|
■ 大竹文雄『思い込みの経済学 AI時代のお金・仕事・社会』中公新書2026年 ① なぜこの本を選んだのか? 2026年8月に開催された先生のための「夏休み経済教室」でご講演をいただいた大竹文雄先生の最新刊です。当日、「もうすぐ本が出版される」というお話がありましたので、さっそく紹介することにしました。 教室に参加された方、残念ながら参加できなかった方皆さんで「AI時代に必要な能力」について読み解いてみませんか。
|
② どのような内容か? 1.皆、同じような誤りを繰り返している? 「私たちは、ふだん『それほど間違った判断はしていない』と思いながら生活している」という一文で本書ははじまります。この「思いながら」に注目します。 つまり「間違っていない」と思いながら、私たちはけっこう間違った判断をしているわけです。しかも驚くほど似た誤りを繰り返しているようです。
|
2.金融教育に欠けているものが2つある そこで登場するのが金融教育です。本書は、金融教育に必要な内容を2点示しています。その中の1つが「人はなぜ誤った判断をするのか」を教えなければいけないというものです(もう一点は本書でどうぞ)。 教師が経済学の思考方法、そして行動経済学の知識を身に付けることで、生徒に「自分の弱さを自覚し、迷わず適切な行動をとることができる」力をつけさせる授業ができるのですね。ポイントは、経済学のバランスシート思考にあるようです。
|
3.印象に残るコトバ 印象に残る記述を紹介します。「正しい知識を与えれば、正しく行動できるようになるという誤った前提」に立ってはいけないということ、「金融リテラシーが高まるほど、行動が望ましい方向に改善するとは限らない」ということです。 さらに本文では、金融教育に関する知識を身に付けていく過程の、どの段階で人は最も誤りやすいか? を教えてくれます。「えー・・・、その段階で?」と思わず繰り返し読んでしまう部分があります。 (第1章)
|
4.ゾッとしてハッとする 次に登場するのはAIです。AIは人間の仕事を代替するのでしょうか? それとも補完してくれるのでしょうか? 本書は、楽観論と悲観論を紹介しています。「新しい薬の開発」といった楽観論を楽しみたいところですが、読者は悲観論の記述に導かれていきます。 ゾッとするのは、AIが私たちの寿命を延ばす効果が大きければ、人類滅亡のリスクが大きくてもAIの導入を進める場合がある?・・・という記述です。 ハッとする記述は、核兵器の場合、抑止力という均衡が成立していましたが、AIの場合に均衡が成立するのでしょうか? というところです。
|
5.ジワッと迫ってくる記述 危機感を肌で感じる記述もありました。人間が学ぼうとする努力が減ると、社会全体で新しく生まれる知識も減るという場面です。AIの使用で、自分で深く考える習慣が減り、やがて知識が崩壊するという悲観論です。 科学は「基礎理論」と「実験結果」で補完し合っていますが、AIの登場で基礎理論が弱まってしまうかもしれないというのです。危機感がジワッと迫ってきます。 6.重要なのは制度設計 この悲観論を前にして、私たちはどのような工夫をすることができるのでしょうか。本書は「制度設計」が重要だと示しています。教育、労働、所得再分配のルールを社会全体で設計するのです。 読者の皆さんが関わるのは教育です。AIの登場は、今の学校にどのような影響を与えるのでしょうか? 具体的な工夫として、何ができるのでしょうか。本書は技術力と人間の能力について考察をすすめていきます。 (第2章) 7.代替と補完という枠組みで考える それでは、その技術力と人間の能力について考えるにあたり、AIは私たちの仕事を奪ってしまうのでしょうか? この問いを考えるために、本書は経済学の基本概念である「代替」と「補完」を用いて私たちに説明してくれます。ラグビー日本代表の例は、この「代替」と「補完」を理解するための、最もわかりやすい事例として心に残ります。ぜひ読んでみてください。 手順が決まった作業はAIに任せ、責任を引き受ける仕事は私たちが行うことで、仕事の奪い合いは避けられるようです。では学校の仕事に絞って考えると何が見えるのでしょうか?
|
8.AI時代の教育で重要なことは? AIは学校にどのような影響を与えるのでしょうか? この問題はAIを「禁止しろ」とか「認めるべきだ」という単純な二択にはなりません。生徒は何を学び、どの段階でAIが登場するのかという設計図の作成が必要になります。 この設計図を描くために、AI時代の教育における重心を意識する必要があります。本書は、その重心を3つあげています。1つは、AIがうまく使えていない瞬間を見抜く力です。あと2つは何だと思いますか? (第3章)
|
9.働き方をめぐる思い込みについて ここまで技術力と人間の能力といった、個人の仕事について考えてきました。次は、「私たちの働き方と制度」について、どのような思い込みがあるのかを取り上げます。 本書では、この思い込みについて①長時間働くことをめぐる思い込み、②男性が働くこと、女性が働くことをめぐる思い込み、③働く人を企業が囲い込むことについての思い込み、④企業理念を語ることで業績はあがるのか、という思い込みを取り上げています。
|
10. 思い込みの向こう側 ①について。従業員の睡眠時間が長いことが、企業の営業利益率にどのような影響を及ぼすのかという研究が取り上げられています。 ④について。なぜ企業が立派な経営理念を語るのでしょうか? その理由を読むと「なるほど!」と納得します。そして、その理念はどのようにすると全社員に届くのかというコツも紹介しています。皆さんの職員室を思い描きながら読んでみてはいかがでしょうか。(第4章)
|
11.裁判官は夕方になると・・・ 社会には、至る所に「思い込み」があるようです。これまであげたもの以外に、どのような思い込みがあるのでしょうか? 思い込みから抜け出す方法はあるのでしょうか? 私たちが持つAIの印象はどうでしょう? 公民科授業で実践されることの多い最後通牒ゲームにおけるAIの反応を想像できますか? 紹介者にとっては意外な結果でした。 裁判官の判断をめぐる記述は、ぜひ読んでみてください。夕方になるとどんな判断が多くなるのか? 気温に左右されるのか? 無意識にバランスをとろうとして適切でない判断をしていないか? どれも生徒の注目を集めそうな話題だと思います。 12.強制することなく人の行動を変える手立て この至る所に潜むバイアスから抜け出す手がかりが示されています。 伝統的な経済学はインセンティブに注目して人の行動を変えようとします。法律学は、特定の行動を禁止し、違反者には金銭的なペナルティーを課そうとします。行動経済学は「ナッジ」と呼ばれる力を使って望ましい意思決定を可能にしようとするのです。
|
13.いろいろなナッジ 選択の自由を残しながら人々をよりよい方向に導く代表的な「ナッジ」が4つ示されています。デフォルトの変更、コミットメントといった手立てが授業づくりに役立ちます。(第5章)
|
14.本書の全体像 以上が、本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 はしがき――立ち止まって、考える 第一章 お金とリスクの本質――「バランスシート」で思考する 第二章 aiと成長の本質――補完か代替か、楽観か悲観か 第三章 技術革新と人間の能力――aiは人間の仕事を奪うのか? 第四章 働き方の呪縛を解く――「貪欲な仕事」、性差、転職 第五章 「思い込み」を解くナッジ――社会とバイアスの本質 あとがき
|
③ どこが役に立つのか? 本書は「人は、正しい知識を教わったら、適切な行動をとるはずだ」という考え方に疑問を投げかけています。2回、3回と読み直すことで「説明したことで教えたことにしてはいけない理由」が可視化されていきます。 世の中の仕組みはどうなっているのでしょうか?という問いと、なぜ人間は不思議な行動を選択するのでしょう? ということを両方学ぶことで、生徒の心に届く授業になっていくのだということを教えてくれる一冊です。
|
④ 感 想 全体を通して安心して読むことができました。理由は次のとおりです。 本書で取り上げたテーマを考察していくと、「代替か補完か」という問いが形を変えて繰り返し登場します。 各テーマは、株と金について、AIについて、一人ひとりの仕事について、企業など働いている場所について、人間が解釈するという行為についてという魅力的な問いでした。これらをわかりやすく細分化して教えてくれます。 この各テーマは代替と補完という枠組みに再統合されながらストーリーが進んでいきますので、常に部分と全体を意識しながら安心して読み進めることができたのです。
|
■ 宇都宮浄人 榊原雄一郎 本西泰三『日本経済論への招待』新世社2026年 ① なぜこの本を選んだのか? 教師は、中学生や高校生に「経済的な見方・考え方をどう教えるのか?」を考えています。本書は、大学の研究者が「学生に経済学を教える際、何から話し始めるべきか?」と考えているところから生まれました。これは教師にとって学ぶべき点が多々あるのではないかということで選びました。
|
② どのような内容か? 1.執筆者は? 宇都宮浄人先生、榊原雄一郎先生、本西泰三先生は、大学で経済学を教える研究者です。 宇都宮先生は日本銀行での実務経験を経て、現在は交通経済学を研究されています。榊原先生は地域経済をベースに、産業・都市・人口移動へと研究領域を広げています。本西先生は経済政策を担当し、家計行動を中心とした研究を行っています。
|
2.道に迷ったら全体像をつかむ 何から話し始めるのかに注目します。本書は「全体の見取り図」から入りました。初めて行く旅先でも、地図で全体像を把握すると、街の様子がすんなり頭に入ってきます。大学生における経済学習も、最初に全体像を知ることが理解への近道になるというわけです。
|
3.コツを教えてくれる 全体の見取り図にはGDP、財政政策、金融政策が書かれていました。この中で注目したのは、「ちょっとしたコツ」のようなものを教えてくれるところです。 「GDP634兆円」という数字を見たら、「国民1人あたり、だいたい634万円」と想像するとよいといった記述です。「投資」という用語をどのように解釈すればよいのかという「コツ」も書かれています(詳しくは本書で)。コツの記述は本当に助かります。
|
4.定義もわかりやすく教えてくれます 「コツ」に加えて、用語の定義も分かりやすく示してくれます。よく見る用語でも、定義を曖昧にして読み進めると解釈がブレてしまいます。 例えば、バブルとは、一般的に経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)から乖離した動きを指す、としたうえで株価や地価を例にあげて教えてくれるのです。 経済学のテキストとしての記述に加えて、読者が理解するためのヒントも書かれているので安心して読み進めることができます。
|
5.全体の見取り図と私たちとをつなぐ 「財政・金融政策」の説明に続けて「社会保障」が登場します。なぜここで「社会保障」なのでしょうか。 著者は、全体の見取り図と私たちの日常とをつなげるために「社会保障」をこの順番で設定したのだと解釈しながら読み進めることにしました。
|
6.私たちに身近な社会保障の問題 本書は、社会保障を「年金」、「医療」、「介護」、「少子化対策」の順番で、人口構成を背景にして考察します。 ここで授業に使えそうな問いを見つけました。出生率低下の原因です。この原因は、現在も議論が続いていてハッキリとした証拠は得られていませんが、注目されている3つの仮説が示されているのです。ぜひ授業で生徒に投げかけてみたい問いです。 7.現在地はどこだ? 全体の見取り図からはじまった記述は、私たちの生活する「現在地」とつながりました。 さあ、その現在地はどうなっているのか? という記述に入ると思った瞬間に「時間軸」が登場します。この現在地は、昔(1980年代)はどうなっていて、それがどのようにして今日のようになったのかの説明がはじまります。
|
9.過去から今に向かいます バブル崩壊後、実体経済の動きが鈍かったのは、企業の債務過剰、生産設備の過剰、過剰雇用という企業部門における3つの過剰問題が背景にあったと指摘しています。 話題は、不良債権問題、デフレーション、構造改革、リーマン・ショック、異次元の金融緩和、失われた30年と進みます。 2000年代に男性の非正規割合が増加したことの説明に注目しました。企業の収益が回復したのは、名目賃金の下方硬直性が見られなかったという事実を指摘しています。
|
10.お金の流れに注目します 次に本書は、「お金の流れ」に注目します。お金、紙幣、硬貨、現金、貨幣、そしてビットコインや暗号資産、キャッシュレスという用語を整理し、お金の流れの仕組みや問題点について教えてくれます。 このお金は外国通貨と交換されます。そこで「為替レート」の説明に入ります。取り上げた事例はマクドナルド社のビッグマックです。世界中のビッグマックは全く同じ商品ではありませんが、日米比較は可能だという判断で説明が続きます。
|
11.ドル・円レートを解釈するコツ 1995年当時の日本のビッグマックはアメリカの約2倍の価格で販売されていたそうです。ビックマックだけでなく、当時の日本は世界的に物価の高い国として有名だったそうです。それでは、なぜ日本は物価の安い国に変化したのでしょうか? 理由は2つあげられています(詳細は本書にて)。1つは為替レートの変化(円安の進行)です。ここでも解釈のコツを教えてくれます。為替レートの決まり方を見るときの、わかりやすい解釈の方法が示されているのです。
|
12.株式会社はどのようなものなのか? 次は、企業に注目します。著者は「株式や株式会社がどのようなものか、説明するように求められたとき、きちんと話せる人は意外に少ないのでは」と書いています。ここでも説明のコツを教えてくれます。 次に注目するのは企業で働く労働者の「雇用」です。日本の雇用形態は1990年代後半から急激に変化します。労働時間は、1985年と2022年で大きく変化します。日本的雇用の特徴や問題点を挙げた後に、ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用に言及します。
|
13.日本企業の特徴は? 「企業」、「雇用」ときました。次は、多数ある産業を構造として見つめることになります。戦後の日本は、新しい産業が次々に発展しましたが、日本のリーディング産業はずっと自動車だったと指摘します。 その日本企業は、企業間関係において長期継続取引を重視しているという特徴があげられています。カルソニックカンセイ、デンソーといった実際の企業名をあげながら日本の企業システムを説明してくれるのです。
|
14.都道府県別の特徴は? 日本全体の産業構造を捉えた次は、都道府県別の特徴を見ることになります。相対的に豊かな地域とそうでない地域が存在するのはなぜでしょう? 農業県として有名な青森県、宮崎県と工業県として有名な愛知県、静岡県などのデータを見ながら考察は進みます。 また、ドイツの都市システムと日本の都市システムを図式化して比較することで、日本の特徴が見えてきます。分業スタイルは、中枢管理機能や研究開発機能をどこに設立するのかによって異なることを教えてくれます。
|
15.分業の発展と交通サービス 分業の発展は、人とモノの移動を活発にします。そこで交通サービスについて考えることになるのです。公共交通の「公共」が意味する内容を明快に教えてくれるため、適切な解釈ができます。 交通サービスの多くは、民間企業によって供給されます。ところが地方圏では事情が異なります。「市場の失敗」に対応した政府の介入が必要となる場合が出てくるのです。ここで私たちは交通政策の基本的な考え方を学ぶことができます。 道路渋滞を解消するために、道路の拡幅を行うと、かえって道路渋滞が激しくなるという説(ダウンズ・トムソン・パラドックス)が印象に残ります。
|
③ どこが役に立つのか? 経済の見方や考え方のコツを教えてくれる場面が何回か登場します。これは役立ちます。 GDPの数値を見て、国民1人当たりどのくらいの金額なのかを一瞬で解釈する方法、 「投資」を解釈するコツ等々です。 さらに、用語の定義をわかりやすく示した後に、内容の説明に移るので、適切に解釈することができます。丁寧さと大胆さ(コツを教えてくれるところ)の両方を読み取ることができる一冊です。
|
④ 感 想 印象に残る記述がいくつかありました。皆さんは「山田羽書」をご存知ですか?これは現在の三重県伊勢市の有力商人たちが1600年頃につくったものです。経済の授業で「山田羽書」について調べてみようという課題を出すことができると思いました。 トヨタの株とファーストリテイリングの株の違いも印象に残っています。株式市場を見るときの日経平均株価が抱える問題点、そしてその問題点を解消したTOPIXという指標の仕組みも心に残っています。取り上げる事例がわかりやすいというのが本書の特徴だと思います。 (金子幹夫) ──────────────────────────────────────── 編集後記「~自己観照~」 ──────────────────────────────────────── 映画「男はつらいよ」(山田洋次監督)の主人公、車寅次郎は「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降ればいい。」と言います。ふり返りますと、本稿編集者の作業場所は、雨が降ると、時々ネットが止まります。強い雨ですと高い確率で止まります。原因は不明です。サポートデスクに問い合わせますと「コンセントのさす場所をかえてください」と、一昔前の家電製品のような対応です。「メルマガ編集止めるには、雨の3日も降ればいい」わけです。月末は晴れますように。 (金子幹夫)
|
|
|
|
|
|
|