reader reader先生
 何かいいことがありそうな6月を迎えました。
 今年の夏に開催されます、先生のための「夏休み経済教室」の内容が発表されました。
 大阪会場は
https://www.jpx.co.jp/corporate/learning/seminar-events/d06/20260812.html
 東京会場は
https://www.jpx.co.jp/corporate/learning/seminar-events/d06/20260818.html
をご覧ください。申し込みはもう少しお待ちください。
 今年の夏も、皆様とお目にかかれる日を楽しみにしています。それでは、6月号のスタートです。
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【今月の内容】 今月は次の5つの内容をお届けします。
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【 1 】最新活動報告・・・2026年5月の活動報告です
【 2 】先生のための「夏休み経済教室」 プログラム決定!
【 3 】定例部会のご案内・情報紹介
【 4 】授業のヒント…【「余白」に書き込みたくなる授業】
【 5 】授業で役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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【1】最新活動報告・・・2026年5月の活動報告です
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 5月は部会がありませんでした。4月の東京部会の紹介が遅れましたので、次のとおりご報告いたします。 
日時:2026年4月18日(土)15時00分~17時00分
 場所:慶応義塾大学三田キャンパス
 内容の概要:会場10名、zoom15名
 https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2026/03/tokyo149reportHybrid.pdf
 1.さいたま市立白幡中学校 市川慶太先生による「篠原先生の経済単元提案を中学校で実践してみた」の報告。
2.土浦日本大学中等教育学校 根本太一郎先生による「世界史探究における金融経済教育の工夫」報告
3.中沖清水書院編集長から『「公共」と〇〇教育 その実践の取り組みと課題』(清水
書院)の紹介
4.千葉県立津田沼高等学校 杉田孝之先生から「春の経済教室」の総括
 5.東京証券取引所 吉村慈子氏から「夏休み経済教室」についてのお話し
   詳しい内容は
  https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2026/03/tokyo149reportHybrid.pdf
                          をご覧ください。
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【2】先生のための「夏休み経済教室」 新情報です!
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 先生のための「夏休み経済教室」の 内容が決まりました!
 詳しくは
 大阪会場:
https://www.jpx.co.jp/corporate/learning/seminar-events/d06/20260812.html
 東京会場:
https://www.jpx.co.jp/corporate/learning/seminar-events/d06/20260818.html
                     をご覧ください。
登壇者を紹介します。講演の内容は上のリンクからご覧ください。
 ■大阪会場 大阪取引所OSEホール(大阪証券取引所ビル)
  8月12日(水)
  大竹文雄先生(大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)特任教授
  鍋島史一先生(教育実践研究オフィスF代表)
  松島斉先生(東京大学国際高等研究所東京カレッジ特任教授
 斎藤史貴先生(東証金融リテラシーサポート部課長)

  8月13日(木)
篠原総一先生(経済教育ネットワーク理事長)
  佐藤英司先生(福島大学人文社会学群経済
栗原久先生 (実践女子大学研究推進機構研究員)
  河原和之先生(授業のネタ研究会 永久名誉顧問)
  金子幹夫(明治大学特任教授)本メールマガジン編集担当
杉浦光紀先生(東京都立新宿山吹高等学校主任教諭)
  市川慶太先生(埼玉県さいたま市立白幡中学校教諭

 ■東京会場 慶應義塾大学三田キャンパス(北館ホール)+Zoom
  8月18日(火)
安藤至大先生(日本大学経済学部教授)
  鈴木一人先生(東京大学公共政策大学院教授・国際文化会館地経学研究所長)
  渡邉雅子先生(名古屋大学名誉教授)

  8月19日(水)
  大阪会場(8月13日)と同じです
 ※ 申し込みは、まもなく開始します。少々お待ちください。
 ※ 本年は、これまでの中学向け・高校向けという枠組みを外し、より広い視点で経済教育を捉え直す予定です。
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【3】定例部会のご案内・情報紹介
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■ 東京部会(No.150)を開催します
日時:2026年7月4日(土)15:00~17:00 
 場所:慶応義塾大学三田キャンパス東館4Fのオープンラボ
  お申し込みはこちらです
  https://econ-edu.net/application/event-application/
                    よりフォームにてお申し込みください
■ 大阪部会(No.98)を開催します
日時:2026年7月5日(日) 15:00~17:00
 場所:同志社大学 大阪サテライトオフィス(予定)
お申し込みはこちらです
     https://econ-edu.net/application/event-application/
                    よりフォームにてお申し込みください
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【 4 】授業のヒント
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「余白」に書き込みたくなる授業
 執筆者 金子幹夫
1.「それ・・・つながっていたんだ」と思った瞬間
 「あっ、それ後で役に立ちそうだから書き留めておこう」と生徒の心が揺れる瞬間が今月のテーマです。「予想もしなかった知識と知識とがつながりそうな予感」がした時です。
 この「あれ? 今まで関係ないと思っていたのに、つながっているんだ・・・」という知識と知識のつながりは教科書には書いてありません。教科書に書いていないけれど「トクをしそうな知識」に出会ったら、メモをとる生徒もでてくるのではないかと思うのです。

2.歴史学習で経済の本質を問う
 今月は、歴史の学習をしている生徒を対象に、経済学習に役立ちそうな知識を伝えたらどうでしょうという提案をしてみたいと思います。
 ところで、経済学習に役立ちそうな知識と聞いてどのようなものを思い浮かべますか?
今月は「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」を取り上げてみたいと思います。本連載で何度も登場する、経済の本質を表すキーワードです。

3.歴史学習と経済学習の架け橋 (あきらめることのコスト)
 例えば、古代ローマの歴史を学習するときに、次のような問いを発信してみたらどうでしょうか。
 問1 あなたはローマに住む小さな畑を持つ農民です。国家から「戦争に行きなさい」との命令がありました。まだ時代は職業軍人化される前のお話しです(共和政ローマの農民兵をイメージしました)。勝てば戦利品や栄誉が手に入りますが、数年間は自分の畑を放置することになります。
 「戦争に行く」と決断したら、代わりに何ができなくなり、どのような影響が出てくると思いますか?
 問2 「多くの農民が戦争に行った結果、小麦の価値(価格)はどう変化しそうですか?」 ただし、シチリアや北アフリカ産ではなくイタリア半島産の小麦の価値に限定して考えます。そして戦争に行った農民の畑では小麦の生産量が激減したとします。

4.歴史学習と経済学習の架け橋 ~分業・交換・つながり~
 ローマの街に住む人々の家族の食卓には、エジプト産の小麦のパン、ガリア産のワイン、スペイン産のオリーブオイルが並んでいます。
 問3 この家の食卓には、なぜ遠く離れた属州の食べ物が並んでいるのでしょうか?
 問4 ローマが地中海を統一し、ローマ街道をつくり、海賊を退治したことは、この食卓の豊かさとどう関係しているでしょうか?

5.歴史学習と経済学習の架け橋 ~ 信頼・法・貨幣 ~
 ローマの商人が、会ったこともないエジプトの大地主から小麦を大量に仕入れようとしています。だまされるのではないかと心配です。
 問5 ローマの商人は会ったこともない相手と大量の取引をするとき、どのような仕組みがあれば安心して取引できるでしょうか。    
 ※ この貨幣は信用できるのか? と心配しなくても大丈夫な、信用ある貨幣の存在が大量取引を可能にすることを理解する問いです。

6.歴史学習と経済学習の架け橋 ~ 公正らしさ ~ 
 エジプトから安い小麦が流入した結果、仕事(畑)を失った元農民たちがローマの街に溢れました。皇帝は暴動を防ぐためにパンを配りコロッセウムでイベントを見せるという政策をとります。
 問6 ローマ市民への無料のパン配布という政策をどのように評価しますか?
 ※ 市民はパンをもらう。一方で属州の人々は税を納める。公正さという視点から当時の人々の気持ちを考えてみてはいかがでしょう。ところが人間の力で「これが公正」というものを見つけるのは難しいものです。そこで「公正らしさ」と表現しているところです。

7.デザイン上の留意点
 ここまでの展開で、生徒は余白にメモをとるかもしれない瞬間が何回かあります。生徒の状況にもよると思いますが、教師の方から「メモをとって」とは言わないということを想定しています。生徒が思わず余白に書きたくなるフレーズを教師が発信するわけです。
 教師の仕事ですからマニュアルはありません。事前に用意する指導案は「型」どおりにつくりますが、実際の授業ではクラスの状況に応じて教師が発信するメッセージの内容とタイミングを判断するわけです。
 生徒に察してもらいたいのは「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」のなかのいくつかということになります。
 
8.メモしてほしいなと思っていること
 生徒の視点を推測します。教師からのメッセージを受けて、次のようなことを余白にメモしてくれたらいいなというものです。
 「戦争に行く=畑をあきらめる=機会費用?」
 「ローマ街道ってインフラ?」
 「貨幣は信用で成り立つ?」
 察してもらいたいことは
 「何かを選ぶということは、別の何かをあきらめるということ」
 「モノの価値は、便利さではない。手に入りにくさで決まる」
 「みんなで分担して、つなげて売り買いする方がトクをする」
 「お金の価値は金属の価値ではなく皆がそれを信じるかどうか」ということです。
 この小さな体験が、経済学習につながり、知識と知識とがつながって・・・といったきっかけについて考えてみました。

9.いつの時代にも経済はある・・・
 歴史を学習するときに、例えば「実はこれは現代でも・・・」といったようなお話しをする場面が出てくると思うのです。その時の話題として「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」をあげてみました。
 歴史の学習をしていますが、実はこれは人間社会の仕組みを学んでいるのだと大きな視点で気付く瞬間です。いつの時代にも、その時と場所に応じた仕組みがあって、うまく機能しているところもあれば、そうでないところがあります。
「歴史を学ぶことは、今を生きる人間社会の仕組みを学ぶことなんだ」と腑に落ちた瞬間、生徒の心に、そして教師自身の心にも、小さな灯がともればいいなと思うのです。
 教科書の記述を越えて、生徒が思わずメモしたくなる「余白のある授業」。その手がかりになればと、思いつくままあげてみました。先生方はどのような問いを用意されますか?今月はここまでです。
                           
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【 5 】授業に役立つ本 
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今月紹介する本は
 鈴木一人『地経学とは何か─経済が武器化する時代の戦略思考─』新潮社2025年 と
 中島隆博 編『人の資本主義から読みとく現代社会』東京大学出版会 2026年です。
■ 鈴木一人『地経学とは何か─経済が武器化する時代の戦略思考─』新潮社2025年
① なぜこの本を選んだのか?
 本書を執筆しました鈴木一人先生は、今年の先生のための「夏休み経済教室」で講演をしていただく先生のお一人です。そこで、先生のご講演をより深く理解するために事前に予習をしておこうと考えて本書を選びました。

② どのような内容か?
1.鈴木一人先生について
 東京大学大学院教授・地経学研究所長です。2012年『宇宙開発と国際政治』で第34回サントリー学芸賞受賞。国際政治学、国際政治経済学がご専門です。
 
2.経済的資源に着目
 書店に行くと「地政学」というタイトルの本はたくさん見かけますが、「地経学」と何が異なるのでしょうか?
  本書は冒頭で、地経学というのは地政学と経済安全保障とをかけ算するようなイメージで捉えてはどうかと教えてくれます。どうやら経済的資源に着目するところがポイントのようです。

3.地経学における経済安全保障
 経済的資源に着目して世の中を見るというのはどういうことなのでしょうか? これからみていく地経学という概念では、その国が持つ天然資源に加えて技術力や人材、企業の経営力も含めた複合的なものに注目します。
 そして、経済的手段にによる他国からの圧力に対抗する能力を構築することが地経学における経済安全保障だと考えるのです。伝統的な国家安全保障とは異なるようです。

4.政府と市場の距離感が変わる
 伝統的な概念の捉え方が異なる経済安全保障については、政府と市場の関係における変化を見ることでより一層明確に理解することができます。
 これまでは、政府はできるだけ市場に介入しないという考え方が続いていました。ところが今ではこの考え方は変わりつつあります。各国の経済が相互依存関係にあるためです。
 特定の国家が過度な地経学的パワーを持つようになり他国を威圧するという場面に出会ったら、その状況を回避しなくてはなりません。これが経済安全保障の概念なのです。

5.二つのキーワード
 私たちは、この威圧からの回避をどのように捉えればよいのでしょうか? 本書では2つの大切な概念を紹介しています。それは、「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」です。
 戦略的自律性は、自国が他国への依存度を減らしていくことにより、その国が依存状態をテコに圧力をかけてくることを防ぐ目的があります。
 もう一つは、自国がグローバルサプライチェーンにおいて不可欠な存在になることで、他国が攻撃しにくくなるという「戦略的不可欠性」です。日本は、いくつかの分野において不可欠性を持っている国であることを教えてくれます。

6.スモールヤード・ハイフェンス
 ところで、安全保障戦略という考え方においては「何を」「どのような脅威から」「どのような手段で」守るのでしょうか?
 本書では自由貿易のルールを徹底することと国家の安全保障を確保することが両立しないのではないかと指摘しています。経済が「武器化」される中で、ルールが守られなくなる世界が徐々にでき始めているのです。
 注目すべき考え方として「スモールヤード・ハイフェンス」があげられています。「管理すべき対象はできる限り小さい庭に収めて、そしてそれを高いフェンスで守る」という考え方です。

7.三つの罠
 なぜ地経学や経済安全保障が、今注目されるようになったのでしょうか? 鈴木先生は、冷戦後の世界において各国が相互依存を深める中、三つの罠があったのではないかと指摘しています。
 一つ目は、私たちがある種の計算違いをしていた部分があるということです。二つ目は「相互依存の罠」、そして三つ目は二つの罠にかかってしまった結果、そこから抜け出せない状況で、経済を武器にして攻撃を仕掛けるというものです。2010年の中国によるレアアースの輸出停止が例としてあげられています。
 相互依存の罠を読み解くことで、今日の中国やグローバルサウスの国々の動きの背後にある事情が見えてくると思います。

8.半導体と地経学
 大きな枠組みを共有した後、本書は、地経学の視点から半導体、IT、AI、宇宙、資源というテーマを見ていきます。
 はじめは世界中が探し求めている半導体です。日本の半導体産業は衰退したと言われていますが、それはロジック半導体についてだそうです。日本はメモリには強く、パワー半導体やアナログ半導体でも優れた製品を生産しています。
 その日本の半導体産業は1990年代以降に衰退の一途をたどります。その理由は日米半導体協定が要因なのでしょうか? それとも垂直統合から水平分業への移行、そしてグローバルサプライチェーンの誕生という流れで理解できるのでしょうか? 読み取ってみてください。
 アメリカは、中国が先端半導体をつくれない状態を何とかこのままにして、その間に西側諸国で優位性を維持することを目指しているという記述が印象的です。

9.ITと地経学 ~ケーブルとデータセンター~
 第1次世界大戦のエピソードが紹介されています。開戦直後にイギリスがドイツの海底ケーブルを切断したこと。その影響でドイツの策略がアメリカに伝わり、アメリカが参戦を決意した経緯が書かれています。
 そこでITと地経学です。注目するのはケーブルとデータセンターです。
 海底ケーブルの市場シェアの90%はアメリカ、フランス、日本の企業が持っています。そこに参入しようとしている中国企業の記述から、いかに海底ケーブルが重要なものなのかが伝わってきます。
 もう一つのデータセンターについて。大量のデータを処理するデータセンターが抱える問題は、巨大な電力消費にあります。二酸化炭素を排出しない電源を使ってデータセンターを運用したい場合、有力な場所はどこになるのでしょうか? 意外な場所が指摘されていました。

10.宇宙
 海底の次は宇宙です。
 核兵器を搭載している潜水艦が自らの位置を正確に把握し、核ミサイルを発射できるようにすることを目的として作られ、現在、私たちがよく使う便利なものは何でしょう? と生徒に問いかけてみたい記述がありました(答えは本書で)。
 現在の宇宙開発に関しては、商業化と軍事化が進められています。その中で問題になっているものに「宇宙空間で物体に対する攻撃が行われた場合、それは戦争だと言えるのか」があります。宇宙空間において何が兵器になるのかを判断するのは非常に難しいのです。
 宇宙を地経学的観点から見ることは難しいです。特定の空間を排他的に支配することができないため、地上のガバナンスの仕組みが通用しないからです。この課題を克服するための工夫が書かれていました。

11.相場観
 次は資源です。
 資源について留意する点は、「資源がある国が地経学的パワーを持っているとは限らない」ということです。現時点で資源の武器化が可能な国はアメリカ、ロシアのようです。
 この資源と地経学的パワーに関する記述で印象的な言葉は「相場観」という用語でした。戦争による攻撃にはメッセージ性があるというものです。なぜ迎撃されると分かっているミサイルを撃つのか?どうして速度の遅いドローンを使うのか? 紹介者は、その意味を知ることができたという点で本書が貴重な1冊になりました。

12.日本が進むべき道は?
 世界最大級のGDPを誇るアメリカと中国は、国際公共財を提供するというよりも、それを武器として地経学的なパワーを行使する国のようです。
 アメリカは、他国にアメリカへのリスペクトを求め、「アメリカ・ファースト」を要請し、それが認められないなら仲間として受け入れないという考え方を持っているようです。 一方で中国は、共産党による支配を維持することに協力的でなければ仲間として認めないようです。
 さて、日本の生きる道がどこにあるでしょう? 鈴木先生は、この問いについての考えを示しています。いったいどのような道を描いているのでしょうか? そして皆さんが授業で生徒と共有しようとしている未来像と比較しながら読んでみてはいかがでしょうか。

13.本書の全体像
 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
 はじめに
 序章 地経学時代の経済安全保障
 第一章 半導体をめぐる地経学
 第二章 地経学からみたITとAI
 第三章 地経学で考える宇宙の秩序
 第四章 資源と地経学的パワー
 第五章 経済制裁と地経学
 終章 トランプ時代の地経学
 おわりに

③ どこが役に立つのか?
 先月号は、ジャーナリストによる国際政治関連の著書を紹介しました。今月号は研究者が執筆した本です。この2冊に加えて、私たちの前には国際社会のことが書かれている教科書があります。生徒たちはネット社会を通して国際社会像を構築しています。国際社会を捉える眼はたくさんあります。眼がたくさんあると「どうすればよいのか分からなくなってしまいそう」です。本書は、教師の授業づくりが揺れたときに、戻るべき拠り所になる1冊だと思います。

④ 感 想
 印象に残っているの記述の中に「相場観」があります。新聞の紙面は戦争や紛争の記事でいっぱいです。生徒たちは、いつ大きな戦いに発展してしまうのかを心配しているのではないでしょうか。これまでにあった「相場観」。そしてその「相場観」を超える動きを見せる一部国家の存在。ものすごく心に残りました。「相場観」とは何か? と思われた方は、本書の後半部分でこの記述を見つけてみてください。

■ 中島隆博 編『人の資本主義から読みとく現代社会』東京大学出版会 2026年
① なぜこの本を選んだのか?
 「人の資本主義研究プロジェクト」というのは、どのような研究をしているのかが気になりました。中島隆博先生、広井良典先生、そして2025年の先生のための「夏休み経済教室」(大阪会場)に登壇していただきました安田洋祐先生はじめ多くの先生が参加されたプロジェクトです。
 新しい人間観、そして新しい資本主義観の存在を知ることで、経済学習の授業に役立つのではないかと考えて本書を選びました。

② どのような内容か?
0.本書の執筆者について
 本書は、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクトの成果を集めたものです。以下、それぞれの項目ごとに、どの先生が書かれたものかを示しましたので参考にしてください。

1.100年前と今(中島隆博先生)
 最初に登場したのは、リヴァイアサンの図版に描かれている町の様子でした。武装した衛兵と鳥のくちばしを有した防護服を着たペスト防疫の医者だけが働いているシーンだそうです。
 100年前に「繁栄の中の苦難」がありました。その帰結は世界戦争の世紀としての20世紀でした。その轍をどうやって再び踏まないようにするのかが、今問われています。「人の資本主義」として、この問題をどう引き受けることができるのでしょうか。

2.コロナ禍で平等はすすむのか?(安田洋祐先生)
 冒頭で取り上げたペスト、そして今回のコロナの状況を見て、社会のあり方や自らの生き方をどのように捉えていけばよいのでしょうか?
 そもそも人類史の中で経済格差を解消するイベントが4つあるといいます。戦争、革命、崩壊、疫病です。欧州のペストでは平等がすすみました。労働者の数が減ったためです。
 死者数が違うことから、今回は同じことは期待できません。それでは何が起きているのでしょうか? 直近で起きているのは格差拡大です。いったいどのようなメカニズムが働くと格差拡大につながるのでしょうか?

3.外部性をはじめて明示的に扱ったのは? (安田洋祐先生)
 そのメカニズムに迫るため、過去の疫病と世の中の仕組みをどのように捉えたのかを見ていきます。1918年にスペイン風邪が流行します。その後、ピグーが『厚生経済学』を書きます。新しい貢献は、外部性や外部不経済の問題を初めて明示的に扱ったことです
 その後ケインズが『一般理論』を書きます。ケインズは、出版前にあった世界恐慌を観察した上で有効需要の原理を説明するのです。
 ミクロ経済・マクロ経済それぞれにおいて、マーシャルの弟子たちが市場の失敗を明らかにしていことを教えてくれます。

4.公共財はフロー・・・ (安田洋祐先生)
 さらにメカニズムを探るための思考が続きます。ハーディンが「コモンズの悲劇」を世に問うたとき、民営化がうまくいかないから、所有権が確立していないから悲劇が起こると言いました。しかしその後、そういう単純な話しでもないとの批判も出ました。
 民営化したからといってうまくいかないという部分を深掘りした宇沢弘文先生が登場します。宇沢先生は、公共財というのはどれくらいのサービスを行うかといったフローの概念だと指摘します。
 この質の高いフローを生み出すためには、ストックとしての何らかの資本が必要だという社会の富、資本の概念を早くから指摘していたことを教えてくれます。

5.感染症後の社会構想について(広井良典先生)
 今回のパンデミックは超過密都市を中心に拡大しました。ここに格差拡大のメカニズム、そして格差解消に向けての道が見えてきそうです。集中に対して分散型、あるいは地方分散型への転換が大きな課題だと指摘しています。
 これは、単に空間的な意味での分散型のみならず、働き方や生活、人生のデザインにおける分散型も含みます。今回のパンデミックにおける日本社会を立て直すための指摘です。

6.国家の役割を整理すると(野原慎司先生)
 それでは、社会を立て直すために、今回の感染症及び格差拡大において国家の役割はどのように整理することができるのでしょうか。
 歴史は、戦争や感染症といった危機に直面したとき、権力が民衆を強くコントロールすることを繰り返してきたと教えてくれます。そこで歴史を振り返りますと、ペストの時には国家レベルの監視をしていないことが分かるのです。国家がコントロールしなくても感染症対策はできたようです。

8.新たな階層の誕生(鈴木鉄忠先生)
 だからといって、いつの時代、どの場所でも同じことが言えるとは限りません。コロナ禍は社会にどのような影響を与えたのでしょうか。
 そもそも社会システムは想定外の出来事に脆いことが指摘されています。そして想定外の事態に直面した社会システムは、最も弱い人々のリクエストに応えられなくなるという問題を抱えているのです。
 今回は、人々の階層に新たな変化が見られます。想定外の事態に直面したこれまでの社会には、治療の権利をもっている層と持っていない層が存在していました。
 コロナ禍では、これに加えて、感染リスクが低いところで仕事ができる人がいる一方で、感染リスクが高い場所で働かなければいけない層が存在するようになったのです。

9.政府が企業活動に介入するという考え方(鎮目雅人先生)
 国家の役割を整理しているところですが、あらためて感染症の歴史を振り返りますと、
政府が企業の活動に介入するとはどういうことなのかを整理することができます。
政府の対応についての捉え方が変化していることが分かります。
 企業の活動に政府が介入することを受け入れない時代がありました。教科書に書かれている言葉でいうところ自由放任です。
 ところがこの考え方の中に「総力戦」と「生存権」という概念が広がっていく様子が書かれています。前者は軍事思想が、後者はインフルエンザが大流行した中で誕生したワイマール憲法が登場します。この2つのキーワードと、政府による経済活動への介入の歴史が説明されます。

10.なぜ戦国時代に「茶」なのか?(高田公理先生)
  後半は、資本主義と歴史というテーマです。「嗜好品から見る資本主義と人類文明史」という章にある「茶の果たした役割」が授業づくりに役立ちます。
 千利休は堺の武器商人でした。買い手である武将と会わなければいけない危険な職業です。そこで茶室に入る入り口を極端に狭くしたというエピソードが紹介されています。刀を腰からはずさなくてはならないくらい狭くしたのです。わずか64㎝四方だそうです。
 この日本の茶の文化が17世紀のイギリス人に伝わり、生活に変化をもたらします。当時のイギリス人の朝食はパンとバターとビールだったそうです。そこに懐石料理とセットになった日本の茶の湯の情報が伝わります。
 ここから、紅茶とパンにソーセージや卵を加えたイギリス風の朝食を家族がそろって食べるという様式が成立したそうです。
 本書は、これに続けて、コーヒーの歴史にも注目しています。コーヒーはヨーロッパに伝わるまでイスラームの飲み物だったという授業で紹介したくなるネタと出会ったことが印象的でした。

11.本書の全体像
 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
はじめに
第Ⅰ部 感染症と資本主義
 第1章 万人のためのデモクラシー
 第2章 感染症と経済学
 第3章 感染症後の社会構想
 第4章 感染症と資本主義における国家の役割
第Ⅱ部 疫病と生命と資本主義
 第5章 惑星社会システムの混乱と人間と生命の線引き
 第6章 感染症の社会経済史
 第7章 歴史から考える新型コロナウイルス
第Ⅲ部 資本主義と歴史
 第8章 資本主義はなぜ生まれたのか
 第9章 思想史から見た資本主義と経済学
 第10章 資本主義を考える:マルクスの疎外論と悪魔)
 第11章 嗜好品から見る資本主義と人類文明史
 あとがき

③ どこが役に立つのか?
 一つ目は、ペストの時期と今回のコロナ禍とを比較して論じているところが教師の知識を分厚くすることがあげられます。世界史の知識と公民科の知識との架け橋になる記述は参考になります。
 二つ目は、公共財、共有地の悲劇、外部性といった教科書に登場する用語の説明が役に立ちます。教科書とは異なる文脈で読むことで、別の角度からの理解が進むと感じました。

④ 感 想
 この本を購読中に、神保町にある一軒の喫茶店を紹介していただきました。古くからある喫茶店だそうです。「えっ?この階段をあがるの?」と思ってしまうほど狭くて急な階段をあがると、そこは昭和の世界でした。
 そうか・・・喫茶店という文化も「茶の文化」を継承していたのかと思ったのです。さすがに武器を持ち込む人はいないでしょうが・・・大切なお話しをする場所の入り口は狭くつくるという伝統を継承しているのかな? と感じました。
 昭和の喫茶店と現代の喫茶店との比較から授業づくりの話題を見つけられないかと考えています。
  (金子幹夫)
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【 6 】編集後記「~自己観照~」
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 吉永小百合さんの文字が突然見えたのです。何のことか? ある朝、新聞を読もうと思い、見出しに注目しようとしましたら、紙面の一番下の方にある「吉永小百合」という文字が目にとまったのです。私の脳内にある何かが、この五文字に注目しろと指令を出したような不思議な経験でした。
 これはまるで大規模な懇親会で、少し離れた集団の誰かが自分の名前を出した瞬間、「あっ、誰かが私の名前を言った」と瞬時に耳が反応するのと似た経験でした。
 話を新聞に戻します。やはり、両手で紙面を持って新聞と対話するという行為はものすごく大事なことだと思ったわけです。アタマの中では、意識とは異なる何か不思議な力で、何かを探し出そうとしているのだと思うのです。スマホの記事・・・?画面が小さすぎます。
  (金子幹夫)  
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