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何かいいことがありそうな2月を迎えました。 いよいよ来月は先生のための「春休み経済教室」が開催されます。 今回の教室では、現役世代と将来世代が共に幸福に生きるための手がかりとなる「フューチャー・デザイン」の視点を生かした授業づくりを考えます。桜咲く三田キャンパスで、皆さんと共に新年度の授業について語り合えることを楽しみにしております。それでは2月号のスタートです。 ──────────────────────────────────────── 【今月の内容】 今月は次の5つの内容をお届けします。 ──────────────────────────────────────── 【 1 】最新活動報告・・・2026年1月の活動報告です 【 2 】先生のための「春休み経済教室」申し込み受付中です! 【 3 】定例部会のご案内・情報紹介 【 4 】授業のヒント…【授業をストーリー化するだけでは足りないものがある?】 【 5 】授業で役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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──────────────────────────────────────── 【1】最新活動報告・・・2026年1月の活動報告です ──────────────────────────────────────── ■大阪部会(No.96)をハイブリッド形式にて開催しました。 日時:2026年1月11日(日) 15時00分~17時00分 場所: 同志社大学 大阪サテライトオフィス(予定) 大阪市北区梅田1-12-17梅田スクエアビルディング17階 内容の概略: 9名参加 主な内容 : 1.李洪俊氏(矢田南中学校)による「全国公立高等学校入試問題」の分析 2.河原和之氏(立命館大学非常勤講師等)による「私の中学経済授業30時間 ~キャラメルのミゾからはじまった授業~」の報告 3.篠原代表から2026年夏の経済教室について、「経済教育の見直し」がさらに 進展していることについてのお話し 詳しい内容は https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2025/12/Osaka96report.pdf をご覧ください。 ──────────────────────────────────────── 【 2 】先生のための「春休み経済教室」 申し込み受付中です! ──────────────────────────────────────── 先生のための「春休み経済教室」を開催します。 申し込み受付中です! 日時:2026年の3月28日(土)13時~17時 場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館3階大会議室+オンライン(Zoom形式) テーマ:エコノミストと考えるフューチャー・デザインの視点を生かした授業のつく り方 講演者:西條辰義先生(京都先端科学大学特任教授、フューチャー・デザイン
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研究センターディレクター) 授業提案と討論 「フューチャー・デザインの視点を生かした授業をどうつくるか」 問題提起 杉田 孝之先生(千葉県立津田沼高等学校 教諭) 授業提案 高橋 克志先生(埼玉県宮代町立百間中学校 教諭) 授業提案 大塚 雅之先生(大阪府立三国丘高等学校 首席) コメント 西條 辰義先生(京都先端科学大学 特任教授) プログラムは https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2025/12/2026HaruKeizai.pdf をご覧ください。 申し込みは https://econ-edu.net/application/event-application/ をご覧ください。 ──────────────────────────────────────── 【 3 】定例部会のご案内・情報紹介 ──────────────────────────────────────── ■東京部会(No.148)をハイブリッド形式にて開催します。 日時:2026年2月8日(日)14:00~16:00 場所:連合会館 403会議室 (東京都千代田区神田駿河台3-2-11) お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください。 ■ 大阪部会(No.97) 日時:2026年4月12日(日)15:00~17:00 場所:同志社大学 大阪サテライトオフィス(予定) お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください。 ──────────────────────────────────────── 【 4 】授業のヒント ──────────────────────────────────────── 授業をストーリー化するだけでは足りないものがある? 執筆者 金子幹夫 1.文献講読の先にあるものは? 先月号は、本メールマガジンにあります「授業に役立つ本」における文献の選び方や読み方についての舞台裏を紹介しました。今月は、この文献講読の先にある授業づくりについて皆さんと考えてみたいと思います。
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2.文献講読をもとに創った授業内容が生徒に伝わらない時 授業を創ろうとする時に、文献からヒントを得て授業内容を構想する場面を思い浮かべてください。この構想は、生徒の状況に合わせて行いますが、「こんなにわかりやすく伝えたのに、なかなか生徒に伝わらない」といった経験はありませんか? この場面に出会った教師は、授業を振り返り省察をします。文献はきちんと精読したはずです。目の前の生徒に合わせて表現を工夫したつもりです。でも生徒には、その内容が伝わっていないようです。この状況をどのように解釈すればよいのでしょうか。
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3.魔法を加える方法 そこで、今月は文献講読をもとに創った授業内容が生徒に伝わらないという問題を考えるための糸口を見つけてみたいと思います。大きな問題ですから、一気に解決することはできません。授業づくりに向けてのヒント探しが今月の目標です。 この目標に近付くための手がかりを見つけました。それは本メルマガNo.178にあります篠原総一先生の捨てネタシリーズの中にある一節です。 そこには「(すぐれた捨てネタには)「『他人事のように見える一般論』を、一気に『自分と関わりがある経済、肌感覚で理解できる経済』に変身させてしまう魔法のような力がある」と書いてあります。糸口はこの文中にあると狙いを定めました。 文献講読からネタのヒントを読み取り、それを「魔法のような力」のある教材として創り上げるにはどのような工夫が必要なのでしょうか? 次のように考えてみました。
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4.ストーリーにもいろいろある? 「魔法のような力」を持ったネタを作るためにはストーリーが必要です。 ストーリーを構成しないまま経済学習を進めてしまうと、制度や仕組みの説明が中心になってしまい、教師と生徒の認識が大きくズレてしまいます。 ここで筆者は、反省すべき点に直面します。その反省とは、筆者はこれまで「ストーリー」という用語をアバウトに使いすぎたというものです。 今年度、本コーナーで筆者は「ストーリー」という用語を2回使いました。No.195では「(授業は)ストーリーをもたせた語りで『わかる』」と、No.196では「授業と授業との間にはつながり(ストーリー)があります」と書きました。 同じ「ストーリー」という用語ですが意味が微妙に異なります。この違いについて言及していなかったのです。そこで、次のように整理してみました。
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5.ストーリーを2つの種類に分けたとすると(1) 経済教育にはストーリーが2種類必要だと思います。その2つというのは「大きなストーリー」と「小さなストーリー」です。 1つ目の「大きなストーリー」は、教師が教科書の目次をストーリーとして語り、その内容を生徒と共有するというものです。 どうしてこの共有が必要なのでしょうか? それは生徒が「なんで今日はこの学習をしなければいけないの?」という理由を理解することで、初めて生きた授業になるからです。
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6.ストーリーを2つの種類に分けたとすると(2) もう一つの「小さなストーリー」は、本時において展開するストーリーです。 経済学習を生徒に深く理解してもらうためには、授業において、生きている人間の行動をストーリー性を持たせて取り上げる必要があります。 この思いがあって、筆者は本メルマガのNo.198で「人間像」を意識する経済教育について取り上げました。ところが、この原稿を再読しますと、人間が動くストーリーだけでは不十分だと気づいたのです。不足しているのは「キャラクター」という概念でした。
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7.会ったこともない人の人生を語るということ 「キャラクター」とは具体的にどのようなものなのでしょうか? 学習内容とは一時離れますが、お正月の箱根駅伝がわかりやすい例になると思います。なぜ多くの人は箱根駅伝に夢中になるのでしょうか? その一つの理由に「ストーリーとキャラクター」の設定があると思うのです。東京の読売新聞社前から箱根までの長距離走を、順番や記録だけに注目して実況放送しても視聴率はあがらないのではないかと思うのです。 テレビ中継では、多くの選手についてのエピソードが語られます。昨年はどのような走りをしたのか? その走りを超えるためにどのような1年を過ごしてきたのか? 選手を支える人たちとの間にどのような物語があったのかを伝えてくれます。 私たちは、いつの間にか、会ったこともない選手の人生について語れるほどの知識を身につけます。気がつくと「頑張れー」と応援してしまうのは、1人ひとりの選手が持っているストーリーとキャラクターを知ってしまったからかもしれません。 8.文献講読と経済教育に戻ります そこで、授業内容が生徒に伝わらないという問題に戻ります。大きなストーリーで「なぜ今日はこの学習をするのか」という情報を共有します。次に各時間の授業でキャラクターが動くストーリーを描くことで授業内容を伝える糸口が見えてくると思います。 ところで、教師は毎時間の授業でキャラクターを設定したストーリーを描ききれるでしょうか? 教師はストーリーを描くパワーを持っています。しかし、昨今の多忙化は、教師の持っているエネルギーを分散化させてしまいます。この問題を打破するためにはどのような工夫が必要なのでしょうか?
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9.ネットワークには情報がいっぱい その一つの工夫がネットワークです。経済教育ネットワークもその一つです。授業案について悩みを抱えた教師と、授業案についていろいろなアイディアを持っている教師が集まる場です。 定期的に開催されている部会、そして年に数回開催しています「先生のための経済教室」(春の教室は3月28日です)、さらにこのメールマガジンで多くの情報を共有したいと思います。
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10.来月に向けての宿題 そこで、本コーナーでも何らかの情報を発信することになるわけです。実際にどのようなキャラクターを設置してストーリーを構成することができるのかという試作を示すことで、この議論が活発になるのではないかと思うのです。 そこで試しに(案)を作成してみよう! というのが来月に向けての宿題になります。しかし、この宿題ができるかどうか不安です。2月は28日までしかないことに気付いてしまったからです。 今月はここまでです。 (金子幹夫) ──────────────────────────────────────── 【 5 】授業に役立つ本 ──────────────────────────────────────── 今月紹介する本は, 内田由紀子『日本人の幸せ―ウェルビーイングの国際比較』中公新書2025年 と 中島賢太郎 手島健介 山﨑潤一『歩いて学ぶ都市経済学』日本評論社2025年の2冊です。
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■ 内田由紀子『日本人の幸せ―ウェルビーイングの国際比較』中公新書2025年 ① なぜこの本を選んだのか? 公民科を教える教師は「幸福・正義・公正」という枠組みを意識しながら授業案を考えます。先月号で紹介した『たとえば『自由』はリバティか』では「正義」についてどう解釈できるのかを考えました。今月は「幸福」をテーマに皆さんと考えてみたいと思い本書を選びました。
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② どのような内容か? 1.内田由紀子先生の研究は? 内田由紀子先生は京都大学人と社会の未来研究院教授です。専門は社会心理学、文化心理学で、特に幸福感や対人関係の比較文化研究をすすめています。関心があるのは「文化とこころ」の関係です。 2.ウェルビーイングと幸福の違い 本書の中心語である「ウェルビーイング」は、日本語の「幸福」と何が異なるのでしょうか? そんな問いかけから考察がはじまります。 「ほら、これが幸福だよ。他の人と比較してみよう」と手に取って見ることができない「幸福感」のあり方について、これまでの文化心理学の研究成果をもとに明らかにしていきます。
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3.文化心理学? 文化心理学は「心」と「文化」という難しい現象を解明しようとします。例えばアメリカでサンドイッチやさんに行くとパンの種類から焼き加減、トッピングまで細かく決めなければいけないそうです。一方、日本では昼に定食屋さんに行くと「日替わりメニュー」があります。常連さんは「いつもの」といって選択するエネルギーを節約します。 「選ぶ」という心の持ち方をもつ文化もあれば、「選ぶエネルギー」を場合によっては節約する文化もあるようです。心と文化の関係をもっと知りたくなるような事例で読者を引き込んでいきます。 4.幸せの計測について そこで知りたくなった疑問は2つです。1つ目は、人が幸せを感じるのはどういう時か?2つ目は、その「幸せ」をどうやって計測するのか? というものです。 本書は、この2つの問いに向けて日本的な概念に基づく幸福感を調査しようとします。尺度として設定したのは「他者との協調・調和」「穏やかな生活」「人並み感」でした。
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5.お友達は150人? この3つの尺度の中にある「他者との協調・調和」に注目します。人間は、どのようにして他者と協調したり調和したりするのでしょうか? そもそも人間にはどのくらいの人と協調・調和できる能力があるのでしょうか? ある研究によると、人間が維持できると推定されるグループサイズは約150人だそうです。では人数が多いほど「幸せ」は増していくのでしょうか? 日本人対象の研究では、人数よりも居心地のよい関係といった「質」の方が重視されることがわかっています。
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6.「主観」も計測できるようになった この居心地のよさという安心感は主観的なものです。これまで長い期間、幸福を計測するために用いてきた指標は「経済状態の良さ」、「安全性」といった主観とは距離のあるものでした。ここに加わった新たな指標が主観的ウェルビーイングなのです。 この「主観的」という言葉を聞いて疑問を抱く方もいると思います。社会科学や政策領域では「主観」を数値化する試みに対して懐疑的な見方が根強くあったからです。 しかし、近年の心理学的手法の進展や測定技術の洗練、そして膨大な国際データの蓄積により、主観的指標が客観的指標に加わるようになったことが書かれています。 7.データを見るときに注意すること 信頼できる計測値が得られることはいいことですが、国や地域といった集団単位のデータから得た傾向を、個人レベルにも当てはめてしまうという誤りに注意する必要があります。国レベルの平均値同士の関係が、個人レベルの相関関係と一致するとは限りません。 今月紹介しますもう1冊の『歩いて学ぶ都市経済学』でも、データ解釈における注意点が繰り返し書かれています。教師が資料の読み取り方を教える時に知っておくと役に立つ記述です。
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8.幸せを追いかける社会を設計しよう 後半は、社会の設計に関する話題になります。自治体の職員が「ウェルビーイングは個人的な内容が多いので、行政として何をしていいかわからない」と尋ねた場合、どのような政策を考えればよいのでしょうか? という問いからはじまります。 社会の設計を考えようとすると、制度や法律のことが頭に浮かびます。しかし多様な個人がウェルビーイングを追いかけるためには、暗黙のルールや集団がつくりだす雰囲気、道徳や規範意識も含めてアプローチする必要があると述べています。 本書が示しているアプローチ方法が印象に残りました。マクロ、ミクロ、そして・・・もう一つ単位を設定しているのです。経済的分野のテキストにはあまり見られない単位の設定が心に残りました。
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9.幸福な職場と働き方の変化 社会の設計といいますと範囲が広いので、少し狭めたところで「働く場所」と「幸福」について考えます。問いは「働く人が幸福な職場とは?」です。 キーワードは「つながり」と「自律性」です。2025年に開催された夏の経済教室で示された「経済教育の見直し」にも登場した「つながり」です。本書ではこの「つながり」を社会関係資本と同じ意味で用いています。 この「つながり」と「自律性」について具体的に示すため、北米型企業と日本型企業における働き方を比較しています。日本企業における働き方が2020年を境に変化してきており、「自律性」を重視する企業が増えてきたことを指摘しています。
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10. 教育の場における幸福感 会社の次は教育の場です。本書は、教育の世界でも「つながり」を重視する協調型の教育に加えて個人主義的価値観を意識する指導が広がりつつあると指摘しています。 教育の場において主観的幸福感は何によって支えられているのでしょうか? 検討した結果、主観的幸福感を支える要素は3つだとがわかりました。「友人関係」、「自己肯定感」、そしてもう一つ。この3つ目を知ることで教師の役割がいかに重要であるかに気付きます。
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11.私たちに向けての宿題 最後に語るのは、これからの時代におけるウェルビーイングです。 日米比較が印象的です。アメリカでは「個人の幸福追求は、社会全体にとっても良い結果をもたらす」と考えられています。一方、日本では個人が何かを得るならば、誰かが困るかもしれないというゼロサムゲーム的な状況が意識されやすいと指摘しています。 課題もたくさん示されています。自己肯定感の低さはどのような意味において問題なのか。集団意思決定で、個人が決めたものよりも浅はかな内容になってしまうという問題。日本社会は主体性がなくても枠組みがある程度しっかりしているため社会が何とかなってしまうという問題等々です。たくさんの宿題をいただきました。
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12.本書の全体像 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 第1章 文化心理学とは何か 第2章 幸福の国際比較 第3章 対人関係、集団意識、自己 第4章 主観的なウェルビーイングをどう測定するか 第5章 幸福をはぐくむ地域コミュニティ 第6章 働く人が幸福な職場とは 第7章 教育現場のウェルビーイング 第8章 これからの時代のウェルビーイング
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③ どこが役に立つのか? 「幸福」について解釈しようと読み続けていましたら、いつの間にか人と人との「つながり」を考えていました。本書は社会関係資本をどのように生徒に教えることができるのかという経済教育の視点から読み解くことで授業に役立つと思います。 「幸福・正義・公正」は、公民科全体を貫く枠組みです。各単元を、この枠組みにどのように当てはめて解釈することができるのか? というヒントをくれる1冊です。
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④ 感 想 「何か不思議だな?」と思ったことを、どのように細分化し、再統合していくのかを感じ取れる本でした。書かれている内容が、授業づくりに役立つものから、教師という仕事に関するものまで幅広いため、緊張感を持って読むことができました。
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■中島賢太郎 手島健介 山﨑潤一『歩いて学ぶ都市経済学』日本評論社2025年 ① なぜこの本を選んだのか? 「経済学を片手にあの町を歩いてみれば」という帯を見て購入しました。読んでみると楽しい話題でいっぱいです。 なぜ東京の勝どき・晴海エリアにタワーマンションが多く建てられるのか? 博多駅西側のビルは、どうして皆同じ高さなのか? 渋谷区と新宿区にまたがる新宿駅、品川区にない品川駅、目黒区にない目黒駅、大阪の市外局番を持っている尼崎市等々。 読んでみたくなりませんか?
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② どのような内容か? 1.どのような研究者が書いた本なのか? 中島賢太郎先生は、一橋大学で、空間経済学の実証研究を行っています。手島健介先生は、同志社大学で、グローバル化が発展途上国の産業発展や技術変化に与える影響、そして環境や健康、犯罪といった社会面に与える影響を研究しています。山﨑潤一先生は、京都大学で、発展途上国や江戸・明治・戦前期日本のデータを用いた経済、政治、地理に関する実証研究を行っています。
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2.なぜライバルが集まるのか? 本書は、神田にあります神保町の古本屋街の記述からはじまります。古本に限らず、国内には同業種の店舗集積がたくさん見られます。本来ならば、客の限られた予算を奪い合うライバル同士であるお店が、なぜ地理的に集まるのでしょう? この現象を説明するために、ショッピング外部性とアンカーストアの理論という考え方を用いてわかりやすく説明してくれます。具体的な事例を扱った実証研究を紹介しながら、築地市場の仕組みやオンラインショップの仕組みを知ることができます。
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3.「売る」だけではない!「つくる」も集まる 集積するのはお店だけではないようです。製造業や情報通信業も、地理的に集中して立地することがあります。その集積のメカニズムを説明してくれます。 この理屈を説明するためにアルフレッド・マーシャルが登場します。このマーシャルの理論を現代的に整理しながら集積のメカニズムを類型化します。その上で、人や企業は際限なく一部の地域に集まってしまうことはないことを説明するのです。
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4.地方の家は広い? 次は「都市」です。朝夕の都市は通勤客でいっぱいです。ここでは、通勤の存在が都市の機能や私たちの生活、経済にどのような影響を与えるかを考えます。 地価は都市の方が高く、都心から離れるにつれてだんだんと低くなります。この規則性はどのようにして形成されたのか。2007年に開通したつくばエクスプレスなどを例に説明してくれます。 また、住宅は都心で狭く、都心から離れるにつれて広くなるという規則性についても取り上げています。生徒にこの規則性の理由を発問してみることで、経済的な考え方に触れることができそうです。
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5.ベイエリアにタワーマンションが多い理由 地価が高くても都市に住む人はいます。近年よく見かけるのがタワーマンションの建設です。都心に近い場所の価値は高まるため地代が上昇します。そのため都心への距離と住宅の広さとの間にトレードオフが生じます。 この考え方をもとにタワーマンション建設の理由を授業で考えることができそうです。用いる考え方は「機会費用」です。通勤には大きな機会費用がかかります。タワーマンションは通勤の機会費用の高い人々のために、都心近くに住宅を提供しているわけです。 生徒には「距離と通勤費用の関係」、「広い住宅を求める度合い」、「都心のアメニティへの好み」という観点から、高所得者層と低所得者層での違いを考えさせることで街について新しい視点を持たせることができそうです。
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6.都市の形 ところで、都市にもいろいろな地形があります。都市が拡大する時、海や山といった地形に出会うことで都市の形が変わってきます。 地理的条件は、都市に対してどのような影響を与えるのでしょうか? このことによる通勤時間の変化、賃金の違い、鉄道網や高速道路網などの交通インフラの建設について、神戸を例にして説明してくれます。 教師は、生徒がデータを見て安易に因果関係があると解釈しないような配慮が必要です。 授業で教える用語ではありませんが、本書では教師が知っておくと役立つ考え方として、内生性の問題 と自然実験的アプローチが取り上げられています。
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7.規制のいろいろ 都市の記述が続きます。「博多駅西側を見ると違和感を覚えませんか?」という問いかけから「規制」についての記述がはじまります。 これは、博多駅西側では、どのビルの高さも揃っていることを問いかけたものです。なぜ揃っているのでしょうか? 本書から読み取ってください。いったい土地の開発規制は、その土地の価値にどのような影響を与えるのでしょうか? 本書から得られる知識は、皆さんの学校の近くにある都市を題材にした「規制」に関する教材づくりに貢献できそうです。
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8.観光地の飲食店は高い 次は観光地です。観光客の増加や観光業の成長が、地元経済や社会にどのような影響を及ぼすのでしょうか? ここにも教師が知っておくと役に立つ視点が示されています。 その考え方の1つ目は、ある地域におけるある産業が、その地域の別の産業や、他地域の産業にどのような影響を与えるのかということです。 もう一つは、ある産業が成長し、その地域の土地や労働者などがよりたくさんその産業に使われると、他の産業が使えたはずの土地や労働者が制約されるという視点です。 この視点で観光地を考えます。その土地に対する需要が観光業以外に乏しい場合には、観光関連産業の発展に正の波及効果を地域に与えるのではないかということです。 一方で、その土地に対する需要が観光業以外にもある場合には、競合する需要を持つ産業を阻害したり、ある種の住民にとって魅力的でなくなったりする可能性があるということになります。皆さんの学校の近くにある観光地はどうでしょうか?
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9.有名な大通りの歴史的背景 次の舞台は仙台、名古屋、広島です。どこも観光地として有名ですが、もう一つ注目したいのが大通りです。久屋大通、若宮大通、平和大通り、青葉通です。この通りを開発する背景には何があったのでしょうか? その歴史を読み取ってみてください。 もう一つ。戦争などで大きな被害を受けた都市の人口は、どのくらいの年月でもとの水準まで戻るのでしょうか。 破壊と再生のメカニズムを読み取ることができます。
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10. 大名屋敷と逆選択 大通りではありませんが、東京には広い敷地を持つ大名屋敷が多く存在していました。丸の内や霞ヶ関では大名屋敷の歴史を感じさせる広々とした土地を活用した高層ビルが建築されています。昔の大名屋敷のような所は、なぜ激動を生き抜いたのでしょうか。 その背後で働いている経済学的メカニズムはどのようなものなのでしょうか? 不動産市場における「摩擦」と表現して説明してくれます。この説明の中に「逆選択」という考え方が登場します。
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11.東京都と神奈川県の境は多摩川だけではない 話題は自治体に移ります。自治体の境界はどのような要因で決まるのでしょうか? 自治体の境界やその範囲は地域にどのような影響を及ぼすのでしょうか? 東京の町田市を例に説明してくれます。冒頭に示しました、新宿駅、品川駅、目黒駅、尼崎市の事例はここに登場します。皆さんの学校の近くにある駅や自治体について調べてみたら、何が見つかるでしょうか?
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12.長野新幹線とLCC ここまで登場した都市には、大きい都市もあれば小さい都市もあります。この大小いろいろとある都市についてポール・クルーグマンの空間経済学の理論が紹介されます。 問いは、大きさの異なる複数の都市が共存するのはなぜだろうか? というものです。企業が、工場建設にかかる費用と輸送費用のトレードオフをどう捉えるのかというストーリーを読み取ってみてください。 紹介されている実証研究では、長野新幹線の開業によって、長野新幹線沿線に立地する企業の特許出願件数が増加したことや、LCCによって結ばれた路線間の研究者は、質や新奇性の高いプロジェクトを行うようになったというものが取り上げられています。 13.移住の問題についての研究 最後に取り上げる話題は「移住」です。山手線の新大久保、埼玉県西川口のチャイナタウン、北関東、中部・近畿地方にある日系ブラジル人やペルー人などのコミュニティが登場します。 そもそも人はなぜ移住を行うのでしょうか? 特定の地域に外国籍住民が集まる理由は何でしょう? そしてある地域に住むようになった外国出身者と地域社会との関係はどのように分析することができるのでしょうか? ここでもデータ解釈について大切なことが指摘されています。それは、外国籍住民の増加と地域の変化に相関があったとしても、それは本当に外国籍住民の増大が原因なのか?という私的です。 外国籍住民の増大が原因なのか?それとも外国籍労働者に対する需要を増やしている地域の特徴(例えば好景気による工場の受注増加)が原因なのかを区別することが難しいのです。
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14.本書の全体像 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 第1章 商業集積のメカニズム:東京築地市場における店舗抽選 第2章 生産活動の集積のメカニズム:渋谷ビットバレーと東大阪 第3章 通勤が形成する都市:大阪、梅田、細雪 第4章 住宅としての土地利用:東京湾岸のタワーマンション 第5章 都市のカタチ:神戸、海と山 第6章 土地利用規制:博多駅前のスカイライン 第7章 観光が変える都市の姿:京都、清水坂 第8章 都市の破壊と再生:仙台、名古屋、広島 第9章 土地住宅市場の摩擦:大名屋敷から高層ビルへ 第10章 地域を分かつ境界:神奈川県 東京都町田市 第11章 都市をつなぐ高速交通網:東京駅、鳥栖インターチェンジ 第12章 多様性の交差点:新大久保、西川口
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③ どこが役に立つのか? 豊富な事例と問いかけ、そして実証研究が紹介されています。読みながら「自分が住んでいるところはどうなのか?」と調べてみたくなる記述でいっぱいです。 授業のネタになりそうな話題が多いこと、そしてデータを分析する上でどのようなところに注意しなければいけないのかを学ぶことができます。
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④ 感 想 表紙のデザインがとてもきれいなので読み始めましたら、事例が面白いこと、そして各章で魅力的な問いかけが示されていることにより、ぐいぐいと引き込まれていきました。 生徒に教えたいこと、教師として知っておきたいことの両方を読み取ることができる1冊だと難じました。表紙、各章に掲載されている写真などを見ますと、本のことがものすごく好きな編集者の手によって作られた作品だと思います。 (金子幹夫) ──────────────────────────────────────── 【 6 】編集後記「~自己観照~」 ──────────────────────────────────────── ある新聞記者からお話を伺う機会がありました。新聞社は、入社すると地方の警察や裁判所の担当になることが多いそうです。ところが、その方が入社した社では、新人は細かく分類された商品の一つを担当するそうです。例えば鶏肉とかブッロコリーといったイメージです。世の中を見つめる記者をどう育てていくのか? 身近な行政機関から見つめる記者もいれば、一つの商品から世の中を見ていくという記者もいるわけです。公民科教師が、目の前の商品から社会の仕組みを教えようと構想することで、一層生徒の目線にあった授業ができるかもしれないなと感じました。 (金子幹夫)
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