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◆◇───────────────────────────────────── ◆ NEE Mail Magazine 207号 ◆ ──────────────────────────────────────── 何かいいことがありそうな4月を迎えました。 3月28日(土)、慶應義塾大学で先生のための「春休み経済教室」が開催されました。西條辰義先生のご講演に続けて高橋克志先生(中学校)、大塚雅之先生(高校)から授業提案がありました。生徒たちが「将来世代の視点で」考える授業をどのように創ることができるのかについて皆で学びました。新年度を迎える直前に、ものすごく充実した教室になりました。それでは、次の教室に向けて今月号をスタートします。 ──────────────────────────────────────── 【今月の内容】 今月は次の5つの内容をお届けします。 ──────────────────────────────────────── 【 1 】最新活動報告・・・2026年3月の活動報告です 【 2 】先生のための「夏休み経済教室」 開催日が決まりました! 【 3 】定例部会のご案内・情報紹介 【 4 】授業のヒント…【授業の冒頭10分で生徒の心を動かすストーリー】 【 5 】授業で役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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──────────────────────────────────────── 【1】最新活動報告・・・2026年3月の活動報告です ──────────────────────────────────────── ■ 先生のための「春休み経済教室」を開催しました。 日時:2026年の3月28日(土)13時~17時 場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館3階大会議室+オンライン(Zoom形式) テーマ:エコノミストと考えるフューチャー・デザインの視点を生かした授業のつく り方 近日中に当日の資料を掲載します。
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──────────────────────────────────────── 【2】先生のための「夏休み経済教室」 開催日が決まりました! ──────────────────────────────────────── 先生のための「夏休み経済教室」の 開催日が決まりました! ■大阪会場 大阪取引所OSEホール(大阪証券取引所ビル) 8月12日(水) 8月13日(木) ■東京会場 慶應義塾大学 8月18日(火) 8月19日(水) ※ プログラムの詳細、申し込み方法 は決定次第HPにアップします。
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──────────────────────────────────────── 【3】定例部会のご案内・情報紹介 ──────────────────────────────────────── ■ 大阪部会(No.97) 日時:2026年4月12日(日)15:00~17:00 場所:同志社大学 大阪サテライトオフィス(対面のみ) お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください。
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■ 東京部会(No.149)をハイブリッド形式にて開催します。 日時:2026年4月18日(土)15時00分~17時00分 場所:慶応義塾大学三田キャンパス(場所は未定) お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください
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──────────────────────────────────────── 【 4 】授業のヒント ──────────────────────────────────────── 授業の冒頭10分で生徒の心を動かすストーリー 執筆者 金子幹夫
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1.はじめに 先月号は、ストーリーとキャラクターを用いた経済学習の試作品をお届けしました。 混乱するといけないので、あらためて経済学習におけるストーリーの必要性について整理し、今月の話題につなげていきたいと思います。
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2.経済学習におけるストーリーの整理 この連載では、一つの見方として「経済学習には2種類のストーリーが必要なのではないか?」ということを提案しています。 1つ目は、教師が教科書の目次をみて、その順番をストーリーで語れるかどうかというストーリーです。 2つ目は、毎時間の授業で、教師が抽象的な用語や制度の説明から脱却し、生徒が腑に落ちるまで理解できるように手助けするためのストーリーです。
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3.目次をストーリーで語り共有する 前者に「これだ!」という答えはありません。教師が目の前の生徒を見て、このように説明したらわかってくれるのではないか? というストーリーを構築し、それを生徒に示し、納得してくれるかどうかがポイントになるわけです。 「なぜ、今日はこの学習(例えば需要と供給、国内総生産、自由貿易・・・)をするのでしょうか?」という流れを教師と生徒が共有することで、生徒は安心して授業に参加できるわけです。
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4.毎時間のストーリーが必要な理由(わけ) 後者にも「これだ!」という答えはありません。教師が目の前の生徒を見て、こんなストーリーはどうかな? というものを創り上げていけばよいのです。では、なぜ授業にストーリーが必要なのでしょうか? ストーリーが必要な理由は「生徒の心を動かす」ためです。ほんの少しでもいいのです。グラッと心を揺さぶることで、何らかのメッセージを受け入れる体制ができると思うのです。 心が動いていないと、どんなに心に響く言葉を贈っても、生徒は右から左に受け流してしまうのではないかと心配するわけです。
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5.冒頭のミニストーリーはいかがですか? それでは、授業の中にどのようにしてストーリーを組み込むことが有効なのでしょうか? 一つの(案)として、冒頭の10分間におけるミニストーリーはいかがでしょうかということを提案したいと思います。 先月号で取り上げました「犬とネコをペットとして飼う論争」という例が10分間のミニストーリーの例になります。
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6.なぜ冒頭で? なぜ冒頭? なぜミニストーリーなのか? 直前の授業でどのような学習をしていたのかわかりませんが、生徒たちは約10分の休憩時間で頭のチャンネルを「経済」に変えなければいけません。 教師が「さあ授業を始めるよ」という言葉を生徒はどのように受け止めているのでしょうか? 全員が目を輝かせて「さあ、今日もたくさん勉強するぞー」と思っているという前提で授業を始めると、たいへんなことになってしまうことも少なくありません。 7.そこでミニストーリーです そこで生徒の心を動かす工夫が必要になるわけです。ヒントにしたのは義務教育で実践されている「道徳」授業の枠組みです。 誤解を避けるために申しあげますが、経済教育を「道徳」のように教えるということを主張するのではありません。「道徳」の授業展開方法(枠組み)が参考になると言っているだけです。 いったい、どのような点が参考になるのでしょうか?
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8.「道徳」の授業展開パターン 義務教育における「道徳」には多くの読み物教材が用いられます。児童や生徒は、授業の冒頭で読み物を読み、そこで心を動かします。授業では、この心の動きを活用して先生が教えたいことを児童や生徒に言ってもらうわけです。 授業の導入部分で心が動かないと、いくら立派な言葉を並べても生徒の心には届かないのです。「国語科」の授業でも文章の読解について学びますが、「道徳」の読解とは枠組みが異なるわけです。「道徳」は心を動かすために、冒頭の短い時間を使って文を読むわけです。 ※ すべて「道徳」授業がこのように展開しているわけではありません。ここであげた 「道徳」の授業展開は、読み物教材を使った実践の一例です。
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9.心を動かさないと用語や制度の説明になってしまう 先月紹介しました「犬とネコをペットとして飼う論争」は、ストーリーにキャラクターを組み込んだものです。ここで、生徒の心を動かしたいのです。少し動くだけで、授業展開が大きく変わります。 この手順を踏まないで、「希少性」、「トレード・オフ」、「機会費用」を用語を説明しても、すべての生徒が腑に落ちるまで理解するのは難しいと思うのです。
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10. 腑に落ちるまで理解するということ 生徒が腑に落ちるまで理解するというのはどのような状況のことをいうのでしょうか? 学習内容を「解釈すること」がはじめにあげられます。この解釈したことを「他者に説明できること」が次にきます。自分の言葉で説明できるまで理解することが「腑に落ちるまで理解する」というところに近いものだと思います。 生徒は、自分の言葉で他者に「説明できる」知識を組み合わせることで「論述する力」を身に付けていきます。試験が終わったら忘れてしまう知識ではなく、生徒の身につく学習内容を創るために、授業の冒頭におけるミニストーリーは、腑に落ちるまでの理解を実現させる役割を果たすと考えます。
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11.二つのストーリーを考える春です もうすぐ新学期が始まります。 みなさんは新しい教科書の目次を見て、どのようなストーリーを構想しますか? 毎時間の授業で生徒の心を動かすためにどのような工夫を考えますか? その1つのヒントになればと思いお届けしました。 今月はここまでです。 ──────────────────────────────────────── 【 5 】授業に役立つ本 ──────────────────────────────────────── 今月紹介する本は, ウリ・ニーズィー著 児島 修訳『インセンティブが人を動かす』河出書房 2026年 と 松田琢磨『コンテナ海運が世界を動かす』角川新書 2026年 の2冊です。
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■ ウリ・ニーズィー著 児島 修訳『インセンティブが人を動かす』河出書房 2026年 ① なぜこの本を選んだのか? 本書の表紙には、タイトル・著者、出版社名が書かれていますが、それ以外に小さな文字で「Mixed Signals」と書いてありました。なぜタイトルとは異なるテキストデータが表紙に書かれているのかが気になりました。 この文字の意味が、混ざり合ったシグナル、矛盾したサインであったならば、経済を学習する生徒にとって興味深いものなのではないかと思い選んでみました。
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② どのような内容か? 1.ウリ・ニーズィー先生は? ウリ・ニーズィー先生は、カリフォルニア大学サンディエゴ校経済学部教授です。『その問題、経済学で解決できます』(共著、東洋経済新報社)でご存じの方も多いのではないでしょうか。
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2.インセンティブとは? まずは定義です。ニーズィー先生は「インセンティブとは、人が本来やらないことを行動に動機づけるためのツールである」と定めています。ここから先は、この定義を意識しながら読み進めていきたいと思います。
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3. 本書の目標は? 本書の目標は、スマートなインセンティブを設計する方法を示すことにあります。「スマートな」とはどういうことなのでしょうか? 例えば、真夏の暑い日はコーラを飲みたい人が増えます。教科書には需要が上がれば価格も上がると書いてあります。そこで炎天下の中、自動販売機の前に立って「コーラの価格が上がっている」のを見てみなさんはどのように感じますか? 率直なところあまりいい感じはしません。それではコーラの販売者はどうすればよかったのでしょうか? 回答例として、暑い日に価格を上げるのではなく、寒い日に価格を下げてはどうかと示しています。これがスマートなインセンティブのイメージなのでしょう。
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4.自分がどう思うか? 人はどう見ているのか? それでは、皆さんは空き缶をリサイクルセンターに運ぼうとしている人を見かけたとき、その人のことをどのように思いますか? 5秒間考えてから次の一文をお読みください。 それでは、空き缶のリサイクルをセンターに運ぶとお金がもらえるというインセンティブ制度があったとしたら、その人のことをどう思いますか? 先ほどと違いはありますか? この例からもわかるように、本書で考えるインセンティブはお金のことだけではないようです。私たちは「シグナルの相互作用」について考えているのです。 この「シグナルの相互作用」に関連して、ここから先は授業づくりに役立つ記述でいっぱいです。いくつか紹介します。
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5.お誕生日プレゼント 皆さんが、どなたかにお誕生日プレゼントを贈るとします。はじめに何を考えますか? 相手が喜びそうなものは何か? を想像するのではないでしょうか。 ところが考えても迷いの連続でなかなか決まりません。 さあどうしますか? 迷った末に、考え抜いて選んだ品物を贈るという選択肢があります。一方で、考えても相手が本当に喜んでくれるかどうかはわからないので、一番欲しいものを自分で買ってもらった方がいいと考えて現金を贈るという選択肢もあります。 さあ、どのような未来が待っているでしょうか? 本書を読むと、この後におこる意外な結末を知ることができます。
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6.プリウスとインセンティブ なぜトヨタの「プリウス」は販売台数が多かったのでしょうか。どうしてホンダの「インサイト」はプリウスほど売れなかったのでしょうか? 第2世代のプリウスは、トヨタを成功に導いた重要な変更が一つありました。この変更が多くの人々の心を動かすことになります。トヨタプリウスの購入者の57%が「この車に乗ることで自己主張ができる」と回答しているのです。 いったいどういうことなのでしょうか? ワシントンポスト紙が「プリウス・ポリティクス」と表現したこの現象を読み取ってみてください。だからみんなプリウスを選んだのだということをインセンティブを用いて説明できるようになります。
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7.「人からどう見られているのか」だけではないもう一つの眼 ここまで「私たちは他人からどう見られているのか?」をテーマにインセンティブを考えてきました。ところがインセンティブに関する考察には、もう1つの眼が登場します。 その眼というのは、自分が良い人間であることを示す行動を通じて自分自身にシグナルを送り、満足感を得るという眼です。 ウィーンにあるパキスタン料理のレストランでのユニークな料金の請求方法は授業で話題にできる例です。料理を食べ終わった顧客が、店にいくら払うかを自分で決定するという仕組みに、人々はどう反応するのかを生徒と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
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8.私たちの周囲にあるいろいろなインセンティブ 私たちの日常生活は、無意識のうちに複雑なインセンティブに囲まれています。これが、表紙に書かれていた「Mixed Signals」のことだと思われます。次の例を読んでみてください。 ある経営者が「我が社は製品の質を重視している」と従業員に示したとします。一方で「たくさん生産すれば給料が上がります」というメッセージを発信したとします。従業員は混合シグナルを受信したことで経営者が想定したとおりに動かなくなるのです。 これは「質を重視しようとした時に、量をインセンティブにすると誤ったシグナルが発信されてしまう」という例です。
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9. 教育現場を取り上げた例 学校に関連する例があげられています。運動部の顧問のあなたは、試合で目の前の勝利にこだわるために上級生のレギュラー陣に頑張ってもらうか、それとも来年度のことを考えて下級生に試合を経験させるかで選手たちに混合シグナルを発信してしまう事例です。 学校が、教師の給与を生徒の成績にひもづけるとしたら、どのようないいことが、そしてどのような問題点があるのかを考える場面も登場します。混合シグナルを意識しながら、この問題点を解消するための工夫を読み取ってみてください。
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10. 授業創りのアイディアもあります 本文には、教室で応用できそうな実験用のゲームもいくつか登場します。例えば3人のグループを作って販売価格を設定するゲームが紹介されています。 このゲームは、ものすごく単純なものですが、その中にチーム・インセンティブと個人インセンティブが混ざっており、各プレイヤーには「ただ乗り」の機会があるという仕掛けに、生徒はワクワクするのではないかと想像しました。
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11. うまくいかないインセンティブ ニーズィー先生には、うまくいかなかったインセンティブの事例を集めるという、風変わりな趣味があるそうです。本書はそのエピソードをいくつかあげています。 保育所が子供のお迎えに遅刻した場合、保護者に罰金を科すことでどのような影響がでるのかというフィールド実験や、アメリカでシートベルトに関する安全規制が義務化されると自動車事故の数は増加したのはなぜかといった興味深い記述が登場します。
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12. もらう方、とられる方・・・どちらが心を動かすのか? 人の心をうまく動かすことができるかどうかという視点で「獲得型」のインセンティブと「損失回避型」インセンティブを比較した説明がありました。 ある学校の教師が、クラスの成績が学年末までに上がれば、報酬を支払うと言われたとします。支払い方法は、学年の初めに、8000ドルが銀行口座に振り込まれ、学年末までに目標を達成できなければ、一部または全部を返還しなければならないというものでした。 報酬を勝ち取るために懸命に働くというストーリーよりも、報酬を失うことを避けるために懸命に働くというストーリーのほうがモチベーションを高めるそうです。
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13.「誰かの役に立ちたい」というインセンティブもあります ここまでのインセンティブは、人間の行動を動機づけるために報酬を用いるものでした。 ところで、人の行動を説明する要因は他にもあります。例えば「他人を助けたい気持ち」というのはどうでしょう。 高校生による募金活動を対象にした調査では、活動に対しての報酬があるかないかで「無報酬群」、「少額報酬群」、「高額報酬群」に分けて分析しました。いったいどのグループが一番寄付を集めるのかを調べたのです。結果は意外なものでした。
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14. 生徒はあらゆるテストに真剣に取り組んでいるのか? ここまで見てきますと、インセンティブは多くの問題を解決するための手がかりを示してくれることがわかります。ということは、インセンティブは早い段階で問題を診断することにも活用できるかもしれません。 私たちにとって興味深い、試験をめぐってエピソードがあげられています。生徒は、すべての試験に全力を尽くすのでしょうか?本文には、自分の成績に関係のないテストに真面目に取り組む生徒の姿と、明らかに力を抜いている生徒の姿が描かれます。 学校の多くは、生徒はどのようなテストでも全力で取り組むという前提に立っていると指摘したうえで、学力を調査する試験結果をどう解釈すべきかに言及しています。
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15. 寄付したお金はどこに行くの? 早い段階での問題を診断する場面として、慈善団体の例があげられています。 ある人が、有名な慈善団体のCEOの感動的なスピーチに心を揺さぶられ、1000ドルを寄付することにしました。ところが翌日、そのCEOが飛行機のファーストクラスに座っている場面を見てしまうのです。そのある人はどのような感情を持ったのでしょうか? この問題を早い段階で診断するために必要なプロセスは、私たちが民間企業のCEOを見る目と慈善団体のCEOを見る目に違いがあることを認識すること、そして「寄付したお金はどうなるのか?」という情報を得ることというものです。 「あなたの寄付金は全額○○に使われていますよ」の一言が、どのくらい影響を与えるのかを読み取ってみてください。
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16.ちょっと怖いお話しですが ちょっと怖いお話しも登場します。 医師は、医薬品業界から報酬を得ている場合と、そうでない場合とで、違う薬を処方するのでしょうか? ファイナンシャルアドバイザーは、特定の商品を販売することでマージンを得ることがある場合、どのような商品を勧める傾向があるのでしょうか? 両者に共通するのは、いかにして自分の心を説得するのかという点です。人はなぜ「私は倫理的に行動している」と自分に言い聞かせながら、自らのインセンティブに基づいて顧客に利己的なアドバイスをするのかを教えてくれます。ちょっと怖いお話しでした。
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17. 「長続きしないんだよね」と困っている皆様 次に取り上げる話題は「習慣」です。どうしてダイエットが長続きしないのか? といった身近な話題をインセンティブを用いて説明するとどうなるのかを見ていきます。果たして運動や習慣の形成を促すために金銭的介入を行うべきなのでしょうか? 自分ひとりで行動するのがいいのか? それとも誰かと一緒の方が長続きするのでしょうか? 気分がのっているときに行う方がいいのでしょうか? それとも決められた時間に行う方が長続きするのでしょうか? 仮説を立てながら読んでみてはいかがでしょうか。
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18.インセンティブで社会を動かす? ここまで、インセンティブを個人の枠組みで捉えてきました。最後は、この枠組みをコミュニティレベルの枠組みで捉えてみます。舞台は東アフリカです。 マサイ人には、ライオンを殺すという長年の伝統があります。家畜を守ること、そして槍でライオンを殺すことは、若者の通過儀礼であることが背景にあります。一方で、近年ライオンの数が激減しているという状況があります。 家畜を守ること、通過儀礼に意味を持たせることといった難題に対して、インセンティブを用いることがどのくらい有効なのかを知ることができます。 どのようなインセンティブがマサイ人というコミュニティレベルでの行動を変容させることができるのでしょうか? この事例も生徒と一緒に考えると印象に残る授業の1つになりそうです。
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19.本書の全体像 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 第1部 シグナルはいかにして市場を制するか 第2部 混合シグナルを避ける 第3部 インセンティブはいかにストーリーを形づくるか 第4部 インセンティブを使って問題を特定する 第5部 インセンティブで習慣を変える 第6部 コミュニティが文化的な悪習慣を変えるのを支援する
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③ どこが役に立つのか? 生徒にとって身近な事例が多く取り上げられています。さらに、日常生活からは見えにくい部分も、想像しやすい記述で私たちにイメージを伝えてくれます。 本文中に登場する“実験”のうち、いくつかは教室に合わせて再加工することで、授業に用いることができそうです。経済学習に必要な「インセンティブ」という概念を、教師と生徒で共有するにはどうしたらよいのかという問いに多くのヒントを与えてくれる1冊だと思います。
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④ 感 想 テストに関する記述が印象に残りました。なぜ生徒は真剣にテストの取り組むのでしょうか。 自分の成績のため? 学校のため? 都道府県のため? テストをめぐっていろいろなインセンティブが存在していることがわかります。テストを真剣に受ける生徒もいれば、なかなか取り組んでくれない生徒もいます。生徒は皆、テストに全力で取り組むのだという前提について考えさせる記述が印象に残っています。
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■ 松田琢磨『コンテナ海運が世界を動かす』角川新書 2026年 ① なぜこの本を選んだのか? 私たちは「貿易」の授業を行いますが、実際にモノを運ぶことについてどのように学習するのでしょうか? 誰が、何を、どのくらい積んでどこに運んでいるのか? 輸出や輸入に関する知識に、より一層厚みを持たせることができると思い、本書を選びました。
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② どのような内容か? 1.著者の松田琢磨先生の研究テーマは? 松田琢磨先生のご専門は、国際物流です。海運業、海上コンテナ輸送を中心に研究を続けています。大学院で研究を続けていましたが、一度研究の場を離れて別の仕事に就きます。その職場で国際物流の研究テーマに出会い、再び大学院で研究をはじめたそうです。
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2.コンテナは経済の赤血球 世界中でさまざまな荷物を運ぶコンテナは『経済の血液』、ないしは『赤血球』と言っていいかもしれないと松田先生は表現します。日本の輸出入貨物のうち金額ベースで40.2%が海上コンテナ輸送で運ばれているそうです。
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3.大豆の歴史 授業の素材として使えそうな話題として大豆に関する記述がありました。 もともと東アジア原産の大豆は、現在、米国やブラジルが主要な生産国となっています。 船を使って大豆を輸送する場合、ばら積み船での輸送(ばら積み輸送)か、コンテナ船を使うコンテナ輸送とのいずれかを使用することになります。 ばら積み船の輸送運賃はコンテナ船の数分の1なので、多くの場合こちらを選びそうです。ところが納豆用大豆の輸入では、コストが高く、輸送日数でも有利とはいえないコンテナ輸送が選ばれます。なぜでしょう?生徒と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
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4.クルーグマンやドラッカー ポール・クルーグマンは「世界を変えたテクノロジーについて考えるとき、インターネットのようなものを考えてしまう。しかし、何が世界の貿易に起こったかを考えれば、コンテナが大きな変革をもたらしたことに気づく」とコメントしています。 ピーター・ドラッカーも、コンテナが存在しなければ、1960年代以降のすさまじい貿易の拡大はおこらなかったかもしれないと、その存在を大きく評価しています。 コンテナ輸送ネットワークの広がりと「生産拠点の分散」や「グローバルサプライチェーンの確立」は深く関連しているのです。
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5.コンテナを理解しよう 本書は、コンテナに関する基礎知識が丁寧に書かれています。 コンテナは誰が所有しているのか? どこの国が生産しているのか? 主な航路にはどのようなものがあるのか? 一体何が、どれくらい、運ばれているのか?といった疑問に答えてくれます。 授業でも、例えばアジアから米国に輸送されるコンテナ貨物第1位は何でしょう?米国からアジアへのコンテナ貨物第1位は何でしょう? という問いかけをすることで、貿易の授業が、見えないものを扱う学習から身近なものを扱う授業に変わります。 そしてここから、アジア域内では分業が進んでいて完成品が欧米に輸出されていることを学習できるのです。
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6.無人運航 生徒の注目を集めそうな無人運航船プロジェクトについての紹介もあります。兵庫県にある井本商運は、世界初となる営業コンテナ船による無人運航の実証実験を福井県敦賀港から鳥取県境港町まで行い成功させています。 これからの海には、船長さんが乗船していない船が増えていくのでしょうか。未来の海のことを想像できる話題でした。
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7.コンテナの歴史 そもそもコンテナ輸送は、いつ頃から始まり、どのようにして一般化していったのでしょうか? ISOで規格統一がなされ、世界標準の輸送法としての地位を確立していく歴史について知ることができます。 航路についても、ハブ・アンド・スポーク化というものが確立されていくことを図版で見ることができます。これはハブ港湾とハブ港湾の間を大きな船で結ぶ幹線航路と、ハブ港湾とそれ以外の港湾を比較的小さな船で連絡する航路の2つに分化するものです。
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8.どのようなリスクを抱えているのか? コンテナ輸送をめぐるリスクにはどのようなものがあるのでしょうか? 本書であげられているのは労使間交渉です。これは米国だけではありません。カナダやオランダ、ベルギーでもストライキが起こっています。 自衛策として、ルートを分散させたり、在庫を早期に積み増したりといったことが行われています。また、連邦政府や議会による介入も行われていることが紹介されます。
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9.コンテナ輸送と金融政策 連邦政府や議会による介入に関連して、コンテナ輸送と財政政策、金融政策との関連が記述されています。 金融政策の動向は住宅ローン金利の変化を通じてコンテナ輸送の動向に影響を与えると指摘しています。金利の変化により建築資材の需要が変化し、コンテナ貨物の量が左右されるのです。家具や家電製品など耐久消費財の購入が変化することも指摘しています。
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10.地政学的問題 未来のビジネスを語るとき、地政学的変化が話題になります。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスとの紛争、米中貿易摩擦などが地政学的な問題によるサプライチェーン問題として指摘されています。
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11. どこに向かう?コンテナ船 コンテナ海運業界が抱える課題にはどのようなものがあるのでしょうか? 多々ある課題の中でも、運賃が下がっている中で運航コストが上がっているという問題を大きく取り上げています。原油価格の高騰や環境対応投資が背景にあります。 売上げ機会の損失や過剰在庫を防ぐため、コンテナ貨物を運んでいる船舶がどこにいるのかを示す物流情報の可視化が進んでいます。サプライチェーンは大きく変わりつつあるようです。
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12. 認識の再構成が必要 近年、日本の輸送シェアは小さくなっています。ところが「どうして日本にコンテナが来ないのか」と質問する記者が多いと松田先生は指摘します。もしかしたら、多くの人が、日本は巨大な工業製品輸出国だという認識を変えることができていないのではないかと心配しています。 この認識は昭和時代の社会科教科書に書いてあったことです。今や、欧米諸国とアジアとの貿易・物流において日本は中心地ではないという立ち位置にいることを知らなければならないと指摘して本書を閉じています。
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13.本書の全体像 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
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【目次】 はじめに──「経済の血液」としてのコンテナ 序章 身近なものの動きから眺めるコンテナ輸送 第1章 「コンテナの動き」で、なぜ世界経済が読めるのか 第2章 経済の血液としての「箱」を理解しよう 第3章 海運物流・コンテナ輸送はどう発展していったのか 第4章 いま世界で起きている海運問題と、経済活動への影響 第5章 「海運の動向」から読み解くこれからのビジネス・経営 第6章 今後、「コンテナ船」はどこに向かうのか おわりに──水、空気、コンテナ輸送
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③ どこが役に立つのか? 「貿易」を具体的にイメージできるようになります。本文の内容は上に示したとおりですが、これに加えて本文中に掲載されている図版が授業づくりに役立つのではないかと思います。貨物の流れを可視化したもの、実際のコンテナの写真、世界地図のうえに示されたコンテナの流れ、世界のコンテナ港、主な港湾の位置関係、コンテナ船の最大船型の推移、アジアから米国への品目別輸送量・・・まだまだあります。写真もたくさん掲載されています。
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④ 感 想 ちょうどこの原稿を書き始めたころ「週間東洋経済」に掲載された造船復興という特集記事を読みました。新聞報道でも造船業に関する記事が目にとまります。最近多い、海や船に関する情報に接していたことも本書を選んだ理由の1つです。乗り物を軸に経済を理解するという授業づくりは教師にとっても楽しめるものになるのではないかという感想を持ちました。 (金子幹夫) ──────────────────────────────────────── 【 6 】編集後記「~自己観照~」 ──────────────────────────────────────── 3月20日、神田神保町にある三省堂が開店しました。2022年に「いったん、しおりを挟みます」という懸垂幕から約4年が経ちました。開店前に多くの人が集まったと報道されましたが,私が驚いたのはその日の夜です。19時近くに書店の前を通ると、まだ入り口に多くの人が並んでいるように見えました。私も「本屋さんが好き」という人たちの仲間に入り、皆様にお届けする「授業に役立つ本」をじっくりと選びたいと思います。
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