reader reader先生

 何かいいことがありそうな1月を迎えました。
 本年も何卒よろしくお願いいたします。
 昨年は、経済教室で多くの皆様から「メルマガ読んでいますよ」という声をいただきました。今年も皆様のお役に立つような内容をお届けできるよう心がけたいと思います。
 3月には慶應義塾大学で「春休み経済教室」が開催されます。先生方とお目にかかれる日を楽しみにしています。それでは2026年最初のメルマガをお届けします。
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【今月の内容】 今月は次の5つの内容をお届けします。
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【 1 】最新活動報告・・・2025年11月と12月の活動報告です
【 2 】先生のための「春休み経済教室」申し込みが始まりました!
【 3 】定例部会のご案内・情報紹介
【 4 】授業のヒント…【「本の紹介」についての舞台裏】
【 5 】授業で役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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【1】最新活動報告・・・2025年11月と12月の活動報告です
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■東京(No.147)部会をハイブリッド形式にて開催しました。
 日時:2025年11月24日(月・祝) 15時00分~17時00分
 場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館地下1階会議室3 +オンライン(Zoom形式)
内容の概略: 28名参加(会場12名、zoom16名)
 主な内容
1.「私の経済教育観が揺れ動いて止まらない!~メールマガジン作成の舞台裏から~」
                     金子幹夫 先生(明治大学特任教授)
2.「政治・経済」での累積債務問題を扱った単元開発
                     大塚雅之 先生(大阪府立三国丘高等学校)3. 将来世代の立場で考える「日本の財政」
                   新井明 先生(筑波大学附属中学校非常勤講師)
 詳しい内容は
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2025/10/tokyo147reportHybrid.pdf
をご覧ください。
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【 2 】先生のための「春休み経済教室」申し込みが始まりました!
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  先生のための「春休み経済教室」を開催します
  日時:2026年の3月28日(土)13時~17時
  場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館3階大会議室+オンライン(Zoom形式)
  テーマ:エコノミストと考えるフューチャー・デザインの視点を生かした授業のつく      り方
  講演者:西條辰義先生(京都先端科学大学特任教授、フューチャー・デザイン研究セ      ンターディレクター)
授業提案と討論 「フューチャー・デザインの視点を生かした授業をどうつくるか」
問題提起 杉田 孝之先生(千葉県立津田沼高等学校 教諭)
   授業提案 高橋 克志先生(埼玉県宮代町立百間中学校 教諭)
授業提案 大塚 雅之先生(大阪府立三国丘高等学校 首席)
コメント 西條 辰義先生(京都先端科学大学 特任教授)
プログラムは
https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2025/12/2026HaruKeizai.pdf
をご覧ください。
  申し込みは
    https://econ-edu.net/application/event-application/       
              をご覧ください。
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【 3 】定例部会のご案内・情報紹介
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■大阪部会(No.96)をハイブリッド形式にて開催します。
 日時:2026年1月11日(日) 15時00分~17時00分
 場所: 同志社大学 大阪サテライトオフィス(予定)
          大阪市北区梅田1-12-17梅田スクエアビルディング17階 
案内はこちらです
 https://econ-edu.net/2025/10/26/2369/
お申し込みはこちらです
https://econ-edu.net/application/event-application/

■「会計」を通して社会の見方を育む社会科教員向けセミナー
 日時:2026年1月24日(土)13:00~ 大阪会場
    2026年1月31日(土)13:00~ 東京会場
 場所:大阪会場
    TKPガーデンシティPREMIUM大阪駅前
    ジョイント4A+4B(カンファレンスルーム4A+カンファレンスルーム4B)
    〒530-0002大阪府大阪市北区曽根崎新地2-3-21 AXビル 4階
    東京会場
    TKP市ヶ谷カンファレンスセンター ホール5C
    〒162-0844東京都新宿区市谷八幡町8番地 TKP市ヶ谷ビル 5階
案内・申し込みはこちらです
    https://www.kyoiku-press.com/kaikei_seminar2026/
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【 4 】授業のヒント
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「本の紹介」についての舞台裏
執筆者 金子幹夫
1.「授業に役立つ本」の舞台裏です
 新年、いかがお過ごしでしょうか。
「授業のヒント」は、ここ数ヶ月の間、経済教育をどのように捉えることができるのかを考え続けています。今月は、このテーマについて別の角度から迫ってみたいと思います。テーマは、「授業に役立つ本」です。
 本メールマガジンで毎月お届けしている「授業に役立つ本」のコーナーは、どのように製作しているのかという舞台裏の一部を紹介します。その中で、経済教育をどのように捉えるのかということについて一緒に考えてみたいと思います。

2.「授業に役立つ本」はどのようにして選ぶのか?
 毎月連載している「授業に役立つ本」は、次の3点を意識して選んでいます。
 第1点目は,新しく出版されたものから選ぶということです。新刊本は,全国どこでも入手しやすい本ですし,共通の話題にもなりやすいというのが理由です。
 第2点目は,経済教育ネットワークの記事ですから,「経済」に関する本から「教育」に関する本まで幅広く取り上げることを意識しています。
 第3点目は、明日の授業づくりに役立つ本も選びますが、同時に経済教育とは何だろうか? という原点を考えるための本も選んでみたいと意識しています。

3.箱を4個つくります
 もう少し詳しく説明します。
 先ほど第2点目に「経済」の本もあれば「教育」の本もあると書きました。
 同様に第3点目に「明日の授業づくりに役立つ」本もあれば「経済教育の原点を考える」本も選びたいと書きました。
 ここから、次の4つの箱を設定することが出来ます。① 明日の授業づくりに役立つ経済の本、②明日の授業づくりに役立つ教育の本、③経済についてじっくり考えながら読む本、④教育のことについてじっくり考えながら読む本の4つの箱です。

4.具体的にこんな本を選びました
 例えば①ですと 「マイケル・キーン&ジョエル・スレムロッド著 中島由華訳『課税と脱税の経済史』みすず書房 2025年」があげられます(メルマガ2025年6月1日 No.197号)
       
 同様に②ですと「シャリー・ティシュマン著 北垣憲仁 新藤浩伸訳『スロー・ルッキング よく見るためのレッスン』東京大学出版会 2025年」があてはまります。(メルマガ2025年9月1日 No.200号)

 ③の対象になるのは「浅子和美 飯塚信夫 篠原総一 編『新 入門・日本経済』有斐閣 2024年」です(メルマガ2025年1月5日 No.192号)
 ④はどうでしょう。「竹田青嗣・苫野一徳『伝授!哲学の極意』河出書房 2025」 (メルマガ2025年6月1日 No.197号)が対象になりそうです。

5.本の中で注目するのは?
 「今月はこれ!」と本を選んだとします。まずは通読です。線を引いたり、余白に書き込んだりしながら読みます。二度目は各ページの余白に要旨を一行で書き込んでいきます。
三度目はノートに書き込みながら読み進めていきます。
 これで本の構成が見え隠れしてきます。でもまだ読み込みが足りない場合があります。時間との勝負です。
 注目するのは、本の第一文です。「なぜ、著者はこの文を冒頭にもってきたのか?」。その理由を本文から探し出すわけです。次に注目するのは章立てです。なぜ、著者は次の章に、このテーマを持ってきたのか?という理由を本文から探します。
 この作業がうまくいくと、どのようにして紹介すればよいのかという道筋らしきものが浮かんできます。

6.時々差し替えがあります
 作業を進めていて、選んだ本が期待通りでしたら、どんどん仕事が進んでいきます。しかし、毎月の中旬にさしかかった頃、「これは経済教育に関心を持っている先生の役に立つ本かな?」と感じ始めてしまうとたいへんなことになります。
 翌々月に紹介するために購入していた別の本に変更するかどうかの判断をしなければいけません。差し替えになった場合、月末はたいへんなことになります。「えいっ」と覚悟を決めての判断となります。

7.いろいろな本の読み方
 紹介者は、これまでいろいろな方に「本をどうやって読んでいますか?」、「難しくて解釈がたいへんだ!というページに出会ったら、どのように読みますか?」という質問をし続けてきました。
 いただいた回答はいろいろとありましたが、はじめの質問については「きれいに読む」方と「書き込んで読む」方がいて、やや後者の先生が多いかなと受け止めています。
 2番目の質問については「何度も読む」、「ノートで分析しながら読む」、「声に出して読む」といった回答をいただきました。
 紹介者は、解釈が難しいページに出会ったら、朝一番で再読するようにしています。不思議と、昨晩はわからなかった内容が朝になると解釈できているのかなと感じることが多いのです。皆様はどのように読んでいますか?

8.市場調査
 紹介者は「先生のための経済教室」をはじめ、様々な研究会で、先生方がどのような本を読んでいるのかをうかがうようにしています。そこで感じるのは二極化です。
 忙しくてなかなか読む時間が取れないとお話ししてくれる先生がいます。一方で、積極的に文献講読を続けている先生もいます。スパッと二極化しているなと感じます。本コーナーがすべての先生方を対象に、少しでも役に立てばと思います。

9.新年ということで
 「毎月どのような本が紹介されるのかを楽しみにしています」というお話しを時々うかがいます。だからというわけではありませんが、毎月どの書籍を紹介するのかについて、事前に公開していません。
 紹介者は、この原稿が皆様の手元に届く頃、翌月号の作業に取りかかっています。そこで新年ということで「この本はどうかな?」と現在検討している本を紹介します。
 それは、内田由紀子先生の『日本人の幸せ―ウェルビーイングの国際比較』(中公新書)です。お読みになりましたか?    今月はここまでです。
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【 5 】授業に役立つ本 
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 今月紹介する本は,渡辺 浩『たとえば『自由』はリバティか -西洋の基礎概念とその翻訳語をめぐる6つの講義』岩波書店 2025年 と 富永京子『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』講談社現代新書 2025年の2冊です。

■ 渡辺 浩『たとえば『自由』はリバティか -西洋の基礎概念とその翻訳語をめぐる6つの講義』岩波書店 2025年
① なぜこの本を選んだのか?
 「Freedom、Liberty」、「Right」、「Law」、「Public、Private」、「Society」という英単語は、なぜ「自由」、「権利」、「法」、「自然権」、「公私」、「社会」と訳されたのでしょうか。両者の意味は異なるのでしょうか?
 本書は、社会科教師として知っておきたい歴史がテンポ良く展開されていきます。そして、この訳と、もともとの英語の発想が根本的に異なることを知ることができます。教師が、より正確な知識を生徒に教えられるようになると思い選びました。

② どのような内容か?
1.渡辺 浩先生について
 渡辺先生は東京大学名誉教授で、専門は徳川から明治時代を中心とした「日本政治思想史」です。
 この時代の研究を進めるためには、儒学・儒教がどのようなものであったのかを理解する必要があるそうです。加えて、19世紀における西洋思想の理解も必要です。
 研究を進める中で、翻訳語が、どこまで元の概念と同じなのかという疑問を持ちはじめたそうです。この疑問に、どのようにアプローチしていくのでしょうか。

2.「自由」という翻訳は適切か?
 はじめに検討する単語は「自由」です。
 英語を母語とする人々は、「Freedom」や「Liberty」という単語を使います。一方で、『後漢書』に「自由」という単語が出てきます。さらに、私たちが読んでいる公民科の教科書には「自由」がたくさん登場します。
 この三つがどのくらい異なる(同じ)ものなのかというお話しから本書は始まります。結論は、意味として重なるところはありますが、根本的な発想が異なるということが書かれています。
 英語を母語とする人が使う「Freedom」や「Liberty」は「○○でないこと」と訳すと腑に落ちると教えてくれます。「○○」は、本書の中から探してください。

3.なぜRightは2つの意味を表現しているのか?
 次のテーマは「権利」です。
 中国では「権利」という語を古代から使っているそうです。日本では、rightの訳語として「権利」を用いています。
 渡辺先生は「rightは19世紀の東アジアの人々が簡単に理解できる概念ではない」と教えてくれます。rightは、1つの単語で「権利」と「正しい」という2つの意味を表現しています。なぜこの2つの意味が同居できるのでしょうか。
 本書は、中世以来のコモン・ローといった法体系とequityという法体系の発達を紹介しながら、rightという単語は法的・道徳的に正しい要求を意味しているのだと教えてくれます。
 そこで問題になるのは、私たちが使っている「権利」という訳です。rightを権利と訳すことには飛躍があったそうです。いったいどのような歴史があったのでしょうか?
 日本に「権利」という訳をもたらしたのは、宣教師のウィリアム・マーチンという人でした。その訳を見て、ほかの訳はないのか? と探す人がいたのですが、結局国内では「権利」の訳が定着していくという歴史が書かれています。
 このrightを訳す過程で「分」という訳の候補があげられています。木村拓哉さん主演の映画『武士の一分』が何を意味しているのかという解説が印象に残ります。

4.Lawを日本語に訳そうとしたら・・・
 イタリア語とスペイン語は、「権利」と「法律」を同じことばで表すそうです。一方、英語はrightとlaw(法)を別の単語で表します。
 それでは、日本語は、このlawをどのように訳すのでしょうか? 1867年の英和辞典では掟、御法度と訳しています。
 このlawの語源はlay(置く)で、日本語の「掟」も「置きあてる」という意味の「おきつ」という動詞から来たことから、似ているという印象を持ちます。ところが、調べていくとこの2つが異なる背景を持つことがわかります。
 lawは「法」という意味もあれば、需要と供給の法則といったような「法則」という意味まで含みます。これは創造主、Godが暗黙のうちに想定されていることを意味しているそうです。
 日本語には、このような信仰の背景はありません。そこで、日本語においてLawということばに近い字はないのかと探しますと、「理」という字が近い意味を持つことがわかりました。
 そこでLawを「理」と訳したかというと、そうはいかなかったのです。その理由が武家諸法度に書いてあるのです。詳しい事情は本書で読み取ってみてください。

5.「自然権」?「天然権」?
 次はNatureです。私たちが授業で教える「自然権」とか「自然法」と関連がある単語です。本書は、Natureが、なぜ「自然」と訳されるようになったのかを教えてくれます。
 日本語でNatureに近い語は「天」、「性」だそうです。福沢諭吉は意識的に「天然」という訳を使ったそうです。ところが、いつの間にか「自然」が「天然」との訳語生存競争で勝利します。
 この理由を理解するためには、Natureとキリスト教の関係を理解する必要があります。キリスト教以降のNatureは、創造された際に与えられた被造物の持つ性質も指し示しています。ところが、日本には「被造物」という概念がないという視点から、訳語の歴史を教えてくれるのです。

6.社会科の社会はどのような意味?
 最後はSocietyです。社会科教師注目の単語です。
 Societyという用語を調べていくと、フランス語、イタリア語、ドイツ語には企業や会社という意味も含まれていることがわかります。英語では団体、協会という意味もあるそうです。
 西洋のSocietyは「何らかの共通の目的や資質を持つ人々が交流し、協力する集まり」という意味、つまり「つきあい・仲間・交友関係・団体」に近い言葉のようです。
 それでは、日本語で社会というのはどう捉えられているのでしょうか? その手がかりが「世間」ということばだそうです。反対語は「身内」です。いつも存在するもので、遙か遠い人は含みません。どうやら西洋のSocietyと日本の「社会」はズレているようです。
 この社会という漢語は、中国でも使われていたようです。どのような意味なのでしょうか?「社」の示偏は神様関係を表すそうです。示偏に土ですから、土地の神様を祀った場所というように解釈することも出来そうです。
 日本語はどうでしょう。Societyに近い単語はそもそも日本語にはなかったのでしょうか? 渡辺先生は私たちに「仲間・組・連中・社中」ということばを投げかけて考えさせてくれます。それぞれ「株仲間・新撰組・老中・亀山社中」といった例を挙げながら解説してくれます。

7.本書の全体像
 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
 第1講 「お金に不自由しています」FREEDOM・LIBERTY
 第2講 「武士の一分でござる」RIGHT
 第3講 「正義省」はどこに LAW
 第4講 「この村は、本性がいっぱいです」NATURE
 第5講 「それは公用ですか」PUBLIC/PRIVATE
 第6講 「キミも、いよいよ社会人だね」SOCIETY
 講義を終えて

③ どこが役に立つのか?
 「社会科」を教えている教師は、自分の教えている教科名の由来を知ったら驚くのではないかと思います。「社会」だけではありません。「自由」とか「権利」が持つ歴史的意味を知っているだけで、授業づくりの幅が拡がっていきます。「どうして自然権というの?」、「天賦人権の天賦って何?」、「時代劇に出てくる御公儀とか公方様って何?」、「手紙に書く御中の意味は?」、「同志社大学の社って何?」等々、たくさん出てくる言葉の語源は、生徒の学習意欲を高める授業づくりにつながると思います。

④ 感 想
 本書は、明日の授業に困っている教師や、教えるための基盤を形成したいと思っている教師のどちらにも大きな影響を与える1冊になると思います。ひとつのコトバの向こう側にある大きな世界が、時空を超えて私たちに迫ってきます。読み終えた後、教科書が立体的に視えてくるのではないかと想像します。

■ 富永京子『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』講談社現代新書 2025年
① なぜこの本を選んだのか?
 これまで、社会運動論の新書はなかったそうです。著者の富永京子先生は「高圧的な書評を恐れて誰も入門書を書かず、学術的な本だけが流通すれば、一般の人に社会運動論が知られることはない」(p.242)と書き、本書を執筆する意義を説明してくれます。
 この入門書が、授業に出てくる社会運動についての考え方を整理してくれるのではないかと考えて選びました。

② どのような内容か?
1.富永京子先生について
 富永先生は立命館大学産業社会学部で社会運動論の研究に取り組んでいます。本書によると,社会運動をしない社会運動論者だそうです。
 学生時代から、G7サミットへの抗議行動について研究しています。労働組合員が独特のことばを使うことにも関心があるそうです。

2.定義が曖昧なところがいいところ
 冒頭で社会運動がこれまでどのように定義されてきたのかを紹介してくれます。3つの定義が示されますが、これを読んだ読者は「いったいどれが適切な定義なのか?」という疑問を持つのではないかと思います。
 富永先生は、この定義が揺れているところがポイントだと書いています。そして社会運動について「思想や理念はどうであっても、社会を変革するための行為・行動として捉えて」みてはどうかと提案してくれます。

3.人々が行動する理由は?
 この社会運動論は、1960年代からはじまったそうです。当時の学説は「古典モデル」と呼ばれており、代表的なものに「集合行動論」があります。
 研究者たちは、安定していた社会システムに何らかの緊張が生じたことがきっかけで、不安な心理状況に置かれた人々が集合行動を起こすと考えました。

4.参加しなくても成果を得られるのならば・・・
 ところが、この集合行動論に異議が唱えられます。社会運動によって得られるもの(例えば平和、きれいな公園 保育所の問題・・・)は、社会運動に参加していない人でも得ることが出来るところに注目した異議でした。「フリーライダー問題」です。
 社会運動に参加しなくても、運動の成果を得られることを知った人たちの中には、わざわざ社会運動に参加しなくてもいいではないかと考える人もいるはずです。それでは人間は、どのような条件が整えば社会運動に参加するようになるのでしょうか。
 後継の研究者たちは、社会運動に必要なのは「資源」と「組織」だと主張します。これは「資源動員論」と呼ばれるようになりました。この資源というのは物質的資源から信頼といった非物質的資源まで含みます。
 
5.もっと現実的なアプローチをすると・・・
 ここまで集合行動論と資源動員論があげられました。次に登場するのは、この2つの考え方を組み合わせて、より現実に沿ったアプローチは出来ないかというものです。
 政治的、経済的な決定権や影響力を持たない人が、自分たちの権利を獲得するために政治に影響を及ぼす試みとして社会運動を捉えることは出来ないかと考えたのです。
 決定力や影響力を持っている人は政治システムの中にいます。この中にいる人が、政治システムの外にいる人(決定力や影響力を持たない人)を支援する可能性は低いはずと考えたのです。この点が資源動員論とは異なるアプローチです。
 この考え方は「政治過程論」と呼ばれます。社会運動が発生する要因は、「様々な集団が連携すること」、「人々が組織化されること」、「運動が成功すると思っていること」が重要だと主張します。

6.社会運動をする人、される人
 ここまで紹介した理論は、社会運動を「する側」の理論でした。そこで次に「される側」に視点を移すとどうなるのかを考えます。
 この理論は「政治的機会構造論」といいます。政治をする人が「聞く耳」を持っていなければ運動をしても意味がないという角度から主張する内容を構築していきます。
 この理論は、人々が政治にアクセスできる回路をどのくらい持っているのか? ということと、政治体制がどの程度開放性を持っているのかに注目しています。
 本書では「カスハラ」という用語がどのように構築されていったのかという事例を紹介しながら、「政治的機会構造論」を教えてくれます。

7.アメリカの研究、西欧の研究
 ここまでの理論は、主としてアメリカで教育を受けた研究者たちの研究成果が中心でした。Society運動論には、これとは別の流れから生まれた研究もあります。その中で、ドイツやフランスの研究者たちが発展させた「新しい社会運動」に注目しました。
 この研究の特徴は、1960年代以降の「豊かな社会」で起きた運動を分析しているところにあります。環境運動、女性運動、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を求める社会運動等です。
 漫画「美味しんぼ」に出てくるタイ米の炊き方を事例にしてハーバーマスを紹介しているところは、多くの教師に授業のヒントを与えてくれるのではないかと思います。

8.人間をどう捉えるのか?
 ヨーロッパで新しい社会運動論が生じたことで、アメリカの社会運動論も大きな影響を受けます。本書はこの流れの中にある「社会運動と文化論」を取り上げます。
 この研究者たちは、人間を合理的な人間としてすべて同じように想定することは無理だと主張します。さらに、世の中の人間は利己的な人だけではないという立場に立ちます。 筆者の富永先生は、ご自身がこの「社会運動と文化論」の研究者だと告白して、この運動論の説明をしてくれます。

9.2000年代の社会運動論
 これまでの社会運動論に欠けていたものは何でしょう?
 1つ目は、静的な要素に焦点を当てすぎていて、動的な関係を十分に捉えていないことです。2つ目は、広範囲の「政治的な対立」を描くには適していないことです。3つ目は、社会運動の発生に焦点を当てていて、その後のことに十分な注意を払っていないことです。
 この欠けた部分を補おうとする新しい理論が提唱されます。新しい理論は、社会運動からより広く視野を拡大し、社会運動の発生と持続のメカニズムを外部環境や歴史的経緯からも考察し、認知的・文化的アプローチを取り込み発展させていくのです。

10.本書の全体像
 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
 第一章 社会運動とはなにか
 第二章 集合行動論 
 第三章 フリーライダー問題から資源動員論へ 
 第四章 政治過程論/動員構造論
 第五章 政治的機会構造論 
 第六章 フレーム分析 
 第七章 新しい社会運動論 
 第八章 社会運動と文化論 
 第九章 2000年代の社会運動論 
 第十章 社会は社会運動であふれている

③ どこが役に立つのか?
 教科書に出てくるいろいろな社会運動は、どのような枠組みを持ったものなのかを推測することが出来るようになります。「どうしてこの社会運動が起こったのでしょう?」 という問いを生徒と共に考える時に、本書の知識があれば、生徒に合わせた発問を考えることが出来るようになると思います。

④ 感 想
 読者のことを意識した書き方が貫かれています。章が新しくなるたびに、ここまで説明した理論全体を振り返り、本章が何を書こうとしているのかを示してくれます。
 富永先生が論文の執筆に没頭していたある日のこと、新聞記事を読んでいると、文面にはない社会運動の姿が「視える」という記述がありました。熱中して思考を繰り返している研究者だからこそ、不思議な力を身につけると同時に、初心者にとってわかりやすい記述が出来るようになるのかなと感じました。
(金子幹夫)
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【 6 】編集後記「~自己観照~」
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 歩いている時にアイディアが浮かんできます。
 メルマガの原稿案についてのアイディアが浮かんでくるのは、たいてい歩いている時です。ふっと企画案が浮かんでくるのです。不思議ですね。
 街中を歩いていると、多くの高校生や大学生は耳にヘッドホンやイヤホンをしています。これも現代人の思考方法なのかもしれませんが、私にはできません。本メルマガの内容をどうにかお届けできるのは、電車内でスマホの操作をしないで読書、移動中はイヤホン無しで考えながら歩いているからだと思っています。アイディアがふってくるのはどのような時ですか?皆さんとお話ししてみたいです。本年も何卒よろしくお願いいたします。
(金子幹夫)


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