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何かいいことがありそうな11月を迎えました。 夏がジャンプして冬に直接着地しそうです。 小学生が「生活科」で「秋を探そう」という学習をする頃だと思います。7歳の子が、いったい秋を探すことができるのかな? と余計な心配をしながら本稿を作成しています。 経済教育にとりましては、充実の秋を迎えている教室が多いのではないかと推測します。急な気温の変化に負けないで、今月もスタートしたいと思います。 ──────────────────────────────────────── 【今月の内容】 今月は次の4つの内容をお届けします。 ──────────────────────────────────────── 【 1 】最新活動報告・・・2025年10月の活動報告です 【 2 】定例部会のご案内・情報紹介 【 3 】授業のヒント…【起業家教育や金融教育をどう捉えたらよいのか?】 【 4 】授業で役立つ本…授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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──────────────────────────────────────── 【1】最新活動報告・・・2025年10月の活動報告です ──────────────────────────────────────── ■ 大阪(No.95)部会を開催しました。 日時:2025年10月12日(日)15時00分~17時00分 会場: 同志社大学大阪サテライト 詳しい内容は https://econ-edu.net/2025/10/24/8644/ をご覧ください。 ──────────────────────────────────────── 【 2 】定例部会のご案内・情報紹介 ──────────────────────────────────────── ■ 札幌部会(No.34)を対面にて開催します。 日時:2025年11月8日(土) 14時00分~17時30分 場所:キャリアバンクセミナールーム Sapporo55ビル5階(JR札幌駅紀伊国屋のビル) お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください。
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■東京(No.147)部会をハイブリッド形式にて開催します。 日時:2025年11月24日(月・祝) 15時00分~17時00分 場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館地下1階会議室3 +オンライン(Zoom形式) 案内はこちらです https://econ-edu.net/2025/10/24/8630/ お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/
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■大阪部会(No.96)をハイブリッド形式にて開催します。 日時:2026年1月11日(日) 15時00分~17時00分(予定) 場所: 同志社大学 大阪サテライトオフィス 大阪市北区梅田1-12-17梅田スクエアビルディング17階 案内はこちらです https://econ-edu.net/2025/10/26/2369/ お申し込みはこちらです https://econ-edu.net/application/event-application/
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■ <速報> 先生のための「春休み経済教室」の概要が決まりました! 日時:2026年の3月28日(土)13時~17時 場所:慶應義塾大学三田キャンパス北館3階大会議室+オンライン(Zoom形式) テーマ:エコノミストと考えるフューチャー・デザインの視点を生かした授業のつくり方 講演者:西條辰義先生(京都先端科学大学特任教授、フューチャー・デザイン研究センターディレクター) ※ プログラムの詳細、申し込み方法 は決定次第HPにアップします。 ──────────────────────────────────────── 【 3 】授業のヒント ──────────────────────────────────────── 起業家教育や金融教育をどう捉えたらよいのか 執筆者 金子幹夫
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1.はじめに 先月号の最後に「経済教育が扱うテーマはいろいろあって、先生も生徒もたいへんです」と書きました。今月は、この文の続きを皆様と考えてみたいと思います。 この「扱うテーマがいろいろあって」という文は、前回取り上げました東京部会での話題が起業家教育や金融教育であったという流れで書いたものです。 そこで、今回は、教師が起業家教育や金融教育をどのように捉えることができるのかというテーマで考察してみたいと思います。
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2.今月の全体像 考察すると言っても、テーマが大きすぎます。さらに、考察する角度も定まっていません。何か手がかりが必要です。そこで2人の先生に今月は助けてもらおうと企画しました。 1人目は、今月の「授業に役立つ本」で紹介する渡邉雅子先生です。『論理的思考とは何か』そして『共感の論理 -日本から始まる教育革命』の中からヒントをいただきました。 2人目は、夏休み経済教室で「経済授業の目次を組み替える」というテーマで講演された篠原総一先生です。スクリーンに映し出されたスライドからヒントをいただきました。 はじめに、どこに課題があるのかを示します。次に、その課題に光をあてるために、2人の先生からどのようなヒントをいただいたのかを紹介します。最後に起業家教育や金融教育をどのように捉えるのかという考え方を示したいと思います。 ※ もしもよろしかったら、ここから先に進む前に、本メルマガの次のコーナー 「【 4 】授業に役立つ本」をお読みいただけますと、ストーリーがより一層明らかになると思います。 3.どこに課題があるのか? 経済教育には起業家教育や金融教育以外にもたくさんの「○○教育」と呼ばれるものがあります。それぞれ目的や扱う内容が異なるため、一括りにできません。この問題はいったん脇に置いて、起業家教育と金融教育にしぼって話を進めることにします。 起業家教育や金融教育の課題をあげようとすると、多方面から問題点を指摘されそうです。それを承知の上で、本稿では次の点を中心にして考察してみたいと思います。 その内容は次のとおりです。 ① 公民科教師は、これを必ず教えなければいけないという学習内容を知っています。 ② 同時に、生徒が生きる力をつけるために必要な実践的な学習の存在も知っています。 ③ 一方で、年間の授業時数に限りがあることを知っています。 ④ ゆえに学習内容の精選、教える順番の決定、そして時間数の配分でいつも悩んでいます。 この4点をもとにして、私たちは、起業家教育や金融教育をどのように捉えることができるのかを考えてみることにします。
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4.渡邉先生が示しているヒント 公民科教師は、生徒に向けて経済に関するたくさんの知識を教えています。このたくさんの知識は、どのように分類することができるのでしょうか? 渡邉先生は『共感の論理』の中で、「教育で教えられる知識は、大きく経験的知識と体系的知識に分けることができる」と書いています。前者は「個人の生きている時間と空間に制限」され、後者は「世代を超えて継承され共有されてきた知識」です。 (※ 渡邉雅子『共感の論理 -日本から始まる教育革命』岩波新書 2025年p.64) 大まかに考えますと、教科書に記述されている内容の多くが後者の体系的知識で、起業家教育や金融教育は前者の経験的知識が多く含まれていると分類できそうです。
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5.篠原先生が示しているヒント 公民科教師が教えているたくさんの知識を別の角度から分析したのが、夏休み経済教室において「経済授業の目次を組み替える」というテーマで講演された篠原総一先生です。 講演の中で示されたスライドの第9ページに、「経済」の6つの本質とあり、キーワードとして「希少性、分業と交換、つながり」が、准キーワードとして「信頼、機会費用、効率と公正」があげられていました。 (https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2025/09/2025Prof.Shinohara.pdf) ここにあげてある知識は、経済学者が高校生に経済を教えようとするときに、常に意識していなければならない「体系的知識」だと解釈しました。
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6.2つのヒントをもとに経済教育を眺めますと・・・ ここから、次のようなことを考えました。前出の①~④について、ひとつずつ追いかけていきます。 ①「公民科教師は、これを必ず教えなければいけないという学習内容を知っています」について これは経済を教える教師にとって、はずすことのできない視点です。体系的知識が多くを占めます。 ②「同時に、生徒が生きる力をつけるために必要な実践的な学習の存在も知っています」 について ここからが問題点の整理になります。起業家教育、金融教育はどちらも生徒が生きる力をつけるために必要な学習です。経験的知識が中心の学習です。ところが、①で示した、教えなければいけない内容を省くことはできません。 ③「一方で、年間の授業時数に限りがあることを知っています」について そこで、授業時間全体のデザインという問題に直面します。このデザインには、2つの架け橋が必要になると考えました。 第一の架け橋は、体系的知識と経験的知識の架け橋です。教科書の内容から少し離れたところでエピソードを探す必要性は、この連載で何回も登場しました。そこで企 業や労働について教える時、起業家教育をどのように組み込むことができるのか。また金融の単元で、金融教育で開発された教材をどのように組み込むことができるのかという視点でデザインを再構成することができます。 ④「ゆえに学習内容の精選、教える順番の決定、そして時間数の配分が問題となります」 について 体系的知識(教科書記述)の中に経験的知識(○○教育)を組み込む際に、経済教育の全体像が歪んでしまったら、生徒は大変です。微調整を繰り返すと全体のデザインそのものが変わってしまうという危険に直面するからです。 そこで重要な役割を果たすのが「キーワード」と「准キーワード」です。これは体系的知識と体系的知識を結ぶ第二の架け橋になります。経済学習に登場する数多くの体系的知識同士は、「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」で結びついているからです。
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7.教師が必要な要素について教える順番を決めるということ 再び渡邉先生の著書に戻ります。 『論理的思考とは何か』に「論理的であるということは読み手にとって記述に必要な要素が読み手の期待する順番に並んでいることから生まれる感覚である」と書いてあります。 (※ 渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波新書 2024年p.50) 経済学習は、体系的知識と体系的知識をどのような順でつなげて教えるのかという問題と、体系的知識と経験的知識をどのような順でつなげて教えるのか、という2つの問題を同時に考える必要があるわけです。
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8.求められる生徒分析力 すると、すぐに教師による生徒分析力を考えるという問題に直面します。もしも起業家教育や金融教育を実践しようとするならば、いつ・どのタイミングで・何時間の授業を展開することが有効かを判断するための生徒分析です。 経験的知識を育む教材を提供しながら体系的知識を伝えることが可能かどうか。また、経済学習そのものに関心がないと判断したならば、経済学習の冒頭で起業家教育や金融教育の教材を実践して関心を持ってもらおうと判断することだってあり得ます。 経済学習に関する知識の全体像が見えている教師が適切に生徒を分析していれば、どういう順番で教えたらよいのかというタイミングは、その担当教師のみ知ることができるのです。まさに啐啄の機です。 今月はここまでです。 ──────────────────────────────────────── 【 4 】授業に役立つ本 ──────────────────────────────────────── 今月紹介する本は,渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波新書 2024年 と渡邉雅子『共感の論理 -日本から始まる教育革命』岩波新書 2025年の2冊です。
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■ 渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波新書 2024年 ① なぜこの本を選んだのか? 筆者は、先生のための「夏休み経済教室」で先生方とお話しをする中、渡邉雅子先生の『論理的思考とは何か』がすでに多くの方に読まれていることを知りました。 そこで本コーナーでの紹介を躊躇していたのですが、今年(2025年)の9月に同じ渡邉先生による『共感の論理 -日本から始まる教育革命』が出版されたことで編集方針を変更しました。二冊を一気に取り上げて、改めてその意義を共有したいと考えたのです。
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② どのような内容か? 1.渡邉雅子先生は何を研究されているのか? 渡邉先生は、名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授です。 専攻は、知識社会学、比較教育、比較文化です。 本書は、大学の教養の授業で使える教科書兼高校生にも読める本を書いてほしいという要望に応えるために書かれました。
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2.本書の中心課題は? 本書が使うテーマは「論理的に考える」、「論理的に書く」というものです。この論理的というのはどういうことなのでしょうか? その答えは世界で共通なのでしょうか? 実は、論理的思考は一つではないというのが本書の立ち位置です。どういうことなのかを見ていくことにします。
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3.論理的思考はひとつではなかった 渡邉先生が、論理的思考は一つではないと気付いたエピソードが語られます。アメリカの大学に留学し、小論文を提出したときに「評点不可能」と書かれて戻されたというものです。この時に、論理的思考というのは文化によって異なることを知ります。 この文化による論理的展開の違いを指摘したのは、アメリカの応用言語学者カプランでした。カプランは、留学生の論文指導を行う中で、英語が上達しても論文が上達しない学生が多いのはなぜかという問いを持っていました。 読み手は、書かれた文が論理的でない場合、独りよがりな解釈をしてしまうことがあります。この「論理的でない場合」というのが、個人の問題でなく社会や文化の問題だったらどうなるのでしょう?
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4.注目したのはパラグラフ カプランが注目したのはパラグラフの順番です。世界には、それぞれの文化に特徴的なパラグラフの順番があります。そして、このパラグラフの順番を分析するために政治、経済、法、社会という、どの社会にも存在している領域に注目します。 人が論理を考えるとき、どの領域を視野に入れるかでパラグラフの順番は変わります。 その上で構成された思考は、その人が合理的に行動することと連動します。この合理的というのは、どのようなイメージなのでしょうか。 本書は、「合理」そのものを「形式合理性」(手段に関わる合理性)と「実質合理性(目的に関わる合理性)」の二つに分けます。この二つの合理性に、目的と手段の繋がりが「個人の主観」によって決まるのか、それとも「集団によって客観的」に決まるのかという軸を交差させて四つの領域をつくるのです。
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5.日本の感想文に注目? 出来上がった四つの領域は①経済領域、②政治領域 ③ 法技術領域 ④ 社会領域です。 本書は、この四つの領域を順番に解説していくのですが、この解説がなぜ重要なのかという二つのメッセージを同時に発信しています。 第一は、思考の技術を使いこなすために、目的に合った領域(思考法)を選ぶ必要があるということです。第二は、複雑で困難な時代を迎えている現代において、第4番目の「社会領域」が重要な役割を果たすこと、そしてその社会領域の文体を具体的に示しているのが日本の「感想文」だということです。
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6.アメリカの論理・・・フランスの論理・・・ 本書は、四つの領域に示されている論理を一つずつ明らかにしていきます。 「経済領域」ではアメリカにおけるエッセイの型が紹介されています。最初のパラグラフで結論となる主張を示します。次に、主張を支持する事実を三つ論じます。各パラグラフも、冒頭に示す一文が段落全体の概要をとらえています。 アメリカでは、このエッセイの型を小学1年生から訓練するそうです。大学の教員は、エッセイ型で書かれた論文を短時間で大量に採点することが可能になりました。 「政治領域」ではフランスのディセルタシオンが紹介されています。これは弁証法を基本構造にしています。求められる力は<正-反-合>の全体をつくりあげる「構想力」です。各部分の論証は思想家や作家の作品を引用したものに限ります。 なぜ自らの考えと距離をとるのでしょうか? それは自律して考え判断できるフランス市民を育成するためです。その根底には、フランス革命がまだ完成に至っていないという思想があることに紹介者は驚きました。 「法技術領域」では、エンシャーと呼ばれる、文全体が序論・本論・結論に分けられている型を紹介します。 序論では比喩によって主題を表現し、本論は三つに分けて比喩に関連付けた説明があり、結論でことわざや聖典、神への感謝を用いてメッセージを表現します。主張の独創性や新奇性は期待されていません。期待されたとおりに結論に落ち着くことが重視された型です。 「社会領域」は日本の感想文が取り上げられています。重視されるのは「利他」の考えに基づく善意が形成している道徳が共感されているか否かということです。日本の感想文は、体験を通して自己がどのように成長したのかを描かせます。そしてその体験を今後どのように生かすのかを考えさせるのです。
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7.もう少し日本の作文教育について見てみると 日本の感想文は、いつ頃から書かれ始めたのでしょうか? 本書によると、戦前の「綴方」まで遡る必要があるようです。明治中期から大正時代にかけて、自由に題を選んで日常の実感を綴らせたのが綴方の始まりです。「文が書ける」という結果よりも「文を書く過程」を重視した教育です。 戦後、アメリカ式の作文が国語に導入されましたが、教育現場は生活綴方の教育を復活させました。児童・生徒が「見たまま、聞いたまま」を素直に書き続けたのです。
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8.実はここで終わりではなかった この四つの領域はどこの国にもあります。人々は日常において無意識にこのどれかを選んでいるようです。だからこそ、意識的に選択することが重要なのではないかと訴えるところで終章を迎えることになります。 そして・・・この四つの領域のうち、日本の感想文がどのくらい重要な役割を担うことができるのかを、1年後に出版される『共感の論理 -日本から始まる教育革命』で知ることになるのです。
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9.本書の全体像 最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 はじめに──論理的思考はひとつなのか 序 章 西洋の思考のパターン──四つの論理 第一章 論理的思考の文化的側面 第二章「作文の型」と「論理の型」を決める暗黙の規範─四つの領域と四つの論理 第三章 なぜ他者の思考を非論理的だと感じるのか 終 章 多元的思考──価値を選び取り豊かに生きる思考法 おわりに
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③ どこが役に立つのか? 経済をどう教えたらよいのかという視点と、「公共」の課題追究の場面で、生徒を対象にどのようなアドバイスができるのかという二点で役に立ちます。 前者は、そもそも教えるという行為に必要な前提は何かということを読み取ることができます。後者は、経済的分野における作文、政治的分野における作文、中高校生が普段取り組んでいる国語学習での作文の違いを知ることができます。
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④ 感 想 「公共」にしても「政治・経済」にしても、学習内容の背後にはたくさんの学問が存在しています。1冊の教科書に多数の学問が持つ見方や考え方が記述されているわけですが、本書を読むことで、その枠組みらしきものをこれまで以上に察することができました。そんなに甘いものではないと分かってはいるのですが、分かった気にさせてしまうほど読みやすい1冊でした。
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■ 渡邉雅子『共感の論理 -日本から始まる教育革命』岩波新書 2025年 ① なぜこの本を選んだのか? 昨年出版されました『論理的思考とは何か』とセットで多くの先生方と学んでみたいと考え選びました。サブタイトルにあります「日本から始まる教育革命」の内容が、経済教育とどのように関連づけられるのかと思いながら読み進めるうちに、本コーナーで紹介するべき本だと確信するようになりました。
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② どのような内容か? 1.どのような目的を持った本なのか? 本書は、これからの教育をどのように構想することができるのか? という問いにたどり着くまでの過程を一緒に考えていきたいという目的を持っています。 この目的の背景には、現在起きている地球規模で進行する変化があります。いったいどのようにして「大きな変化」と「これからの教育」をつなげていくのでしょうか? 鍵となるのは、これまで日本が育んできた価値観にあるようです。
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2.結論が示されます 冒頭で結論が二つ示されます。第一は、人間と自然の関係について、自然を収奪の対象とする見方から、人間を自然の一部と捉える発想へと転換する必要があるというものです。 第二は、この新しい自然観に基づき、個人主義・利己主義的な価値から利他主義へと価値を転換することが、今世界的に求められているということです。 さっそく本文を読み込んでみたいと思います。
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3.歴史的アプローチからはじまります スタートは、近代の成り立ちを歴史の中で捉えます。大きな曲がり角はフランス革命です。革命により、宗教から規範、政治、経済、社会といった四つの領域が分離します。 序章では、1つひとつの領域ごとの歴史が語られます。近代資本主義誕生と同時に、規範・政治・社会領域においてどのような出来事があったのかを知ることができます。
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4.学校が果たす役割 近代資本主義における「国家」を支えたのが学校です。学校が教える知識は、近代を成り立たせている「資本主義、科学主義、民主主義、国家主義」という4つの価値観です。 この4つの主義は、人類の進歩の象徴とされていたのですが、やがて大きな問題に直面します。その中でも特に大きな問題が自然破壊と経済格差でした。 研究者達がどのようにしてこの大きな問題の核心を探し求めたのか、という記述は「公共」を教えている先生の役に立つと思います。いったい問題の核心はどこにあったのでしょうか? 5.問題の核心を知っておくということ 研究者達がたどり着いた核心の1つは、人々が持つ「自然観の変化」でした。 なぜ自然観が変化したのでしょうか? その理由は、資本主義という経済領域が支配的な原理となり、規範や政治、社会領域にまで及んだ結果、自然は資源として人間が利用する対象になってしまったからだと説明しています。 そこで、次に考えることは問題解決に向けてのアプローチです。
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6.スイッチは日本型資本主義の倫理? この問題を解決するために、どこに狙いを定めればよいのでしょうか。渡邉先生は、現代の危機的状況から脱出するためのスイッチは資本主義の文化的側面にあるのではないかと考えました。いったいどういうことなのでしょうか? これは、資本主義を成り立たせているシステムを思い浮かべると理解できます。そもそも近代資本主義は科学技術だけでは生まれません。システムを動かすためには人間の特殊な倫理が必要だからです。 この特殊な倫理を説明するために登場するのがマックス・ウェーバーと石田梅岩です。 7.「正直」は私欲のなさを意味するそうです ウェーバーからは勤勉と倹約が、梅岩からは「正直」「勤勉」「倹約」がとりあげられて説明が進みます。この二人は同じことを主張しているのでしょうか? 西洋の近代社会は「個人主義」と「合理的経済人」としての「利己主義」を認めるのに対して、心学においてそれらは人間の存在根拠となる宇宙の摂理に反し、人々の幸福のもととなる和合を妨げ社会秩序を乱すものとして、厳しく排除するべきだと捉えます。 「正直」を貫くことは、「利他主義」となることです。この利他主義はどのようにして教育の場で育てることができるのでしょうか?
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8.世界における教育の流れ いよいよ教育の登場です。利他主義と教育の問題を考えます。この問題を考えるために、現在の教育を取り巻く大きな流れが紹介されています。その一部は次のようなものです。 国際機関は「経済成長を最優先するモデル」から「人間の幸福や発達を重視するモデル」への転換を呼びかけています。この新しいモデルに対応した人材を育成するために、社会で求められる能力をコンピテンシーとよびます。人間の総合的な能力を示す概念です。 このコンピテンシーの概念は、世界の教育を学習内容中心の教育から「資質・能力」中心の教育に変化させました。この国際機関の呼びかけた内容は、世界中で自国に合わせて翻訳されています。日本語の訳は「主体的・対話的で深い学び」です。日本の教育も「資質・能力」中心の教育に変化しているのです。 9.流れをどう受け止めるのか? 渡邉先生は、資質や能力を目的にしてしまうと、何のために能力を発揮するのかという目的がぼやけてしまうという教育学の研究を紹介しています。 なぜこの研究を紹介したのでしょうか? それは、教育の本質は手段ではなく目的にあることを示したかったからではないかと解釈しました。何にでも応用がきく能力を育成しようとすると、結局のところ変化に対する対応ができなくなり目的が定まらず何にも対応できないということになってしまうからです。 それでは、教育の目的を改めて考えるとした場合、どのような道が私たちの前にあるのでしょうか?
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10.教育の目的を可視化すると? 本書は教育を四象限図にして可視化してくれます。 軸は「技術を目標にするのか」、「価値を目標にするのか」というものと、「知識は体系的か」、「知識は経験的なものか」の2つです。 この2つの軸に、第一象限から順に「法技術原理」、「経済原理」、「社会原理」、「政治原理」を位置づけています。この4つの領域はどの社会にも存在しています。問題は、どの領域を主流の文化として選択するかということになります。
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11.注目したのは「作文教育」です 次に、4つの領域がどのように教育の中で実行されていくのかを見ていきます。ここで取り上げているのが「作文教育」です。 はじめに各国で実践されている作文教育がどのような点で有効なのかを教えてくれます。次に、その作文教育の中でも日本の作文教育が、現代抱えている課題を乗り越え、次のパラダイム以降に貢献できるのではないかという提案があります。
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12.日本における作文教育の歴史は? 作文教育が個人のどのような力を伸ばすのかが3つあげられています。さらに、4つの領域における作文教育の特徴が一覧でまとめられており、1つひとつについて解説が書かれています。 そして、日本における作文教育の歴史が、綴方から書かれています。戦後に能力主義が学校で教えられる価値観になっても綴り方の精神が受け継がれたこと、そしてコンピテンシーが叫ばれている学校においても綴方の精神が実践されていることが書かれています。
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13.日本の作文教育が新パラダイムのモデルづくりに必要だ なぜ日本の作文教育に注目するのでしょうか? 本書は、日本と日本以外の利他主義は質が違うと指摘します。日本以外の利他主義は、利己主義を土台にしたものであるというのです。近代の価値観から脱却するには、利己主義が土台にある利他主義では無理だというのです。 注目するのは4領域の1つである社会原理に基づく利他主義です。キーワードは「共感」です。この共感を育てる教育実践の1つが綴方の伝統を受け継いだ感想文です。どうしてこの共感を育む作文が新パラダイムに必要なのでしょうか?
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14.利己主義を土台にした利他には限界がある ここで取り上げるのが、ナッシュ均衡とパレート最適です。囚人のジレンマに関する表が掲載される中、利己主義に立脚した利他に限界があることが示されます。 その上で、戦略に基づいて行動するのではなく、共感や信頼に基づいて関係を築きませんかという提案がなされます。そして、戦略とは異なる新たな価値観として「共感的利他主義」を掲げながら教育との関わり方を考えていくのです。
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15.「作文」で私が変わる、利他で私が変わる 日本の作文教育では、相手を理解する力を育みます。同時に、自分がどのようなことを学び、どのように変わっていくのかということまで書く指導がなされます。 そこで「利他」です。日本における利他の行為も、実践した自分自身も変わるのだと捉えます。子どもが、誰も見ていないところで利他的行動を取れるようにするという教育を目指すのです。
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16.小・中・高校で何を学ぶか? 最後は教育のグランドデザインです。小学校・中学校・高校別に、何を、どのように学ぶことができるのかがまとめられています。筆者は「良い仮説の前提条件は、否定される可能性がなければならないことである」という一文が印象に残りました。
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17.本書の全体像 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 はじめに――社会と教育の大転換 序 章 近代の矛盾とポスト近代の価値観 第一章 四つの教育原理――教育文化のモデル 第二章 共感の論理――社会原理の日本の教育 第三章 教育のグランドデザイン――利他と多元的思考を育む 終 章 日本から始まる新しい秩序――利他と多元的思考が拓く未来 おわりに
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③ どこが役に立つのか? 公民科の教師が、授業で生徒に文章を書かせるときに、どのようなことを知っておくと役に立つのかという知識を整理することができます。 そして、綴方の精神が、どのような歴史をたどってきたのかを知る意義は大きいと思います。
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④ 感 想 「おわりに」の最後の一文が「日本の教育現場で日々奮闘を続けているすべての教師に、心からの敬意を込めて本書を贈りたい」とありました。 公民科教師が、政治、経済、法、社会、そして国語、作文教育、総合的な探究の時間のつながりを可視化するための手がかりを示しているように感じます。 (金子幹夫) ──────────────────────────────────────── 【 5 】編集後記「~自己観照~」 ──────────────────────────────────────── ブリュードコーヒーをご存じですか? 某カフェチェーンでホットコーヒーを注文したら、店員さんが笑顔で「当店のコーヒーは、ドリップコーヒーからブリュードコーヒーと名称を変えました」と言うのです。 レトロな喫茶店では「ホット1つ」とか「ブレンド」で通じるところですが、最近はカフェチェーンごとに名前が違うので、たいへんです。店ごとに「ブレンドコーヒー」、「本日のコーヒー」、「プレミアムローストコーヒー」、「アメリカンコーヒー」といった名称を使い分ける必要があるからです。これも商品の差別化なのでしょうか。 秋の風を感じながら、今味わっているのは何コーヒーだっけ? とコップを見ながら復唱しています。 (金子幹夫) ────────────────────────────────────────
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