reader reader先生
 何かいいことがありそうな8月を迎えました。
 いよいよ今月は先生のための「夏休み経済教室」が開催されます。
長い時間をかけて準備をすすめてきました。多くの皆様の授業づくりに役立ちましたらうれしいです。 さあ、夏の暑さに負けないで、今月も授業づくりについて共に考えていきましょう。8月号のスタートです!
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【今月の内容】 今月は次の5つの内容をお届けします。
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【 1 】先生のための「夏休み経済教室」の情報です
【 2 】最新活動報告・・・2026年7月の活動報告です
【 3 】定例部会のご案内・情報紹介
【 4 】授業のヒント…【 夏とスイカと経済教室 】
【 5 】授業で役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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【1】先生のための「夏休み経済教室」
    「シン経済教育の提案」会場はまだ余裕があります!
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「2026年 先生のための『夏休み経済教室』」の申し込みはこちらです
 
  大阪会場の申し込みはこちらです  
 
  東京会場の申し込みはこちらです   
 
  ※ 大阪会場の初日は締め切りました。
  ※ 大阪会場、東京会場共に、2日目はまだ会場に余裕があります。 
 一緒に新しい授業づくりに挑戦してみませんか
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【2】最新活動報告・・・2026年7月の活動報告です
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■ 東京部会(No.150)を開催しました。
日時:2026年7月4日(土)15:00~17:00
 場所:慶應義塾大学 三田キャンパス東館オープンラボ +オンライン
内容の概要:26名(会場15名、zoom11名)参加
① 佐藤英司先生(福島大学経営経済学類)より「仕事とお金を通じた公民的学びへの導  入-小学6年生を対象とした授業実践」の報告がありました。
② 杉浦光紀先生(都立新宿山吹高等学校)から「夏休み経済教室にむけての授業提案の実践」(見えないものをみる経済学習の試み)の報告がありました。

③ 夏休み経済教室の申込み状況など、現在の取組み状況について東京証券取引所の吉村さんから報告がありました。
 詳しい内容は
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2026/05/tokyo150report.pdf
をご覧ください。

■ 大阪部会(No.98)を開催しました。
 日時:2026年7月5日(日)15:00~17:00
 場所:同志社大学 大阪サテライトオフィス
内容の概要:11名参加
 今月、東京証券取引所、大阪取引所、慶応大学商学部と共催で開かれる「先生のための「夏休み経済教室」」(東京・大阪)で基調報告として予定されている「シン経済教育の提案」について活発な議論がありました。
 詳しい内容は
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2026/05/Osaka98report.pdf
をご覧ください。
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【3】定例部会のご案内・情報紹介
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■ 東京部会(No.151)を開催します
日時:2026年9月26日(土)15:00~17:00 
  場所:慶応義塾大学三田キャンパス東館5F
  お申し込みはこちらです
https://econ-edu.net/application/event-application/
                    よりフォームにてお申し込みください
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【 4 】授業のヒント
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 夏とスイカと経済教室
   執筆者 金子幹夫
1.見つけました 
 初夏のある日のことでした。パン屋さんの自動ドアが開いた瞬間、目の前にスイカが現れました。正確には「すいかパン」です。
 通常の販売棚ではなく、特設テーブルの上に積み上げられています。タレントの出川哲朗さんがオートバイに乗るバラエティー番組で全国を旅するときにかぶっているヘルメットと同じ柄です。迷わず購入しました。

2.本物と同じかどうかは関係なく・・・
 数分後。「スイカの味とはどのようなものだったのか?」を思い出しながら実食です。数秒後、「美味い!」。スイカの味かどうかは関係ないと思わせるくらい満足しました。
 しばらく経つと・・・「スイカの味かどうかは関係ない」と思ったことについて迷いが生じました。「味と名前って・・・関係なくてもいいのかな・・・?」。

3.何か違うぞ
 世の中には、「名前」と「味」が異なる商品はたくさんあります。「味」に関することですので、あくまでも主観的な記述になりますが。
 例えば「バナナのパン」はどうでしょう? あれ、 バナナってこんな味だったかな?と思ったことはありませんか?「イチゴのチョコレート」、「レモンパイ」・・・。まだまだありそうです。これ・・・授業にならないかな? と教師の遺伝子が騒ぎはじめました。
 
4.企画(案)
 こんな企画はどうでしょう。これから大雑把に授業の展開について提案してみます。皆さんは、生徒の状況に合わせて、この提案が改造できそうかどうかを検討しながら読み進めてください。
 例えば読者の皆さんが「公共」か「政治・経済」のクラスを複数クラス担当しているとします。仮にA組、B組、C組という3クラスを担当しているとしましょう。その中のA組では次のように授業を進めるのです。
 場面設定は「文化祭のクラスの出し物」です。このクラスでは、文化祭で「果樹(野菜)」の名前の付いたパンを販売することになりました。候補は次の節にあるとおりです。この候補の中から販売する商品を3つ選び、ランク付けをしてくださいと指示します。

5.商品候補リスト
 選択肢として示されたパンは次のとおりです。
 ① 『完熟イチゴの贅沢生クリームパン』本物の国産イチゴを使用  350円
 ② 『みんな大好きメロンパン』見た目や食感がまるでメロン    100円 
 ③ 『信州産リンゴのサクサクアップルパイ』本物のリンゴを使用  250円
 ④ 『トウモロコシの焼きもろこしパン』惣菜パンでおなじみです  200円
 ⑤ 『激辛アボカドパン 話題性たっぷり』辛くて食べられるかな? 230円
 ⑥ 『新商品 すいかパン』思わず写真を撮りたくなるスイカそっくり 180円 
    
6.販売商品を決めます
 この中から商品を3つ選びます。選び方は次のとおりです。
(1)まずは個人作業。6つの商品の順番を決めてください。第1位から6位までです。
(2)隣の人と話し合って、2人で1つの順番を決めてください。
(3)4人前後のグループで話し合って1つの順番を決めてください。多数決はなしです。
(4)8人前後で話し合って、1つの順番を決めてください。これも多数決はなしです。
(5)(4)の結果が板書されました。クラスで1つのランキングを決めましょう。
 これで、第1位、第2位、第3位が決まりました。

7.同じ授業をB組でも行います
 同じ展開の授業を、隣のB組でも行います。ただし、選択肢をすべて変えて行います。メニューは次のとおりです。価格構成はA組で示したものと同じです。
 ①『ほくほくスイートポテトデニッシュ』高級サツマイモ使用    350円
 ②『シャキシャキリンゴ風味のジャムパン』本物のリンゴみたい   100円
 ③『完熟トマトのピザパン』野菜で勝負!         250円
 ④『バナナのフレンチトースト』本物のバナナを使用      200円
 ⑤『激辛 史上最強カレーパン』世界一?辛いと言われる唐辛子使用 230円
 ⑥『ブドウの香りがする蒸しパン』紫色で甘い香り ブドウみたい! 180円

8.同じ授業をC組でも行います
 同じ展開の授業を、C組でも行います。ただし、選択肢をすべて変えて行います。メニューは次のとおりです。価格構成はすべてのクラスで同じにします。
 ①『濃厚宇治抹茶の贅沢クリームパン』本物の京都府産宇治抹茶を使用   350円
 ②『ふんわりオレンジ風味の蒸しパン』本物のオレンジみたいな甘酸っぱさ 100円
 ③『じっくり煮込んだ国産牛肉のカレーパン』本物の牛肉を使用      250円
 ④『甘熟黒ごまの濃厚あんパン』本物の国産黒ごまを使用         200円
 ⑤『激辛ソースパン SNSで大バズり』一口食べたら危険!?       230円
 ⑥『写真映え!パイナップルパン』黄色くて網目がまるでパイナップル   180円
 これで3クラスの商品名と価格が出そろいました。

9.マーケットの反応です
 各クラスごとで、販売する商品名が3つずつ選ばれました。マーケットの反応を見ることにします。A組で選ばれた商品とB組で選ばれた商品(合計6商品)をシャッフルしてC組の生徒に示して次のように説明します。
 (ア)皆さんの所持金は500円です
 (イ)すべてをパンの購入に使うものとします
 (ウ)同じ商品を複数購入することもできます
 (エ)選んだ商品には「これは一番目に欲しい」、「これは二番目に欲しい」と好みの    順番を付けてください

10. 結果の集計です
 次は教師による集計です。それぞれ一番目に選ばれたパンには3点を、二番目には選ばれたパンには2点を、三番目以降に選ばれたパンには1点として、6つの商品のポイント合計を算出します。これでマーケットがどのように反応したのかを知ることができます。
 同じような展開で、B組の生徒にはA、C組で選ばれた商品を、C組の生徒にはA,B組で選ばれた商品購入について検討してもらいます。 
 
11. 結果発表と振り返り 
 ここからが、生徒に活躍してもらう思考の時間になります。
 得られた結果の背後には、どのような理由があるのでしょうか?そして、どのような考え方が潜んでいるのでしょうか? 売買の「向こう側」にある世界をみんなで考えていくことになります。
 このときに教師はどのような見通しを持てばよいのでしょうか。生徒に、(ただ「考えてみよう」ではなく)どのように考えさせればよいのかという枠組みを示してみたいと思います。

12.問いかけ その1
 教師が伝えたいことは、先生が言うのではなく、生徒に気がつかせたり言わせたりしたいのです。そこで、次のような問いかけを用意してみました。 見た目は一問一答のようですが,経済学習で重要な見方・考え方を含めた問いを形成するように心がけました。
<問いかけ1>
 「なぜ完熟イチゴパン(スイートポテトデニッシュ)は人気がないのでしょうか?」
 この問いの背後には、買いたいという心は無限にありますが、イチゴの数量や皆さんが持っているお金には限りがあるということを感じ取らせたいという気持ちがあります。
<問いかけ2>
「はじめにパンを3つ選びました。選ばなかったパンとの間には、どのような違いがあったのでしょうか?」
この問いの背後には、選んだパンと選ばなかったパンとの間に、価値の違いがあります。3番目と4番目の価値の違いが微妙であるところに注目させたいです。機会費用という概念に触れる場面にもつながります。
13. 問いかけ その2
 背後に「見方・考え方」を察してもらう仕掛けを含めた問いの続きです。
 <問いかけ3>
 「パンを生産するために、どのくらいの人が関わったと思いますか?」
 この問いの背後には、農家さん、農協、パンを作る人、運ぶ人、売る人、買う人の存在とつながりに気づいてもらいたいという思いがあります。私たちの見えないところで多くの人が仕事を分担し、お金と交換することを繰り返していることを想像するのです。
 <問いかけ4>
 「たくさんのお客さんに満足してもらうため、そして誰もが納得して買ってもらうためには、どのようなルールが必要でしょうか?」
 たくさんの人の満足について考えるには「効率」について、ルールについて考えるには「公正」について考える必要があります。「これが公正だ」というものにたどり着くのは困難です。少しでも公正に近づくための工夫について考えるわけです。

14. 暑い(熱い)夏に向けてのメッセージ 
 これらの問答で、生徒は「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」という概念に触れることができます。これは、夏休み経済教室で注目している経済学習6つのキーワードです。
 今回紹介した(案)は、筆者が出会った「すいかパン」からはじまりました。「授業のヒント」としてお伝えしたいメッセージの第1は、教室から離れた場所で、(ネットではなく)足で授業のヒントを見つけようという姿勢を共有しませんかということです。
 第2は、本(案)について、自分の教室では生徒の状況に合わせて「こんな風に改造できる」というアイディアを出し合い、皆さんで一緒に考えませんか? ということです。

15.おわりに
 名前と味が異なる商品をきっかけに、授業づくりについて考えてきました。街中を歩くと、まだまだヒントが見つかりそうです。
 夏季休業中に、自分の足による教材探しの取材はいかがでしょうか? 取材中の水分補給には美味しいかき氷が待っているかもしれません。
 あれ? そういえば「かき氷」のメロンは? イチゴは? みかんは?どんな味でしたっけ? それどころではありません! 「ブルーハワイ」って何の味なのでしょう? 知っている方、教えてください。 今月はここまでです。
                           (金子幹夫)
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【 5 】授業に役立つ本 
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今月紹介する本は
渡辺 努『インフレの時代 賃金・物価・金利のゆくえ』中公新書 2026年 と
吉川洋『日本-没落か再生か 時代精神とアニマルスピリッツ』新潮社2026年 
                                の2冊です。
■ 渡辺 努『インフレの時代 賃金・物価・金利のゆくえ』中公新書 2026年
① なぜこの本を選んだのか?
 本書は、インフレを理解するためのキーワードが明確に示されています。同時に、令和の米騒動など生徒にとって身近な話題が取り上げられています。教師が生徒にインフレを教えるときのポイント(コツのようなもの?)を読み取ることができると考えて選びました。

② どのような内容か?
1.本書の全体像
 本書は、2022年以降のインフレを対象に、筆者が考えてきたことをまとめています。この対象とする22年以降について、22年春から25年春までの3年間を正常化の第1ステージ、その先の2035年までを第2ステージと呼んで考察していきます。
 全体を通して、今回のインフレを、日本にとって前向きな変化であると捉えています。

2.世界にある4種類の国?
「日本にとって」と書きましたが、この「日本」という用語をどのように捉えればよいのかという一例で、ノーベル経済学賞を受賞したサイモン・クズネッツのジョークが取り上げられています。
 世界に4種類の国々がある。先進国と発展途上国と日本とアルゼンチンだというものです。日本がどのような異常値を示しているのかが示されています。

3.2022年にどのようなことが起きたのでしょうか?
 22年以降のインフレを対象に、歴史的に捉えます。渡辺先生が主張している「日本版賃金・物価スパイラル」という仮説をもとに、90年代半ば以降、30年間にわたって繰り返されてきた価格と賃金の動きについて教えてくれます。
 そして、2022年に何が起こったのかを私たちは知ることになります。なぜ価格を上げてもお客さんは逃げなくなったのでしょうか? どうして春闘で高水準を達成することができたのでしょうか。過去から現代に続く流れを読み取ることができます。

4.なんで1%や3%じゃないの?
 新聞やテレビの報道から、私たちは「2%」のインフレという言葉をよく聞きます。なぜ「2%なのでしょうか?」。3%や1%ではダメなのでしょうか? 生徒から質問されそうなこの2%について、数値を用いて丁寧に解説してくれます。
 ジェームズ・トービンによる、名目賃金に下方硬直性がある場合は、正のインフレを受け入れざるを得ないという指摘は、経済を教える教師が知っていたい知識だと思います。

5.政策金利を決める方法
 本書を執筆したのは2025年10月時点です。この時点でのCPIインフレ(Consumer Price Index:消費者物価指数)は3%をやや上回っています。このインフレ率が3%の時、政策金利はいかなる水準に設定されるべきなのでしょうか。
この問いに答えるためのツールが説明されています。このツールを読んだ上で、日銀の政策を評価します。前述したツールをもとに考えますと、足もとのCPIインフレ率は3%を上回るとき、望ましい政策金利は3.5%となります。その仕組みは本書でどうぞ。

6.日銀が注目している2つのこと
 日銀が考えていることは、どのようなことなのでしょうか?
 第1は、インフレ変動には「一過性の要因」と「持続的な要因」がありますが、分析対象としているインフレは、どちらに当てはまるのか? ということです。
 第2は、総務省が公表するCPIから一過性の変動を除去して算出した数値を重視して政策を考えているということです(ここであげられている理髪店の料金といった例も授業で紹介したい話題です)。
 日本銀行の仕事を教えるときに、教師が知っていると役に立つ知識が具体的に書かれています。さて、2022年春以降のインフレは持続的なものなのでしょうか?

7.人びとはインフレをどう解釈するのか?
 2022年春のインフレは一過性かどうか? を考えます。
 渡辺先生は、この問いに答えています(内容は本書で)。その時に重視しているのが「インフレ予測」です。若者はインフレの経験がこれまでにありません。海外からインフレのショックが流入します。企業が値上げを試みます。問題は、消費者がこの値上げから逃げるかどうかです。
 本書では、この経過について分かりやすく説明しています。次に、もしもインフレが続いたとしたならば問題になる賃上げについて教えてくれます。
 消費者、企業経営者、労働者といった経済の主要プレーヤーは、物価に対する認識を「毎年上がるもの」と捉えているのでしょうか?

8.インフレ・デフレが起きる本当の原因
 ここまで読み進めてきますと、問題の根源が少しずつ見えてくるように感じられます。本書も、私たちの想像に合わせて展開しているように思えます。インフレやデフレが起こる原因は、人びとの“心” にあるのではないかという思いが浮かび上がってくるのです。
 この心の変化は、起きやすい時と起きにくい時があるようです。そして起きにくい時代が長く続いた背景を説明してくれます。
 その上で、心を動かす仕組みとしての 「フォワードガイダンス」という金融政策の手法を紹介します。これは、中央銀行が将来の政策金利の水準をアナウンスすることにより経済をコントロールする手法です。

9. 「将来型」の登場が必要
 いよいよ旧サイクルから新サイクルに移る過程を見ていきます。現在(執筆時点の2025年)の日本は、インフレ率ゼロ%の経済から2%の経済に移行する過程にあります。
 本書は、旧サイクルから新サイクルへ移行する過程について二つのパターンを考えます。第1は賃上げ先行、第2は値上げ先行です。
 前節で、インフレ・デフレと人間の心について指摘しました。これらを総合しますと
自分の賃金は将来上がると確信する「将来」型の消費者や、賃上げ分を価格に転嫁できると確信する「将来」型の企業を増やすことが肝要となることがわかります。
「確信」・・・つまり「心」なのですね。

10.インフレ要因をどう見分けるのか?
 インフレが発生する要因には需要要因と供給要因があります。それでは、実際のインフレの要因をどのように見分けることができるのでしょうか?
ここでの説明は、授業づくりにものすごく役立ちます。何といいましても、令和の米騒動という生徒にとって身近な話題を取り上げているからです。
 そして、この身近な話題を、教科書に掲載されている需要と供給の関係と結びつけてわかりやすく教えてくれるのです。需要・供給曲線の「ここを見ると判断できる!」というポイントをズバリと教えてくれます。

11.本書の全体像
 以上が、本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
 序 章 新たな時代の始まり
 第1章 賃金・物価・金利の正常化
 第2章 インフレは日本経済をどう変えるのか
 第3章 インフレと日銀
 第4章 インフレと賃上げ
 第5章 インフレと財政
 第6章 インフレの変動要因
 あとがき

③ どこが役に立つのか?
「このインフレは何が原因なのですか?」という問いに、どのような考え方を持っていればよいのかを教えてくれます。経済学者がインフレについて多くの人に語るときに、どのような順番で、どのような具体例を挙げて、どのような内容を教えるのかということを知ることができます。授業づくりのヒントが満載です。

④ 感 想
 経済に関する教材研究をしていると「自然」という用語によく出会います。本書で言うと「自然利子率」というようなものです。この「自然」という用語をどのように解釈すればよいのかというコツを教えてくれるページがとても印象に残っています。専門家が書く、このちょっとしたコツを教師が身に付けることで、生徒にとってより一層わかりやすい説明ができるようになると感じました。
 本書には、この「自然」だけでなく、経済学者が普通に用いる用語や概念を、このように捉えればわかりやすいのではないかという記述が多数見られます。「あー、そういうことだったのか」ということを何度も感じることができました。

■ 吉川洋『日本-没落か再生か 時代精神とアニマルスピリッツ』新潮社2026年
① なぜこの本を選んだのか?
 「アニマルスピリッツ」・・・? 本コーナーで最近登場した用語だなと、すぐに思い出しました。メルマガNo.192で取り上げました、浅子和美 飯塚信夫 篠原総一 編『新入門・日本経済』有斐閣 2024年 に登場する用語です。 
 いろいろな場面で経済学者が繰り返し用いるこの用語に触れることで、エコノミストがどのように経済を捉えているのか? 文字記号を超えたところで感じ取ることができるのではないかと思い本書を選びました。

② どのような内容か?
1.国がどこに向かうのかを見る方法
 本書は「今の世界や日本は、ひょっとすると羅針盤を欠いた船なのではないだろうか」という問いから始まります。
 「羅針盤を欠いた船」という表現を、私たちはどのように感じ取ることができるのでしょうか? その見方には、どのような方法があるのでしょうか? そして、その見方を当てはめて日本を見ますと、何が分かるのでしょうか?

2.私たちは変化に気がつかない?
 本書には「時代精神」という用語が登場します。 吉川先生は、この時代精神なるものは空気のようなものだから、私たちはその変化に気がつかないと指摘します。
 知らないうちに、その時代に生きる人びとが持つ精神が変わるのでしょうか? それを察することは、人間には無理なことなのでしょうか? そもそも時代精神なるものをつくる原動力は、どのようなものなのでしょうか?

3.時代精神を動かすものを見つける
 その原動力を探す手がかりの1つに「企業」がありそうです。民間企業は資本主義経済を動かす主役です。ケインズは企業の本質を「アニマルスピリッツ」と表しました。 この時代精神は、時と共に変容するようです。正体は何だか分かりません。
 この変化をつかみ取ろうとした学者のひとりに森嶋通夫先生がいます。変化をつかみ取るときに用いた方法は、人間を土台と考えるというものでした。 経済は、この土台の上に建てられたものにすぎないと解釈するのです。
 人間が土台ですから、思考はやがて「教育」に向かいます。教育がしっかりしていないと時代は悪しき方向に向かうと指摘しているようです。

4.一国の興亡を図る方法
 本書は、この考え方を紹介した後、一国の興亡を、GDPと株価に注目して図るという方法を教えてくれます。
 日本企業は1989年には世界のトップ30のうち21社が並んでいましたが、2025年になると1社も存在しないという事実を示した(トヨタが50位に入るのみ)上で、日本の没落を防ぐための手立てとして「分厚い中間層をつくる」という考え方を紹介します。

5.アメリカの日本的経営
 日本は前節で登場した「分厚い中間層」を形成することはできたのでしょうか? 日米の歴史を振り返りながら、そしてトマ・ピケティの『21世紀の資本』を紹介しながら日本の「一億総中流」について考察をすすめていきます。
 印象深い記述として、戦後の米国大企業の経営者たちは、経営の在り方について語った内容が、ほぼ「日本的経営」であったというところでした。

6.日本の中間層が崩壊した原因
 再び、日本の(分厚い)中間層についての記述に戻ります。
 日本のジニ係数は、一億総中流の時代に最小値を記録します。ところが80年代から一貫して上昇を続けます。原因は「高齢化」です。
 高齢者は健康・所得・資産のどれをとってもグループ内における格差が大きいものです。高齢社会は、格差社会に陥りやすいと指摘しています。
 「一億総中流社会」が到来した後に格差が拡大したことは、日本社会を深くむしばむことになるのです。

7.国の衰退を感じる人口減少という事実
 原因は「高齢化」という指摘がありました。そこで人口について見てみましょう。現在の国の衰退をわかりやすく感じさせてくれるのが人口減少です。
 読んでいて授業づくりに役立ちそうな記述が、ここで2つあります。1つはロバート・マルサスの『人口論』の記述です。もう一つは、日本の出生率低下についての記述です。
教科書記述を思い出しながら読むことで、一層深い学習内容の形成につながると思います。

8.教えるヒントがたくさん
 教科書記述に関連することとしてもう一つ「貿易」についてとりあげます。ここでは、リストが唱えた保護貿易論と、トランプが主張している保護貿易の違いが明確に示されています。
 自由貿易と保護貿易について教える時に、教科書に書かれていることと実際の世の中で起こっていることを整理して教えないと、生徒の知識が混乱します。本書で貿易の考え方について整理することができます。
 続けて、マルサスとドイツの経済学者ブレンターノの学説について教えてくれます。ブレンターノによる、出生率の低下が教育や所得水準の高い家庭で見られたという指摘に注目しました。
 そして、日本において、江戸時代後半に経済成長があったことが確認できるのに、人口が増加していない謎について教えてくれます。答えは本書の中から読み取ってください。
 さらに人口減少と女性の社会進出の関係についても整理しています。農村地帯では、男性も女性も働きます。そこでは伝統的な子育ての仕組みが確立されていました。現在の企業勤め中心の社会には、確立された子育ての仕組みがないという課題をあげています。

9.一番印象に残りました
 次は、紹介者が最も印象に残ったところの1つです。
 それは、ものの見方についてです。人口が減るのだから経済成長できないと考えるのではなく、「1人当たり所得」や「1人当たりGDP」という視点で見る必要があることを教えてくれます。これを決定づけるのがイノベーションなのですね。
 次です。主流派経済学が用いる「均衡」という言葉を、どのようにして理解すればよいのかを、お椀とボール球を用いて、ものすごく分かりやすく教えてくれます。
 さらに、本書冒頭にある「時代精神」について取り上げています。戦後の経済成長を支えた精神とは? そして 戦後ある時期まであった「時代の精神」とは何だったのでしょうか? 戦艦大和でのエピソードを紹介者は繰り返し読みました。

10. アメリカが変わった
 いよいよ終盤に近づいてきました。吉川先生は、アメリカと日本の歴史における変容を大きく捉えて、私たちにその「変化」を伝えてくれます。
 はじめに、アメリカの大きな変化を教えてくれます。ニューディールに始まる40年間の繁栄、そして福祉国家について語ります。次に、1970年代に起きた大きな変化を取り上げます。大恐慌の記憶が風化されたころの出来事です。
 登場したのはミルトン・フリードマン。「選択の自由」を合い言葉に新自由主義のイデオロギーが広がっていきます。

11. 日本も変わった
 アメリカが変わると共に日本も変わっていきます。日本では、戦争体験を背負い、戦後の時代精神を担った戦中派が退場していきます。そしてアメリカから新しい企業理念がやってきます。「会社は株主のもの」、「企業の目的は儲けること」という考え方です。
本書は一貫して、時の変化は外から与えられるのではなく、人の心が変わりそれが新しい時代をつくり出すと主張しています。日本は停滞から脱却できるのでしょうか?

12.大切なものは数字で表すことが難しい
 着眼点は、「何を見るか」です。
 本書は1980年頃から日本経済が変調をきたし、停滞から脱却できないのは、日本人が変わったからだと言います。人々の行動は「数」に律せられるようになったからです。
 サン・テグジュペリ『星の王子さま』の引用が印象的です。同書では、キツネが王子さまに「かんじんなことは目に見えないんだよ」というのです。
 決して数を見るのが悪いとは主張していません。「数字」に固執し、数字に振り回されることとはまったく別のことなのです。
 吉川先生は、日本経済・社会が、停滞を脱却するためには言葉の本来の意味でのアニマルスピリッツを回復しなければならないと訴えています。
 私たちは、本書から「本来の意味でのアニマルスピリッツ」をどのように説明することができるのでしょうか。今の社会を、どのように生徒に教えることができるのでしょうか。大きな宿題をいただきました。

13.本書の全体像
 以上が、本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
 はじめに
 第1章 衰退──予兆から現実へ
 第2章 格差──一度手にした「一億総中流」社会の崩壊
 第3章 人口減少が止まらない
 第4章 イノベーションの退潮 アニマルスピリッツはどこへ?
 第5章 人が変わる──歴史とは何か
 第6章 日本は衰退から脱却できるのか?
 あとがき

③ どこが役に立つのか?
 経済学者が日常の研究活動で用いている用語や概念の意味、教科書に書かれている用語の意味、そして私たちが日常生活で用いる言葉の意味という3つの曖昧な境界線が、しっかりとした「線」として見えてくる1冊です。
 今月紹介したもう1冊の渡辺 努『インフレの時代 賃金・物価・金利のゆくえ』中公新書 2026年 と合わせて読むことで、経済学者が見て分析している社会、教科書が記述する社会、教師や生徒が見ている社会という3つの窓(扉?)を感じ取ることができます。

④ 感 想
 豊富なエピソードが忘れられません。例えば、あるベテラン政治家のお話。政治家がどのようにして“賛成”か“反対”かを決めているのかを吉川先生に説明するシーン。戦時中、戦艦大和の沖縄への出陣時に連合艦隊司令部との無線のやりとりを傍受していた有名な経済学者のお話(誰なのかは本書でお読みください)。もう一人。教科書にも登場する、これも有名な人物について。もしかしたら、あと少しで東京帝国大学経済学部の先生になっていたかもしれないというエピソード。まだまだあります。面白いです。
                   (金子幹夫)
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【 6 】編集後記「~自己観照~」
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 「スピードも大事」ですが、これでいいのかな? と感じることはありませんか? 世の中「速く、効率的に・・・」という考え方が突き進められて便利になりました。
 電車の路線がどんどんつながり、数分おきに電車がやってきます。かつては乗り継いで目的地に向かっていたのに、気がつくと「直通」になっていたりするわけです。一方で困ったこともあります。トラブルが起こると、つながっている全ての路線に影響が及びます。
 「先生のための夏休み経済教室」では、編者も登壇します。ここでは、「ゆっくり学ぼうよ」というメッセージを伝えたいと思っています。あれもこれも・・・ではなく、1つのことをゆっくり考えることで、深さやつながりが見えてくると思うのです。
 皆様にお目にかかることを楽しみにしています。
                     (金子幹夫)  
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